売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2023.05.12
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昨夜友人の馬場宗俊さんから仰天メールが届きました。フランス名門バレエシューズブランドRepetto(レペット)社長ジャンマルク・ゴシェさんの訃報です。馬場さんは「数日前も電話でジャンマルクと普通に話したばかりなのでびっくりしました」、と。どうやら突然のことだったようです。


​レペットを買収したジャンマルク・ゴシェさん​

ジャンマルクは湾岸戦争のとき戦地で取材していた戦場ジャーナリスト。通常の給与のほかに危険手当が支給されても戦地では一切お金を遣う場面がなく、かなりお金が貯まったそうです。戦争で身の危険を感じて停戦後に転職、リーボックフランス法人の幹部だったところ業績不振でレペットが売りに出されていたので買収、1999年ブランドビジネスの舵取りを始めました。その資金は戦場記者時代の預金だったとか。

レペット(1947年創業)のバレエシューズは世界のバレリーナのみならず、フランスのスーパースターだったセルジュ・ゲンスブールやブリジット・バルドーが普段の生活に愛用したことで60年代に認知度が上がったブランドでしたが、20世紀末には「ホコリの被ったブランド」と化していたようです。




​レペットのサイトより​

ジャンマルクがレペットを買収して1年後、馬場さんにジャンマルクを紹介された私はバレエシューズの技術を使って「履いて痛くない婦人靴」のコラボレーションをお願いしました。私もブランド企業の経営者になったばかり、雑貨の強化が大きなテーマでした。すぐに担当者をレペットのフランス工場に送り、「レペットの技術を活かしたデザインを考案してくれ」と命じました。

レペットにとっては初めてのファッション企業とのコラボレーション、ジャンマルクは機能最優先のバレエシューズの世界とは違うデザイン優先の世界に着目、レペットの新しい方向性はバレエシューズの技術を活かした婦人靴ビジネスと決め、ボンマルシェはじめ大手小売店の婦人靴売り場で販路を拡大、市場での存在感は一気に高まりました。以来、有名デザイナーブランドとのコラボを次々手掛け、婦人靴売上を拡大、フランス経済界の優秀経営者賞を受賞しました。

私は最初の扉を開いただけですが、コラボ以降律儀にずっと恩義を感じてくれ、付き合いはその後も続きました。私が復帰した百貨店はレペットの東京路面店から至近距離、日本の提携企業にレペット導入をお願いしても話はなかなか進みません。そこで、私は直接ジャンマルクに出店要請、しかもそのオープニングにはミナペルホネン(皆川明さん)のテキスタイルを使った特別商品の製造を頼みました。


​プランタン百貨店地下婦人靴売り場のレペット​

百貨店インショップのオープニング日、ミナペルホネンのファンがレペット特別商品目指して開店時間前から行列、あっという間に売り切れてしまいました。皆川さんはデビュー時に八王子での合同展示会でたまたま見つけた新人デザイナーだった人、レペットは初めてコラボを引き受けてくれたフランスブランド、格別思い入れがある2ブランドが取り組んでくれたコラボが即完売、嬉しかったです。

私がクールジャパンの仕事を始めたとき、ジャンマルクにある提案を投げかけました。バレリーナやその予備軍にとってレペットは特別なブランド、トレーニングや舞台で汗をかいた彼女たちに向けて日本の高品質タオル商品を開発してみてはどうか、と。今治のタオルメーカーにレペットのバレエシューズと同じ薄いピンクのタオルにわざわざロゴを刺繍してもらい、来日したジャンマルクにプレゼンしました。

その時点ではタオルよりも先に強化したい商品カテゴリーがあるというので、しばらく時間をおいて再びオリジナルタオルの商品化をアドバイスするつもりでした。しかし、残念ながらジャンマルクの急逝で日本製タオルの話はもうできなくなりました。最初に井戸を掘った者をずっと大事にしてくれた律儀なフランス男にただただ感謝です。R.I.P.





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Last updated  2023.05.13 17:02:43
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