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2008.02.25
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筒井康隆『宇宙衞星博覽會』
~新潮文庫、1982年~

 短編集です。8編の短編が収録されています。
 印象に残った作品に重点を置きながら、それぞれに、内容にもふれながらコメントを。

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「蟹甲癬」 クレール星でほぼ唯一のクレール蟹が、絶滅寸前と知りながらも人々はクレール蟹を食べていた。そうすると、子ども以外の人々に異変が起き始める。顔の皮膚がぼろぼろになっていき、やがてクレール蟹の甲羅のようになる。その甲羅は取り外しができるようになり、裏には美味しいクレール蟹の「脳みそ」そっくりの脳みそが付着していた…。
   *
 この話のように、地球外の星が舞台のSFはなんとなく読まず嫌いだったのですが、面白く読みました。ラストの哀愁漂う感じが印象的です。

「こぶ天才」 コガネムシ科の虫に似たランプティ・ダンプティを背負うと、その虫はやがて背中と一体化し、それを背負った人々は天才になる―そういう設定の話です。教育ママをはじめ、自分勝手な人間への風刺が痛快でした。

「急流」 時間の流れがどんどん速くなるという話。こんなラストが待っていたとは…!

「顔面崩壊」 シャラク星で主食となるドド豆は、調理が難しく、気をつけないと顔面がぼろぼろになってしまう…という話です。皮膚に穴があき、そこに虫が入ってきたり、壮絶な描写が淡々と語られるので気持ち悪くなりました。なんとなくへこみ気味の朝、通勤の電車で読んだのですが、割ときつかったです(それでも読むのがなんとも…)。

「問題外科」 タイトルの通り。勘違いで健康な看護婦(当時はまだ看護師の名称はないですので)を解剖し殺してしまう二人の外科が主人公です。すごいですよね…。

「関節話法」 関節を鳴らす癖のあるおれは、その癖を局長ににらまれていた。そんな折、関節を鳴らすことで会話をするマザングという星へ大使として行くことを命じられることに…。
 主人公の言葉が、関節が上手に鳴らせなくなることで次第に支離滅裂になっていくあたりは笑ってしまうのですが、一方、彼が背負っている任務を考えると笑えなくもあり…。

「最悪の接触(ワースト・コンタクト)」 初めて地球にやって来るマグ・マグ人の代表者と共同生活をすることになったおれ。俺をいきなり殴ったり、毒入りの食事を出すかと思えば、ときに筋の通ったようなことを言い…。一週間のマグ・マグ人との共同生活の末、おれは彼らとの交流に反対するが、上司はマグ・マグ人の主張を信用し、交流をはじめることになる。
   *
 この上司の判断や言動を読んでいると、ある種の人間関係(成績の悪い自分の子より、成績の良い他人の子が言っていることを信用する親や、この物語の通りの、ある種の上司とその部下)を連想します。何を信じるか、という基準は難しいと思いますが、なんらかの「権威」の言葉を信じやすいような気もします。うーん、難しいですね…。

「ポルノ惑星のサルモネラ人間」 本書の中で、最も分量のある作品です。ポルノ惑星と呼ばれる星では、全裸で生活する人間がある地域に集まって生活しており、地球人など外部との接触を拒もうとします。そしてその星では、あらゆる生物がどこか「いやらしい」性格を持っていて…。
 価値観の多様性について、さらには自分たちのいわゆる「常識」がいかに閉鎖的・排他的であるかということなどについて考えさせられる作品です。本作の中で、地球ではそのものすごい性欲によって変な目で見られている男性が、ポルノ惑星の人々のある風習にいたく感動し、人間的に成長するようなシーンがあるのですが、これがとても印象的でした。
 私自身はかなり保守的で考えも固い傾向にあるのですが、一方で革新や変化を望んでいる部分もあり(政治的な意味でなく、過去のサークル活動でもあったことなど、一般論として)、これまた考えさせられる一編でした。
ーーー

 ホラー…というか、端的にいって「気持ち悪い」作品が割合多いですが、それでも興味深く読みました。筒井さんの作品には、いわば中毒にさせられるような性格があるように思います。もちろん好みは分かれるのでしょうが、私はかなりはまっています。
(2008/02/21読了)





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Last updated  2008.02.25 06:45:02
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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