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2007.06.02
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小路幸也『シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン』
~集英社、2007年~

 小路幸也さんの連作短編集(長編?)、『東京バンドワゴン』の続編です。東京の、とある下町にある昔ながらの古本屋<東京バンドワゴン>。古本屋とカフェを営む四世代家族の周辺で起こるいくつかの事件がつづられています。それでは、内容紹介と感想を。

「冬 百科事典は赤ちゃんとともに」
<東京バンドワゴン>の近所に住む大学生の裕太が、祖父の遺産だといって、百科事典を売りにくる。高価な書物だったが、後に確認して見ると、一冊のみ、中身の一部がくりぬかれていた。まるで、ミステリで、本の中に何かを隠すトリックが使われるような状態に。
 同じ頃、<東京バンドワゴン>のカフェを訪れた若い母親が、赤ちゃんを残したまま消えてしまった。ふらりと帰宅した我南人は、その母親の行方を知っているという。

「春 恋の沙汰も神頼み」
 花陽の家庭教師を、若いIT企業社長・藤島がつとめることになった。同じ頃、堀田家を、藤島の秘書が訪れ、気がかりな相談事をもちかける。
 一方、<東京バンドワゴン>を、気になるお客が訪れるようになった。初老の男は、一気に50冊の古本を売った後、自分が売った本を一冊ずつ買っていくのだった。

「夏 幽霊の正体見たり夏休み」
 我南人の上級生にあたる正枝が<東京バンドワゴン>を訪れた。最近、娘と孫と同居するようになったのだが、孫が、どうも本から出てくる幽霊と話をしているらしいという。さらに、人がいないのに窓ガラスがたたかれたりと、奇妙な出来事が起こるようになった。そのお孫さんと同級生になる研人は、さっそくその子のもとを訪れた。
 その頃、勘一は、まるで幽霊のような本と再会することになる。それは、古本屋の経営が苦しかったころ、自分たちで作った本だった。

「秋 SHE LOVES YOU」
 我南人の妻、秋実の七回忌がやってくる。それを機に、新しく堀田家の一員になったすずみに、秋実のこと、堀田家に伝わる、いわゆる<呪いの目録>のことが伝えられることになる。そして、藍子のイギリス行き、新しい家族の誕生など、堀田家はますます賑やかになっていく。

 全体を通して、やっぱり温かい物語で安心しました。物語は、勘一さんの亡くなった妻、サチさんの一人称で語られます。前回の『東京バンドワゴン』の感想でも書きましたが、優しい語り口です。家族に対する愛情にあふれています。というか、人間に対する優しさ、というか。いろんなことに気を配りながらお話を進めるのが素敵です。
 毎回、朝食の描写からはじまります。そして、家族のにぎやかな会話。とても温かい食事の光景で、それだけでほのぼのします。
 やっぱり、家族の中でお気に入りの人物は我南人さんです。なんというか、はじけた方ですね。常識外れのようで、筋は通していて、思いやりがあり、なんというか、包容力があるというか。LOVEという言葉も、独特の語り口も大好きです。
 面白かったです。良い読書体験でした。





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Last updated  2019.06.13 22:45:02
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Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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