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chiko619 @ Re:新参者(09/22) 「新参者」読みました。 東野圭吾さんは、…
kimiki0593 @ 相互リンク 初めまして、人気サイトランキングです。 …
Twist @ こんにちは! 遅ればせながらあけましておめでとうござ…
Twist @ こんにちは! 遅ればせながらあけましておめでとうござ…
Twist @ はじめまして^^ 先ほどこのロングインタビューを読み終え…
2009.11.08
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カテゴリ: 文芸

 ページ番号の最後の数字は777。
 分冊にしてもよさそうなボリュームの本だが、
 村上さんは、そんなこと絶対にしないだろう。

 そう、これは全部読み切ってこそ価値がある本だ。
 それまでに時間がどれ程かかろうと、
 途中で読むことに飽きてきたり、苦痛を感じたりしようと、
 とにかく、最後まで読み切らねばならない。

本著は、1995年に発生した地下鉄サリン事件に関わった人たち
62人に村上さんがインタビューしたものをまとめた作品である。
インタビューの内容は、事件そのものについてだけでなく、
それぞれの人たちのこれまでの人生や日々の暮らしぶりにまで及んでいる。

もちろん、新聞やTVが事件そのものについて報道する場合、
こんなにプライベートなことにまで踏み込むことは、通常ありえないし、
そこまでするのは、また別の部分の仕事となる。
なぜなら、それを成し遂げるには多くの労力と時間を要し、即時性にも欠けてしまうから。

だが、村上さんはこの目も眩むような膨大な作業をほぼ自力でやり遂げた。
読むのが大変なほどだから、インタビューしてまとめ上げる苦労は推して知るべしである。
しかしその労力があったればこそ、私たちはあの事件の奥底に、
これほど多くの人たちの人生が存在したことを、改めて認識することができたのだ。

   ***

いつも通りの行動の中で、あの事件に巻き込まれた人たちがいる。
そうではなく、あるきっかけで、その日は通常と違う行動になってしまったために、
あの事件の現場に遭遇することになってしまった人たちもいる。
ちょっとした偶然の積み重ねが、その人を当事者にしたりしなかったりしている。

そう、たった電車1本分の発車時刻のズレによって、
或いは、乗り込んだ車両の場所の微妙なズレによって、
さらに、事件発生後に歩んだ道のりや、そこでとった行動によって違いが生じた。
その違いは本当に微々たるものだが、その結果の違いはあまりにも大きい。

事件に巻き込まれた人たちには、あの事件が発生する前には、
その一人一人に、それぞれ別の人生があった。
そして、事件に遭遇した後も、一人一人に別の人生がある。
そして、事件への思いも、またそれぞれである。

当たり前のことだが、新聞やTV報道で事件の表層ばかりをなぞっていると、
そんなことを、ついつい忘れてしまいがちだ。
どうしても、事件そのものやそれに関わった人々を一括りのものとして認識しようとし、
ステレオタイプな思考に陥ってしまう。

   ***

最後に、膨大な数のインタビューの後に掲載されている、
村上さん自身が、地下鉄サリン事件に言及した「目じるしのない悪夢」の一節を示す。

  このような言い方は、あるいは無用な誤解を招くかも知れない。
  しかし今述べた仮説を延長していった場合に到達する
  きわめて広いグラウンドの真ん中に立って、私は実はこう思っている。
  「こちら側」=一般市民の論理のシステムと、
  「あちら側」=オウム真理教の論理とシステムとは、
  一種の合わせ鏡的な像を共有していたのではないかと。
  もちろんひとつの鏡の中の像は、もうひとつのそれに比べて暗く、ひどく歪んでいる。
  凸と凹が入れ替わり、正と負が入れ替わり、光と影が入れ替わっている。
  しかしその暗さと歪みをいったん取り去ってしまえば、
  そこに映し出されている二つの像は不思議に相似したところがあり、
  いくつかの部分では呼応しあっているようにさえ見える。
  それはある意味では、我々が直視することを避け、
  意識的に、あるいは無意識的に現実というフェイズから排除し続けている、
  自分自身の内なる影の部分(アンダーグラウンド)ではないか。
  私たちがこの地下鉄サリン事件に関して心のどこかで味わい続けている「後味の悪さ」は、
  実はそこから音もなく湧き出ているものではないだろうか?(p.744)





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Last updated  2009.11.08 12:14:41
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