あれこれ備忘録 ホスピス医のこころを支えるもの

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粗忽のたかびー

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2024.01.06
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カテゴリ: 緩和ケア


1/3に入院したBさんが今朝旅立たれた。
妻に先立たれてから10年、独居で何もかも自分でやってきた。長男、長女、次男の3人の子供もそれぞれ所帯を持つようになり、新年を子供、孫と迎えることを楽しみにしてきた。昨年7月に膵癌と診断され膵頭十二指腸切除を受けたが10月に肝転移、癌性腹膜炎で再発。化学療法は効かず肺にも転移が広がり、疼痛、呼吸苦、食思不振、嘔気が出現するようになり12月上旬にホスピスに紹介、中旬に入院した。

「何とか最後のお正月を自宅で過ごしたい。」
それがBさんの望みだった。

モルヒネとセレネースの持続皮下注射およびステロイドの点滴投与、インスリンの自己注射を一週間強で導入。
見事に呼吸苦、食欲不振、嘔気は改善、クリスマス前に退院した。12/28に訪問診療に行き、「先生、願いを聞いてくれてありがとう。」と手をあわせてくれた。
毎日、訪問看護とやりとりをしながら、モルヒネ、インスリンの調整をしつつ、元日の夜までは孫たちに囲まれいい時間を過ごしていたようであった。

2日の夜には、子ども、孫たちもそれぞれの家に帰ったらしい。しかし、「3日の未明から呼吸苦、疼痛、嘔気が悪化、自らドーズを1時間に1,2回しながら朝を迎えたらしい。」と、7時ちょうどにBさんから緊急訪問依頼を受け自宅に直行した当直看護師から、私の携帯にそう報告があった。

「最期はホスピスで過ごしたいそうです。」と訪問看護師。
Bさん、私、長男夫婦が9時には病院に到着、症状からは癌性リンパ管症が疑われた。
ステロイドパルス療法を開始、同時にモルヒネを増量して経過をみることとした。
長男夫婦には、奏功すればまた頑張れるが、数日でお別れになる可能性が高い、と説明した。

「子供3人だけで看取ってくれ、孫たちには頑張る姿を見せた。苦しむ姿は見せたくない。」と本人が言っているがどうしたら良いだろう、と長男夫婦。
上は高校生から下は小学校低学年までの孫7人。受け止める力には違いがある。でも、ここからがホスピス医の正念場である。

私達が天国に行った暁にはお父さんに怒られるかも知れないが、苦しまないように治療するから、生き様を最期まで見届けて貰うのが良いだろう、いのちは儚いものであることを教えて貰うのが良いだろう、と長男には説明した。

コロナはまた増えつつあるので、適切な感染対策をしながら、孫たちにも面会をしてもらった。皆がおじいちゃんの最期まで頑張っている姿を目に焼け付けていた。

そして今朝は子供3人で看取ることになり、Bさんの言いつけ通りになった。そして恒例のお別れ会。
「2日の夜までは、弱っていながらもほんまにしゃんとしてたんですわ。孫たちもいのちの尊さ、儚さを知ったと思います。」と長男さん。

いのちは儚いのです。 


シシリー・ソンダースとホスピスのこころ [ 小森康永 ]





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Last updated  2024.01.10 09:37:59
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