俺は海に来てよかったのか
浜辺で焚火を囲んでの歌と踊りの宴会が開かれています。
鹿門と黒白斎は少し離れた 岩場にいます
。海に向かって佇む鹿門に黒白斎が話かけますと、鹿門は黒白斎のほうを向きます。
黒白斎「若、お父君丹後守様は、この島によくお立ち寄りになりましたぞ。この先
の泉で月明かりの夜など、笛を吹いておられたものじゃ」
鹿門「爺、丹後守という人は、 どんな人だ
」
黒白斎「・・・ようお聞きくださいました。爺はそのお言葉をどんなに待っており
ましたか。・・・今そうして立っていられる若のお姿は、 お父君に生き写
し
、勇ましく、お優しいお心根まで、 そのままでございます
。・・・あな
た様のお母上様は、幼いあなた様を抱いて、めくら船におわしました」
鹿門「お二人共、 確かに右衛門大夫に殺されたのか
」
黒白斎「・・・・ はい
・・・」
そのことを聞き、鹿門は海のほうを向くと、
鹿門「右衛門太夫が、めくら船に乗り現われたとき、俺は両親の仇を討つというよ
り、奴らの非道ぶりを目の当たりに見て思わず戦った。・・・堺の船火事の
中死んでいった父、あの無残な死にかたをした父を、 一日とて忘れたことは
ない
。・・・ 俺はめくら船に乗った
。・・・ 小静を探すために船に乗った
。
・・・だが、この長い航海の間に、いつの間にか俺はめくら船、いや、 八幡
船の男になっていた
」
黒白斎「若・・・」
鹿門「・・・ 海が呼ぶ
。・・・丹後守という父が俺を呼んでいるのだ」
黒白斎はそれを聞き、うんうんというように首を縦に、鹿門が黒白斎のほうを向き訊ねます。
鹿門「 爺
、 俺は海に来てよかったのか
」
黒白斎「 よかったですとも
、よかったですとも。そのお言葉で、道休もうかばれま
しょう。亡き丹後守様も、どんなにお喜びのことか・・・」
海の彼方に目をやる鹿門の表情からは、迷いが消え晴れやかでした
。
続きます
。
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