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私 : 小熊 氏が、 最近の沖縄 を訪ねて感じるのは、 沖縄のなかの那覇周辺域と名護市辺野古に代表される地域格差 だという。
人口の半数が集中する那覇周辺域 は、 外国人観光客 がめだち、 有効求人倍率 も高く、 県の観光客数は昨年にハワイを抜き 、 米軍基地の返還跡地にできたショッピングセンター もにぎわっていて、種々の問題もあるにせよ、 基地返還の経済効果を実感できる状況 。
一方、 米軍基地の建設が行われている名護市辺野古 はこれと 違い、活気があるとはいえない集落 に、 政府が県を通さず、交付金を直接に市や集落に交付して、立てた新しく立派な公共施設が立つ。
この 2月 、 この名護市で、自民党と公明党 が支援した新市長が、基地反対の前市長を破って当選し、当選後に新市長は、リゾートホテルの誘致や漁港の整備、各種補助金などの「御支援」の要望書を政府に提出。
小熊 氏は、 基地を歓迎する人はいないが、 地域振興 のために「迷惑施設」を受け入れる。これまでくり返されてきた図式 だと 指摘 する。
「御支援」の要望書を政府に提出 に対し、 政府の経済官僚 は「 まずは自分たちで汗をかいてみる、自助努力でどこまでできるかやってみる。そんな当たり前の精神が欠けていると言わざるをえないです 」と ため息 をついたという。
A 氏 :ここで、 小熊 氏は、こ うした手法は本当に地域振興に役立つのか、「原発」に視点を変えている ね。
柏崎刈羽「原発」の経済効果の調査報道 によると、「 原発」が地域経済に貢献するというのは「神話」だった という。
柏崎市の産業別市内総生産額、小売業販売額、民間従業者数などを分析 すると、 確かに「原発」の建設工事が行われていた1978年から97年に、それらの指標は伸びていた が、 その伸び方は、県内で 柏崎市 と規模が近い市とほぼ同等 。
柏崎市の指標が伸びていたのは、「原発」の誘致よりも、日本経済全体が上げ潮だった影響 が大きく、 柏崎市長を3期務めた西川正純 氏は、 このデータをみて「『原発』がない他の市と同じ歩みになるなんて」と絶句した という。
私 : 唯一、建設業だけは市内総生産額が顕著に伸びていたが、「原発」建設が終わるとその効果も消え 、 建設終了後の柏崎市は、人口減少が他市より激しく、一時的に増えた交付金や税金で建てた施設の維持管理で、財政が厳しくなっている。
よくある ハコモノの弊害 だね。
ところが、 柏崎商工会議所に属する100社を調査したところ、「原発」再稼働を願う回答が66社にのぼった が、 柏崎市には「原発」と無関係な業種が多く、「原発」停止で売り上げが1割以上減ったのは7社だけ。
再稼働でどの業種が活性化するのか尋ねたところ、「飲み屋」という回答が最多で、再稼働の経済効果を具体的に示せる企業は少なかった。
なお、 東電幹部 は、「 原発」が停止している方が、安全対策や維持管理の工事が多いため、再稼働すれば「原発」作業員が減る と認めている。
実際に柏崎の作業員は、全基停止していた2015年度の方が、稼働していた06年度より2割以上多 い。
「原発」が止まると作業員が減り、地域にお金が落ちないというのは誤解。
A 氏 :なぜ、 こうした根拠のない「神話」が流布したのか。
この調査報道を行った新潟日報の前田 氏は、 これまでのメディアの報道姿勢を批判 していて、「 原発」停止の影響を報じるとき、メディアは「原発」関連の仕事を受注する企業や繁華街の飲食店など、影響がありそうな会社を選んで取材しがち で、これが、「 原発」停止の影響を過大に語るコメントが多い背景 だった。
私 :しかし、 小熊 氏は、 無根拠な「神話」が生まれた最大の要因はメディアではなく、メディアは、すでに流布していたイメージに束縛され、先入観に沿って取材していた だけで、 最大の要因は、事態の変化を直視できない「心の弱さ」だと指摘 する。
人間 は、「 あの星が出ていた時は町が栄えていた 」ということを、「 あの星が出れば町が栄える」と混同してしまいがち で、 「原発」と経済に、実はさほど関係はなく 、ただ、 日本経済が上げ潮だった時期と、「原発」が建設されていた時期が重なっていたため、経済成長のシンボルになったにすぎない という。
本当の原因を直視して解決に努力するより、他の理由に責任転嫁した方が楽 だから、 経済が停滞し、社会が変化しているとき、人は「心の弱さ」から「神話」に逃避しやすい という。
だがそれは、状況から目をそらし、自ら努力する姿勢を奪ってしまう。
先に上げた、 沖縄県名護の新市長の補助金の要望書 のようにーーー。
私 : 「 原発」 に限っても、 世界の変化に対する日本の停滞は著しい。
世界の風力発電設備容量は15年に「原発」を抜き、太陽光も「原発」に迫っている 。
発電コストも大幅に下がり、日本が 原発輸出 を試みている英国 でも、 風力の方が新型原発より4割近くも安く 、 中国など他国が再生可能エネルギーに大幅に投資を増やす なか、 日本の遅れが目立つ。
今月で「福島第一原発事故」から7年。
その間に世界は変わった。
各種の「神話」から脱し、問題に正面から向きあうときだ と 小熊 氏は 指摘 する。
昨年11月 には、 高レベル放射性廃棄物の最終処分場の説明会 に、 業者が謝礼を約束して学生を動員していたことが発覚 。
「安全神話」をつくろうとする姿勢は続いている。