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2007.12.31
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島田荘司『島田荘司読本』
~講談社文庫、2000年~

 書き下ろし短編小説にくわえ、全著作ガイドや、井上夢人さんと歌野晶午さんによる特別寄稿エッセイ、「儒教社会と探偵小説」と題する評論などが収録された、バラエティ豊かな一冊です。

 本書の構成は次の通りです。

ーーー
特別書き下ろし小説「天使の名前」
特別寄稿エッセイ1「島田さんとビートルズ」―井上夢人
全著作ガイド フィクション編
島田ワールドの住人たち
 島田荘殺人事件―いしいひさいち
 島田作品 主要登場人物リスト
レオナからの三通の手紙
 石岡氏への手紙
 「BEWITH」への手紙
 読者への手紙
特別寄稿エッセイ2「喋り言葉も「本格」で」―歌野晶午
全著作ガイド ノンフィクション編
評論「儒教社会と探偵小説」
奇想・詩想・随想―「あとがき」にかえて
ーーー

 特別書き下ろし小説「天使の名前」は、第二次大戦中の日本が舞台で、後に御手洗潔さんのお父さんとなる、御手洗直俊さんが主人公です。
 外務省職員で、総力戦研究所に参加し、アメリカとの戦争に反対していた御手洗さんですが、軍部の暴走で結局は戦争が勃発、悲嘆にくれながら西に向かいます。幻想的な描写もある、印象深い物語でした。
 えてして、第二次大戦に関する物語にふれると、莫大な犠牲者のことを考え、腹立たしくてたまらなくなり(戦争がなんとも愚かで)、犠牲者の方々を思うとやりきれない気持ちになります。「兵隊さん、ぼくらはどんな悪いことをしたんですか」という少年の言葉に、涙なしには読めなくなりました。

 特別寄稿エッセイは、歌野晶午さんが書かれた文章が特に興味深かったです。島田さんが、あまりつかえず、流ちょうに、論理的にお話されるというエピソードが語られています。

 いしいひさいちさんのマンガも面白いです。島田荘の管理人さんである島田さんの絵がすごい(笑)

 レオナさんの手紙の三通目は、『ハリウッド・サーティフィケイト』に言及があり、面白かったです。彼女の手紙は、ハリウッドでの生活を伝えてくれます。

 評論では、日本人論が儒教との関連で論じられていて、興味深いです。私はお酒は苦手というか好きではないのですが、想像力の欠如した人間が他人に無理にお酒をすすめている光景はそれだけで吐き気がしますね。この評論との関連でいえば、儒教的な思想が歪なかたちで発露した一面なのでしょうけれど、ため息がでますね。といって、私にも、島田さんが指摘しておられる「日本(語)人」としてのマイナスの面があることは認識しています。認識することで、それが不快な行動につながることのストッパーになれば、と思っています。
 評論の方に戻りますと、こういった儒教的な考え方の弊害に関する部分はとても興味深かったのですが、そのこととミステリーの探偵との関わりについていえば、ちょっとぴんとこない感じがありました。横溝正史さんの作品を除き、基本的には、いわゆる新本格以降の作家さんを中心に読んでいることもあってか、偉そうな探偵として連想する人がそういなかったのです。容姿端麗頭脳明晰のR・Nさんが浮かんだくらいで…。

 ところで、本書の中で嬉しいのは全著作ガイド(2000年までの)ですね。
 メモの意味もこめて、フィクション編からは持っていない本を(フィクションは全て読みたいので)、ノンフィクション編からは気になる本を挙げておきたいと思います。

フィクション編
・『嘘でもいいから殺人事件』
・『サテンのマーメイド』
・『夏、19歳の肖像』
・『ひらけ!勝鬨橋』
・『御手洗パロディ・サイト事件』…これは、買おうかどうしようか考えます…。

ノンフィクション編
・『新・異邦人の夢』
・『日本型悪平等起源論』(笠井潔さんとの共著)
・『世紀末日本紀行』
・『秋好事件』…現在、『秋好英明事件』の標題で新しく出ていますね。
・『本格ミステリー宣言2 ハイブリッド・ヴィーナス論』
・『死刑囚・秋好英明との書簡集』
・『奇想の源流 島田荘司対談集』
・『三浦和義事件』
・『死刑の遺伝子』

 これらの著作を眺めると、どちらかといえば、ノンフィクションの方に強く興味があります。先日、死刑が執行された人物の名前が公表されましたが、あらためて、死刑について考えさせられたこともあり、島田さんの死刑論を読んでみたいという思いが強くなりました。
 本格ミステリーに関する評論も気になります。最近、『21世紀本格宣言』が文庫になりましたが、これを読む前に、まずは『本格ミステリー宣言2』を読みたいです。なかなか古本屋でも見つからないのですが…。

 もちろん、フィクションにも興味がありますので、また見つけたら買っていきたいと思います。

 2008年は、講談社BOXの大河小説に島田荘司さんが挑戦されます。毎月島田さんの作品を読めるのは嬉しくもあり、金銭面を考えると多少あれですが、楽しみです。
 一方で、大河小説も良いですが、御手洗シリーズ(あるいは吉敷シリーズでも、新シリーズとして出発した犬坊里美シリーズでも)の最新作が読みたいと思うのは、欲張りというものでしょうか…(笑)
(2007年12月30日読了)





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Last updated  2007.12.31 06:35:48
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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