売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2024.04.12
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あれは2010年のことでした。中国市場への進出をどう進めるかを考えていた私たちは、将来駐在オフィスを開設することも視野に入れ上海と北京の商業施設を回りました。北京の中心部にあった現地有力セレクトショップで手にしたジャパンブランドのアイコンTシャツ、現地価格を日本円換算すると15,000円でした。日本国内では5,700円の商品、「随分高いマークアップをとるんだなあ」とこのとき思いました。

セレクト店内を歩いていると、見慣れた服をマネキンが着ている。なんと私たちの会社が作っている商品、中国の小売店にはまだ卸していなかったのでうまくできた偽物か、と。しかし、商品タグは我が社のもの、すぐ日本に電話してブランド責任者に説明を求めました。なんと米国の婦人服見本市に出品した際にこのセレクトショップから注文もらったので出荷。視察に同行した部下たちも私も中国の小売店に出荷していたとは知りませんでした。

ブランド責任者に商品番号を伝え日本国内価格を報告してもらうと、日本で22,000円の加工物プルオーバーが中国ではなんと円換算61,000円、いくらなんでもこれは高すぎます。中国では消費税が内税(当時は価格の30%が加算されると聞きました)、それでも日本の小売価格のおよそ2.6〜2.7倍は現地小売店がマージンを取りすぎではないでしょうか。






写真は3枚ともビッグブランドの中国ショップ

1970年代パリのルイヴィトンやエルメスなど現地ラグジュアリーブランドに日本の並行輸入業者が列を作ってバッグ類を免税でたくさん購入していた時代がありました。輸入業者本人のみならず、現地で集めたアルバイトも動員、大量に免税購入して日本市場で転売したのでブランド側が日本パスポートの免税は一人当たりバッグ1個、財布1個と制限したことも。あの頃は内外価格差が大きく、現地で商品を店頭で買って日本で販売しても十分儲かったから転売はあとをたちませんでした。

ところが、ブランド側が順次ジャパン社を設立して日本市場における小売価格をコントロールして内外価格差を抑制し始めると、それまで大儲けしていた並行輸入業社は従来のように高額で販売できなくなり、パリから「転売ヤー」は姿を消しました。

あの頃は、JALパック団体旅行に参加する田舎のオヤジさんたちもパリのラグジュアリーブランド直営店で家族から頼まれたバッグ類を購入していました。まだクレジットカードが普及していなかったので、シャツの前ボタンを外して肌身に付けた防犯用腹巻からトラベラーズチェックや現金を取り出す光景を見かけたものです。ラグジュアリーブランドショップでシャツのボタンを外して腹巻から現金を取り出す、現地ショップ販売員にはかなり滑稽だったでしょう。オヤジさんたちが現金を取り出す間しらけた目線で支払いを待つ販売員の表情、シュールでしたよね。

インバウンドが急増し、日本の消費経済に大きく貢献してくれる訪日外国人は流通業界にもブランドビジネスにもありがたい存在なのですが、中には中国と日本との内外価格差を利用して儲けようとする転売ヤーとそのアルバイトが売り場を連日奔走、大量に購入して中国で販売しています。内外価格差が大きければ、店頭で小売価格で購入しても十分儲かります。

日本で50,000円の商品が2.5倍ならば中国では円換算125,000円、差益は75,000円とれます。一生懸命ものづくりしているブランド側は50,000円の小売価格から取引先の百貨店などのマージンと製造原価を差し引いたらせいぜい25,000円の粗利でしょうが、転売ヤーとそのアルバイトは50,000円で購入した商品を中国で仮に正規品小売価格よりも安い100,000円で販売しても差益は50,000円です。開店時間前から行列に並ぶ人たちが粗利50,000円、ものづくりしている人たちは粗利25,000円、ちょっとおかしくないでしょうか。

転売ヤーが自国での販売で儲かる商品を集めるべく奔走しているのは、内外価格差が大きいからです。ジャパン社が設立される以前のラグジュアリーブランドがそうでした。だから、そろそろ抜本的に内外価格差を抑えて転売ヤーがものづくりする側よりも儲かる仕組みを改善すべき時期が着ているのではないでしょうか。いつまでも転売ヤーがわがもの顔で大きな差益を得ているおかしな構図を改めるべきだと思います。

なぜそう思うかと言えば、今日某百貨店のジャパンブランドショップの前とその周辺に転売ヤーらしき人々の長い行列を目撃したからです。私も愛用しているこのブランド、某百貨店への商品デリバリーは毎週木曜日と聞いています。今日は金曜日なのに行列、我々一般消費者はショップに入って商品を手にすることもできません。転売ヤーのアルバイト要員が多すぎて長年のブランド顧客がショップに入れない、こんなことがずっと続いていることは異常です。

ラグジュアリーブランドがジャパン社を設立して小売価格を自らコントロールしたように、日本のブランド(何もファッション商品に限らず家電製品も同じです)も転売ヤーが日本の売り場を走り回って利益を上げている構図に終止符を打つでき時期ではないでしょうか。コツコツものづくりする側よりも行列に並んで転売する側が利益が多いなんてどう考えてもおかしい!

自らのブランド価値を守るためにも、国内顧客がごく普通にショッピングできるようにするためにも、海外市場のビジネス戦略やヨーロッパブランドの取り組みをもっと勉強してほしいですね。





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Last updated  2024.04.13 11:22:47
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