読書の部屋からこんにちは!

読書の部屋からこんにちは!

2011.04.26
XML
カテゴリ: 小説
いつも現実をより現実っぽく描く角田さんですが、この本は珍しく不思議なおとぎ話風な小説です。ちょっとだけですが、小川洋子さんの静謐系に近いような本です。
だからなのかどうなのか、私はこの本が大好きです。


私たちがなくしてきたもの。
それは物だったり能力だったり、または感性だったりするんだけど、前は(幼いころは)あったのにいつのまにかなくなってしまったもの。
そういうものが、私たちの知らないどこかの国に、集められ整理されてしまってあるのだ、というお話です。


この本の主人公ナリ子がなくしたものは、いろんなものと話をできる力で、庭のトカゲや山羊のゆきちゃんやいつもポストの横にいる透明な女の人や・・・いつも話ができたのに、8歳でできなくなってしまった。
それから、山羊のゆきちゃんに貸してあげた、お母さんのかんむり。
ミケの生まれ変わりだった中学生の記憶、生まれなかった女の子。


それなら、わたしが今までになくしてしまったものって何だろう。
えーと・・・
私には3歳違いの妹がいるんだけど、妹がまだ小さすぎてはっきりしゃべれない頃、わたしは妹と母の通訳をしていました。
妹が何か言うと、母が「今何て言ったの?」と聞いてくる。
わたしは妹の言うことがいつもはっきりわかっていたので、ちゃんと通訳してあげる。
みんなは「よくわかるねえ」って驚いていたけれど、私は「なんでこれがわからないんだろう」って不思議でしょうがなかった。
そのうち妹も大きくなって通訳なしで母と話せるようになり、私の役目は終わってしまったのだけど、今じゃ英語やイタリア語も操る妹の、最初の語学学習の協力者はわたしなのです。
そんな通訳としての能力を、なくしました。


「不思議の国のアリス」の絵本。この絵本は、とても不思議で魅力的な絵がたくさん載っていて、小学生の私はその絵をみるだけで、不思議の国に入っていけました。
今もときどきその絵が見たくなる。あちこち探したこともあったけど、結局どこの出版社なのか、誰が翻訳したものなのかも全然わからなくて、もう諦めてしまいました。
わたしはその絵の中でも特に、アリスと踊るドードー鳥が大好きでした。
たぶん今その絵を見ても、きっと不思議の国に入ってはいけないだろうと思います。


今の私は、あの頃のわたしよりもたくさんのことを身につけています。
算数の問題も少しなら解けるし、漢字がいっぱい載っている本も新聞も読めます。
大人になってからは料理や編み物もできるようになったし、今は留学生に日本語を教えることもできる。こうやって、パソコンをいじることもできます。
だけど、いつのまにかなくしてしまったものと比べて、わたしが後から身につけたものはなんてつまらないんだろう。
身につけたわけじゃなくて、最初から身についていたものは、ほとんどなくしてしまった。それはみんなキラキラしていたのに。
今のわたしはとてもつまらない。


なくしてしまったもの、もう二度と帰ってこないものを、探しに行こう。
誰も知らない遠い国にある保管庫の、長い長い迷路のような廊下を曲がり、一つのドアを見つけよう。私たちの記憶は消えてしまったんじゃない、姿を変えて静かに場所を変えただけなんだから。



 【中古】単行本(小説・エッセイ) なくしたものたちの国【10P22Apr11】【画】





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2011.04.26 15:57:01
コメント(3) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: