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写真日記 Huちゃん 写真日記 を転載しました。写真は、Huちゃんさんの「大阪港ダイヤモンドスポット:大阪港夕景・茜空」激写作品から借用させていただきました。 3月7日掲載(1)~ ブログ長編冒険小説『海峡の呪文』――(55)(この物語に登場する人物、団体名はフィクションである。だが、歴史及び政治背景は事実でもある)海峡の呪文(5) 『エゾッソ号』は錨を降ろし、根室港の外洋に出たところで停まっていた。昼12時過ぎとなると、海霧が嘘のように消滅していた。紺碧の空が根室海峡の天に広がっている。いつになく波はない。ベタ凪である。実に清々しい光景である。 『エゾッソ号』から漁船に乗り移った十鳥、海人、要員たち、ミハイルとエカニーナ、バハイロは、狭い甲板の両サイドに別れて座り込んでいた。 日露北方四島観光調査団の避難民全員がは、他の船に隔離していた。外部との連絡が出来ないように、札幌公安調査局の要員が監視に当たっている。公安調査局の要員の報告によると、北方四島日露共同経済協力(歯舞群島1島返還で日露平和条約を目論む)を主張している国会議員たちが、煩(うるさ)く騒ぐので睡眠剤を注射して眠らせている、との報告が十鳥にあった。あいつらには、それが相応しい! 漁船の甲板では、榊原英子が十鳥に寄り添い、かい甲斐しく世話をしていた。漁船の船長から貰った栄養ドリンクを飲んだ十鳥が、海人と榊原に言った。「これから私は最後の任務につく。先生たちは、仲良く自由にしていてくれ」 言われた海人と榊原は互いに顔を見合わせ、顔を赤らめた。だがそれも一瞬のことだった。海人が私用スマホで『資源開発研究所』にいる兄・堀田陸人と連絡をとった。呼び出し音が鳴るや、兄・陸人が出た。「海人。皆無事で良かった」陸人には、榊原から連絡が行っていた。「兄さん。事態はまだ終わっていないよ。ところで兄さんに頼みがある」「何でも言ってくれ。海人」「じゃあ、お願いするよ。至急、小清水町の〝あの竪穴〟を掘ってほしい。悪魔どもの〝ハピネス倶楽部〟がバカでかいRC造の建物を建て、〝竪穴の中〟を守っているけど、札幌公安調査局が強制調査する。一緒に行ってほしい。兄さんが尊敬している河田前町長も協力してくれるでしょう。兄さんが頼むと。何があるのか知り得ないから、十鳥さんが十分な装備を札幌公安調査局に頼んだ」「分かった。丁度良いぞ。知床半島沖の件で行くことを考えていたんだ」「あの海底探査のこと?」「そうだよ。俺はまだ続けている。田上君とね。明日、小清水町に行く。札幌公安調査局の担当者に伝えてくれ。海人。榊原英子さんも無事だな?」「彼女、英子さんは俺よりも元気だ」「英子さんに、よろしく、と伝えてくれ」「何? よろしくって? 兄さん」「そりゃあ、お前のことをだ。決まっているだろうに。またな海人」 十鳥は十鳥班の班長らと短いブリーフィングを終え、ペットボトルの水をがぶ飲みすると、特殊スマホ、私用スマホを左右の手に持った。その途端、左右の機器が鳴った。十鳥は特殊携帯を持ち、左手の私用スマホを班長に委ねた。<十鳥だが><野村です。緊急事態が起きた><何っ!><例の自衛隊基地内での‶幸の道義〟信徒が決起しているようです><何っ! 決起? クーデターか?><いや、組織的な決起でなく自死覚悟の少人数の決起のようです。なにせ官邸から指示があり、防衛省も、自衛隊北海道本部も、当然、各基地の責任者たちも、緘口令を引いて秘匿していますので、今我々は要員を送り情報収集中です。随時、報告します。十鳥さん><了解した。それもこれも官邸の身から出たものに違いないがな><言い忘れていた――官房副長官の瀬戸際が更迭されました><いつだ?><先ほど。官邸は、まだマスコミには公表していませんがね。この事態についても><ということは、瀬戸際の身が危ないぞ。自衛隊情報機関の紫藤1佐も……野村局長! 官邸の息のかかった裏の手で口封じされる恐れが大だぜ><了解した。可能な限り、瀬戸際と紫藤1佐の安全を確保する。公安調査庁本部の理解者、上司と相談しつつだが><そうしてくれ。瀬戸際と紫藤1佐の身柄確保が、俺たちの担保ともなるのだ。連絡を待っている><おっと十鳥さん。市川局長代理から連絡が入ったぞ。千歳第2航空団のF15戦闘機1機が訓練中、編隊から離れて国後島に向かったそうだ。同僚機が追い、撃ち落とすはずだが」<そうだろうな。北方四島のロシアの支配領空域に入れば、前代未聞だ。政権がぶっ飛ぶことになるしな。空飛ぶ戦闘機ゆえにな><出た! 親父ギャグ! おっ! また出たぞ! また連絡……今度は上富良野の陸自基地からの情報が入った。上富良野第四特科群の10式戦車一両が駐屯地の中で暴れているそうだ。実弾は使用できないと。おっ! 戦闘機が根室海峡、歯舞群島手前の日本側海域に突っ込んだと。また連絡する> この数秒後、また野村から連絡が入った。<野村局長。今度は札幌の自衛隊基地だな?><十鳥さんの下種の勘ぐりの通りだ。札幌の真駒内第11旅団の第18普通科連隊隊員2人が、史料館3号館(旧日本軍関係の史料館)に籠城した。おっ、彼らが、携帯拡声器で声明を出しているそうだ。『自衛隊員よ! 決起し、北方四島を奪還するぞ!』と、がなり立てているそうだ。おっ! 上富良野の戦車内で〝信徒自衛官〟2人が自殺したぞ! 燃料が切れたところで><教祖三神もやってくれたもんだ。だが幸いにも一般市民を巻き込むことを、三神は避けていたようだな。弁護の余地はないが、三神の良心が見て取れる。だが、まだ続くだろう。おっと、替え玉三神の情報が入って来たぞ>十鳥が通話を切った。下種の勘ぐりとは何だ! S班長と要員4名が乗った漁船が、根室海峡の日露中間線数百メートル手前に差しかかった。国後島がくっきりと見えている。要員が双眼鏡を南の納沙布岬方向に回した、その時だった。札幌公安調査局のヘリから特殊携帯に連絡が入った。<S班長へ。目標の白い漁船が納沙布岬に差しかかりました。1、2分で見えるはずです。その4.9トンの漁船の船長は、奴らに自宅監禁されていました。つまり船の操縦も偽教祖の三神ら4人の――いま納沙布岬を回りこみました> S班の要員の双眼鏡にその漁船が点となって見えた。<班長! 漁船が見えました!><狙撃する! 船長! 船を奴らの側舷に向けてくれ!> 船が全速力で偽三神らの漁船を目指した。 偽三神らの漁船、その斜め後ろ100メートル上空から追尾しているヘリから連絡が入った。<ヘリより。目標の漁船。操舵室に1人。後ろ甲板に2人。舳先に1人が……背中にボンベを背負っています。奴らは皆、白装束です><了解した> S班長が十鳥に報告した。<チーフ。S班、これから目標の漁船を狙撃します><班長。勝算を言ってくれ> S班長は即座に応えた。<チーフ。ボンベを背負った男は、漁船の舳先に立っています。相手の漁船はFRP製の4.9トン。こちらの漁船は35トンで鋼鉄製です。したがって、狙撃の射角は有利ですし、体当たりも出来ます。S班の二人は狙撃のエキスパートですので、信頼しています。なお、ベタ凪で揺れがほとんどありません><十鳥。了解した。S班長に100%委ねる。放射能には気をつけてくれ。朗報だけを待っている><何としても、ダーティーボムを回収します!> S班の漁船が速度を上げ、目標の漁船に迫った。あと450メートル。 S班長がインカムに言った。<狙撃は可能か?><スコープに舳先に立つボンベを背負った男を大きく捉えています><起爆装置を握っているか?>S班長が訊く。<班長。船を10時の方向に向けてください。奴の正面斜め横を捉えたい><了解した>S班長が応え、この会話をインカムで聞いていた船長が船首を10時に向けた。 S班の漁船が、目標に300メートルと迫った。<班長。速度を停止してください。我々は狙撃準備OKです>舳先で伏せ狙撃ライフル銃を構えている要員が言った。狙撃手は2人である。<班長。了解> 船が速度を無くして行った。ベタ凪。無風。 2人の狙撃要員は、スコープにボンベを背負った白装束の男を捉えている。船首が10時方向に向いたのでボンベ男の横側面が、やや鳥瞰して見える。一人の狙撃要員は、スコープの十字の中心を、男の右手に当てた。もう一人は狙いを左足大腿部に当てた。<撃つぞ!><同時に撃つ!> この3秒後、2丁のライフル銃から銃弾が鈍い音を立て音速で放たれた。 舳先の男の両手から血が溢れた。そして起爆装置が足元にぶら下がった。同時に、もう一つの弾丸が左足太腿側部を貫通した。ボンベの男が悶絶して仰向けになった。 S班の船が速度を上げた。ヘリが目標の漁船の50メートル上空に来た。<起爆装置が離れた。3人が気づいた。船首に行く>ヘリからだった。<了解><了解> 狙撃要員が応え、スコープを船首側の甲板に向け待ち構えた。白装束2人が甲板に現れ、スコープが捉える。<右を撃った><左を撃った> 3人目が現れ、甲板を這っていた。が、右足大腿部に銃弾2個が食い込んだ。<無力化された>ヘリからS班全員のインカムに伝わった。<ただちにダーティーボムを確保する>S班長が応えた。<放射能検知器、放射能防護服、放射能対応容器を準備だ>S班長が告げると、船は50メートルまで近づいて行った。 十鳥の特殊携帯が鳴った。札幌公安調査局の野村局長からだった。またか! <また情報が入った。在札幌ロシア総領事館に侵入しようとして、警備の機動隊員に押さえられた。が、2人の男が腹を切ったようだ。救急車を待っていると><まだ続きがあるのか?>十鳥が訊く。<札幌の真駒内第11旅団基地内の輩2人が自殺したようだ><まだ自殺願望者が出ることだろうよ>十鳥は無機質に言った。 殉教者たちのモザイク画だ。奴らの野望の絵が、この1年で殉教画にすり替わったのだよ、と十鳥が呟いた。十鳥が息を吸う間もなく、野村局長から連絡が入った。<おっ! 今度は、東京のロシア大使館に男2人が押し入ろうとして、警備の機動隊員に押さえられた。こいつらも腹を切った! 北方四島奪還宣言のビラを持っていた。まさに殉教画だ> 殉教画? そうだよな。十鳥は頷いた。 十鳥がペットボトルの水を飲もうとしてボトルを口に当てた時、特殊携帯が鳴った。S班長からだった。朗報か、否か、どっちだ!<S班より。チーフ。無事、ダーティーボムを防護容器に回収しました。要員全員無事です>このS班長からの報告を聞いた十鳥は、全身が溶けるような感覚になった。<S班長とS班の皆、そして船長に……感謝……する……>十鳥が崩れながら応え、言葉がフェイドアウトして、その場に大の字になった。<チーフ! 大丈夫ですか! チーフ! 大丈夫ですか!>S班長が大声が特殊携帯から聞こえている。十鳥は夢を見た――海人と榊原が海岸の上の丘を歩いている。そこは平らな原野だった。国後島の原生花園か。花々が咲き誇っている。そこから碧いオホーツク海が眼前に広がり、丘の直下に清川が流れている。紺碧の空。風もない。海人と榊原が立ち止まり、地面を見つめている。海人がロシア側の考古学者たちに手で示している。そして海人が、この辺りが調査地点だ、と俺に大きく手を振り回し告げた。おーい! 十鳥さん!――。突然、十鳥の耳たぶの大きな耳に大声が響く。「十鳥さん! 十鳥さん!」海人の声だった。 十鳥が目を開けた。夢か――良い夢だった。 そして、榊原、ミハイル、エカニーナ、十鳥の要員たちの覗く顔が見えた。(続く)
2019年12月22日
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【時代錯誤の「一億総活躍社会」】何ともまあ呆れる名称を吐くものだ!時代錯誤の名称である*思い出すのは「一億総玉砕」*さすがである何が?戦争指導層の商工大臣だった岸信介元A級戦犯容疑者の孫お爺さんを尊崇する安倍首相だけある*憲法違反の「戦争法制」を強引に成立させた安倍首相とその政権安倍政治って単にスローガンだけ*ん?一億?高齢者の人口を引くと一億?「総活躍社会」の一員から除外か!*「一億総活躍社会」というスローガン実に示唆に富み含蓄ある名称だ!*
2015年09月26日
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ブログ冒険小説『闇を行け!』15 ウクライナの栄光は滅びず 自由も然り運命は再び我等に微笑まん朝日に散る霧の如く 敵は消え失せよう我等が自由の土地を自らの手で治めるのだ自由のために身も心も捧げよう今こそコサック民族の血を示す時ぞ!(ウクライナ国歌『ウクライナの栄光は滅びず』・訳詞より)(主な登場人物) ・堀田海人(ほった かいと)札幌の私大の考古学教授。・十鳥良平(とっとり りょうへい)元検察庁検事正。前職は札幌の私大法学部教授。現在、札幌の弁護士。・榊原英子(さかきばら えいこ)海人の大学の考古学教授。海人の妻。・役立有三(やくだつ ゆうぞう)元警視庁SAT隊員 十鳥法律事務所の弁護士。・君 道憲(クン・ドホン)日本名は――君 道憲(きみ みちのり)・武本 信俊(ムボン・シジュン) 君の甥 韓国38度線付近の住民 ・ムボンの父 通称は「親父(アボジ)」・ムボンの母 通称は「ママ」(15) 軍用トラックは、暗闇の公道を東へと進んでいた。 これまで25km走ったが、すれ違う北朝鮮の軍用車はなかった。だが運転しているクンの胸の内で、少しづつ波打ち出していた。北朝鮮は常に戒厳令を敷いているから、検問所があるはずだ!「ムボンよ。そろそろだな」「クン兄。俺の体もそう疼いているよ」 クンがマイクで告げた。「役立さん。先生。検問所がありそうだ」 クンの声を聞いた役立と海人が、互いを見てまなじりを上げた。「帰りは怖いと、覚悟しているよ」海人が言った。「今までが順調だったからな」役立が言った。 海人も役立つも、やけに冷静だった。十鳥チーム自体が、危険な状況――そもそも南進トンネル突入、北朝鮮潜入、基地強襲、そして‶将軍様への呪いかけ″――の計画策定時から、腹を括っていた。大胆であり、繊細であり、機械工学でいうところのテンションとも言える遊びを絶えず持っている十鳥のチームである。張り詰めた糸は切れ易い。だが心に遊びがあると、張り詰めた心を調整し、冷静に対応できる。これが十鳥の並外れた持ち味で有り、十鳥を尊敬するチーム員も持ち合わせているものなのだ。類が類を引き合わせているように。 クンが前方の彼方に検問所の灯りを捉えた。「検問所あり!」「了解!」皆が答えた。 数十秒後、検問所に着いた。兵士2人が立ちはだかり、手で、停まれ! と合図して携帯ライトで運転席を照らした。そして兵士が運転席側に近づいて来た。 クンはドアを開け、車から降りる。助手席のムボンが消音装置付きの拳銃を軍服に隠し持つ。「いやあ~ご苦労様。我々は特殊任務で10km先のトンネルに向かっている」クンが特殊任務を強調して言った。兵士がクンの任務に理解したかのように、「特殊任務ですか。本部からそういう連絡が無かったのも頷けます」と言った。が、躊躇しつつ、クンに言った。「一応、身分証を見せてください。確認させていただきます」 クンが軍服の胸ポケットからIDカードを取り出した。それは北朝鮮軍偵察総局幹部の身分証である。 IDカードに目を通した兵士が、「偵察総局の……失礼しました!」と言って、背筋を張り敬礼した。兵士が検問の車停止バーにいる兵士に、手で合図した。通過よし! クンはトラックをゆっくり動かし、検問所を通って行く。 去って行くトラックを見送っていた兵士が、はたと気づいた。偵察総局の幹部は、軍服でなく背広のはずだ! それに彼は若すぎる! 偵察総局の次長にしちゃ! いつもは乗用車のはずだ! しかもトラックのナンバーは……本部に確認すべきだ! あの幹部の名は……キム……将軍様の一族……いや、キム姓は大勢いる…… そう思案して、兵士が無線機で本部に連絡した。 クンは急いだ。だが、胸の内が漣(さざなみ)立ってきた。「役立さん。追っ手の車両に警戒してくれ! 俺は次の検問所を警戒している。検問所があればだが」「了解」役立が答えて、ライフル銃とRPG対戦車擲弾発射器を手に持った。「先生。身を伏せてください。私の背後で」役立が海人に言った。海人が床に腹ばいになった。 皆は防弾ベスト――クンがネットで購入した3万円ほどの代物だ。高額なケプラー社製でないが、不織布製で2kgと軽い。不織布と言えば、コロナウイルスの貫通を防げる。原理は同じで、何重にも重ね合わせた不織布の素材が違うだけだ。これでも拳銃弾、小銃弾の貫通は防げるし、そう厚くはない。役立と海人は潜入時から迷彩服の上に着ている。クンとムボンは、北朝鮮の軍服の下に着こんでいる。因みに米国等の特殊部隊の防弾ベストは、数十万する高性能の防弾・防爆対応のそれである――の緩みを直した。 十鳥が腕時計を見た。夜半を過ぎていた。「十鳥さん! 来たよ!」親父が、洞窟入り口に立ち声を張り上げた。「親父殿。来たか――待っていた。工作員の仲間を捕獲したのは、さすがだ」「十鳥さん。そこの真っ裸の工作員が隠し持っていたメモと、仲間の工作員は、今回の‶将軍様への呪いかけ作戦″での望外の成果かも知れない。奴らの始末は、4人が戻ったら、十鳥さんと皆で相談したい」「親父殿の言う通りだ。貴国の情報機関に、単純に委ねる訳にゃいかなそうだからな」「十鳥さん。私もそう思っている。奴らは根を深く張っていそうだ」「親父殿。トンネルの武器庫に、まだ4人の貴重な情報材がいるが、2人で回収に行かないか?」「了解した。潜入のクン等が戻る前に運ぶとしましょう」と親父が言って、トンネルの穴に歩を向けた。 脱出のトンネルまで、あと5kmだ、とクンが呟いた時、前方に小さく光る点が見えて来た。段々と点が大きくなって来た。検問所だ! 今度はやばそう! クンがマイクで後部にいる役立、海人に知らせた。「検問所あり!」「準備よし!」役立が答えた。 検問所の前で5人の兵士が、AK自動小銃を構えている。戦闘態勢を敷いていた。「やばい」ムボンが言い、窓を開けた。そして消音拳銃を手に持ち膝に置いた。クンは窓を開け、トンネルの武器庫から持ち出した旧型のAK自動小銃を右手に持つ。「いったん停車する素振りをするが、急発進して突破する」クンがマイクに告げた。「了解! 準備OK!」役立が答えた。伏せながら海人が、RPG3器を抱えた。 トラックが近づき速度を緩めた。 5人の兵士が前を塞いでいる。中央の兵士が自動小銃を持ち上げた。「突破だ!」クンがマイクに怒鳴り、急発進する。クンは片手で窓から自動小銃をバラバラと横に払い撃つ。助手席のムボンも撃つ。 停止バーを打(ぶ)ち破り、トラックは検問所を突破する。が、公道の両脇に2台の武装装甲車がいた。「武装装甲車2台! 先手だ!」クンが怒鳴った。 幌後部の役立が、RPGの狙いを定めた。撃った!「クソ!」役立が罵った。外れたのだ。海人がRPGを役立に渡す。 役立が撃つ! 海人が渡す。役立が撃つ! 装甲車の姿が噴煙で消える。海人が最後のRPG3器を役立に渡した。 役立は装甲車を破壊したか、目を凝らすが、遠ざかるトラックからは見えない。闇だけだ!「クンさん。当たったか分からない」役立がマイクに言った。 バックミラーを見たクンが言った。「追って来ていない。あと5分でトンネルだ。いずれにせよ、バレた。戦闘態勢維持だ!」クンが告げた。 ムボンがライフル銃の銃床でフロントガラスを砕く。顔に冷えた空気が当たり、火照った頭を冷やしてくれた。ムボンが狙撃ライフル銃をフロントに突き出した。 トラックは漆黒の闇を疾駆した。‶闇を行く!″ それだけは予定通りだった。 トラックが公道のトンネルに近づいた。トンネルの入り口の薄明りの中、4人の兵士が道を塞ぎ、AK自動小銃で狙っていたのが見えた。100m手前で、クンが速度を落としトラックのライトを消すと、ムボンが狙撃ライフルを撃つ、撃つ、撃つ、撃つ。 兵士たちが倒れたのを確認したクンは、トラックを加速させた。「入り口の兵士たちを無力化した。これからトンネル内のトンネルに行く。だが、トラックから降りるのは公道のトンネル内だ。そこから南進トンネル入り口まで走る。そこにも敵はいるかも知れない」クンがマイクに告げると、トラックはトンネル内に入った。 この先20mで右折すると、南進トンネルの駐車場だ。クンはトラックを停車させた。と同時に、皆がトラックから降り、クン、ムボン、海人、役立と縦列になった。 南進トンネル内から車のライトの照明が伸びていた。敵がいた! クンが顔半分出して駐車場を覗く。南進トンネルの入り口両脇に四輪駆動車2台がライトを点けて、公道を照らしていた。兵士の人数は確認できない。「ムボン。2台の車の照明を撃ってくれ」クンがムボンに耳打ちした。 ムボンがクンに代わり、前に出た。ムボンが躍り出ると、伏せてライフルを撃つ。車の照明が消えた。と同時に、車の方から一斉射撃だ! 自動小銃の射撃だった。 ムボンは転がり、向こう側の壁に身を隠す。「敵は4人」ムボンが言った。「RPGをかます。と同時に一斉反撃して突入する」クンが言った。 役立がクンにRPGを渡す。「行くぞ!」と言うなり、クンが半身を出し、RPGを撃ち放した。1台の車に当たり、ひっくり返った。焔立つ! ムボンとクンが駐車場に突入し、撃ちまくる。敵の銃弾も放たれる。役立も転がりながら、クンの横に行き、自動ライフルを乱射する。ムボンが手榴弾を投げる。もう1台の車のところで爆発した。 海人が公道の前と後ろに目をやる。後ろの方に車のライトが近づいて来るのが見えた。「追手が来た!」海人が大声で告げた。 クンらが撃ちまくった。そしてクンが怒鳴った。「敵の反撃が無い! トンネルに突入だ! 追手が着く前に! 先生!」「今行く!」海人が駐車場に走った。南進トンネル入り口前で燃えている車を目がけて、50mほどだったが。南進トンネル入り口にクン等3人が待っていた。 追手の装甲車が駐車場に現れた時、クンが入口扉の鍵部分を撃ち、ムボンと役立が扉を開ける。「先生と役立さん。ここはムボンと俺に任せて、先に行ってくれ」クンが言って、ムボンと防御姿勢をとった。「先に逃げる。100mのところで待っている」役立が言って、海人の背を押した。「了解した」クンが答えて、AK自動小銃を撃つ。が、弾切れだった。すかさずムボンが手榴弾を投げる。クンが弾倉を取り替えると、装甲車からの機関銃弾が扉を破壊する。「ムボン! 俺たちも逃げるぞ!」と言った時、クンの肩を機関銃弾が抉った。「クン兄。どうした? 逃げないのか?」「肩をかすめ撃たれた。俺の顔に暗視ゴーグルをかけてくれ」少しよろめいたクンが答えた。それを見たムボンが最後の手榴弾を装甲車に投げる。「クン兄。トンネルにランタンが点いているよ。暗視ゴーグルは要らないよ」そうムボンが言って、クンの腕を支えてトンネルの奥へ後退(あとずさ)って行く。「ムボンよ。俺の手榴弾を使え」 ムボンがクンのベルトから手榴弾3個を取る。「クン兄。先に逃げてくれ。この手榴弾で入り口を崩落させる」「分かった」クンがよろよろと背を向け奥へと歩を向けた。 装甲車は1台ではなかった。ガンガンと撃ってくる。ムボンの体をかすめて弾光が走る。ムボンも急ぎ後退る。70m離れた時、入り口目がけて手榴弾2個を投げた。爆風がムボンを襲ったが、機関銃弾とAK自動小銃弾がトンネル内をビュンビュンと飛ぶ。崩壊していない! ムボンが100mほど後退ると、防弾盾2枚がムボンの前に立った。数発の銃弾が、その盾に当たった。「クン兄。逃げろ!」ムボンが後ろを振り返った。「シジュンよ! 私だ!」親父だった。「親父!」ムボンは驚いた。「このまま後退するぞ。私は地雷を置く」親父が後退しつつ、首からぶら下げた袋から対人地雷に信管をねじ込み、1個づつ床に置いて行く。「クン兄、役立さん、先生は?」銃弾音が飛ぶ中、ムボンが訊いた。「クンは肩を負傷している。皆を洞窟に行かせた」親父が答えて、地雷を置く。 トンネル内に敵兵士が入って来たのが、自動小銃音で分かった。 ムボンがライフル銃の弾倉分を一気に撃つ。「シジュンよ! あと100m下がったら、敵は地雷を踏むはずだ。盾を背に背負え! 私は後ろから続く。トンネル内は縦列、人ひとりが列をつくるはずだ」「親父! 了解した!」ムボンが盾を背にして走る。袋の地雷を空にした親父も続く。 親父とムボンが300ⅿ後退した時、後ろで地雷が連続して爆発した。トンネル内が共鳴し、爆風が2人の背を襲う。トンネル内で地鳴りがした。「シジュン! 急げ! 崩壊している!」「親父! 武器庫をどうする?」走りながらムボンが訊いた。「私たちが洞窟に戻ったら、十鳥さんが爆破することになっている」親父も走りながら答えた。また後ろで地雷の爆発音がし、トンネルの床が揺れたが、爆風は追って来なかった。(続く)*このブログ冒険小説はフィクションであるが、事実も織り込み描いているつもである。*次回が(最終章)となる予定である。
2022年04月25日
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写真日記 Huちゃん 写真日記 を転載しました。珠玉の写真ブログです。 ブログ冒険小説『官邸の呪文』(11)(この物語に登場する人物、団体名等はフィクションである) 主な登場人物 ・十鳥良平(とっとり りょうへい)前職は検察庁釧路地検検事正。現在は札幌の私大法学部教授・堀田海人(ほった かいと)札幌の私大考古学教授・榊原英子(さかきばら えいこ)海人の大学の考古学準教授・役立 有三(やくだつ ゆうぞう)元警視庁SAT隊員 十鳥教授の助手・堀田陸人(ほった りくと)資源開発機構研究所所長 海人の兄・森倍 昭双(もりべ しょうぞう)首相・水流 侃(すいりゅう かん)官房長官・田森 博史(たもり ひろし)副官房長官(首相の側近)・南 慈夫(みなみ しげお)国家安全保障局(NSS)局長(首相の側近)・中井 直樹(なかい なおき)首相秘書官(首相の側近)(11)居酒屋UNOMI 「お元気で良かった。待っていたわ」 底抜けに明るい表情、天然の所作、満面の笑みで首相夫人は中央のテーブルにやって来た。 お店の入り口で、スタッフが検温器でチェックし、消毒液を客の両手にかけていた。会員制のこの店は、会員2名の推薦、または同行であれば初めての客も入店できる。 テーブル席には首相夫人と同年配の女性客3人がいた。首相夫人が女子高校時代からのお友達2人と連れの女性ひとり。「私も同席させてただくわ」首相夫人が空いた椅子に座った。そして連れの女性を見た。「あら、初めてお会いしますね。まあお美しい」 すかさず、お友達の女性が紹介する。「そうね。初めてお連れしましたよ。こちらは大学時代の友人で文学者ですよ」 連れの女性が首相夫人に挨拶した。「甲斐陽子と申します。首相夫人にお目にかかれて光栄です」 甲斐は知人に頼み、この店、首相夫人に会いに来たのだった。「私こそよろしくお願いしますわ。美しいお方で文学者の甲斐さんは、日本の文学?」首相夫人が外連味なく率直に訊いた。「ええ、日本文学なのです」甲斐が応えた。 隣席のお友達が言う。「甲斐さんは、R大学文学部の非常勤講師もしていますよ」「あら、私が10年前に社会人入学し、大学院修士学位をいただいた大学ですわ。その時も甲斐さんは、講師をされていたのですか?」首相夫人が訊く。「ええ、その頃も非常勤講師をしていました」甲斐が応えた。 首相夫人が訊く。「そうなの……非常勤でなくても……もったいないわ。どうして?」 甲斐は首相夫人の間の空く言葉を繋いだ。「10年前は常勤希望でしたが、私の能力が足りませんでした」 首相夫人が首を振り言う。「甲斐さんと10年前にお付き合いしていたら、お役に立てられたわ」 お友達のひとりが口を挟む。「難関の教授会とかがあるわよ」 首相夫人が言い放った。「だって私立よ。理事会が決定権を持っているわ」 言い終えると、女性のSPが首相夫人の傍に来た。「総理夫人。お電話が入っています」「そう。主人かしら」と首相夫人が言って、SPと共に店奥に去った。 数分後、ウエイターが料理を配膳した。4人分。 この数分後、首相夫人が戻って来た。SPの女性は店の奥に残し。「総理夫人って、何かと不自由だわ。甲斐さん」 店奥で何があったのか? 秘書兼のSP(夫人秘書は3人いる)が、甲斐陽子の身元調査を官邸秘書課に伝え、真実かつ安全(反政権と無関係)を確認していた。 それと首相夫人の言葉である‟お役に立てられますわ”に、イエローシグナルを出していた。誤解される恐れがあります、と。 食事が進んで行く。会話を避けつつ。 だが、首相夫人が口を開いた。「甲斐さん。どうお。美味しいかしら?」 甲斐が笑みで応えた。「とても美味しいです。シェフの主張が味に伝わっています。美味しいでしょう、って。どれも美味しいです」甲斐は意図的に‟美味しい”を3回使った。「そうでしょう。オーナーのこだわりですから。そうよね?」お友達のひとりが首相夫人に言う。「まあ嬉しいですわ。甲斐さん。これからも来てね。今日から会員になりましたわ」「ええ、今後もよろしくお願いいたします」甲斐が応えた。 首相夫人が心弾む。「皆で、私のスマホで写真撮ってFBに載せて良いかしら?」 お友達が応える。「良いけど、タイトルは?」 首相夫人が少し考えて応えた。「男たちの悪巧み、でなく“戦い前の女たちの悪巧み”では如何?」「戦い前って、どういう意味なの?」お友達が訊く。 首相夫人が、一瞬、躊躇って言った。「そうね。戦いって、戦争みたいだわね。何となくそう思ったのよ。意味なく付けたのよ」「そうよね。甲斐さん。FBに写真が載っても良いよね?」お友達が訊く。「ええ、光栄です」甲斐が応えた。 だが、甲斐は首相夫人の内面を覗いていた――首相夫人の一見天然な言葉には、蓋然性も想像性も感じられないわ。‟戦争みたいだわね。何となくそう思ったのよ”は、脳裏に記憶した‟事実”の発露の言葉だわ。 この会話の時に、例のSPは来なかった。総理夫人のイエロー言葉集(要注意の)の中に該当する言葉が無かったからだった。 (続く)*登場人物の甲斐陽子は、『海峡の呪文』に登場した新宿歌舞伎町にあるスナック「飛鳥」のママである。ミハイル、白鳥教授と繋がり、十鳥が一目惚れしている女性だ。
2020年06月22日
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