売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2024.01.20
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能登半島の余震、なかなかおさまりません。連日テレビ画面上部に地震速報のテロップが現れるたび、東京で揺れは感じませんがドキッとします。地元中学生の集団疎開、勉強できる環境を求めて参加した生徒もいれば、地元から離れたくないと避難所に残った生徒もいて、中学生社会の分断に心が痛みます。

震災後自分たちは何ができるのか、やれることをやってみようと動いたことが過去二度あります。1995年の阪神淡路大震災、東京ファッションデザイナー協議会議長としての最後の仕事は有料チャリティーファッションショーを企画して収益と募金を被災地に贈ることでした。デザイナーの皆さんはそれぞれの個性を表現しにくいジョイントショーは大嫌い、でも今回だけは黙って参加してくださいと呼びかけてどうにか実現しました。


東日本大震災直後救済イベントのビジュアル

2011年百貨店に復帰した直後の東日本大震災、被災地のためにみんなで被災地救済チャリティーを企画、地震の1カ月後に全館あげての救済イベントを実施しました。正面ウインドーに貼った全社員の被災地に向けた多数のメッセージカードを写メしながら涙を流すお客様、東北の食材を買い物カゴに入れながら「被災地のためになるのよね」と涙を浮かべながらお買い物されるお客様には心打たれました。

このときルイヴィトンのマーク・ジェイコブスさん、靴デザインのクリスチャン・ルブタンさん、日本では山本耀司さんなど世界各国デザイナーがチャリティーオークションに協力してくれました。イベントのことをネットで知った南相馬の避難所暮らしの女性から感謝のメッセージをいただき、社員からは「この会社で働いていることを誇りに思います」と泣けてくるメールをもらい、私も感動させてもらいました。

「百貨店にはまだやれることがある」とチャリティーイベントの模様を長年のライバル店幹部に伝え、一緒にファッションイベントを始めたのも大震災直後の救済チャリティーがきっかけでした。


GINZA FASHION WEEKのウインドー

能登半島の惨状を見るにつけ、ファッション流通業界は何ができるんだろうと考えさせられます。被災地には世界に誇る繊維産業がありますし、ハイレベルな衣食住関連商品を長年作ってきた工房や工場も多数。生地を織れなくなった繊維会社、醸造が困難になった蔵元、津波で魚市場や水産加工所が被害にあって魚介類を全国に送れなくなった漁業組合、彼らのため我々にできることは何なのか、みんなで考えたいですね。

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昨年12月の杭州でのセミナー

さて、12月杭州で中国ファッション業界の経営者たちに向けてセミナーをやらせてもらいましたが、それがご縁で2月下旬に上海と広州を訪問することになりました。2月中旬はお正月にあたる春節、中国企業のほとんどはお休みになり、多くの中国人は旅行に出ます。なのでセミナー時に投影するテキストを早めに制作して春節前に現地通訳さんに翻訳してもらわねばなりません。ここ数日はその資料作りに没頭、やっと完成したのでセミナー主催者にメール送信しました。

今回は普段日本で指導している「マーチャンダイジングの基礎」を中心に講演します。誰に、何を、どのように、いくつ販売するつもりなのか仮説を立て、販売計画をみんなで話し合って能動的販売を心がけましょうというストーリー。前回杭州でお世話になった素晴らしい通訳さんが再度手伝ってくださると伺ってますので、前回以上に私の意図を理解して訳してくれるはず。海外セミナーは通訳さんの出来不出来で成果は決まりますから心強いです。

先日お会いしたテキスタイル業界の重鎮と中国ファッション企業の経営者たちのことが話題になりました。


プレミアムテキスタイル展


ベストニットセレクション展

これまで日本でもたくさんセミナーや社内研修を引き受けてきましたが、概して日本では最後の質疑応答は形式的、経営者は「いいお話を伺いました」とは言ってくれますが次のアクションはほとんど何もありません。一方の中国は質疑応答は司会者が止めなければ延々と続き、その場にいた経営者は「もっと教えてもらえませんか」、「今度はわが社の社員に研修してくれませんか」と積極的。このリアクションの差はなんでしょう、という話になりました。

創業10年足らずの新興ベンチャー企業数社がしのぎを削って電気自動車を一気に普及させた中国に対し、日本では電気自動車の普及は大幅に遅れている。経営者の改善しようとする情熱、探求心あるいは時代を読む力の違いでしょうか。先月杭州での講演と同じ話をもしも日本でやったとしても、中国のようにその続きを講演依頼する会社は恐らく現れないでしょう。来月の中国出張ではバージョンアップした次のレベルの話をせねばと、前回以上に一生懸命テキストを作りました。

仮に来月の講義が及第点ならばそのまた次の要請が来るでしょうし、彼らの胸に刺さらなければ次の話は全くないと思います。言い方を換えれば、中国は「いいお話を伺いました」で終わる社会ではなく、ビジネス講演でさえ真剣勝負、スピーチする側には緊迫感がつきものなんでしょう。大学卒業後渡米してから私は組織人でなく一匹オオカミとして仕事をしてきたので、案外中国社会とは肌が合うかもしれません。

振り返ってみれば、これまで日本では「空約束」を何度も経験しました。お会いするたび「今度ぜひお話を伺いたい」や「今度ぜひ一献」と言ってくださる企業や組織の幹部は多いんですが、その大半は実現しないまま。もちろん中にはそういう挨拶を交わした翌日すぐ連絡があって研修の依頼や会食アポが入ったケースはありましたが、あいさつ代わりに言っただけというケースはかなり多かった。

帰国してデザイナー協議会を始めた頃は私も若かったので、そのお誘い言葉は単なる社交辞令、その気はさらさらないとは知りませんでした。大人たちの空約束や、こちらがあまりに若過ぎてアポのお偉いさんがしらけた顔をするケースが頻繁だったので、私はあえてネクタイの着用を止め年中ノータイスタイルになりました。若造がノータイで面会の場に現れるとムッとした表情になるお偉いさんたち、彼らにあれこれ説明したり協力要請するのは時間の無駄、こういう人ならさっさと面談を切り上げたものです。

当時は若かったので相手にされないのも無理ありませんが、ベテランになってからも空約束や社交辞令は続きましたから日本のビジネス界の習慣なんでしょう。


ポリエステルメーカーの工場

前述のテキスタイル業界の重鎮に申し上げました。中国にはもっと日本の素材を起用して上質なファッション商品を作ってみたいと考える経営者もいます。彼らに日本素材の起用を促す具体的な仕掛けを業界全体で考えるべき時期に来ている。市場規模を考えても、日本企業の将来性を考えても、やる気のある中国企業に本気で売り込む体制作りに早く取り組むべき、と。セミナーのあとのリアクションのスピードを見ればやる気のある中国企業と向き合う方がテキスタイルメーカーにはプラスです。

能登地震被災地は世界にその技術を誇る合繊生産拠点も含まれます。被災地支援のためにも、海外バイヤー招聘予算を持っている公的機関、テキスタイル展やニット展示会の運営関係者には、リアクションのスピードが速く市場規模の大きな国への訴求策を具体的に考えて欲しいです。





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Last updated  2024.01.24 23:08:36
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