円安の影響はかなりあるのでしょう、物価の上昇が止まりません。春物商品が並び始めた売り場を歩いて感じるのは「随分高くなったなあ」。コロナ禍以前インポートブランドのナイロン地やキャンバス地小型バッグは 20 万円程度、若年層にはちょっと背伸びすれば手が届くエントランス価格でした。が、いまやエントランスは 30 万円、ブランドロゴが入ったキャンバストートはちょっと信じられない高価格になりました。
スーパーマーケットでもこの 1 年間食料品値上げラッシュ、誰もが物価高を実感する世の中。数年前までデフレ脱却は経済政策のキーワードでしたが、今度は一転してインフレ抑制が重要なテーマに。政府は企業側に賃上げを呼びかけ、経済団体はこれにある程度応じる構え、労働組合は今春闘は強気な姿勢。果たして物価上昇を上回る賃上げは実現するのでしょうか。
何度も SNS やこのブログで指摘してきましたが、日本のアニメ漫画は世界で高く評価されているものの、儲けは日本側に入らず海外勢が儲けるだけ、いつまでたっても制作現場は低賃金と不当な残業で「ブラック」です。日本側がしっかり権利主張して儲けを取り戻し、制作現場の処遇改善を進めてブラック企業からの脱却を実現して初めて「クールジャパン」と言えるのであって、海外勢を儲けさせるだけではいくらコンテンツが高付加価値でもクールじゃないです。
C F D (東京ファッションデザイナー協議会)の事務局を預かってファッション流通業界にいろんな提言をしているとき、デザインの盗用問題と共に販売員の処遇改善の呼びかけには力を入れました。ちょうど「夜霧のハウスマヌカン」というファッションブランドの販売員の日常を皮肉った歌がヒット、これにはものすごい抵抗がありました。真面目に働く販売員がいっぱいいるのに彼らをからかう歌、業界人の一人として腹がたちましたが、同時にその原因は業界側にもあると思いました。
このブログを書き始めた頃、ある大手アパレル企業で息子が働いているという女性から突然メールを頂戴しました。都内有名私立大学を卒業して大手企業に就職、これでやっと親の仕送りを終えることができると思ったら、社会人 1 年生の息子から仕送り継続を頼まれたとか。息子に状況確認したら、最初は店頭で販売職からスタート、試着販売のため会社から支給されるユニホーム用以外に自社商品を購入せねばならず、給料から天引きされると毎月手取りはほとんどゼロ。試着販売の服を買わせて社員の手取りがほとんどないなんてブラック企業ではないでしょうか、そんな内容のメールでした。
私は「そうですね」と同意するしかありませんでした。これが、私の関係する企業に対するご批判であれば、しっかり反論しました。なぜなら、われわれは試着販売の服を社員に負担させないようルールを改善、総合職と販売職の給与格差の是正に取り組んでいましたから。他社のことは内情をよく知らずに説明できませんので、曖昧な返信を差し上げたと記憶しています。おそらくファッション企業で子供が働く親御さん、同じ思いの方はいまも多いのではないでしょうか
一般的にファッション流通企業では総合職と販売職をわけ、処遇の差も明確に提示して新卒採用します。入社時から両者の給与格差は明白なのでしょうが、どうして総合職の方が初任給は多いのでしょうか。総合職と販売職を分けることさえ私は意味があるとは思えないのです。
自分が責任者のとき、総合職採用も1年程度は全員が店頭での販売業務(これが嫌ならどうぞ他社を受験してくださいという姿勢)、また本社 M D や販促担当などは販売経験のある社員をどんどん抜擢する仕組みに改善しました。だから総合職と販売職の給与をわける意味がありません。財源が必要なので時間はかかりましたが、給与体系一本化に向けてみんなで努力したものです。(その後のことはわかりません)
販売員にはよく言いました。「自動販売機でも販売はできる」と。ファッション販売のプロとなって発注に責任を持ち、マーチャンダイジングの知識を持って仕事してくださいとも言いました。店長に発注権を渡したのも、マーチャンダイジングをゼミ形式で丁寧に教えたのも、販売の仕事を変えたかったから。精度の高い発注ができて店頭で良いチームを作れる店長はプロ、それなりに処遇するのは企業として当然と幹部たちには言い続けました。だから他の会社に比べると販売職の研修は充実、素晴らしい発注をさらりとやってのける店長が増え、高いプロパー消化率を維持できました。
百貨店に復帰してお取引先の店長さんにマーチャンダイジング講座を開いたとき、あるファッションブランドの店長さんからこんなことを言われました。「◯◯◯(私が所属した会社)のショップはどこか違うと感じていましたが、講座に参加してその理由がわかりました」、と。「どこか違う」と感じていた競合ブランド店長さんがいたと知ってものすごく嬉しかったですね。
そもそも総合職って何なんでしょう。近年は売り場をほとんど回らず、デスクのパソコンをパチパチしてるのか会議ばかりしてる人が増えたと感じます。アパレルメーカーの営業担当と売り場で出会う機会は極端に減りました。幹部の大半が営業部門の総合職という企業はいまも多いでしょうが、それでは時代が読めず世界のブランドと戦えないのではないでしょうか。
改めて思うのです、総合職と販売職をわけて採用すること自体そろそろ再考してみては、と。でないとずっと本社や営業所のデスクにいて売り場に関心持たない社員が増えるのではないでしょうか。加えて、人口減少の中、社員の定年延長も真剣に考える時期ではと思います。ミナペルホネンが高齢者を新たに販売員採用して話題になりましたが、経験豊富な販売員は相当な戦力になるはずです。欧米のようにキャリアの長い販売員が売り場にいるとショップ全体に安心感が生まれると思います。ミナペルホネンに続く会社が現れるといいんですが。
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