「思考と直覚」英国19世紀の思想傾向(百三十三) 19世紀を前にしてのイギリスでは専ら社会を自由競争の場とする思考を展開します。もはや、哲学は人間存在の有為から遠ざかって社会的動物としての人間の生き方を指し示す道標としての思考が優先されます。特に古典派経済学の雄アダム・スミス(Adam Sumith/1723-1790)は社会を専ら個人的利益の場、其れを求める個々の人間の集団との立場から自由競争を擁護し、労働価値説の礎を築きます。其の思想傾向を哲学で応じたのが「快楽や幸福をもたらす行為が善である」、即ち、「正しい行い」とは、「効用」を最大化するあらゆるものだと言う理論「功利主義」を唱えるジェレミ・ベンサム(Jeremy Bentham/1748年-1832年)です。ベンサムによれば、正しい行為や政策とは「最大多数個人の最大幸福」(the greatest happiness of the greatest number)をもたらすものであると論じ、もはや人間存在の内精神の深層どころか人間の他生物との格別の理性をも卑小化して、当時の英国ブルジョアジーを標準的人間と看做し、外感覚的で物質世界の虜に在る其のブルジョア的秩序を理想的社会秩序と捉えています。1832年に他界したベンサムはイギリスだけでなく、世界各国で自身の社会的・政治的功績を認められた哲学者。フランスでは名誉市民として表彰されたり、ヨーロッパから遠く離れた中米にあるグアテマラの指導者ホセ・デル・バレが「ベンサムは世界の立法者である」と評したように、人間の有為を説くところの哲学者ではなく、後継の帰納的倫理学では功績をあげるも観念論を形而上学からますます遠ざけた実証主義者ジョン・スチュアート・ミル(John Stuart Mill/1806年-1873年)はイギリスの哲学者で、社会思想家、経済思想家でもあり、社会民主主義・自由主義思想に多大な影響を与えた。ベンサムの唱えた功利主義の擁護者を見るように、思想は外感覚的で物質世界の様相をみせます。哲学が人間の内面生活を顧みなくなったのです。ニーチェの「神は死んだ」を予感させています。