国防の義務

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2010年10月21日
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「「クラスター爆弾禁止条約


 クラスター爆弾を全面的に禁止する条約が採決された。
5月31日の報道によると、我が国は当初難色を示していたが、福田首相の政治判断で条約案への同意を決めたという。
 その数日前に、東京の中野サンプラザで開かれた講演会で、クラスター爆弾の廃止についてどう思うかとの質問を受けた。
私は、明確に全面禁止条約に署名すべきではないと答えた。
 とは言え、首相の「政治判断」で署名されたので、報道機関の解説とは別に、以下私の観点からコメントしておきたい。

 まず第一に思い至ったのは、クラスター爆弾禁止条約推進の国際的動きと、国内の署名に至るプロセスとも、九年前の対人地雷禁止条約締結の時とよく似ているということである。
 まず国際的な動きの共通点は、第一に、両条約共に子供などの非戦闘員の被害を防ごうとする人道的観点から有志国と国際的NGOにより推進されていることである。
 国際的な第二の共通点は、我が国周辺諸国、つまり、アメリカ、中国、ロシア等は共に両条約に参加していないことである。

 また、国内的な共通点は、首相の「政治判断」によって署名された、という点である。しかも、その判断をした首相であるが、共に百歩譲って奇妙な発言(譲らなければアホな発言)をしている。アホとは言い過ぎであれば、唖然とするほど国防を牧歌的に考えすぎている、といえる。
 まず、対人地雷禁止条約に関する故橋本総理と記者との会話。地雷を海岸線に敷設しなければ敵が簡単に上陸してくるのではないか、と記者から尋ねられて、橋本総理は次のように答える。
「君、日本の海岸には海水浴客がいるんだよ、地雷など敷設できなじゃないか」。
(たぶん、敵の前面に水着を着た女性がいっぱい遊んでいる湘南海岸が頭をよぎったのであろう。今は亡き愛すべき橋本さんの顔が目に浮かぶ)
 次に、クラスター爆弾に関する福田総理の発言であるが、子爆弾を見せられて、「これが、ひらひら空から落ちてくるの?」。
(この発言についてはあんぐり口を開けるだけでコメント不能。これが最高指揮官の発言なのであるから、自衛隊の士気を維持できるのであろうかと心配である)
 これら総理の発言から伺えるのは、二人とも、我が国「国防」の基本的戦略戦術の観点から、対人地雷保有の意義、クラスター爆弾保有の意義を得心した上で、敢えて廃棄の「政治判断」をしたのではないであろう、ということである。言うまでもなく、総理大臣は国防の最高責任者であるのだが。

 次に、国際社会の中で「人道」を掲げてイニシアティブをとる動きについて、対人地雷禁止条約(オタワ・プロセス)の際の背景を次の通り指摘しておきたい。似たり寄ったりだから、クラスター爆弾廃止条約(オスロ・プロセス)の背景分析の参考になると思う。
 まず、旧ユーゴスラビアに展開したカナダのPKO部隊が現地の女性に対して集団暴行を加えるという不祥事を起こす。カナダ政府は直ちに部隊を本国に召還して解散する。その後、此の不祥事によって失墜した国際的評価を挽回するために、カナダ政府はカンボジアなどで子供の被害が続いている対人地雷の全面禁止条約の旗を掲げる。これが「人道的な」オタワ・プロセスの始まりである。
 此の時、カンボジアなどに埋設された地雷による子供たちの被害が世界中の同情を集め、英国皇太子妃のダイアナさんなども盛んに地雷除去に取り組んでいることが報道されていた。
(もっとも、地雷よりも交通事故によって死傷する子供の数の方が圧倒的に多いのであるが自動車廃止条約の動きはなかった)

 ところで、此の対人地雷禁止条約では、地雷の除去義務は地雷を敷設した国にではなく、地雷が敷設されている国にある。
 そこで、現在もっとも多くの地雷が敷設されている地域は何処かと探すと、それはエジプトの西方エルアラメイン地域で、敷設した国はイギリスであった。ここは、第二次世界大戦におけるドイツ軍とイギリス軍の激戦地であり、ここにイギリスは数千万発の地雷を敷設したまま現在に至るも放置しているのである。これは、カンボジアとは文字通り桁違いの多くの地雷である。ここで地雷の事故が起こらないのは、危険すぎて人が住めないからである。この意味では、人が住めるから時々事故が起こるカンボジアの方が牧歌的といえる。
 そして、イギリスは、この条約に署名することによって、敷設した膨大な地雷除去の義務から解放されたのである。

 確かに、戦闘が終わり平和が訪れてから埋設された地雷(主にカンボジア)やクラスター爆弾(主に旧ユーゴ)によって、子供や民間人が死傷することを防がねばならない。
これを防ぐために一番手っ取り早い方法は、その兵器を無くすことである。交通事故を無くすには、世界中で自動車を全面廃棄すればよいのと同じである。
 しかしながら、この人道主義の理想に従うだけでは、国防は成り立たない。国防不能となれば、そもそも人道主義が成り立たない。
「国防は最大の福祉である」からだ。

 クラスター爆弾が無くなっても当面、国防上の脅威を感じない北欧やイギリス、フランスそしてイタリアなどの諸国とは我が国の位置が違う。既に述べたように、我が国の周辺国はすべてクラスター爆弾も対人地雷も保有し続けているのである。ついでに言うなら、生物化学兵器も造り続けている。
 従って、現在の時点において、我が国だけが地雷に続いてクラスター爆弾も放棄して、どうして国防が成り立つのであろうか。
 また、我が国国防の柱は、日米同盟による日米両軍の共同対処であるが、果たして対人地雷もクラスター爆弾も無い日本軍(自衛隊)との共同戦闘行動をアメリカ軍が行うであろうか。
 地雷やクラスターがあれば出なくてもよい死傷者がアメリカ軍兵士にでれば、その時点で日米共同対処の体勢は崩壊するであろう。つまり、日米同盟解消である。何故なら、亡くなったアメリカ軍兵士の母親や家族を擁するアメリカの世論が、日本のために自分たちの子供が戦うことを拒否するからである。

 さて、九年前に発効した対人地雷禁止条約の国会における承認に関しては、衆議院では西村眞悟、参議院では故田村秀昭議員の合計二名が反対した。あとは、全会一致の承認であった。
 この度のクラスター爆弾禁止条約の国会承認に関する私の態度は決まっているが、自民・民主という各党はどうするのであろうか。こういう、国防という問題で、内部の議論を押さえ込んで今回も地雷の時のように「全会一致」の賛成なら、この思考停止の政治体制自体が既に我が国の危機であり、我が国危うしである。国家再興の為に、政界再編が不可欠である。」」





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最終更新日  2010年10月21日 12時49分43秒
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