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2007.10.28
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坂木司『動物園の鳥』
~東京創元社、2004年~

 ひきこもり探偵・鳥井真一さんと、その友人・坂木司さんが主人公のシリーズ第三弾にして、シリーズ(一応の)最終刊です。第一作『青空の卵』は5編からなる連作短編集、第二作『仔羊の巣』は3編からなる連作中編集でしたが、今回は長編です。
 それでは、内容紹介と感想を。

 木村栄三郎さんの友人の高田安次朗さんが、鳥井と僕―坂木司のもとに相談に訪れた。ボランティアとして動物園で働いている安次朗さんの相談は、二つ。一つは、動物園で保護する虐待された野良猫が増えてきていること。もう一つは、そんな野良猫を放っておけない、ボランティア仲間の松谷明子さんのことだった。若い松谷さんは、動物が好きで、そんな野良猫たちを見ては、心を痛めているという。
 野良猫を虐待しているのは何者なのか。人が少ない平日に動物園を訪れた鳥井たちだが、僕は、そこで思いがけない人物と出会い、衝撃を受ける。その人物は、谷越。僕と鳥井の中学校の頃の同級生で、鳥井をいじめはじめた男だった。
 谷越を見つけて不安を抱いた僕は、鳥井と共通の友人で警察官の滝本に相談を持ちかける。今後動物園に行く際は、付き添ってほしいと頼むためだった。その頃、滝本の妹が上京してきており、事件に興味をもった彼女も、鳥井の調査に付いていくことになる。
 一方、野良猫は、事務室に近いところで発見された猫は、傷つけられて間もない場合が多く、他の場所で見つかる場合は、虐待を受けてから時間が経っていることが多かった。こうした事実を指摘しつつ、鳥井の推理は進められる。彼は、動物園近くの公園に住むホームレスが、なんらかの関わりを持っていると考えるが…。

ーーー

 中学生の鳥井さんをおそったいじめ。はじめて、強烈な人の悪意に接してショックを受けた坂木さん。二人が接近するきっかけであり、なんとも悲しいエピソードが語られます。
 関連して、ここでは人を思う「想像力」と、自分自身の価値観のあり方が問われています。想像力の欠如した人間にはそこそこうんざりしていますが(ゴミ箱も置いてあるお店の駐車場に捨てられたゴミ、ガムをそのまま吐き出す奴、道に捨てられるゴミ……)、ああいうのが子供をもつ「親」だとすれば、不安で不安で仕方ありません。
 うーむ、本書で語られているテーマから、どうも重い話にいってしまいそうです。相談にもちこまれる「事件」も、動物虐待ですしね…。個人的には動物はあまり好きではありませんし、決してペットなど飼いたいと思わないのですが、かといって、動物を傷つけようとはみじんも思わないので、なんであれ「虐待」となると心が痛みますね。

 テーマとしては重いのですが、第一作、第二作で知り合った方々が本当に大切にされていて、本作も彩ってくれます。後の話にも登場することで、ある事件の後のことも知ることができるのですね。利明くんが嬉しそうでとても良かったです。
 このシリーズのタイトルからもうかがえるように、物語は卵から巣へ、そして成長して飛び立つときへと進んでいます。事件解決後の、坂木さんの決断と、その後には、心を動かされました。
 メッセージ性のある物語でありながら、しっかりとあたたかい。素敵なシリーズでした。

 本書は、表紙も素敵です。

 最近(?)、宅配業の方が主人公の作品と、ホテルを舞台にした作品が発売されていますが、まだ買えずにいます。もう少し、お金にゆとりができてからになるでしょう…。

*追記。
そういえば、東京創元社さんの、作品の文庫化は早くなっているのでしょうか。以前は、だいたい6年くらいかかっていたかと思うのですが、このシリーズについては、『青空の卵』が文庫化されてから、続く二作も割とはやい段階で文庫化されたように思うのですが…。





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Last updated  2007.10.28 07:11:57
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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