売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2023.06.26
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銀座4丁目晴海通りにあるGAPフラッグシップ閉店のニュースには驚きました。これで東京都内には大型店がなくなります。これは日本市場撤退シグナルなのでしょうか。すでに低価格ブランドのオールドネイビーは日本撤退し、GAPとバナナリパブリックはこの先どうなるのか心配です。


閉鎖が決まった銀座店

大学卒業してすぐニューヨークに渡り、最初に私が買った服はポロシャツ2枚と綿パン1本、五番街西34丁目エンパイアステートビルの隣接ビル1階にあった小さなthe gapでした。値段は3点で50ドル程度、あの頃のthe gapはまだ100%オリジナル製造小売業態ではなく、リーバイスが品揃えの半分、ラングラー、リーなど他ブランドが約4分の1,残りが自社オリジナル商品、日本のカジュアル専門店となんら変わりないジーンズショップでした。

日本に帰国して再びニューヨークを訪れた1989年、在住時代に見慣れたGAPは大変身を遂げ、お店の多くは大型化して店頭の品揃えは見応えあり、自社オリジナル商品は増え、ほんの一部にリーバイスという商品構成でした。翌年リーバイスとの取引を打ち切り、全商品自社オリジナルの製造小売業を標榜することになりますが、ニットやシャツなどの企画も充実していました。


最初のロゴはthe gapでした

出張から戻った私は、ニューヨーク三越駐在員だった友人の山縣憲一さんに「GAPがすごいことになっている」と興奮気味に話したら、山縣さんはそっけなく「ウソだろ」。そうですよね、GAPがカッコいいなんてそれ以前に米国駐在経験のある人なら想像つかないでしょうから。

ジーンズにしてもチノパンにしても色展開やシルエット別展開、そしてサイズ展開とも豊富でしたが、一番感心したのはニットの企画でした。3色のコットン糸を使って3色のカラーブロック柄、2色ブロック柄、そして無地展開のプルオーバー、襟の形もクルーネック、Vネックがあり、レジの横にはこの3色を使ったソックスが並ぶ。色を絞ってニット糸の発注ロットをまとめ、3色をいろんな掛け合わせやデザイン、アイテムで使うので店頭はごちゃごちゃしない。VMD面でも整理整頓分類がしやすく、その分商品が綺麗に見えました。在住時代のthe gapでは見たことがなかった構図でした。

2000年前後に私たちが百貨店の大規模リニューアルを進めていたとき、百貨店の経営層から若いバイヤーまでを連れて米国視察に頻繁に出かけました。このときGAPやバナナリパブリックのVMDや定数定量管理のみならず、広めの試着室や承りカウンター、通路の取り方までお手本にさせてもらいました。

あの頃のバナナリパブリックの「トレンドをあえて外す」商品企画とプロモーションのワザには「すごいなあ」としびれました。キーカラーはグレー、差し色はレッド、グレーの濃淡でいろんな表情をお客様に提案する、これが当時のトレンドでした。が、トレンドに沿ってウインドーをグレーで飾る他店と違い、「カーキ」をキャッチコピーとして前面に打ち出し、カーキ、オリーブ、ダークブランのチノパンとニット商品をウインドーにも通販カタログの表紙にも起用したのです。このときのバナナリパブリックには勢いがありましたし、素材面でも質感のある日本製を多用していました。

どん底だったGAPグループを外部からきて立て直した製造小売業のカリスマ経営者ミッキー・ドレクスラーCEOが退任して競合のJ・クルーに移籍すると、グループ全体が商品自体のことよりも価格主義、コスト削減に走り出しました。日本製素材は器用されなくなり、商品クオリティーはガクンと下がり、お手本にしてきた店頭のVMDや定数定量管理もずさんになってしまい、ついには同行出張者に「もう見なくていいよ」と視察対象リストから外したくらいです。


発祥の地サンフランシスコの旗艦店

かつてドレクスラーCEOがGAPに引き抜かれたとき、商品クオリティーがあまりに悪かったので社員に向かって「キミたちは自社商品を買いますか?」と質問、「自分たちが買いたくなるような商品を作ろう」と呼びかけ業務革新したと聞いています。が、カリスマ経営者が退場したあと、商品の魅力は大幅レベルダウン、結局再び視察のお手本にしたくなる小売店リストに戻ることはありませんでした。

GAPが日本上陸した90年代半ば、日本ではGAPの商標は日本の某企業がすでに取得済み、GAPとの間で裁判になりました。この裁判で米国GAP側の証人として私は弁護士さんからサポートを頼まれ、某企業が商標登録した頃GAPがどの程度日本で知名度があったのか、またニューヨークから米国事情を業界紙に書いていた私がどの時点でどのような記事を書いたのかを記事コピーを提出してGAPを擁護しました。来日した創業一族のロバート・フィッシャー氏からお礼のディナーに呼ばれ、また米国視察の折にはニューヨークのお店を開店時間前に見学させてもらったこともあります。

米国出張するたび何がしらかのヒントをくれたお手本、しかも商標裁判でサポートした思い入れのある会社がどんどん劣化し、ついにはフラッグシップ店を閉じるところまで来てしまいました。残念です。





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Last updated  2023.06.27 17:05:01
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