読書の部屋からこんにちは!

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2009.09.21
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カテゴリ: 小説
何年か前に東京で、お受験殺人と呼ばれた事件がありました。
その事件を下敷きにした、フィクションです。
非常に読み応えのある一冊です。
私の知る限りでは、角田光代さんの作品の中で、最高のものと言ってもいいと思います。
いつもならおもしろさに引きずられてガーッと早く読む私も、そんな読み方をしては申し訳ない。しかも、家事をしながらも本の内容を繰り返し考えたり、夢に見たり、ほんとうにここまでのめりこんで読んだ本は、珍しいです。


冒頭では、登場人物(全員が小さな子どもを育てるお母さんたち、いわゆるママ友)が矢継ぎ早に紹介され、そのフルネームと子どもの名前を覚えるのに追われましたが、読み進むうちにその個性がしっかりと描き分けられていて、苦労なくなじむことができました。
これはひとえに角田光代さんの表現力のすばらしさだと思います。
また、心の動揺を描く角田さんの視線の、細やかさといったら!
ママ友の間で翻弄される一人の女性が、その動揺を夫に隠そうとする場面があるのですが、遅く帰ってきた夫の食事の用意をし、まだ他にすることはないかと台所を見渡し、予定になかったオムレツを作り始めます。作りなれたプレーンオムレツのはずが、手元が狂ってくずれてしまい、しかも味付けを忘れたことを後になって気づく。しかたがないので、ケチャップをかけてごまかそうとする。
こういうことって、女なら誰でも似たような経験があると思うんだけど、日常の中からそんな一瞬の心理を拾い取るってところが、さすが角田光代さんです。


子どもが幼稚園に通う年頃のお母さんって、私自身振り返ってみても、すごく不安定な時期だったと思うんですよね。
まだまだ若くてきれいだし、友達の中にはまだ社会人として働いている人もいる。
早々と専業主婦になってしまった自分と、つい比較していじけてしまいそう。
夫は仕事が忙しくなる年代でもあるし、結婚前のようなわけにはいかない。
子育ても一生懸命するけれど、何が正しく何が正しくないのか、誰にも分からず評価もされないもどかしさがある。
ヒマができると、自分の育ってきた環境や、今の環境、こんなはずじゃなかったと後悔したり反省したりすることも多い。
ママ友が何人いても、子どもあっての友達というのはただそれだけの関係でしかないので、孤独が癒されることはありません。
まして、実家から遠く離れて暮らしている人は、なおさらのことでしょう。


子どものお受験をブランドのハンドバッグのように、自分を飾る道具にするお母さん。
自分の実現できなかった理想を、子どもを代役として果たそうとするお母さん。
そして、自分が名門学校出身というプライドを、さらに満足させるために子どもを利用するお母さん。
どのお母さんも、孤独な毎日を埋めようとする自己実現の行為なんじゃないでしょうか。


森に眠る魚


というようなことを考えていて、ふと最近の子どもの名前に思い当たりました。
この頃の子どもたちの名前って、ものすごく凝っているでしょう。
読みにくいし覚えられないし、学校の先生も苦労されていると、何かの記事で読みました。
子どもの名前は、子どもの幸せを願ってつけるもの。
それが当たり前のことでしたけど、最近はそうじゃないみたいです。
親の趣味、親のあこがれ、親の自己実現のためにつけられた名前。
その名前を、いくつになっても、おじいちゃんやおばあちゃんになっても、子どもたちは一生背負っていかなければならないのです。

そんな名前は、ペットにおつけになれば?と、意地悪な目で見ている、ぱぐらおばちゃんでした。





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Last updated  2009.09.21 10:43:31
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