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2026.06.06
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カテゴリ: 読書案内



【 原田宗典 / おきざりにした悲しみは 】


こちらの筆頭管理人も、すでに前期高齢者と区分される社会的立場となりました。
いずれ私も近い将来その領域に達するので、傍観者のような立場ではいられません。
作者である原田宗典は、同じ世代ということもあり、筆頭管理人も何か思うことがあったのでしょうか。
『おきざりにした悲しみは』が令和6年に発刊されてすぐに購入したそうです。
その後すぐにそれを私に貸してくれたのですが、読む機会を逸して今に至ります。
最近になって「そろそろ返して欲しい」と言われ、読まずに返すことは私の読書人としての信念が揺らぐため、慌てて読んだ、と言うのがこれまでの経緯です、はい。
では、ここから本題ーーー

原田宗典の作品は、初期の『優しくって少しばか』を読んだことがある。
現代版の雨月物語をイメージさせる怪異的な作風だった覚えがある。
そのインパクトが強かったせいもあり、『おきざりにした悲しみは』を書いた作者が同一人とは信じられなかったと言うのがホンネである。
『優しくって少しばか』に収められた「雑司ヶ谷へ」のインパクトはスゴいものがあった。恐怖心を煽るような、ホラーチックな作風でもあったからだ。
それだけに人間も加齢とともに、良くも悪くも変化していくのだということを証明したとも言える。

『おきざりにした悲しみは』のあらすじはこうだ。
現在、65歳の長坂誠は、バツイチ独身。
酒とドラッグに溺れた三十代を過ごした。
今は物流倉庫の仕事をしながらその日暮らしをしている身だ。
もともとは絵を描く才能があったことから、絵描きとして身を立てるつもりだったが、上手くはいかなかった。
食べるためにはいろいろやった。
最近は官能小説を書いてみたりしたが、締切に間に合わず、結局、創作意欲を失った。
疎遠になっていた父親が、いよいよ危ないという連絡を妹から受けた。
両親はもうずいぶん前に離婚して、父は大阪の老人ホームに入所していた。
そんな折、玄関扉の脇に設置してある洗濯機の水道から水を盗もうとした隣人のことが気になった。
アパートの隣の住人は、本来なら母親と中学生の娘、小学生の息子の母子家庭のはずだが、どうやら母親が不在のようだ。
異常な蒸し暑さの中、電気が止められているようで、冷房もついておらず、夜も真っ暗だった。
水も止められているのかトイレが流せず、異臭が漂っている。
気になって隣の子どもたちに「いっしょにカレーを食べよう」と声をかけた。
話してみると、どうやら母親が姿を消して20日ぐらい経つようだった。
娘は真子と言い、弟の方は圭と言う名で自閉症があるとのこと。
警察に通報したらどうかと提案してみるが、激しく拒否され断念。
こうして長坂と隣の住人である姉弟との奇妙な生活が始まった。

この作品は、つくづく読者を限定していると感じた。
おそらくはこちら吟遊ブログの筆頭管理人を含めた同世代の方々に向けた、ハートフル・ストーリーである。
まず冷静に読んでいると、読者は必ず疑問が生じるはずなのだ。
このご時世、東京の郊外とは言え、アパートの隣人のことなど気にとめるだろうか?
百歩譲って、隣人の尋常ならぬ状況に同情を隠せず、一度や二度の食事の差し入れぐらいはしても、自分が生きるだけで精一杯なのに、何日間も他人の子どもの面倒をみることが可能だろうか?
まずは警察への通報、あるいは児童相談所への連絡からではないのか?
等々、一般常識から言って、この作品の主人公の行動はだいぶ逸脱している。

だが、それでいい。
作者の原田宗典の根底に流れるのは、ある意味で幻想、夢と希望、摩訶不思議な世界観なのである。
これだけ世知辛い世の中なら、非情な現実から目を背けたくもなるし、なんならそんな現場から一刻も早く逃避したくもなるのが人間の性(さが)というものであろう。

吉田拓郎の奏でる四畳半フォークを愛する昔の若者たちは、純粋に過去への懺悔と孤独を受け入れる覚悟を持って生きているのかもしれない。
彼らは内容うんぬんより、同じ時代を生きた同志たちとの共鳴、残された人生への応援歌(エール)を聴くような感覚で、この作品と向き合っているのだと思った。
読者それぞれに可もなく不可もなく、感想があってよし。
あなたの感性が、この作品のすべてである。

『おきざりにした悲しみは』原田宗典・著(岩波書店)

※筆頭管理人から一筆啓上。

拓郎さんは「おきざりにた悲しみは」で歌います。


これが実に刺さるわけですなぁ(^^;)
このまま逃げられると思ったら大間違い。それに気づいた初老の男は、たいそう屈託しそして何かしらの思いを抱くわけです。ちっぽけではありますが、自分なりの宗教観、とでも言いますか・・・
作者と同じ歳の私は、拓郎さんのこの一節が小説のモチベーションになっている、そう確信しました。

1960年前後生まれで、たとえハンパな生き方をしてきても、我が越し方にきちんと向き合いたいと思う御仁は、どうぞご一読あれ!

それでね、あれこれ言ってますが、しじゅう鼻歌するほどの吟遊さんですから、さっそくギター片手に『おきざりにした悲しみは』を歌ったことはいうまでもありません(と思います、間違いない!)。


余談まで、吟遊さん若かかりしころのお話し。盛り上がったカラオケ会場で、意気揚々と「世情」を熱唱し、周囲の心胆を寒からしめたという逸話をお持ちです(^^;) それで本人は悦に入っていたというのですから、ホント吟遊さんらしいお話しです(*'ω'*)プププッ


★吟遊映人『読書案内』 第1弾(1~99)は コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾(100~199)は コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第3弾(200~ )は コチラ から


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最終更新日  2026.06.06 08:00:06


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