シュタイナーから読み解く神秘学入門

シュタイナーから読み解く神秘学入門

2016年06月23日
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カテゴリ: 神秘体験空間
 かつてパックスブリタニカと呼ばれ、7つの海を海賊により支配し、眠らない国といわれた英国が、世界に植民地をつくって多くの人々を奴隷化してきた罪悪がたたったのか、ついに青色吐息の経済的命運が尽きようとしている。

 正直、私はイングリッシュの英国人が嫌いである。二枚舌だし、紳士の振りをしながら、中身は野蛮そのものであるからだ。

 英国人というよりも、歴代地獄堕ちのロスチャイルドが嫌いなのもある。あのドイツ訛りの偉そうな鼻につく発音も気取っていて虫がすかない。身分階級制度をつくっておいて、その上位に君臨し、紳士も糞もあるだろうか?

 有名なMI6の007のモデルがヴィクターロスチャイルドというのは陰謀論では有名だが、この悪人のせいで、この国の住人の多くが大変な目にあったのである。007がミスタービーンなら、世界に戦争も起きなかっただろう。

 英国のせいで、この国の住人が沢山犠牲にされたこともある。イングランドは嫌いだが、スコットランドにはなぜか親しみを感じる。ギリシアのスコラ派を思わせるせいなのかもしれない。

 個人的好き嫌いはこの際おいておいて、この国の高慢な英国病ともいえるアホバカ総理の命運も同時に尽きようとしているという話を紹介する。こんなのが総理になるから、この国の経済も既に命運が尽きている。人助けよりも企業の利益や内部留保の方が優先されるのだから、地獄堕ちも増えるわけだよね。

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官製相場は付け焼き刃
http://my.shadowcity.jp/

 アベノミクス完全終了、おめでとう御座います。ドル100円体制に逆戻りです。しょせん、官製相場は付け焼き刃。長続きはしない。つうか、明治維新からの富国強兵体制は80年保たずに崩壊し、1945年の敗戦を迎えるわけだが、それから70年、アメリカ占領時代に終焉が訪れようとしている。大きな時代の転換点です。一つの体制は80年は保たない。

 EU離脱の是非を問う国民投票で、離脱派勝利の可能性が80%まで上昇したとの分析を手掛かりに、一時99円ちょうどまで下落した。100円を若干下回るの水準に置かれていた損失確定の売りオーダー(ストップ)を巻き込んで、下落が加速した。

 麻生財務相は、午後1時15分めどに会見を開く予定。

 これから激動の10年が始まる。日中戦争から原爆投下、敗戦までの歴史を振り返って見よう。我々はどう動くべきか。そこに回答がある。

日経平均大暴落w あー、嬉しい、嬉しい

 日経平均大暴落w あー、嬉しい、嬉しいw 株やってない人にしてみりゃ、ザマーミロだw アベノミクスの化けの皮がどんどん剥がれていくw とうとう14000円台突入ですw 為替も凄い事になってますw 今日一日で、年金何兆溶かしただろうw 溶けて流れてノーエ、流れてユダ金に注ぐw 日本国民がコツコツと貯めて来たカネは、アベシンゾーが溶かしましたw

市場なんざ知ったこっちゃない

 イギリスのEU離脱決定です。為替も株も乱高下w つうか、世界中の多くのグローバル企業が、EUの統括本部とか、工場をイギリスに置いているんだが、それで済まなくなる。パリとかフランクフルトとか、大陸に引っ越ししなきゃならない。大騒ぎだw イギリスは、大陸からハブられて、凋落間違いなし。仕方ないね、グローバリズムよりアイデンティティを選択したんだから。

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 下手すると、中国から、英国へアヘン戦争の仕返しがはじまるのではないか? 臥薪嘗胆という熟語があるように、中国人は執念深いからね。アジア人は英国の嫌がらせに耐えてきたからね。

 さて、仕返しをしてしまったら、この世は地獄化するしかなくなる。罪を憎んで人を憎まずでなければいけない。

 悔い改めよ、というわけで、英国の身分制度を撤廃するいい機会なんではないだろうか?

 大体産まれながらに貴族なんていうのは唯物論の愚にもつかないブラックジョークである。キリストが身分制度を説いたとでもいうのだろうか?

 キリストは、その逆の、金持ちと権力者は天国にはいけない。地獄に最も近い、と説いたのである。

 地獄から這い上がるには、この世に生きているときにキリストのように振る舞わないとダメなんである。

 というわけで、警告のために、地獄の紹介を続けてみる。

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後編》二章「残忍地獄」

 【I】「憎しみの都市」

 俺は闇の中に、じっと目をこらした。何も見えない。どうやら道がありそうだ。俺は手探りでそこへはい上がった。だが、すぐすべって、何やらぬらぬらしたドブの中へ落ちる。はい上がってはすべり、すべってはまたはい上がり。まるでけもののように四つんばいになりながら、俺はその道を何処までも進む。先は真暗で何も見えない。だが、ふしぎな引力が俺を引きずり、俺は無茶苦茶にある方向をさして進む。やがて石ころだらけの荒野に出た。

 俺は、なおも前へ前へ進む。つまづいては倒れ、倒れてはまた起き上がり。そのうちに、いつか目が闇に馴れて、ぼんやり辺りが見えてきた。目をこらしてよく見ると、行く手に何やら大きなかたまりのようなものが見える。近づいてみると、城壁である。さいわい、そこにある門から、俺は中に入ってみた。

 すると不意に、門番らしい奴が二人、俺にとびかかった。俺は危うくとびのいたが、どうせこんな所で出くわす奴、みんな敵と思えばまちがいない。よし、こいつらと闘ってやろうと、そう思ったとたん、奇妙にキャッと消し飛んで、逃げ出してしまった。

 俺は門から町の中へと入ってみた。その頃には、濃い霧を通して、どうやら建物の形が見えるまでになっていた。

 俺はこの街に見覚えがある。どうやら古代ローマ街らしい。そういえば凱旋(がいせん)門があり、コロセウムがあり、公衆浴場がある。しかし、そうとばかりいえない。場所によっては、ベニスやミラノや、アッシリアのニネベに似たところもある。

 これは後になって分かったことだが、ここは残忍地獄という所であって、 かつて、残忍な行為と関係のあった建物は、すべてここへ移され、これらの邪気が凝縮して、地獄の一大都市を建設しているのであった

 さて、俺はかまわず街をどんどん進んだ。街は華やかではあるが極度に汚れきっている。通る男や女も衣服は我々と変わらないが、ただ、酷く汚れて、どれもこれもビリビリに引き裂けている。

 街の中は、あっちでもこっちでもけんかが盛んだ。やれ、がんをつけたの、肩がふれたのと、ささいなことですぐけんかを始める。なかには、俺目がけて飛びかかって来る奴もいる。俺がグッとにらみつけると、そいつらは、たちまち消し飛んでしまう。

 そこで、俺は悟った、ここでは意志の強さが何よりの武器であると。意志の強さなら、俺は誰にも負けはせぬ。これだけが俺の取柄なのだ。そこで俺は考えた。今では人から攻撃ばかりされていたが、今度はこちらから攻撃して、家来の一人もつくってやろうと。

 そこで、俺は不意に一人の男に飛びかかった。そいつは悲鳴をあげて逃げ出したが、俺がウーンと念力を込めて引き戻すと、相手はズルズルズルズルと、面白いように手元に引き寄せられてきた。

 俺は威厳を示すために、わざとそいつを投げ飛ばし、地面に何度も顔をこすり付けた上で、道案内をしろと命令を下した。そいつはおろおろして、ぶつぶつ言いながらも、俺の言うなりに案内を始めた。

【II】「皇帝の行列」

 俺はあちこち見て歩いた。だが驚いたことには、どこへ行っても、男といわず女といわず、けんかが絶えないのである。

 さすがの俺もあきれかえって「いったいどうしたことだ」と聞くと、家来は、

 家来「旦那さま、ここは憎悪と残忍の地獄でございます。お互い、あれが何よりの楽しみで、ここにいるわけでございます」

 なるほど、そういうものかと俺も納得した。

 やがてしばらく行くと、急に街の中が騒がしくなった。見ると何やら行列がやって来る。いや、その騒々しいこと。行列の前後左右で絶え間なく悲鳴が起こる。伴の者同士、伴の者と見物の衆が、絶え間なくののしり合い、けんかをする。中でも人騒がせなのは、行列に従った数匹の猟犬で、これが絶えず見物に飛びかかっては、かみつき食いちぎる。そのたびに、キイキイ、ヒイヒイと悲鳴があがる。

 「地獄にも犬がいるのか」と俺が聞くと、

 家来「いえ、あれは犬ではございません。皇帝が意志の力で、人間を犬に変えられたのです。旦那さま、あれをご覧ください」

 家来が指をさす方を見ると、どうしたことだ、素裸の男や女がたくさんゾロゾロやって来る。

 家来「あれも、皇帝のお好みで、あのようにされたのでございます」

 「すると、皇帝はよほどの強力な意思の持ち主だな」

 家来「さようで、われわれを自由自在に、犬にでも子供にでも変えてしまわれます。旦那さま、来ました来ました、あれが皇帝です」

 なるほど、行列の真中に、大威張りでふんぞり返った奴がいる。見ると、罪悪のしわあくまでも深く顔に刻まれ、そのため目鼻だちもはっきりしない。まさに驕慢〔きょうまん〕と残忍の典型である。でも、どこやら生前は、これでも好男子であったかな、と思われるふしがないでもない。

 「あいつは何者だ。ローマのネロではないか」

 家来「いえ、旦那さま、ネロではございません。ネロなどは皇帝に比べたら、問題になりません。時々、反響をひるがえすことがありますが、そのたびにこっぴどくやられ、ひどい刑罰を受けます。ネロいじめは、皇帝の最大のお楽しみの一つです」

 「では、いったい、あいつは誰なのだ」

 家来「それが、旦那さま、私はいっこうに存じませんので」

 こいつめ嘘を吐くなと、俺はあらゆる残虐な方法でいじめつけたが、知らないものは仕方なく、俺もとうとうあきらめた。

 「では、どこぞ面白い所へ案内せい」

 そういうことで、われわれは大きな劇場の前にたって来た。これはわりに近代的な建物であるが、ただ、ひどく汚れきって、手入れなどさっぱりしていない。

【III】「劇場」

 切符売場ときたら、大へんな雑踏で、押し合いへし合い、つかみ合い、なぐり合い、売り手と買い手は、のべつまくなしにののしり合っている。

 これでは、いつまでたってもラチがあかない。そこで、俺は満こうの念力をこめて、雑踏の中を真一文字に劇場の中へ入って行った。家来の奴は大喜びで、俺の後から、そこらの幾人かを突きとばし、殊に、一人の婦人の髪の毛をつかんで、地面に叩きつけた。そばの奴らも、かわいそうなどとは思わず、倒れた身体の上を、わざと踏みにじって歩いて行く。

 劇場の中は、どこかしこも、ののしり合い、叩き合いの乱痴気〔らんちき〕騒ぎである。正面の席まで来ると、そこでは男と女が大立廻りを演じている。二人とも、元は上流社会の出らしく、身につけている衣服は中々ぜいだくなものだが、あちこちが引き裂けて汚れきっている。やがて、男の方の意志が強かったとみえて、女を押さえつけると、その上に自分の椅子をすえ、どっかと坐りこんでしまった。女が苦しがって顔を持ち上げると、靴のかかとであごをどんと踏みつける、そして、男は俺たちを手招きして

 「構わないから、どうぞ踏んで通って下さい。こんなアマにはそれが一番の功徳ですよ」

 そう言って、また、アゴをゴツンと蹴とばした。

 俺たちは、言われるままに踏んで通ったが、それは生身の人間を踏むのと、まったく同じ踏み心地で、また踏まれた女も、生きている時と同様にもがき泣き叫ぶのである。

 俺たちが席につくと、まもなく芝居が始まった。それとともに、だんだんけんか騒ぎもおさまっていった。だが、芝居の筋書きはどれもこれも、陳腐〔ちんぷ〕な犯罪もので、最後は必ず残忍きわまる殺りくや、拷問(ごうもん)で終わる。

 すると、それまでおとなしくしていた家来が、声をひそめてこう言った。

 家来「旦那さま、ここらで早く帰りましょう。芝居が終わったら、拷問(ごうもん)係が観客を舞台に引張り出して、ひどい目に合わせますから」

 その言葉が終わらないうちに、舞台に拷問係りが出て来て、家来を指しながら叫んだ。

 「コラッ、そこの青虫、ここへ出ろ」

 家来はみるみるガタガタ震えて立ち上がると、よろよろと舞台の方へ引きずられて行く。俺はこれを見て大いに怒った。いかに虫けら同然とはいえ、俺の家来だ。このままでは主人の面目にかかわる。俺はスックと立ち上がると、舞台に向かって叫んだ。

 「オイ、それは俺の家来ではないか。ふざけた真似をすると、承知しないぞ」

 すると、突如劇場の中に低い興奮のうめき声がわき起こった。

 拷問係はハッタと俺をにらみつけた。

 「コラッ、新米なければ、そんな口を聞く奴はいないはずだ。貴様のような奴は、嫌っというほど地獄を思いしらせてやる。ここへ来て俺と勝負しろ!」

 「何を! 勝負したけりゃ、貴様の方こそこっちへ来い!」

 こうして二人の間に、猛烈な意志と意志の闘いが始まった。俺の長所は、意志があくまでも強固で、絶対に人にひけをとらぬことである。

 そこで、俺は念力をこめて、ウームと敵をにらみつけた。しかし、敵もあっぱれな意志の持ち主で、しばし五分と五分の形勢であった。そのうち、観客の間からワッと歓声が起こった。敵が一歩ヨロヨロと、こちらへよろめいたのである。しかし敵もさるもの。ぐっと陣容を立て直すと、今度はアベコベに俺の足元がぐらついた。観客がまた、どっとはやしたてる。

 俺も一瞬ひやりとしたが、ここぞと一世一代の念力で、グッグッとにらみつけると、とうとう敵の足元がくらつき出した。

 「エイッ」

 俺が一声かけるごとに、敵の身体はズルリズルリと、引き寄せられ、最後に

 「ギャッ」

 というものすごい悲鳴とともに、舞台から転落してしまった。観客はどーっとはやしたてる。こうなると、もうこっちのものだ。敵は機械人形のように、ヨタヨタ俺の方に引き寄せられ、俺の目前に来てひざまずいた。意気地のないことおびただしい。

 しばらくして、俺は言った。

 「舞台に戻ってよろしい。俺も出る」

 こうなると敵はおとなしい。すごすごと舞台に引き上げる。俺もすぐつづいて舞台に飛びあがった。

 「こいつを拷問(ごうもん)にかけるのだ!」

 俺が配下の獄卒どもに命令をかけると、獄卒どもは仕様ことなしに、今までの親分に向かって、極度の拷問をかけることになった。

 いや、観客の喜びようといったらない。手を叩く、足踏みをする、怒鳴る、口笛を吹く。さすがの大劇場もつぶれんばかりであった。

 すると観客の間から、期せずして次の大合唱が起こった。

 「君は皇位につくべきだ! 直ちに皇帝に反旗をひるがえせ! われわれも力を貸そう!」

 俺としても悪い気がせぬでもない。しかし、待てよ、俺は地獄へ来たばかりで、様子が分らない。今、地獄のベテランの皇帝と戦ってはまずい。そこで俺は、

 「いやいや、諸君、俺は別に地獄の主権者になる気は毛頭ない。向こうから仕掛けてこぬ限り、皇帝の忠良な臣民である」

 すると、あっちでもこっちでも、ゲラゲラ、ケラケラと、俺のことを嘲〔あざ〕けって、中には無遠慮にこう言う奴がいる。

 「あいつ臆病者だ、怖がってやがる」

 「黙れ、けだもの! 二度とそういうこと言うと、皮をひんむくぞ!」

 「バカ言え!」観客の一人がわめいた。

 「俺には皇帝がついていらあ。貴様らの手に負えるかっ!」

 俺はたちどころに、そいつを舞台に引きずり上げ、獄卒に命じて皮をひんむかせた。皮をはぐと言うと物質くさく聞こえるが、外に適当な言葉がない。とにかく、観客の目には皮をはぐように見え、当人は本当に皮をはがされる痛みを感じる。むろん霊界の者には肉体はないのだが、あってもなくても結果は同一である。

 俺はやるだけのことをやって、サッサと劇場を出た。そうして、家来のすすめで、郊外にある有名な人殺しが住んでいる邸宅に乗り込んで、たちまちそ奴を追い出し、そこを乗っ取って住むことにした。どうせこの噂は皇帝の耳に入る。きっと何か言ってくるだろう。

【IV】「皇帝の招待」

 案の定、皇帝から招へい状が届いた。それは思ったよりいんぎんなものだった。俺も儀礼上、いやむしろ警護の意味あって、一隊の衛兵を引き連れて登城した。

 いや、いつの間にか、俺の元には沢山のナラズ者が集まっていたわけである。まあ、兵士だがな。俺の威力を聞き伝えて、来るわ来るわ、国籍を問わず、野望にもえた地獄のワル共が集まって、今やちょいとした軍団を形成していた。

 俺が着くと、謁見(えっけん)室と称する大広間に通された。ローマ風の華麗ではるが、汚れ切っていることは相変わらずである。皇帝はやおら玉座から立ち上がった。そこは一段と高くなっており、その前面には半円形の階段がある。皇帝は満面に笑みを浮かべ、さも親切そうに、俺を歓迎するふりをした。だが、腹の中には、まんまんたる猜疑心があることが一目で分った。

 ここが地獄のおかしなところで、お互いに一生懸命だましっくらをする。そのくせ腹の中は、互いに分りすぎるほど分っている。だませないと知りつつ、だましにかかる。いや、こっけいというか、情けないというか、地獄の気のしれないところである。皇帝はおもむろに口を切った。

 皇帝「愛する友よ、おんみは地獄へ来て間もないのに、早くもかかる大勢力を築くとは、見上げたものである」

 俺はもったいぶって恭〔うや〕しく頭を下げた。

 「いかにも陛下の仰せのとおり、この上は一層の勢力を張るつもりでござる」

 皇帝「皇位までもと思うであろうがな……おんみのために一言注意しておこう。これは容易ならんことで、永久にそういう機会はあるものではない。それよりも、どうじゃ、二人協力して領土を拡大せんかな。それが得策というもの。余はおんみを大将軍に任じよう。近頃ダントンなる馬鹿者が、大部隊をひきいて地獄に下って来た。当市の隣りに一小国を築きおった。地獄では「革命のパリ」と呼んでおる。どうじゃ、そこを急襲して、まず地歩を築かれては」

 俺には皇帝のハラの中は見え見えである。俺がダントンに負ければシメたもの。勝って王位を奪っても、それはダントンと俺が入れ替わっただけ。それに勝っても、俺は交戦でくたびれる。そこが皇帝の目のつけどころである。

 そんな計略は見えすいているが、しかし、ここで皇帝と闘わぬが得策と俺は判断した。ダントンに勝つ自信は十分にある。その軍勢を加えた上で、皇帝との決戦に出ればよい。それなら勝つ公算も大きくなる。

 とっさに腹を決めると俺は答えた。

 「陛下の寛大なるお申し出は早速お引き受けします」

 皇帝「おっ、よくぞ承知してくれた。以後おみんは余が股昿(ここう)の大将軍である」

 そこで大饗宴が始まった。いやもう、それはぜい美を尽くした山海の珍味で、というところだが、実は食べると中は空っぽの影である。食べれば食べるほど食欲は燃えるようにそそられる。イヤハヤ、地獄のご馳走とは皮肉きわまるものではある。

 それでも、陛下のもてなしということだから、さも満足しているように、ナイフとフォークを働かせてみせねばならない。さすがに皇帝も苦笑いを浮かべて見ている。俺とて、そんな茶番の仲間入りはご免こうむって、他の奴らがなすところを見物するにとどめた。

 それだけではない。饗宴の間中、音楽隊がたえまなく楽器をひねくりまわす。それが一つも調子が合わない。ただ、ピイピイキイキイと、が鳴りたてるだけだ。それでも、聴衆はさも感心したように、聞き入っていねばならない。

 饗宴のあとは、おきまりの剣士の勝負である。剣士といっても、男ばかりではない。女の剣士もどうしてどうして、男も顔負けの獰猛〔どうもう〕な大立ち廻りを演ずる。さてさて、これ以上は言ってもキリがない。要するに、極度の残酷であり、極度の卑わいであったと、そう思ってもらえばそれで結構。

【V】「将軍ダントン征伐」

 地獄の戦闘といっても、現界〔地上〕とさして違うものではない。刀で切ったり、銃で撃ったり、その点はまったく同じである。だが一つだけ、大いに違うところがある。それは相手を殺しても、決して死なぬことである。だいたいが、死んでもう肉体はないのだが、霊には形があり、霊は不滅だから、殺してもすぐむっくり起き上がってくる。だから、地獄の戦争の勝つ術というのは、相手を殺すことでなく、痛めるけることである。

 痛めつけるといっても、肉体が痛むわけではないが、霊が痛がる点は、肉体の時と全く同じことだ。ところで、近代的な武器が決して強力というわけではない。銃を知らない古代武士に、銃弾をブッ放してもケロリとしておる。その痛さを知らないから、何ともないわけだ。しかし、地上で最大の被害者だった者は、地獄では最強の加害者となる。さんざん痛めつけられた痛みを知っているから、相手に何度でも同じことを繰り返し仕掛ける。地上での加害者にでも会おうものなら、相手は死なないから、何度も繰り返して相手をさいなむことが出来る、死はむしろ救いなのだ。死がないから。地獄の苦痛は終わることがない。

 余断はさておき、戦争の話に移ろう。

 俺の元には、みるみる大軍団が集まった。俺はこれ見よがしに、奴らを引きつれて街を行進したから、集まるわ集まるわ、二十五万人も集まったというわけだ。だが、こいつらは絶えず反旗をひるがえす。だから、俺の強力な意志で絶えずグッと押さえておかねばならぬ。その苦労たるや一通りのものではない。しかし、この意志力・統制力が大軍団を集める秘けるなのである。

 さて、集まったはいいが、イヤハヤ、時代を異にし、民族もまちまち、全くの混成ナラズ者の大集団である。古代武士あり、中世の騎士団あり、支那の海賊、得体のしれなぬ野武士あり山賊あり、はてはトルコ軍やブルガリアの暴れん坊、さまざまである。俺はこいつらを、たとえば中世騎士団とか、古代ローマ軍、海賊軍、トルコ軍というふうに部隊編成し、訓練をした。そこはそれ元陸軍少佐の俺の腕の見せどころ。ここに大した一大軍団が出現した。

 敵はと見れば……。その前にまず戦場だが、ここは皇帝領とダントン領の境にある、荒涼たる平原。それは丁度、両国の緩衝(かんしょう)地帯をなしている。俺は皇帝領の側の山に陣どり、敵はダントン領側の山に陣どる。空はあくまでどんよりと、地獄特有の墨を流したよう。空気は霧のように濃厚である。しかし、目は馴れているから、けっこう視界はきく。

 さて、ダントン軍というのは、フランス革命で大挙地獄へ移動した者の集団から、武器がふるっている。いちようにギロチン(断頭器)を使う。ところが普通は、そのギロチンに敵の頭を突込ませて、首を切り落とす。これが一番楽な死刑方法だから。しかし、彼等はそこへ足を突込ませ、刺身のように切り刻んで行く。その度に相手は、生きて切られるのと同じ苦痛を感じるのだから、たまらない。

 俺は、これに対して、全く敵の意表を突いてだが、馬をたくさん使った。だいたい馬は地獄には来ない。人間のように悪を働く動物なんていないからだ。俺は皇帝の知恵に習って、この馬を、つまり俺の意志で人間どもを馬に変えた。ダントンにはこの知恵がないのか、いや、人を馬に変えるだけの意志力がないのかもしれぬ。だいたい、人間はどんな奴らでも、個性を失うとかいって、馬になるのをひどく嫌がる。嫌がる奴を無理にならせるには、大した意志力が必要なのだ。

 しかし、ダントンもサルもの。俺の騎馬大舞台に対して、大鎌をもった密集部隊を繰り出した。これが大砲とか地雷とかいうのなら、へともない。騎士たちはそんなものは知らぬから、痛くもかゆくもないわけだ。しかし、大鎌にはさすがの俺も口閉じた。

 だが、軍勢の数からいくと、俺の方が圧倒的に多い。それに、ダントン軍の主力はフランス革命時代の旧式砲兵隊である。そこへいくと、わが軍は近代の大砲隊である。同じ砲を使うのなら、それは威力の大きい方が強いにきまっている。

 こうして、戦争は数年に及んだ。及んだといっても、こっちには時間はないから、そう感じるほど、悪戦苦闘したというわけだ。俺はとうとう計略をもって、ダントン軍を挟み射ちにし、ついに山と山の間の低地帯に追い込んだ。

 すると、敵軍は内部的に混乱を生じた。というのは、ダントン軍には少なからぬ婦人部隊がいる。女として馬鹿にはできぬ。どう猛さでは男にひけをとるものではない。しかし、これは味方を悩ます。まして低地帯にひきこまれ、軍が動かぬことになると、戦闘はそっちのけにして、乱ちき騒ぎを始めたという次第だ。

 わが軍は勝ちに乗じて、けちらしけちらし、ダントン領内に侵入して掠奪(りゃくだつ)の限りをつくした。家という家は一軒たりとも残さず、掠奪しつくし、その後は必ずブチ壊す。一般住民にも見境なく、大虐殺、大凌辱(だいりょうじょく)これぞまことの地獄絵図の限りない展開という次第だ。

 しかし、奪っても奪っても一向に満足はない。霊界では物品は何の役にも立たぬからだ。たとえば、酒を奪って飲んでも、ハラワタにはしみず、渇(かわ)きは逆に燃えるばかりだ。金貨や銀貨も、奪ったはしから捨てる。取るのは真似ごとだけで、役に立たぬからすぐあきる。あるのは欲望だけで、快感は少しもなく、地獄にあるのは苦痛だけである。

 しかし通り過ぎると、家はニョキニョキ元通りになる。軍が遠ざかると、破壊の意志も、そこから遠のくから、復元するというわけだ。

 ともあれ、俺は大勝利をして王位についた。しかし、その後で奇妙なことが起こった。ダントン軍勢の大部分が、こつねんと消滅したことだ。後になって悟ったことだが、ダントンの没落で、彼らの心に無常感が生じ、こんなつまらぬことの繰り返しより、もっとましな生活をしたいという念頭を起こし、そこにしぜんに向上の道が開かれたというわけだ。

【VI】「皇帝の詐略」

 王様とはつらいものである。ちょいと気をゆるすと、すぐに謀反が起こる。残酷な仕打ちで謀反をやっつけても、相手は死ぬことがないので手がやける。仕打ちがむごければ、むごいほど反発も増す。イヤハヤ国王とは辛いもの。さすがの俺もいささか手こずっていた。

 そこへ、皇帝から祝勝会への招待状が届いた。国をあげれば必ず謀反が起こる。それを承知で、俺の度胸を示すために、俺は威勢よく精鋭をひきつれて乗り込んだ。

 さて、凱施式とやらは、例によって例のごとし。極度に仰々しいばかりで、中味は空疎な真似ごとばかり。調子の合わない楽隊のが鳴りたて、施しものはビリビリに引き裂け、頭上からまかれる花は、しおれきって悪臭を放つ、行列の先頭を行く少女達の顔をよく見ると、あくまで残忍と邪淫〔じゃいん〕のシワが深く刻みこまれている。

 大饗宴のあとで――それとて、何もかも嘘で固めた虚栄のまねごと、地獄で真実なものといえば、邪悪な分子があるばかりである。皇帝がやおら俺をかえり見てこう言った。

 皇帝「いかがじゃ、王位を占むるも、苦労は並大抵ではあるまいが」

 「全くでございます。だが、陛下のお膝元にあるよりは気が休まります」

 皇帝「そこじゃ。おんみもちと気晴らしの知恵でも出せばいいのじゃ。ナニ、余は時折、地上までブラリと出かける。これはまたとない余の保養でな」

 「ハテ、地上へ行けるのですか。もう肉体は失ってこのとおりですが」

 皇帝「ハハハハ、おんみは若い。ちと地獄の沙汰など勉強されるがよい。ナニ、地上の人間とそれも魔法使いとな、じっこんになればすむことじゃ。幽体はおろか、ひとときなら肉体さえ出来ぬことはない」

 「……………………」

 皇帝「ただ、一つだけ注意しておくが、魔法使いに支配されぬことじゃ。彼らの意志は極度に強い。ナニ、おんみや余らの鉄石の意志をもってすれば出来ぬことではない。魔法使いを逆にこっちの召使いにしてしまえば、もうしめたものじゃ」

 そう言うと、皇帝はつと見を起こし、

 皇帝「いかがかな、今度は芝居見物になど参ろうか」

 それきり、皇帝は前のことには一言もふれない。それで俺はハハンと思った。こうして俺を地上へ誘い出し、その留守に反乱が起こって、俺の矢脚を待つ策略だなと。しかし、先ほどの魔法使いと、地上出現の話が強烈に頭にこびりついて放れない。

 「不思議なこともあるもんだなぁ、俺も一つ言ってみようか………」

 後になって、思い知ったことだが、これは皇帝の落とし穴で、留守中に反乱どころか、このために俺は、最下層まで転落させられるハメに陥ったのである。

《後編》三章「禁じられた快楽」

【I】「魔法使いと結託する」

 俺は魔法使いの物色にとりかかった。この残忍地獄のすみずみまで探しまわったが、ホンモノの魔法使いは一人もいない。そういう手合いは、もっと下の地獄へ押しやられているのである。やっとのことで、さる魔道の大家の弟子だったという者を見つけ出した。この者は実地の経験は何もないが、魔道の秘伝だけは師匠から教えられて知っていた。俺はこの秘伝を使って、いよいよ物質界の魔法使いと連絡をとることにした。

 秘伝というのは、こちらで一定の呪文を唱える、それが地上で唱える魔法使いの呪文と同調すれば、波長が合って、地上への道が作られるという仕掛けである。やってみれば案外にやさしいものだった。

 俺が連絡をとった魔法使いはドイツ人で、プラーグ市の外れに住んでいた。そいつは大した魔術狂で一般に魔法使いは主として妖精を、時にせいぜい幽界のヤクザ霊あたりを、手下にして使うのであるが、こいつはそれにあきたらず、本物の地獄の悪魔を呼びだしにかかっていた。

 俺が呪文を唱えると、うまくそいつの呪文に合って……不思議、不思議、俺は無限の空間を地上へ引張られる気がして、こつねんと右のドイツ人の面前に出た。

 あたりは真暗で、石壁にかこまれた穴蔵のようなところである。中央に魔法使いが坐って、まだ俺に気がつかないらしく、ぶつぶつ呪文を唱えている。奇怪な図柄が床に描かれており、壁には三体のミイラの箱がたてかけられてある。ふと気付くと、メラメラ香料の煙が舞い上がるそばに、こうこつ状態の女霊媒師がいる。ハハン、この婦人の身体から材料を抜きとって、俺の幽体を作ることになるのかと思った。

 俺が意志を魔法使い〔霊能者〕に集中すると、フイに気付いたらしく、俺を見てガタガタ震えだした。やがて覚悟をきめたらしく、キッと身構えて言った。

 魔法使い「命令する、もっと近寄れ」

 「大きく出やがったな」俺は答えた「俺は誰の命令も受けぬ。頼みたいことがあったら、相応の礼物を出せ」

 こういう時には、古来紋切型のセリフがあるらしいが、俺はそんなことにはとんじゃくせぬ。相手もそれにはマゴついたらしいが、やがてちゅうちょしたあとで、

 魔法使い「しからば、何を望むのか」

 こんな時には「そなたの魂を申し受ける」とでも言うのだろうが、そんな物をもらってもへにもならぬ。そこで、俺の方から切り出した。

 「お前なら、何を寄越すか?」

 魔法使い「余の魂をつかわす」

 「バカ言え!」俺は嘲笑〔あざわら〕った「そんな物もらっても仕方がない。もっと実用向きの品物はないか」

 魔法使いはちょっと思案していたが、

 魔法使い「しからば、汝に人間の肉体を与えてやろう」

 「そんなことが出来るのか。俺は幽体も持っていないのだぞ」

 魔法使い「よろしい、幽体を作ってつかわそう。そうすれば、その上に肉体を作って重ねるもよし、または、生身の人間に憑依(ひょうい)するも思いのままだ」

 「そいつは豪儀だ、ぜひ一つやってくれ!」

 と、まあ、こういう次第で、その魔法使いと俺との交流が始まった。

【II】「憑依の楽しみ」

 この魔法使いは、神秘学の研究家と名乗るだけあって、中身なしの幽体だの、エーテル体の妖精だのを、自在に幾つも集める力量をもっていた。それで、俺は、中から恰好の妖精を一匹選びだして、これを俺の元の姿に作り変えた。つまり、俺の幽体はこうして出来上がった。次に、女霊媒に近づき、魔法使いに手伝ってもらって、その身体からエクトプラズムを抜き取り、幽体の周りに凝縮させて、肉体を作りだすのに成功した。

 魔法使い「どうかね、人間らしく思えるかね」

 「ああ、なかなか立派な風采〔ふうさい〕だ」

 有頂天になった俺は、そのまま戸外に飛び出した。

 「うあっ! たいへん、たいへん……」

 俺の肉体はたちまち融けはじめた。あわてた俺は穴蔵に戻って、物質化のやり直しをする始末。

 「こんなヘロヘロとける身体じゃ有難くない。もっとましなのは出来ないのか」

 魔法使い「そんなら、生きた人間に憑依(ひょうい)すればよい。うまくやれば、けっこう生身の人間の生活も堪能出来る」

 そういうことで、俺の二度目のシャバ〔地上的〕生活が始まったという次第である。

 さて、この魔法使いの趣味というのは、一に黄金、二に権力、三が復讐。さりとて色の方も嫌いではない。その証拠に、十余人の女霊媒をいつも身のまわりに飼ってある。

 俺はシャバを楽しむ代わりに、時には、魔法使いの手伝いもしてやった。たとえば、金貨を盗み出すなどわけはない。幽体の俺は金庫の扉から中へ透入する。中の金貨をガス体に変える。外に持ち出して元の金貨に復元する。至極単純ってわけさ。

 これでは面白味も少ないので、もうちょっとうまい方法を使う。それは睡眠中の人間に近づき、身体の中に入り込んで、夢遊病者にさせる。こいつをおびき出して、うんと金貨を盗み取らせ、都合のよい所まで持って来させる。もちろん、本人は夢中でしたことだから、目が覚めても、何も前夜の記憶は残っていない。

 そりゃ、時には失敗する。夢遊病者が追跡されて逮捕されたことも一度や二度やではない。無論、窃盗罪の罪を問われる。だが、魔法使いはのんきなものだ。まして俺の方は痛くもかゆくもない。そいつの身体から抜け出せばよい。その後に、本人の霊魂がノコノコ入り込んで、窃盗の罪を引き受けてくれる。

 なにも俺がこんなことで明け暮れていたと思わんでくれ。俺の楽しみは別にあった。これがシャバに生きる者の妙利というか、生身の酒色の享受さ。例の穴蔵には、俺の外に物質化した幽霊どもが十人くらいたたむろしておる。むろん女霊媒たちも十余人いる。これらが飲んで、笑って、歌って、踊って、大声で話したり、人並みのことは何でもやる……酒食などは例の手を使えば、いくらでも手に入る。こんな饗宴は毎晩のことだ、そして、その後は、お決まりの乱知気のコースってわけだ。ナニ、百鬼夜行? これがまことそのものの姿だ。

 だが、困ったことが一つだけある。俺の幽体が融け易いことだ。少々憑依(ひょうい)をしたくらいではおっつかぬ。どうも仮の幽体というのはぜい弱にできていて、しょっ中補充しておかねばらない。それに、悪事を重ねるものだから。そのたびに弱り方がはげしい。これには俺もほとほと困りはててしまった。

【III】「殺人の依頼」

 そうこうしているうちに、魔法使いから殺人の依頼をうけた。ある男が魔法使いのやっていることに気付いたというのである。

 「よろしい、引き受けた」

 俺は二つ返事で応じた。こういう場合の俺のやり方は決まっている。午前一時か二時頃、相手の熟睡の時を見計らい、枕元に立って一身不乱に意志をこめる。すると、俺の幽体が赤黒い光りを放ちつつ、もうろうと現れる。更に意志をこららすと、あっちにもこっちもに、さまざまな妖怪変化がニョキニョキ現れる。

 「この下郎やっつけろ!」

 「こんな奴、八つ裂きにしてやれ!」

 勝手な凄文句をならべたてて、とびかかる。これはおどかしで、肉体のない者が、実際に人体を傷つけるなんてことは、容易にはできない。相手はそんなこと知らないから、七転八倒する。

 この弱点につけこんで、俺は居文高に叫ぶ。

 「おのれ、アンナの怨みを忘れたか。俺はアンナに頼まれて、お前を地獄へつれに来た!」

 むろん、俺はアンナに頼まれたわけではない。そんな女が地獄にいるかどうかも知らない。だが相手は気味が悪いに違いない。

 狙われた男「助けてくれ!」と悲鳴を上げる。

 狙われた男「こんなに年数がたっているのに、まだ怨〔うら〕むなんてひどすぎる……」

 こうなると、こっちのもの。調子に乗ってはやしたてる。

 「アンナが待っているぞ、早くおいで、お出でよ!」

 耳元でささやいたり、かさにかかってとびかかったり、こんなことを毎晩、毎晩くり返す。

 「オイ、もういいかげんにクタバレ! どうせ助かりっこないんだ。もしかしたら気が狂うぞ。気を狂わすぞ。そんなことなら死んじまえ、死んだ方がましだ。自殺しろ、 自殺しろ!」

 狙われた男「ああ、アンナ、許してくれ!」

 この機をねらって一人の幽霊がアンナに化けて、ベッドの裾にニューと現れ、怨みの数々をのべる。こうなると、男はわけが分らなくなり、夢中で鏡台のカミソリを手に取って、喉笛を描き切る。

 この大成功に、魔法使いの喜んだこと。そこで、魔法使いはもう一人殺してくれと俺にもちかけた。それは若年の僧だが、魔法使いが悪魔とグルになって悪事を働いているのを見破り、公然と攻撃を仕掛けてきたのだ。これは俺にしても、当然許せぬシロモノなので引き受けた。

 ひとまず、例の手を使って僧をおどかした。しかし、相手は道心堅固ときているので、何の校もない。百計つきて、うまい手を思いついた。村一番の器量よしの娘に憑依して、イロ仕掛けでたらしこもうというのだ。その娘にゾッコンほれ込ませ、数週間もあとを追いまわさせ、とうとううまいこと、懺悔(ざんげ)にことよせて、思いの数々を打ち明けさせた。ところが、こいつが全くの堅物(かたぶつ)で、計略はみごとにはずれた。

 すると、娘が口惜しまぎれに、僧の悪口をふれてまわった。この機をのがさず、俺たちは毎晩、毎晩増の耳元で、嫌がらせをささやいた。

 「おい、ニセ坊主、インチキ宗教家。今にバケの皮がはがれるぞ。赤恥じかく前に死じまえ。死ぬに限る、自殺しろ!」

 清廉潔白〔せいれんけっぱく〕の生活を送っている僧だから、サッパリ驚かない。何週間もそうこうしているうちに、相手の方が気がついた。

 「ああ読めた! お前らは魔法使いの手先の悪霊どもだな。よろしい。これから私が魔法使いを訪ねて、訓戒めてやる」

 僧は手に十字架をとると、敢然と魔法使いの家に向かった。折しも雨がポツポツと降りかかり、雷鳴とどろく、不気味な夜だった。

 僧が魔法使いの家に着くと、魔法使いは例の穴蔵に、ほの暗い灯り一つつけて、坐って待ち受けていた。俺達が先まわりして、準備させておいたのだ。着くといきなり、若い僧は居文高になって、魔法使いを面罵〔めんば〕した。魔法使いは一口も言葉を発せず、じっと僧の目を身入っていた。そのうちに、僧の口から出る言葉がしどろもどろになり、ついに一言も発し得なくなった。

 魔法使い「このバカ者……何でノコノコここまで来よった。これでお前もとうとう僕亡じゃ!」

 そう言うと、魔法使いは呪いの呪文をブツブツ唱えた。俺達悪霊はよってたかって、この哀れな憎しみにむしゃぶりついた。

 魔法使いは叫んだ。

 魔法使い「いいか、俺の配下に二人の女がいる。お前がここで、その女達と出来合って、ここを密会の場所にしていたことにしてやる。明日はいよいよお前が公衆の面前で、その罪をあばかれることになる。もう逃れる道はないぞ!」

 そう言うと、魔法使いは何やら重たい物を、僧にぶっけた。僧は声もなくその場に倒れて気絶した。

 「オイ大将、殺すのはまだ早すぎるぜ」俺はそう言った。

 魔法使い「ナニ、殺しはせぬ。こいつの持ち物を二つ三つ。そうだ、その錆びのついた時計とか、印形に、髪の毛を二三本とっておこう。これを女達に持たせておけば、ノッピキならぬ証拠になる」

 「それよりは」と俺が入れた知恵した、「この坊主と女とを実際にくっつけてやろうぜ」

 魔法使い「なるほど、そいつは妙案だ!」

 魔法使いはただちに賛成した。――その瞬間である。部屋いちめんに、ものすごい光りがたちこめた。いや、その光の熱いこと、痛いこと、肉をとかし、骨を焦がし、何ものも突き通さずにはおかないという光だ。後で判ったことだが、それはこの若い僧の守護の大天使から発する光りだった。

 大天使はいつの間にか近づくと、ラッパに似たリョウリョウたる声でこう言われた。

守護霊「神は、抵抗できぬ人間を、悪魔どもが誘発するのを黙認なされぬ。今まで、お前たちを勝手にさせておいたのは、この僧にとっての試練であったのだ。首尾よくこの者はそれに打ち勝つことが出来た。この者は天使への階段を一段のぼる。されど、お前たちの悪行は今日かぎりだ。魔術師〔霊能者〕、お前は地獄の奥深くへ沈め! 悪霊とも、汝らも地獄へ戻れ、これまでよりも一段低い地獄へおちよ!」

そう述べる間もなく、火焔が俺の身体を焼きに焼いた。魔法使いもひとたまりもなく、死んで倒れた。その霊魂はまたたくまに肉体から分離し、そしてその幽体は烈々たる聖火に一瞬にして融け、赤裸々な霊魂のみが一声の悲鳴を残し、どこともなく飛び去ってしまった。同時に俺も無限の空間を下へ下へと、はかりしれぬ暗闇の中を落ちていった

 最後にやっとどこかにたどり着いたが、そこは元の俺の王国でもなし、残忍の都市でもなしに、おそらくもっともっと下の方、 ほとんど地獄の最下層に達していた


《後編》四章「鬼がいる地獄」

【I】「真の悪魔」

 こんど着いた所は、前の所とはだいぶ模様が違う。一望ガランとして人っ子一人いない。闇そのものがジトジトしていて、濃度が強い。全般に一段と品質が劣っている。

 少しぶらついてみようとしたら、突然、耳をつんざく何とも言いようのない、絶望のわめきが聞えた。オヤ、と立ち止まると、闇の中から、疾風のように一団の亡者たちが駆けて来た。その後から、シャニムニ笞(むち)を手にした一団の……ああ、これぞホンモノの悪魔だった。

 悪魔にはニセモノとホンモノがある。幽界あたりにいる、こうもりの翼だの、裂けた蹄(ひずめ)、角の生えた頭だのの悪魔は、みんな人間の想像がデッチあげた、いわゆる想念体で、悪魔の影法師だ。しかし、ここにいるのは正真正銘の悪魔で、人間の霊とはまるきり違う。全く想像を絶したシロモノで、つまり一種の鬼である。

 そういうのが手に手に笞(むち)のようなものを振り上げ、「コラッ、往生したか!」と、打ちのめし、ののしりながら、人間の霊魂の群を追いたてて行く。「本当の神とは俺達のことだ。お前らの言う神は、人間の頭から出たカスだ!」

 そんなことを叫びながら、だんだんこっちへ近づいて来る。たちまち鬼の一人が俺の顔をピシャリと殴りやがった。そこはそれ、地獄のやり方には馴れている俺のことだ。さっそく相手にとびかかった。ところが、今度はどういうわけか、さっぱり力が出ない。いくら気張ってみても、めちゃくちゃに殴られるばかりだ。

 さすがの俺も往生してしまった。口惜しい胸が張りさけるようだが致し方ない。ぶっ倒れると、今度は誰かが俺の身体を錐(きり)のようなもので突き刺す。いや、その痛さといったらない。俺は悲鳴を上げて飛び起きると、夢中で他の亡者達と一緒に走り出した。あてもない虚空を悲鳴を上げながら、ただ走りに走った。

 ここからが本当の恐怖の時代の始まりだった。あるのはただ闇、迫って来る鬼の笞(むち)。その痛さに狂って死んでしまえばいいものを、死がないから、痛さから逃れるためには、ただ走らねばならない。先へ先へと我々は駆り立てられ、ただの一歩もただの一瞬も止まることを許されない。つまづく、倒れる、起きる、走る……しまいには「自我」が身体から叩き出される気がした。

 逃げるのに忙しく、お互いに口もきけない。男もおれば女もいる。着物はどうやら着ているが、みんなビリビリに引き千切れ、中には素裸もいる。陰々たる空気を通して、顔くらいは認められるが、国籍も違えば、時代もみんな違う。ただ、どいつもこいつも意志が強固なのか、鉄壁の城で自分の思想を包んでいるようで、今度ばかりは、俺の力をもってしても、誰の気持ちも見抜けない。ただ我々は一団となって、どこともしれぬ闇の中を、無我夢中で走りに走る。

 後からは、間断なく鬼たちの凄文句が聞える。

 鬼「呵責(かしゃく)は重く、褒美(ほうび)は軽い。走れ、走れ、永久に。お前らの前途に救いはない。あるのは永久の闇と永久の罰。どうだ、これでもか、これでもか」

 鬼「お前らは、神を拝まず悪を拝んだ不届き者だ。イヤイヤ、この世に神はいない。あるのは俺達だけだ。悪があるから善がある。悪が根元で善は影。どうだ、これでもか、これでもか」

 鬼「地上で俺達はお前らに仕えてやった。今度はお前らが俺達に仕える番だ。死後の生命などお前らにはない方がよかったんだ。もがけ、泣け、あきらめろ」

 とうとう、俺は一人の鬼に向かって叫んだ。

 「こう追われてばかりいてはたまらない。俺も追いかける方になれんもんかな」

 鬼「そんなこと訳ない」

 鬼は俺の顔をピシャリと叩きながら叫んだ。

 鬼「もう一つ上の境涯に言って100人の霊魂をひきずって来い。そうすりゃ、その功徳でその役になれる。なんと易しいことだ」

 「どうすれば上の境涯とやらへ行けるんだろう」

 鬼「それなら俺達が案内してやる。だが、俺達の手から逃れられると思うなよ。ただ俺達の下働きをするだけだ」

 こうして、俺はとうとう悪魔の弟子入りをすることになった。

【II】「眷族(けんぞく)募集」

 道案内に現れた鬼は俺よりかずっと背が高い。闇の中から生まれたらしくドス黒い身体をもっている。そいつは二分間と同じ恰好をしていない。のべつ幕なしに顔も姿も変わる。フワフワした黒い着物を着ていたかにみえたが、みるみる素裸になった、今度は山羊になったと見えたら、たちまち大蛇の姿になった。

 オヤ! と見ているうちに、瞬間にまた人間の姿に返った。人間といっても、これほど醜く憎々しくあきれ返った顔付の人間は一人もいない。目は長方形で、蛇の目だ。鼻はワシのくちばしでできていて、大きな口は歯がみんな牙になって突き出ている。悪意と邪淫〔じゃいん〕が顔の隅々にまでみなぎり、指先は骨から爪が生えている。

 そうして総身からポタポタと闇のしずくをたらしている。そうするうちに、パッと今度は一本の火柱となった。だが不思議なことに、それからは光線というものが放射しない。

 その火柱が「後について来い」と言うので、俺は動く火柱の後からついて歩いた。すると闇の中から、調子はずれの讃美歌〔さんびか〕のようなものが聞えた。近づくと、山腹に洞穴があって、幽霊たちがうようよといる。火柱は半分人間くさいものになると、穴の中に入って行った。

 にょうはちやラッパやらがガチャガチャと穴の中で鳴ると、それにまじって物凄い叫喚きやら、調子はずれの讃美歌やらが聞える。やがて前面に玉座が現れ、そばには猛火のかたまりの大釜が、物凄い音を立てて炎々と燃えている。玉座には気味の悪い大怪物が坐っていて、釜の火に投げ込まれる男女の子供達が、ヒイヒイ悲鳴を上げるのを、さも満足に見守っている。

 「あいつらはみんな子供の姿をしているが、本当に子供かしら……」

 鬼「そんなことあるもんか!」

 案内の鬼が答えた。

 鬼「みんなあいつらは大人だが、無理に子供に縮小されて、悪魔の犠牲にされるのだ。ホンモノの鬼はしょっ中管内を探し歩いて、つかまえた奴は釜へ投げ込むのだ。本当の子供はこんな所へ一人も来るはずがない。……それそこへ鬼がたくさんやって来た」

 たちまち物凄い叫びがあたりに起こった。すると一群の鬼が穴の中に突入して来て、俺をはじめ、そこいらにいる者を全部大釜の中にたたき込んだ。これは燃える火なのか、鬼の念力で火のように熱いのか、とにかく、その時の苦痛といったらない。

 ようやく鬼が去ったので、俺達は釜の中からはい出した。他の奴は前のように調子はずれの祈禱(きとう)をはじめたが、俺はごめんをこうむって、案内役の方に近づいた。

 彼はとがった歯をむき出して笑った。

 鬼「どうだ、この刑罰もラクではなかろう。よほど踏ん張って眷族(けんぞく)を連れて来ないと、こんなお手柔らかなことではすまないぞ」

 「つれてくるよ、つれてくるよ」俺はいくらかあわてて、「つれては来るが、何でそんなにたくさんの眷族を欲しがるんだ。どうせつれて来ても、いじめるだけではないか?」

 鬼「当たり前だ! 俺達は人間が憎いんだ。俺達の本業は憎むことだ。俺達はしんから人間が嫌いだ!」

 そう叫ぶと、全身がたちまち炎々たる火の固まりになった。再び人間の姿に戻ったのは、それからしばらくたってからだった。

 鬼「さぁ、これから、いよいよお前の仕事だ!」

 突然、鬼は俺をつかまえて、空虚はるかに跳び上がったように感じられたが、ふと気が付くと、そこは俺が以前に住んでいた上の境涯だった。

 そこいらは、「けちんぼの国」という所らしく、外から自分の黄金を取りに来はせぬかと、そればかり心配している亡者達がたむろしている所だった。なにせ、早くうんと眷族を集めねばならぬ。俺はうまいこと一つの妙案を思いついた。俺はこう言って集めた。ある者には、悪魔を拝めばいくらでも黄金がもらえるぞ。またある者には、悪魔にすがれば、黄金は一枚もとれずにすむぞと。この計略は図に当り、たちまち予定の人数が集まった。俺は直ちに悪魔供養祭の報行にとりかかった。

 はじめは、いくら祈願しても、悪魔の方で受け付けてくれないふうだったが、やがて無形のある力が俺を引張るように感じられ、来たナ! と思うにぐんぐん引張られ、ついに立っている地面が俺達の足の下から、ズルズル下へ向かって急転直下、奈落の奥深くへと沈んで行った……。

 呪われた約束の地に着くと、たちまち鬼どもがバラバラ群がり集まった。

 鬼「これで、いよいよ褒美にありつけるな」

 と、ほくそ笑むと、褒美どころか、あべこべに一人の鬼から引導を渡されてしまった。

 鬼「こいつめ、悪魔の役割を横取りしやがって! よく考えてみろ、お前らと俺達とでは権能がまるで違う。俺達は人間をいじめるのが天職だ。お前らはもともと人間の部類で、これをいじめたり憎んだりする機能をもっていない。勝手な利己心から同胞を裏切ったのだ。鬼と人間では天性がまるで違う。人間はいくら鬼の真似をしても鬼にはなれなぬ。バカにするない! さっさと元きた仲間のところにすっ込め!」

 俺はほうほうの体で、連れて来た亡者どもの所に戻ったが、それも一瞬で、よくもだましたなということで、寄ってたかって八つ裂きにしようとした。それから起こったことは、夢魔式の連続で目も当てられない。一方では鬼の笞(しもと)で一同前へ前へと追いたてられ、追われながらも仲間の亡者がズタズタに俺を引き裂きにかかる。俺は何度引き裂かれたかしれない。そのくせ死ぬことも出来ず、生きながら死の苦しみが続くばかり。

 ようやくのことで、俺はすきをみて、彼等の間から抜け出て死物狂いで逃げた。彼等も死物狂いで追って来た。

 どこをどう通ったか、何事をどうやったのか、何の記憶も残っていない。ただ悪夢に襲われた時そっくりに、前へ前へと疾駆〔しっく〕するらしく感じるばかり………。やがてもう一度、急転直下に下方に墜落しはじめた。もうジタバタする気力も失せ、勝手放題に下へ、下へ、下へ、未来永劫とどく見込みのない奈落へと落ちていった。

 何年前、何十年間、そうしていたか分からない。とうとうしかし終わりが来た。何やら海線状の物体の中に身体が埋没して、ニッチもサッチも動かなくなった。サリとて地面でもない、泥でもない、こんなものどこにも地球上には存在しない。これが地獄名物の闇のかたまりであった。

音もなく、光もない、一切空。頭の上も、足の下も、腹も背も、あるのは粘着した闇だけ。人間の仲間はずれになり、鬼からも見放された、絶対無縁、絶対の孤独境。淋しいとか、情けないとかいうものではない。これが俺がたどりついた最後の墓であった。ああ、あの時の寂しさ、ものすごさ

《後編》五章「第1境 地獄のどん底」

【I】「底なし地獄」

 ここに落ちた者は、ここに落ちた者でなければ分らない苦しみを、人に伝えることはできない。後悔の念なんてなかった。あったのはただ絶望、そして捨て鉢。すると走馬灯のように、俺の過去の罪障が次々と見えた。どこからともまく俺をあざける声が聞える。

「お前は生涯を悪魔そのままに生きた。もうどんなクズの人間でもお前を捨てた。もう俺たちすらお前の姿を見たくない。呪われた者よ。お前には希望はない。絶望すらあるのが不思議だ!」

 (現代の大金持ちや大権力者たち)

 絶対の寂滅! そういうものがあれば、それだ。絶望に口を開けば、闇が流れ入って栓をする「彼らの口、塵芥(ちり)もて寒がるべし」どこからともなく、そういう言葉が来て、俺の頭の中にとまる。

 こんなことくらいなら、鬼に追われた笞の方が、どんなにましだったか。八つ裂きにされていた方が、まだ張り合いがあった。今となっては、もう高嶺(たかね)の花である。

 幾世紀、そう幾十世紀も、俺はそうしていた。そうこうしているうちに、いつの間にか、ダンテのあの言葉が、俺の身体全部をひたしているのが分った。

「ここに入りたる者は、すべからく一切の希望を捨てよ」

 それから幾世紀、また幾十世紀かが流れたようだった。

 そうしたら、乾いた胸に一つの言葉がコビリ付いていることが分った。

「神よ、神よ、なんじは何故にわれを見捨てたまえるか?」

俺はキリストのした事なんて知らぬ。だが、この言葉には恐ろしい真実が隠されていることが、うすうす分かった

そうだ、俺は、初めはこれが大事な言葉だなどとは、少しも思わなかった。ただ、何となし、深い意味が隠れている言葉だと、そうだ、永い間そう思っていただけだ。そのうち、こう思うようになれた。神はもしかしたら、俺が地獄におちている苦しみを知っているかもしれん。神が愛ならば、多少の哀れみがあるだろう

そうだ、きっと神は俺を救いだしてくれる、神があるならば。ああ、俺はバカだった。なぜもっと早くこのことに気付かなかったんだろう。後悔しさえすれば、俺は救われる

しかし、ここは底なしの地獄だ。永劫(えいごう)の場所ではあるまいか。そう思ったら、また混乱して何も考えられなくなった。しかし、キリストのことを考えていることは楽しいので、そればかり思いつめていた

そうしたら、無性に俺の過去がバカらしく見えてきた。何と俺はつまらぬ人生を送ったもんだ、畜生!

「イヤ」待てよ、今さら愚痴を言ってもはじまらぬ。「俺は俺の借金だけはキレイに返しておきたい」そう思ったら、ふしぎに俺の過去のわずかな善事――イヤ、それはあきれ返るほど少ないが、それが他の不愉快な光景の合い間に、チラ、チラ、浮かんで、何ともいえぬ清涼剤に思えた

そうしたら「母は今頃どこにどうしておいでだろう」、幼い時に死に別れたままの母親のことが無性に思われた

すっかり忘れたままになっていた幼い日々のことが、何もかも思い出されたが、ただ一つ、母から教わったはずの祈禱の文句だけが、どうしても思い出されない

それを思い出したい、そうして、借金をきれいにしておきたい。その二つのことが、何とも俺の心にひっかかって、俺を放さなくなった

【II】祈りの力

 それから何かが起こったか。俺に説明せよといっても言葉はない。だが、話せば、次のようなことだ。

 とにかく、俺は母から教わったはずの祈禱の文句を一心不乱に思い出そうとした。ところが、こいつばかりは何ともならぬ。世間で言う、 呪われた者に祈禱はできぬというのは、あれは本当だ 。だが、俺はやっぱりそうしていた。そうしたら、全く不意にだが、霊感がひらめいた。

「神にすがれ、神よりほかに汝を救いうるものなし」

 いったい、どうしたというのだ。俺は今まで、それと反対のことばかりしてきた。つまり、神から遠ざかる努力ばかりしてきたわけだ。何という奇想天外だ。今度はその反対の方へ走れと言うんだ。勝手違いも甚だしい?

 そうしたら、次の霊感が来た、「 祈禱にかぎる 」。俺はヤミクモに、やはり忘れた祈禱の文句を思い浮かべようとした。しかし、そいつはやはり無理なことだった。

 しかしだ、大三の霊感が俺をピリリと打った、「 おお神よ、われを教え ………」。たったそれだけだったが、ああ、こいつはたしかに祈禱の文句だ。母から習ったのがそれだったかはさだかではないが、ああ、こいつは確かに祈禱にちがいない。俺は、何度も、その祈禱の文句を繰り返した。

 これから先は、はじめに言ったように、説明する言葉がない。

 何が起こったか?………………

 俺が祈禱の文句を繰り返すたびに、妙に心地よい温かさが来る。来るから唱えたら、しまいに、少々熱くなり、とうとう身体に火がついたようで、たまらず少し中止した。

 そうしたら、ヒェッ! 何としたことだ、俺は海綿状の闇の海から、妙なぐあいにフワリフワリ上昇していくではないか。思うに、俺の身体の目方が軽くなったのだな。つまり、熱で身体の粗悪な分子が焼きつくされたというわけだ。

 上昇つづけて行ったら、真暗な中にも、何やら黒いつるつるした岩が見える。つかもうとしたら、つるりとすべってつかめぬ。イヤ、地獄のどん底というのは、言うなれば、深い闇の湖水と思えばよい。闇の濃度が海綿状の重たい水だ。俺はその中に何十世紀とつかっていた。今そこからわずかに首を突きだした。しかし、湖水はすごい絶壁で囲まれている。目の前につるりとした岩がある。だが、こいつはすべって駄目だ。

 俺は、もう一度祈禱をすればよいと思いついた。

 「 おお、神よ、首尾よくこの闇の中から逃れ出る力をわれにかしたまえ ……」

 そうしたら、重たい湖水の水がざわざわ揺れだした。あわや、俺はまた水に呑まれるのかと危ぶんだら、反対に、大揺れの波が俺をポイと岩の上に放り投げた。思うに、俺のような者でも、芽を吹いた信仰のおかげで、黒く濁った地獄の水にひたっているには、もう目方が足りなくなったのだな。

【III】「地獄二丁目への脱出」

 岩の上は真暗で何も見えない。だが、これまでのような触覚にふれるほどの闇ではない。じっと目をこらして見ていたら、俺はがっかりした。打ち上げられた岩は、千仭(せんじん)の絶壁に、ほんのちょいと突き出たテーブルのような所だった。そこはそれ、例の奥の手を出して祈りに祈った。

 すると、目がきいてきて、どうやら片手がかかりそうな左手の上に、穴があいているのが見えた。さんざん足場を探したあげく、よじ上がってのぞいたら、案外に奥の方は広くなっている。とにかくそこを通って出た所は、またもや千仭(せんじん)の谷底だった。

 俺はここを先途(せんど)と、そこをよじ登るしかなかった。どうやら崖の上方は、帽子のひさしのように突き出ている感じだ。しかし幸いなことに、崖の中ほどは馬の背のように、岩が崖に沿って延長していた。俺はその上を通ることにした。

 少し行くと、すぐそれが尽きて、もうどう仕様もなくなった。ああ、やっぱり失敗か?

 いったん俺はヘタヘタと地べたに崩れた。どう考えても何の工夫も浮かばない。万策つきて俺はまた祈りを始めた。度々のことなので、格別の希望をつないだわけではない。だが妙に、勇気がわいたので、立ち上がって出口を探そうとした。

 その時、豪然たる雷鳴が起こって、崖の壁面から巨大な岩のかたまりが崩れ落ち、谷間をつないで橋のようにかかった。これは祈りのききめんだな、俺は勇気をふるって、そのギザギザ橋を上へと登った。頂点に達したら、その向こうはまた石ころだらけの渓谷で、大変な難所だった。俺は一進一退しながら、歯を食いしばって、何度も岩と岩の隙間に転落しかかりながら、ついに征服した。この時ばかりは、俺の平生の負けず嫌いが役に立った。

 が、これが最後の難関だった。抜け出た所は、ずいぶん石ころだらけの荒地だったが、わりあいに平坦なので、俺ははじめてほっとため息をはいた。俺はどうやら地獄のどん底から、第二境へとぬけ出たらしい。

 ★         ★         ★

 この地獄の世界、どこかの国によく似ているようにみえる。

 無神論者にはすがる神はない。悪魔にでもすがるしかなかろう。





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Last updated  2016年06月24日 21時04分04秒
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