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2007.04.05
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カテゴリ: 想起した詩
全てを失い、深淵に浸るクララ。
心は腐泥に包まれ、意識は混濁の海に沈んでいた。
車椅子の肘掛は咽ぶ涙で赤黒く錆を纏い、
蠢くことを否定された部屋は埃に塗れている。
クララ。クララ。クルリララ。
無音の室内に一筋の軽風が凪いだ。
クララは人形のように動かない。
まるで身体全ての筋が弛緩して果てたかのように。
クララ。クララ。クルリララ。
もう一つ。風がクララの窪みやつれた頬を撫でる。
そしてまた静寂が室内を支配する。
大時計の鐘が十二時を知らせるまで、
またこの部屋は一切の音を否定するだろう。
クララがそう望むのだから、それも仕方のないこと。
しかし今日は思いもかけない珍客がクララの静寂を妨げた。
「ご機嫌麗しゅう」
腐食した蛙の亡骸を思わせるその塊は、
ひらりとクララの膝上に降り立つ。
刹那闇が戦慄いたように室内が暗澹と曇る。
蛙は言った。
「この脚の対価として、どこまで払えると思いますか」
クララの脚が―動かぬはずの脚が。
僅かに痙攣したように見えたのは気のせいだろうか。

迅雷の如き轟音に逆撫でられたような精神に終端は見えない。
全ては軋みも歪みもせぬこの脚のせい。貪汚に塗れた我が心。
クララの心は不慮の事故以来、監獄に繋がれた囚人が如く。
ただ無為なる悠久の流れのまま朽ち果てんを待ち侘びた。

蛙はもう一度凪ぐように呟いた。
「この枯竭した枝。その対価です」
瞑ったような漆黒の双眼には混沌が滲む。
一つ喉を震わせ、周囲の大気を吸引すると、
下顎の空気袋を破裂せんばかりに膨張させる。
二度。三度。規則正しく蛙の喉が鳴る。
まるでメトロノームのように、
蛙は無限に刻を刻むかのように鳴いた。
あなたはいつまで私を待たせるのですか、と。
確かに蛙の双眸がそう告げていた。

「ハイジを。ハイジをあげるわ」

栄輝を喪した者の掠れた嗄れではあったが、
蛙は眼窩から目玉を刳り抜かんばかりに押し出し、
そして意中の男から永遠の愛を誓われた端女のように
満足満面に口許を綻ばせ、笑うのだった。





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最終更新日  2007.04.13 18:22:23
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