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2007.04.25
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太宰治『斜陽』
~新潮文庫、1990年(88刷、初版1950年)~

 しばらく読まずに本棚に並べていたのですが、ふと思い立って読んでみました。…これが面白かったです。まずは、内容紹介をいきましょう。

 おちぶれた貴族の一家の娘、かず子さんの一人称で物語が進みます。蛇が出た日、かず子さんの父親が亡くなります。弟の直治は戦争に行ったまま帰ってきませんが、母親と二人、かず子さんは伊豆に移り住むことになります。しばらくは畑仕事をするかず子さんですが、彼女の疲労も高まってきます。母親の言葉で、二人は、衣服を売ったりして暮らしていくことを選びます。
 そんな中、直治が帰ってきます。戦争に行く前は麻薬中毒、戦地では阿片中毒になったという直治は、伊豆の家に住むようになってからも、近所の酒屋に飲みに行くありさま。かず子さんには、思いを寄せる男性がいるのですが、母親の体調が思わしくなく、男性のもとに行くことがありません。母親の病状は、さらに悪くなっていくのでした…。

 流れとしてはこんなところでしょうか。印象に残ったシーンをいくつか挙げておきましょう(ほとんど自分のための備忘録ですが…)。
まずは、直治さんが帰ってくると伝える母親とかず子さんが対立するシーン。ずっと母親に憧れ、母親を大切にしていたかず子さんが、はじめて、ひどい言葉を母親にぶつけてしまいます。
 内容紹介でも少しふれた、蛇も物語の中で大事な要素になっています。まむしの卵と思って、かず子さんは庭の卵を焼こうとするのですが、それは蛇の卵でした。卵を焼いた後、母蛇と思われる蛇が、ときどき庭に現れるのです。母親が夢を見た後に蛇が現れるシーンなどは、ぞくぞくする感じさえありました。
 かず子さんが思いを寄せるM・Cですが、そのイニシャルを示す言葉が状況によって変わっていくのがとても面白かったです。笑えるというのではなく、あ、これはいいな、と思いました。
 ときどき挿入される直治さんの手記も良かったです。先に書いた蛇のシーンとは違う意味で、どこかぞくぞくするものを感じました。

 最後に、印象に残った箇所の引用をしておきます。文字色は反転させておきます。

待つ。ああ、人間の生活には、喜んだり怒ったり悲しんだり憎んだり、いろいろの感情があるけれども、けれどもそれは人間の生活のほんの一パーセントを占めているだけの感情で、あとの九十九パーセントは、ただ待って暮しているのではないでしょうか。幸福の足音が、廊下に聞こえるのを今か今かと胸のつぶれる思いで待って、からっぽ。ああ、人間の生活って、あんまりみじめ。生れて来ないほうがよかったとみんなが考えているこの現実。そうして毎日、朝から晩まで、はかなく何かを待っている。みじめすぎます。生まれて来てよかったと、ああ、いのちを、人間を、世の中を、よろこんでみとうございます 」(100頁)

人間は恋と革命のために生れて来たのだ 」(116頁)





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Last updated  2007.04.25 06:39:16
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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