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私 : カンヌ国際映画祭 で是枝裕和監督の社会の底辺で生きる一家の物語の「万引き家族」が最高賞パルムドールを取ったニュース ははや、1ヶ月も前の話だが、振り返ってみよう。
「万引き家族」に流れ込んだのは劇映画 だけではなく、 『雲は答えなかった』は、是枝が初めて作ったドキュメンタリー番組「しかし…福祉切り捨ての時代に」(91年)を元に書かれた。
この番組は、環境庁の局長の自殺を追ったノンフィクション で、 局長は水俣病訴訟の国側の責任者で、和解勧告を拒否して「批判の矢面」に立たされた末に自殺 をした。
A 氏 :この ノンフィクションの 中で 是枝氏は新聞を批判 。
局長の自殺までは環境庁を悪者に仕立て 、 自殺が分かると、「大蔵省や通産省との意見調整がうまくいかず、和解勧告を受けられずに苦しんだ」と局長に同情。
是枝氏は憤る。
自殺前にそれをどこも指摘しなかったのはなぜか? 彼を批判の矢面に立たせたのは誰か、と。
マスメディアの側 から言わせてもらえば、 複雑な現実を複雑なまま投げ出すよりも、ある程度、整理して提示することが求められ、その過程で単純化への誘惑が断ち切れないのも事実。
是枝 氏は、 現実を単純化することへの警告 が随所にちりばめている。
私 : 単純化を嫌い、複雑なまま世界を提示するということを徹底的に実践するのが是枝映画。
「万引き家族」は犯罪を擁護する映画でもなければ犯罪を撲滅する映画でもなく、社会的弱者を持ち上げたり、たたき落としたりもしない、複雑系の映画 だ。
是枝 氏は 「万引き家族」は年金詐取事件を報じた記事に着想を得た という。
複雑な事情を抱える家族が起こした事件 を、 新聞記事が圧縮・単純化 し、 それをまた、是枝氏が複雑な実寸大に戻す ということで、 「万引き家族」は生まれた。
A 氏 : この作風 を 彼は多くの先人から学び取ったが、評者は、その中から脚本家の山田太一 氏を挙げたい という。
山田氏がホームドラマの作家であり、近年、是枝氏が撮る映画の多くがホームドラマの形式を取っているからだ。
山田氏が描くのは「家族だからわかりあえる」でなく「家族だからわからない」だった。
是枝 氏は 著書『映画を撮りながら考えたこと』 でそう分析し、そして 「『かけがえがないけど、やっかいだ』。その両面を描くことが、ホームドラマにとってはとても重要だと考えています」 という。
私 : 今回の受賞 は、 山田氏や向田邦子 氏らが育んできた日本のホームドラマが初めてカンヌの頂点に立った ということでもあると 評者 はいう。
このような見方で映画「万引き家族」を鑑賞すると興味深い だろう。