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は下町、50円玉を握り締めて全力疾走で駆け出す。目指すは「はりまや」。何のことはない、
たこ焼き屋である。焦るのには訳がある。早く行かないとすぐに席を占領されてしまう。たこ焼
あり、仲間と密かな相談をする大切な場所でもあった。狭い店はオヤジ一人で切盛りしてい
る。5~6人も入れば店は満杯状態になる。子供にもやたらと愛想がいいオヤジで我ら悪童仲
間の評判もすこぶるよい。まさしく行きつけの店である。当時は10円でたこ焼き6ヶが買えたも
ので、50円あると30ヶも食べられる訳で、十分満腹感を味わえることができた。ここのオヤジ
の良いところは焼きすぎたりして硬くなったり、こげた物は売らない。残ったそのたこ焼きを我
ら"上客"に2~3個ずつ、サービスしてくれるのだ。些細な事ながらこれは子供に取っては非常
に嬉しいもので、以後注文する時は「おっちゃん!固め、こげたやつ入れて!」。するとオヤジ
は決まってサービスしてくれる。31個目が入ると自然と顔がほころぶのであり、何とも言えない
充実感が小さな心を満たす。世間一般のたこ焼き屋の中身は蛸、テンカス、生姜のみでここ
はそれになんと蒟蒻、干し海老が含まれており、単純、明快な我々はここのたこ焼きは大阪で
一番やなと仲間自身でやけに納得し合っていたものだ。ただ一つ我々には不満があった。ガ
スで焼かないのである。なんと炭火で焼く。古臭いな。時代遅れやな。と仲間同士でほざいて
いたが、今から考えるとすこぶる贅沢なたこ焼きを食べていた訳で、「おっちゃんなんで炭なん
かでやいとんや?」「ガスないんか?」子供の言葉は残酷である。ただただオヤジは笑いなが
らもくもくとたこ焼きを焼いていた。額に汗の玉を浮かべた横顔は記憶の片隅に残っている。も
っともそのお陰で調節ができず、焦げたたこ焼きが我々に廻ってくるのであるからこれほどあ
りがたいことはない。のみ放題の"水"を飲みながら、無造作に詰まれた漫画を読む・・・。この
上ない幸福感の絶頂を味わっていると、やがてテレビからお馴染みの曲が流れる・・・。「吉本
新喜劇」の始まりであり、たこ焼きを食べながらがら吉本を見る。これぞ大阪人の土曜日の午
後の典型的な過ごし方である。炭火焼きの贅沢なたこ焼きを食べさせてもらった「はりまや」
は、今はもうない。