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心を病んだ医者が、友人の開業する海沿いの病院で、その家族と過ごす内に徐々に癒されてゆく情景が、朴訥な印象の語り口で綴られる。主人公に、自分の姿を投影したと思われる私小説だった。人の命を預かり、病を癒す手助けをする医者が、実はいかに無力であるかという一面を見たように思う。治る見込みの無い末期がん患者や、病む人の繊細な心理に寄り添って、治療を行っていく臨床医の重圧が、文面からずっしりと伝わってくる。最初の方で、発病の経緯を綴っているが、コントロール出来ない自分への歯痒さ、その脱力感まで吐露する作業は、辛くなかったのだろうか? 切り捨てたくなる自己と真正面に向き合おうとする姿は、痛々しい。著者の崩れそうになる繊細な精神も見てとれたが、それと同時に、作家としての彼の図太さ・逞しさも感じ取れる。友人家族も、それぞれがいろいろな悩みを抱えている。人は、生活信条や人生航路の舵取りの多くを、育った環境や家族の思想に影響されながら生きていることを改めて感じる。それを思うと、自分の子育てにも自ずと身が引き締まるような気がした。娘の千絵ちゃんとの会話が、清々しい清涼剤のよう。そのせいか読後感は、穏やかで爽やかだった。
January 31, 2008
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「薬指の標本」と「六角形の小部屋」、二編収録。繊細で緻密な描写によって浮き上がる、ミステリアスで幻想的な物語。依頼者から頼まれたあらゆるものを標本にして保管する、風変わりな標本技術士と、その仕事を手伝うことになった「わたし」。人々は、それぞれが持つ「永遠に封じ込めたいもの」を持ってやってくる。「封じ込める」という言葉自体に、時間がそこだけ踏みとどまり、化石のように堆積していくイメージが広がる。永遠に、何人にも犯されず聖域として保管しておきたいものって、私にとって何だろう?浴槽での二人の逢瀬は、背筋がぞくぞくするほど官能的。息が詰まりそうな束縛から、自ら「封じ込められること」を望んで変化していく「わたし」の心の移ろい。原作は、フランスで映画化されたようだ。映画も観てみたい。「六角形の小部屋」著者は、言葉に表現できないような繊細な心の移ろいを描写するのに、つくづく長けていると思う。以前読んだ「妊娠カレンダー」でも、独身の妹の妊婦の姉に対する心理描写は、圧巻だった。善意とも悪意とも解釈できる、頭では分かっていても心で割り切れないような微妙な心理って、人間には確かに存在する。語り小部屋になら打ち明けられる秘めたる想いも、人生を生きていくうちに埃のように堆積し、それぞれが抱え込んでいるのだろう。
January 28, 2008
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脳神経外科医が書いた本二冊、読了。多忙なのか、それとも歳のせいか良く分からないが、最近うっかり忘れ物をすることがある。友人と話していて、俳優の名前や地名・店名等を瞬間に言葉に出せないときもある。そんな時はかなり悔しく情けない。うっかりミスがないように、手帳に仕事や予定・行事等こまめに書き込み、何回か確認して抜けないように注意している。読んだ本や観た映画の詳細も、印象的なもの以外は時間とともにだんだんと忘れてしまう。このブログは、そんな健忘症気味の私の大切な備忘録となっている。(エキサイトでの料理ブログも同じだ。)最近、携帯やパソコン等の便利なツールに頼りすぎて、自分の脳を活用してないような気がしていた。この二冊では、そのような現代人の偏った脳の使い方について警告している。ついつい楽をしたがる脳を、いかに効果的に活動させるかのポイント。当たり前のようだが、生活リズムを崩さないこと。物事を言語だけでなくイメージで捉え理解する。体を動かし眼を使い耳を研ぎ澄ませて覚える。入力した情報を、自分の中で理解・消化し、人にわかりやすいように出力する経験を積む。睡眠の時間をしっかりとって頭の中を整理する。忘れてしまっても思い出す努力を最後まで怠らない。趣味でも仕事でも目標を持ち、それを達成する為のプランを組み挑戦すること。書かれていることは、極めて常識的で斬新さはないものの、納得させられる内容だった。家事、特に料理は脳を活性化させるのに有効であるとのこと。高齢でも頭も冴え充実した生活をされてる方は、私の周りでも性別を問わず料理達者な方が多い。同時に、数種類の料理を平行して作り、段取り良く仕上げていく工程は、手先も脳もフル活用しボケ防止に効果的だそうだ。使わないとどんどん衰えゆく脳と体を、これからいかにして鍛え活用させ、より楽しく充実した人生を送れるかは、個々人に委ねられている。ボケは脳の生活習慣病とも言われる。感情を豊かに、身近にいる人と温和に心穏やかに暮らす。意識して、バランスよく脳を使うように心がけたい。
January 10, 2008
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今年初めての読書は、お気に入り作家、伊坂幸太郎の最新作。首相暗殺の濡れ衣を着せられた男のスリリングな逃亡劇。500ページの長編なのに、一気に読ませてしまう迫力があった。どの章も無駄な箇所が無く、むさぼるように本を読んでしまった。スピード感があり最後まで展開が読めないので、どんどん読み進めていってしまう。周到にはられた伏線、インパクトがありちょっととぼけた会話。登場人物が個性的でそれぞれ魅力に溢れている。名前だけしか登場しなかった稲井氏までもが格好良かった!時間軸をずらしながら話が構成される(これは伊坂幸太郎が最も得意とする手だが)これ以上効果的な順序はないんじゃないかと思うくらい完璧に組み立てられている。読んでいて、ハラハラわくわくどきどきする。緊迫した展開の中、ふと笑いもこぼれるし、涙も出そうになる。時間が途切れて飛ぶ場面も、話の繋ぎがシームレスで違和感が無い。「やはり、この場面にこの話を入れてくるんだよね。納得!納得!」と読者の期待を裏切らない見事な構成力。著者の頭の良さに思わず唸ってしまう。文体は、徹頭徹尾映画を観ているような錯覚に陥る映像感がある。国家や警察権力という得体の知れない大きな組織を敵に回す恐怖感といったらない。マスコミのご都合主義的情報操作へのシニカルな批判も込められている。「人間の最大の武器は習慣と信頼だ。」登場人物の会話の中には、印象深いものも多い。読み終えたばかりだが、またすぐに彼の次作品を期待したくなる。文句なしに面白かった。
January 2, 2008
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本年もゆっくりの更新になると思いますが、よろしくお願いします。ブログを通して、いろいろな方の本や映画レビュー等拝見し刺激をいただき感謝しています。今年も、心を揺さぶられるような本や映画との出会いがありますように。今年の我が家のお節料理です。家族が勢揃いし皆元気に新年を祝うことができ、とても嬉しく思います。皆様も楽しいお正月をお過ごしください。
January 1, 2008
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