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2022.09.28
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テーマ: 読書(9995)
本のタイトル・作者


夏の体温 [ 瀬尾まいこ ]

本の目次・あらすじ

血小板が少ないことが分かり、薬で様子を見ながら1か月以上入院している小学三年生の高倉瑛介。
小児病棟の東棟は、県内唯一の内分泌系小児専門医がいて、低身長の検査入院にやってくる子どもたちばかりだ。
年下ばかりでつまらない―――そんな時。
同い年の田波壮太がやって来た!
2泊3日の検査入院。短すぎる夏のともだち。
「夏の体温」

ちいさな頃から文章を書くのが好きで、妄想の世界に浸っていた私・大原早智。
大学一年生で県の主宰する文学賞を最年少受賞、受賞作を出版。
二年生のときに二作目を出した。
けれど編集者から、登場人物が「みんないい人」でリアリティがないと言われ…。
私は、同じ大学で「ストブラ(ストマック・ブラック)」とあだ名される腹黒の悪人・倉橋ゆずるに取材を申しこむが…。
「魅惑の極悪人ファイル」

転勤の多い父親のせいで、転校を繰り返して来た明生(あきお)。
今度は祖母の家に同居することになり、中学1年生で通い始めた新しい学校にまだ友達はひとりもいない。
「花曇りの向こう」

引用

空想の中で私はいろんなものを見ていろんな思いをして、涙を流し興奮し笑った。それで十分楽しかったし、それで心が癒されていた。けれど、それとは明らかに違うものがあることを知った。物語は私を救ってくれる。しんどい現実から、優しい世界へと連れだしてくれる。だけど、こんなふうに頭の中以外を動かしてくれることはなかった。現実は、私の意志のもと、私の体をどこにだって運んでくれる。


感想

2022年250冊目
★★★

瀬尾さんで読むのは三作目。
これは、短編3本が収録されたもの。
特に一番最後の「花曇りの向こう」はとても短い。
これは、中学1年生の国語の教科書(2016年発行、光村図書出版株式会社「国語1」)に掲載されたものだそう。

「夏の体温」は夏休みの読書感想文にちょうどよい題材と長さ。
私は小学生のころ、一ヶ月ほど入院していたことがあって、そのときのことを思い出しながら読んだ。
毎日毎日、同じ日々の繰り返し。
私は本をたくさん読めるので幸せだった。
母が差し入れてくれる図書館の本の山。
担任の先生がプレゼントしてくれた『しろばんば』。
お絵かきと読書とテレビ。
隔絶されたモラトリアム期間。
退院のまえには、家に帰りたくない、日常に戻りたくないと隠れて泣いたくらいだ。

でも闊達な男子小学生には、そんな日々は苦痛でしかないのだろうな。
まして同い年の子供いないのであれば尚更。
経過観察で入院中の主人公の瑛介。
そして、5回目の低身長の検査入院に訪れた壮太。

私はもう、どうしてもこういう物語を、子供の目ではなく母の目を通して読んでしまう。
ふたりの付き添いのお母さんーーー病院の付き添いも、概してお母さんしかいない世界だーーーは、どんな思いでいるだろう。

原因不明の痣が出来たことから、あれよあれよと長期入院生活を送ることになった息子。
瑛介の母は毎日、病院の付き添いをして泊まる。
その日々。

9歳だけど幼稚園くらいの身長しかない息子を持ち、幾度も検査入院を繰り返す壮太の母。
治療をすれば、普通に背が伸びるのではないか。
そんな一縷の望みを捨てきれない。

どうして。せめて。なんとか。
たくさんの言葉を飲み込んで。
子どもは勿論だけど、そのケアをする人にも息を吐ける場所が必要だよなあ…。

「魅惑の極悪人ファイル」は、著者である瀬尾さん自身のことも含まれているのかなと思った。
「いい人だけの世界」の物語から出て行く、という方法が、こういうやり方であってもいいじゃないか、という。
伊坂幸太郎作品を読んでいると、もう純度百パーセントの悪じゃん、という存在が出てくるんだけど、たいていの物語は「でもこの人がこういうのには理由があって」「そうじゃない部分もあるんだよね」と描かれる。
人間はその時々によって見せる面が違って、その濃度というか、「その瞬間」の黒と白の攪拌によって、善にも悪にも見えるのだ。
たいていはその沈殿と上澄みの間にいる。
その時に、人間の本質はどちらと見るか。
著者の瀬尾さんは、「たいていの人間は「よいほう」を志向する生き物だ」と考えてらっしゃるのだろう。
そうありたい。そう信じたい。だから私は物語を書くのだ、と。
だから引用部は、著者からのメッセージのようにも思えた。

物語の世界はやさしい。私が見せる世界は、よいものを見せようとしている。
でも、若い君は現実を肌で感じなきゃだめだよ。
心の柔らかいうちに、外へ出て行くんだ。
触れるものすべてが、それが痛みであっても、心を動かす。
自分だけで完結していた世界が、思ってもみなかった方へ、終わりなく繋がって広がる。
それが楽しいんだよ。面白いんだよ。
物語の世界はいつでもここにある。君を待っている。
だから安心して出かけておいで。外の世界へ。現実の君の場所へ。
さあ扉を開けて―――いつでもここへ戻ってきていいから。

そっと背中を押すような、厳しくも優しい声を聞く。
この人が書きたいのはきっと、そういうことなんだろうなと思った。

それは、日常には絶えず戦いが待っていて、現実が辛くて仕方なくて逃げたくて、現実にないセーフティゾーンを本の中に求める人間には、酷であろうとも。

これまでの関連レビュー

そして、バトンは渡された [ 瀬尾まいこ ]
その扉をたたく音 [ 瀬尾まいこ ]




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最終更新日  2022.12.03 23:35:22
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