トカトントン 2.1

トカトントン 2.1

2005/10/08
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カテゴリ: 映画
yajikita

■お伊勢参りのために江戸を出発する二人のバックにずっとついてくる富士山、それは雄大でそして何より美しい。でもね、途中で七之助によって引きちぎられたように、この作品におけるそれは書き割りの富士山だったわけですね。リアルが感じられない麻薬中毒者の彼がむしり取ったその紙の山の先には、今まで以上にまがい物やヘンな人たちが渦巻いていて、見る者を悪夢の世界に引きずり込んでしまうわけです。

■宮藤さんはやはり演劇の人なんだなぁと思った。過剰なサービスや腑に落ちる様々な伏線といったテレビ的な見せ方はこの作品においてはすごく控えめで、落ちないギャグや、繋がらないエピソードが散逸している。そして興がのってくると、作家的脳内アドレナリンが暴走していって、それが哲学的に見えてきてしまう様な感じさえする。三途の川の源泉が荒川良々の涙であった、という描き方に見ているこっちがひいてしまうかどうかがこの作品のポイントなのではないか。

■箱根を抜けようとすれば、竹内力の変な大名が俺を笑わせなければ通すことはできぬと立ちふさがり(笑の宿)、清水に行けば次郎長(古田新太)を崇める喜び組の女子高生たちに追いかけられ(喜の宿)、住人が全てミュージカルさながら歌で会話をしなければならない歌の宿では、弥次喜多ディナーショーが開催され、彼らの曲も江戸時代のオリコン一位にランクされちゃったりする。さらに妙な剣を持ったとろろ汁売りで七之助のお父さんさえ姿を見せる。(王の宿)

■初めてメガホンをとったクド監はモノクロ映像で物語を語り始め、しりあがり寿の描いた伊勢神宮の絵葉書だけパートカラーで描いて見せた。おふざけのようで、前衛のようで、まるで表現の見せ物小屋のようだ。で、本業の脚本の方はというと、大きな箱だけ作っておいて、細部に到ってはその場のノリで役者がどんどん膨らましていったように見える。それだけ、気心の知れた俳優たちが集まっていて、ゲストでチラリの常連さんたちの顔を眺めるのも楽しい。

■つくづく、長瀬は華のある男だなぁと思う。何を考えて芝居しているのかわからない。きっと何も考えていないんだと思う。それでも、こんなにわけのわからない役を軽々と演じきって見事。これに比べれば小虎の役なんか、ちょろいもんだっただろうな。その他の発見は意外に演技派だった小池栄子。長瀬の女房役なのだが、旦那を男に盗られる女を押さえ気味に表現。個人的に一番のシーンはなんてたってキノコ衣装の☆麻生久美子☆、このインパクトはゼブラナースといい勝負だった。

■音楽はグループ魂ではなくて、ZAZEN BOYS。きっと監督の好みだと思う。向井君もちょっと出演。さて、この映画、全米に進出が決まったそうだ。このわけのわからなさは一周回って欧米向きなのかもしれない。ヒゲの花魁(松尾スズキ)なんか、ハリウッドに呼ばれちゃうかもしれないしな。宮藤さんが最初からそれを狙っていたとしたらスゴイと思う。(な、こたぁないよなぁ)

■最近、日本映画を見るということは荒川良々を見ることではないのかと思えてくるほどである。しかし、終盤、画面の中にこの男の複製が何十人もいっぺんに出てきた時は、笑ってしまうというよりはむしろ唸ってしまった。見終わったあと、胃薬が必要な映画なのかもしれない。





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Last updated  2005/10/08 09:29:58 PM
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Dehe@ Re[1]:カルトQ 2005 北の国から(10/18) adventさんへ ご指摘の通りです。例によ…
advent@ Re:カルトQ 2005 北の国から(10/18) 五郎が読んだ大江健三郎> 開口健ではなく…
しょうゆ@ Re:家庭教師 / 岡村靖幸(09/09) …最後まで岡村靖幸はわからなかったのでは…
背番号のないエース0829 @ Re:ヒトラー 映画〈ジョジョ・ラビット〉に上記の内容…
Dehe @ Re[1]:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) Mr.Zokuさんへ 情報ありがとうございまし…
Mr.Zoku@ Re:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) 今年出た[Deluxe Edition]は聴かれました…

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