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( 【第4章】にもどる )
2人は、年下の 小田切
が、
年上の「新入社員」 佐々木
を迎える形で出会った。
お互いの第一印象は悪かった。
それまで長きに渡って「塾」の空気に慣れ親しんできた 小田切
は、
理屈では説明のつかない 「塾の文化」
が体に染み渡っていた。
「学生のアルバイトなのに、なぜ勤務時間を超えてまで、そんなに働くのか」、
「なぜ、新しい発想・提案が必要なのか」、
「なぜ、塾の先生がスキーを教えるのか」、
「なぜ、『講師』が経営管理までするのか」・・・。
改めて問えば、いずれも答えに窮する疑問である。
当然のことだ。
答えなど、はじめから、
ない。
しかし小田切は10年近くその空気を吸い続けてきた。
彼にしてみれば、全てがそもそも疑問の余地などない、「当然のこと」であった。
これに対し、アメリカという「自由」、「個人」、「契約」の土地で、
多くの異国民と関わってきた 佐々木
には、
アメリカ的な、ビジネスライクな発想があったのかも知れない。
自分の能力を提供することを条件に、会社と個人が契約する。
これが西洋における「雇用」である。
留学担当として契約している自分が、授業をしたり、
他部署の雑務をこなしたりする不自然さ。
これもやはり説明に窮する。
ただ、この塾では、理念にひかれてそこに居る人間の割合が極めて高かったため、
勤務時間が終了し、
普通にタイムカードを打刻して帰宅する、
そんな佐々木に対しての視線は冷たかった。
何も悪いことはしていない。何の違反もない。残っている仕事もない。
理由などないが、でも周囲の視線は語っていた。
「この男はなぜ帰るのだ?」
そして、その視線を送る者には、やはり説明はできないのだ。
「なぜ帰ってはいけないのか」と。
授業のみならず、経理や教材作成ほか、
きわめて経営に近い場での経験を多く積んだ小田切は、
若くして老練な雰囲気を持っていた。
多くの経験を積むことで、年齢に不相応な職務スキルと、
その結果としての貫禄を身につける者が多いのも、
この塾の職員の特徴であった。
あるとき、新人・佐々木のタイムカードの打刻処理に、
「それではダメだ」と、小田切は叱りに近いアドバイスを与えた。
佐々木は、簡単に言えば、 「カチンときた」
。
「何だ、この人は?」
これが、佐々木にとっての小田切の第一印象であった。
そんな2人であったが、時を経ずして、
職場内で最も仲の良い2人
となる。
2人とも、音楽が好きであった。
音楽が2人をつないだ。
程なく、「塾の空気」に順応した佐々木は、
留学事業に固執することなく、生徒指導にいそしむようになり、
いつしか「誰よりも働く社員」になっていた。
これも、簡単に言えば
「塾のセンセイ」の仕事に「ハマった」。
そうなると、勤務が深夜にまで及ぶことは当たり前となり、
少しでも睡眠時間をとりたいところだが、
音楽好きの2人は、深夜からカラオケに通った。
朝まで歌って、太陽が昇った頃に仮眠をとって、
間もなく出勤する。
そんな日も少なくなかった。
学生の頃にバンド活動においてドラムを担当していた 佐々木
と、
幼少の頃、ピアノを習っていた 小田切
は、
職場内でバンド活動も行うようになり、さらに結びつきが深まったのかも知れない。
生徒参加型のスキーイベントでは、2人が中心となってバンド演奏も披露した。
お互いの第一印象からは想像し得なかった仲のよさ、信頼関係であった。
表面的なタイプも全く異なっており、
新しく入社した講師から見ると、
なぜ2人の仲が良いのか分からなかったかも知れない。
一つだけ言えるのは、
2人は全職員の中でも群を抜いて多趣味であり、
遊びが好きであった。
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