監督のリューベン・オストルンドは、『フレンチアルプスで起きたこと』( 2014 )でカンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞、続いて『ザ・スクエア 思いやりの聖域』( 2017 )で、同映画祭最高賞であるパルムドールを受賞。本作『逆転のトライアングル』( 2022 )で再びカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した。
ヤヤ(チャールビ・ディーン)とカール(ハリス・ディキンソン ) は共にフォッションモデルで恋人同士であるが、ヤヤは売れっ子でカールの何倍も稼いでいる。にも関わらずデートの食事の代金はいつも男が払うのが当然という態度のヤヤにカールが疑問を呈したところ、激しい言い争いになってしまう。
インフルエンサーとしても人気者のヤヤは、豪華客船クルーズの旅に招待され、カールも同行する。乗客は大金持ちばかりである。ロシアのオリガルヒ、イギリスの武器製造会社を家族経営する老夫婦など大富豪をもてなすのは、客室乗務員の白人スタッフたち。旅の終わりの高額チップのためなら、乗客のどんな望みも叶える。船の下層階では、料理や清掃を担当する有色人種の裏方スタッフたちが働いている。船長は、朝から晩まで飲んだくれて、船長室から出てこない。そんな船長(ウディ・ハレルソン)のせいで延び延びになっていたイベントのキャプテンズ・ディナーが開催される。高級食材をふんだんに使った料理が提供される。そんな中で船は嵐へと突入して行く。船酔いに苦しむ客が続出し、嘔吐と汚物の地獄の船内となる。泥酔した船長は指揮を投げ出してしまう。 翌朝、嵐は静まった。そこへ海賊が通かかり手榴弾を投げられて、船は難破してしまう。
男性モデルのオーディションから始まり、レストランの支払いでの言い争い、そして豪華客船のセレブ客と乗務員から嵐と地獄の船内の描写に比べて海賊の手元の手榴弾と、爆弾が爆発する船の描写はあっさりと描いている。その手榴弾がイギリスの武器商人の売った製品であることは、ブラックユーモアではあるが。
数時間後、ヤヤとカール、船長客室乗務員のポーラ、そして数人の大富豪たちは無人島に流れ着く。海岸には救命ボートも漂着、中には清掃係のフィリピン人アビゲイル ( ドリー・デ・レオン ) が乗っていた。他の客やスタッフのその後についてはほとんど触れないで進行してゆく。
島に流れ着いた彼らはボート内の水とスナック菓子で空腹をしのぐが、すぐになくなってしまうのは分かっている。すると、アビゲイルは海に潜りタコを捕獲する。 サバイバルのスキルなど一切ない連中大が見守る中、アビゲイルは火をおこし、タコをさばいて調理する。革命が起きたのは、アビゲイルが料理を分配する時だった。「ここでは私がキャプテン」という彼女の宣言を、認めなければお代わりはもらえない。全員を支配下に置いたアビゲイルは、“ 女王”として君臨してゆくのだった……。
ファッション業界やルッキズム、現代階級社会などを痛烈に皮肉ってヒエラルキーを逆転させる。
1974 年のイタリア映画『流されて…』(リナ・ウェルトミューラー監督)は、船旅の途中、ボートで遠出した上流階級の人妻と使用人が遭難し、二人は無人島にたどり着いた 2 人が、文明と隔絶された環境の中でやがてその立場が逆転するという映画であった。
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