女教祖誕生

女教祖誕生

2024.12.02
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 旧教会は、比較的便利な場所にあった。買い物にも、デパートに

も歩いて行けた。

 「先生、出てきませんか」

 夜、時折、声がかかる。相手は、弁護士だったり、外科の先生、

税理士だったりする。

 「夜の街なのに、なぜ朝日町なのか」

 「朝まで飲むか、飲ませたい街だからだよ」

 なんだか、わかったような、わからないよう言葉がよく出る。

 「しかしだよね。医師と弁護士と坊主が揃ったら、この世は怖い

ものなし、だよなあ」

 誰かが気炎を上げる。なるほど、上手いこと言う。

酒には弱いがそのムードが好き。自分では音痴と思い込んでいた


から、カラオケも好きではない。教会では、祝宴などがあって、最後には「先生、一曲」と催促される。そろそろ時間と感じたら、いつも逃げ回っていた。そんな姿は、歌唱力抜群の妻には面白くない。

「あなたね、そんなに逃げてどうするのよ」

「音痴だから歌いたくないのだよ」

「それなら何か一曲を徹底的に歌い込みなさい。100回歌えば上

手になります」

 尻を叩かれて「無法松の一生」を、人知れずに、練習した。不思

議なもので、一曲マスターすれば、また他の歌も歌いたくなる。カ

ラオケが好きになった。今でも妻の叱咤激励に感謝している。

夜の街では石川さゆりの「天城越え」が流行り出した。この歌を

聴くと、米子の夜を思い出す。しかし、新教会に移転してからは、

歩いて行けず、当然ながら、以前より足が遠のいた。





額縁を完成させるのは、造園がいる。地元名士湊谷頼吉氏が、樹

木、石、灯篭など高価なものを寄進して陣頭指揮を取ってくれた。

「ひもろぎ」の株分け2本も会員がトラックで運んできた。涙の溢

れる献身で、額縁が完成した。

 落成式の前に駆けつけた影身祖は、新殿堂を見て、驚嘆の声を上

げた。


「さすが先生のことです。やることが違います」






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最終更新日  2024.12.02 05:52:43
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