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秋真っ盛り・・すぐに「冬将軍」が 追いついて来る・一年中で一番好きな「秋」
母の 家庭教師 は一宮の詩人 佐藤一英氏だった。
一英氏は詩集「やまとし うるわし」の作品発表に装丁を 棟方志功に依頼。
棟方志功を世に送り出 した人でもある。母は文学少女だった。
私がエッセイや詩が好きなのは母親からの影響だと思う。
立原道造 「やがて秋……」(詩集『暁と夕の詩』より)
やがて秋……
やがて 秋が 来るだらう
夕ぐれが親しげに僕らにはなしかけ
樹木が老いた人たちの身ぶりのやうに
あらはなかげをくらく夜の方に投げ
すべてが不確かにゆらいでゐる
かへつてしづかなあさい吐息にやうに……
(昨日でないばかりに それは明日)と
僕らのおもひは ささやきかはすであらう
――秋が かうして かへつて来た
さうして 秋がまた たたずむ と
ゆるしを乞ふ人のやうに……
やがて忘れなかつたことのかたみに
しかし かたみなく 過ぎて行くであらう
秋は……さうして……ふたたびある夕ぐれに――
作者 立原 道造(たちはら みちぞう)
1914年(大正3年)~1939年(昭和14年) 東京生まれ
作品 「やがて秋……」は、詩集『暁と夕の詩』に収められています。
この詩集はタイトルの通り10編の詩が、夕方、夜、そして朝と
時間を追って配置されています。
(ちなみに、「やがて秋……」は2番目の詩。夕ぐれ時ですね。
次々と読み進めていくと、だんだんと夜が深まって10番目の詩が
「朝やけ」になります)
道造は ひとつひとつのソネットだけでなく 詩集全体の世界観にも
心を配っていたことが感じられます。
谷川俊太郎「シャガールと木の葉」(詩集『シャガールと木の葉』より
シャガールと木の葉
貯金はたいて買ったシャガールのリトの横に
道で拾ったクヌギの葉を並べてみた
値段があるものと
値段をつけられぬもの
ヒトの心と手が生み出したものと
自然が生み出したもの
シャガールは美しい
クヌギの葉も美しい
立ち上がり紅茶をいれる
テーブルに落ちるやわらかな午後の日差し
シャガールを見つめていると
あのひととの日々がよみがえる
クヌギの葉を見つめると
この繊細さを創ったものを思う
一枚の木の葉とシャガール
どちらもかけがえのない大切なもの
流れていたラヴェルのピアノの音がたかまる
今日が永遠とひとつになる
窓のむこうの青空にこころとからだが溶けていく
……この涙はどこからきたのだろう
谷川 俊太郎(たにかわ しゅんたろう)
1931年(昭和6年)~
東京都生まれ
作品 「シャガールと木の葉」は、同名の詩集『シャガールと木の葉』
(2005年)に収められています。
「貯金はたいて買ったシャガールのリト」と「道で拾ったクヌギの葉」
の対比が見事。
一方は値段があって ヒトの心と手が生み出したもので 一方は値段を
つけられなくて 自然が生み出したものです。
どちらも美しいと肯定している事に この詩の味わい深さがあると思います。
ところで俊太郎さんは、詩よりも音楽が好きだとか。
この詩のクライマックスでも ラヴェルのピアノの音が生きていますね。
そういえば、音楽やこの詩も、ヒトの心と手が生み出したものです。
(ラヴェルの曲はラヴェルによって。この詩は俊太郎さんによって)
では 俊太郎さんがこの詩の最後でつぶやいている 涙はどこから
きたのでしょう……
その答えに想いをめぐらすとヒトが生み出したものも自然が生み出した
ものも 混然一体のような気がしてならないのです。
それはたとえば 今日が永遠とひとつになるような 青空に心とからだが
溶けていくような感覚なのかもしれません。
中原中也 「一つのメルヘン」(詩集『在りし日の歌』より)
一つのメルヘン
秋の夜は、はるかの彼方(かなた)に、
小石ばかりの、河原があつて、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。
陽といつても、まるで硅石(けいせき)か何かのやうで、
非常な個体の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。
さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでゐてくつきりとした
影を落としてゐるのでした。
やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもゐなかつた川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました……
作者 中原 中也(なかはら ちゅうや)
1907年(明治40年)~1937年(昭和12年) 山口県生まれ
作品 「一つのメルヘン」は 詩集『在りし日の歌』に収められています。
私は国語の授業で 初めてこの詩を知りました。
此の世のものとは思えない、
まさに彼岸のことを歌っているような詩だと思います。
死を意味するような小石ばかりの河原に 一つの蝶がとまることによって
川は再生するんですね。
川床の水は、まさに生の象徴でしょうか。
でもこの蝶は 川の再生を見守ることなく 見えなくなってしまいます。
かなしくて、さみしくて、うつくしい詩。
さらさらというオノマトペが 絶え間なく流れているのも
歌が流れているようです。
さて みなさんはこの詩、どのような感想を持たれましたでしょうか。
室生犀星 「時無草」「秋の終り」(詩集『抒情小曲集』より)
時無草
秋のひかりにみどりぐむ
ときなし草は摘みもたまふな
やさしく日南にのびてゆくみどり
そのゆめもつめたく
ひかりは水のほとりにしづみたり
ともよ ひそかにみどりぐむ
ときなし草はあはれ深ければ
そのしろき指もふれたまふな
秋の終り
君はいつも無口のつぐみどり
わかきそなたはつぐみどり
われひとりのみに
もの思はせて
いまごろはやすみいりしか
夜夜冷えまさり啼くむしは
わが身のあたり水を噴く
ああ その水さへも凍りて
ふたつに割れし石の音
あをあをと磧のあなたに起る
幾日逢はぬかしらねど
なんといふ恋ひしさぞ
室生 犀星(むろう さいせい)
1889年(明治22年)~1962年(昭和37年)
石川県金沢市生まれ
作品 「時無草」「秋の終り」は、詩集『抒情小曲集』の第二部に
収められています。
第二部には、秋から冬にかけての詩が流れるように続いているため
この季節に浸りたい人にはおすすめです。
『抒情小曲集』は、青空文庫やKindleなどでも気軽に読むことができます。
「時無草」や「秋の終り」は合唱曲にもなっているので もしかしたら
ご存知の人もいるかもしれませんね。
犀星の詩は、読んでいるだけでも、歌が聴こえてきそうな詩だと思います。
(「時無草」は、磯部俶さんの作曲。
「秋の終り」は、多田武彦さんが作曲しています。)
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