トカトントン 2.1

トカトントン 2.1

2007/02/08
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カテゴリ: テレビ番組
■黒木メイサが月水金はフランス語しか話さないことに決めているように、わたしだって毎週木曜日はこのドラマのことしか書かないと決めている。それしかしないと思い込もうとする意志は他の誘惑ないし妄想を寄せつけない強さを内に含んでいて、潔いことこの上ない。妥協を許さぬ強固な気持ちは語学学習においては必須条件であり、男のけじめに似ていないこともない。

■セリフの未熟な若い俳優にあえて母国語を話させることをしないで、超速のスーパーを画面の下に被せていく方法は画面に映るビジュアルを損なわないという意味でかなり有効な手段だと思う。若々しい女優が嬉々として走り、白い歯、長い髪で彼氏に向かって笑いかける場面で観る者の気持ちを殺がないということは凄く大事なことである。

■それに対し、彼女のフランス語にうろたえながら、徐々に心を解きほぐしていく平凡な若者の微妙な心の動きをこの若手俳優はなんて上手に演じるんだろう。「あんたどこのひと?」という彼の彼女に対する第一声が東北弁にもフランス語にも聞こえてしまうのは脚本の力だけでなく、二宮和也の演技力のせいだと思う。段々饒舌になっていくあたりの表情の変化は見ているこちら側にも恋の予感の甘いオーラが飛び火してしまいそうで微笑ましかった。

■演技力といえば、やはり今回場面をさらったのは、シャク半、松重豊の立ち姿であり、ヒックというあまりに自然なそのシャックリの音にどやされるよりも強烈な緊張感を味わったのは二宮君だけではなかったはずだ。事件の後、オープンカフェでのツーショットの際にシャク半のテーマが流れる中で、唯我独尊の論理構成のもと、お兄ちゃんに謝る彼の語りは「前略」ファンの誰もが彼のことを半妻さん、利夫さんの後継者と認めた見せ所でもあった。

■30年前と変わらないものといえば、八千草薫と梅宮辰夫の場面はそこだけ冷凍保存した風景のようだ。役名は秀次から竜次に変わっても梅宮に託された倉本聰のメッセージは不変。今回も一平を射抜くのは有無を言わさぬ男の一言であって、その説得力は昭和が平成に変わったところでビクともしない。「おまえを責めない 誉めてやりたいくらいだ」そんなこと言われて心が動かない人間はいない。

■前作でも分田上の立ち退き問題があり、川波の内部分裂騒動があった。あちらとこちらを右往左往するおにいちゃんは30年前のショーケンと同じだ。ただそんな彼の心の支えになっていたのはいつもあの秀次先輩だった。その分身である竜次先輩が包丁をしまう時、いったい彼の将来はどちら側に開けるのか、わたしにとってそんな物語の展開はこのドラマの興味の中心でははっきり言って、ない。ただ見ていたい、味わっていたいのは、射すくめられる言葉の応酬であり、妙な人たちが一瞬、かけがえのない者に見えるような瞬間なのである。だからたとえ一平がフランス料理の道を歩もうとしたとしても、何も驚きはしないのだ。

PS

■秋に瓦と書いて「いしだたみ」と読むとは知らなかった。あの文庫本の装幀、美術スタッフにあっぱれをあげたい。





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Last updated  2007/02/09 12:00:41 AM
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Dehe@ Re[1]:カルトQ 2005 北の国から(10/18) adventさんへ ご指摘の通りです。例によ…
advent@ Re:カルトQ 2005 北の国から(10/18) 五郎が読んだ大江健三郎> 開口健ではなく…
しょうゆ@ Re:家庭教師 / 岡村靖幸(09/09) …最後まで岡村靖幸はわからなかったのでは…
背番号のないエース0829 @ Re:ヒトラー 映画〈ジョジョ・ラビット〉に上記の内容…
Dehe @ Re[1]:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) Mr.Zokuさんへ 情報ありがとうございまし…
Mr.Zoku@ Re:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) 今年出た[Deluxe Edition]は聴かれました…

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