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2016.07.13
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~講談社選書メチエ、2013年~


 沖縄県立芸術大学の教授で、中世ロマネスク図像学に関する研究を進めていらっしゃる尾形先生の単著です。
 ヨーロッパの教会にあふれる、ガーゴイルなどの怪物は、はたしてどのような機能をもっていたのか。またその図像的な起源や意味はなんなのか。そういった怪物にまつわる疑問に対する答えを提示することを、本書は目的としています。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
はじめに
第一章 怪物的図像とイコノロジー的アプローチ
第二章 神の創造の多様性としての怪物・聖なる怪物
第三章 怪物的民族と地図
第四章 「自然の力」の具現化としての怪物
第五章 世俗世界を表す蔓草―ピープルド・スクロール―
第六章 悪徳の寓意としての怪物から辟邪としての怪物へ
第七章 古代のモティーフの継承と変容、諸教混淆(シンクレティズム)―ドラゴンとセイレーン―
結び 怪物的中世


あとがき
主要参考文献
図版出典一覧
索引
―――

 第1章は、怪物研究の少なさと先行研究の問題点を指摘し、そして今後の研究方法の展望を提示する、本書の出発点となる論点を示します。特に、1つの図像は1つだけの意味を持つのではなく、それを観る対象によって意味は変わりえたのではないかという指摘、そして「歴史人類学的研究」の重要性の提示が興味深かったです。

 怪物といえば、悪魔とか、否定的なイメージが浮かびますが、肯定的な意味を持つ怪物もいたことが、第2章で示されます。たとえばユニコーンには両義的な面がありますが、その角には解毒作用があると考えられたように、肯定的に捉えられる動物(怪物)です。

 地理的知識と怪物の関連を論じた第3章が、個人的にはとても興味深かったです。異国の地に住む人々が、たとえば大きな一本足であるとか、おなかに顔があるとか、そのような怪物として描かれます。その原因として、ギリシャ・ローマ時代の記述や噂・伝聞に基づいて記録が書かれたことや、言葉の音の類似からイメージされたことなどが挙げられると指摘されています。「たとえば、大きな一本足で飛び跳ねるように歩き、寝転がってその一本足を高く上げて灼熱の太陽から日陰を作って休息するという『スキアポデス』は、陰を表すギリシャ語スキアと足を表すポドという言葉から成り立っているが、これはもともとスキアポドという音に似た外国語の民族名を聞いたギリシャ人が、音から類推されるような怪物を想像し作り出したのだろうというのだ」(125-126頁)。

 第4章は、自然の力を示す怪物として、セイレーンやワイルドマン(森の奥深くに住むといわれた全身が毛に覆われた人間)、オケアノスなど、そして風と怪物の関係などを論じます。

 第5章は、蔓草がおりなす渦巻きが作り出す空間の中に動物、怪物、人間などがおかれた図像=ピープルド・スクロールを対象として、蔓草がもつ象徴性などを論じます。

 第6章も悪徳と怪物の関連という興味深いテーマを扱い、いろんな事例を紹介しています。

 第7章は、分量的にも本書で最も長く、ドラゴンとセイレーンという2つの怪物を取り上げ、その図像の変遷や意味などを分析します。

 註があったりなかったり(たとえば、先述のスキアポデスの記述については、どの文献に言われているかという註がありません)で、気になる記述についての根拠にすぐにたどり着けるわけではないですが、選書という形式上、この感想はないものねだりにすぎないかもしれません。

 イタリア留学時代のエピソードなどエッセイ風の記述もあったりして、とても楽しく読みやすい一冊です。

 以前紹介した 金沢百枝『ロマネスク美術革命』 でも、本書がひかれています。個人的には、ロマネスク美術に関する本を近い時期に2冊読めて、よりイメージがつかみやすかったです。





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Last updated  2016.07.13 23:25:41
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Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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