全4881件 (4881件中 1-50件目)
2週間くらい前、キッチンにいてふと横を見たら、虫が大量発生していた。窓の下にも大量に落ちている。取りあえず、箒で集めてゴミ箱へ捨てた。その後調べてみると、羽蟻のようだった。どこから出て来たのか分からないので、しばらく様子を見ることにした。数日後、前よりは少ないものの、また出て来ていた。建物が食われている可能性もあると思い、AIで探した駆除専門業者に調べてもらった。ところが点検口の場所が分からない。取りあえず、畳敷きの部屋に点検口を作ろうとしてコンパネを切ってみたが、通気口のようなものがあって侵入できなかった。どうしたものかと思案していたところ、妻が点検口の場所を思い出してくれた。入ってもらったところ、床下がだんだん狭くなっており、肝心のキッチンまで行けないという。仕方がないので、いつも利用している建築業者に、キッチンへ点検口を作ってもらうことにした。ある日ふと見ると、壁のコーキング部分に小さな穴がいくつも空いているのに気が付いた。おまけにその穴から羽蟻が這い出しているのを見てしまった。ようやく侵入口が分かったのはよかったが、まずは塞がなければならない。そこで、コーキングをして何とか応急処置をした。多少はましになったものの、柔らかいため完全には侵入を防げない。そのうち床からも這い出してくるようになったので、そこもコーキングで塞いだ。業者に話を聞くと羽蟻は5月から6月にかけて発生し、その後は出ないという。白蟻は日中に大量発生して、その後窓際・照明周辺・床に羽だけ大量に落ちるという。筆者の家の状態に酷似している。次の週に点検してもらったところ、やはり柱が食われているようだった。そのため、柱に穴を開けて薬剤を注入し、周辺一帯にも予防的な薬剤散布をすることになった。今週、ようやく処置をしていただいた。その時に業者さんが薬剤を注入している時に音を聞かせてくれて、この音は木材の振動や羽の音で仲間に危険を知らせる役目があると説明してくれた。処置が終わった後現在まで3日経過してが、薬剤の匂いがなかなか取れない。時間が経てば収まると思っていたが、少し頭がくらくらするので、人体に全く影響がないとは言い切れないようだ。肝心の費用だが、10坪で8万円と少し割高な気もするが、仕方がない。これで取りあえず大きな心配はなくなったように思う。ただ、条件次第だが効果は5年くらいしか持たないようなので、油断はできない。最近の薬剤は昔のような強烈な有機塩素系ではなく、比較的人体や環境への影響を抑えたものが多いため、「長期間ずっと残留する」というタイプではなく、定期点検前提の運用になっているとのこと。筆者の家の場合「実際に営巣していた可能性」があるので、1〜2年ごとの点検はかなり重要で、油断は出来ないようだ。ということで、悩みは尽きないが、今回利用した業者は診断は無料とのことなので、定期的に点検を依頼しやすそうなのが、せめてもの救いだ。
2026年05月23日
コメント(0)

テナー・サックスのマーク・ターナー(1965-)のECMからの新譜「Patternmaster」を聴く。取り上げた理由は、以前聴いた「Return from the Stars(2022)」が印象的だったため。今回のアルバムは、ターナーのテナーとジェイソン・パーマー(1979-)のトランペットによる2管編成で、ピアノレスという変則的な構成。全体にさっぱりした肌触りで、聴後感がいい。オーネット・コールマンを思わせるフリー寄りの演奏と、ショーター時代のマイルス・クインテットのサウンドが混じり合ったような音楽だ。全体にクールなサウンドだが、テナーとトランペットの音色が柔らかく、オーネットのような刺激の強さがないことが聴きやすさにつながっている。ターナーはテナーながら細身のサウンドで、パーマーも柔らかく細身の音色のため、両者の相性はかなり良い。どちらも押しの強いタイプではなく、ターナーのオリジナルと相まって、清潔感のある音楽性と、音が途切れた瞬間に現れる空間の響きが心地よい。彼らを支えるベースのジョー・マーティンとは2000年代初頭からの付き合いで、「Lathe of Heaven(2014)」から正式メンバーとして参加。ドラムスのジョナサン・ピンソンは、前述の「Return from the Stars」からの参加のようだ。ピンソンのドラムスは手数が多いが、うるささはなく、音楽にビート感と緊張感を与えている。全曲ターナーのオリジナルだが、ヴァラエティに富んでいる。過度にシリアスにならず、ときおりユーモアさえ感じさせるところは、オーネットにも通じる。全編を通して水準の高い演奏だ。ショーターの「ピノキオ」のコード進行に基づいた「Patternmaster」は、バップ風のテーマとハーモニーのミスマッチが新鮮。ベースの強靭で深みのあるサウンドが魅力的な「Trece Ocho」。「It Very Well May Be」は、テンポが頻繁に変化し、ぎくしゃくした感触のテーマながら疾走感のあるユニークなトラックだ。トランペットとテナーによる比較的長めのソロが聴きもの。彼らのソロを力強く支えるベースとドラムスのバッキングも見事だ。ベースソロから始まる「Lehman's Lair」は、サスペンス調のテーマが印象的で、テナーとトランペットの絡みがなかなかスリリング。エンディングでのホーンによる複雑な急速音型のユニゾンも、静かな興奮を呼び起こす。ミディアムテンポの「The Happiest Man On Earth」は、マイルスの「オール・ブルース」の跳ねるリズムを思わせる曲。テンポは一定だが、2ホーンによる不協和音が不思議な感覚を生む。ホーンのソロはいずれも落ち着いたものだが、トランペットが突然激しさを見せる場面がアクセントになっている。最後の「Supersister」は、彼のFlyというトリオの「Sky & Country(2009)」に収録されていた曲で、当時約10分だったものが12分に拡張されている。曲自体は、忙しなく動くドラムスに乗ってテナーがソロを展開する構成だ。「Sky & Country」でドラムを担当していたのはジェフ・バラードだった。彼はシンバルワークを控えめにし、時にマレットも用いており、個人的には今回より優れたパフォーマンスだったと思う。そのためか、今回の演奏ではシンバルによる細かなビートがやや煩わしく感じられる。今回は「Sky & Country」の演奏にトランペットが加わり、サウンド、音楽ともに豊かになった。しかし、曲そのものは暗いムードが強く、あまり面白いとは感じられなかった。アルバム全体の出来はかなり良いが、最後の「Supersister」の印象によって、やや評価を下げてしまったように思う。録音は極めて鮮明で、各楽器のサウンドがヴィヴィッドに伝わってくる。Mark Turner:Patternmaster(ECM ECM 2835)Mark Turner:1. Patternmaster2.Trece Ocho3.It Very Well May be4.Lehman's Lair5.The Happinest Man On Earth6.SupersisterMark Turner(ts)Jason Palmer(tp)Joe Martin(b)Jonathan Pinson(ds)Recorded April 20, 2024,Studios La Buissonne, Pernes-les-Fontaines, France
2026年05月21日
コメント(0)
政府は2026年5月、この制度を盛り込んだ著作権法改正案を閣議決定したという報道を知った。これは、CD・配信音源・ストリーミングなどを店舗や施設でBGMとして流した際、これまで十分な対価を受け取れなかった歌手・演奏家・レコード会社にも使用料を分配できるようにする新たな権利とのことだ。文化庁によると、同種制度は既に142の国・地域で導入済みで、日本だけ制度が不十分だったため、海外で日本の音楽が使用されても、日本人実演家に十分な対価が支払われない問題があったという。つまり、国際水準に合わせる動きということになる。ミュージシャンにも使用料が分配されること自体は望ましいと思うが、一方で意外な弊害もありそうだ。対象は、喫茶店、ホテル、商業施設などの「公の場」やイベント会場での音楽利用を指している。音源はフィジカル媒体だけでなく、配信音源なども含まれる。導入にあたっては、さまざまな問題が予想される。例えば、小規模店舗の負担増、飲食店のBGMコスト増、「既にJASRACへ支払っているのにさらに徴収されるのか」という二重取り感、街中でのBGM減少などが挙げられる。そのため、小規模事業者への減免や、非営利・無料利用の除外なども検討されているようだ。CDやレコード1枚ごとに逐一課金することは現実的ではないため、店舗種別、面積、客席数、利用形態、営業規模などを基準に決められるようだ。JASRACによる徴収と同様に、指定団体が一括徴収し、その後分配する形になるらしい。厄介なのは、「伝達権」という言葉が含まれている点だ。これは、単なる音源再生だけでなく、「音を公衆に聞かせる行為」全般を対象に含めたい意図があるようだ。そのため、コンサート会場での開場中のBGM、休憩時間の音楽、開演前アナウンス後のSE的音源、終演後の退場BGMなども対象になるとみられる。この場合、ホールや興行主などが徴収対象になる可能性が高い。結局、分配は統計に頼らざるを得ず、チャート上位の楽曲ばかりが恩恵を受ける偏った結果になってしまう。これは従来から問題視されているようだが、精密な調査が不可能である以上、避けられない現象なのだろう。音楽鑑賞そのものが主目的ではない一般店舗のBGMについては、とりあえずAI生成音楽で代替できる部分もありそうだ。しかし、音楽を聴かせること自体が価値となっている施設には影響が出る気がする。ジャズ喫茶は、その代表例だろう。店舗数の減少も進んでおり、最悪の場合、この業態自体が消滅する可能性も考えられる。栄枯盛衰は世の習いなので仕方のないことではある。それでも、なんとかこの日本独自の文化だけは残ってほしいと思う今日この頃だ。
2026年05月19日
コメント(0)

最近注目しているサントゥ=マティアス・ルーヴァリのシベリウスの新譜を聴く。今回はヴァイオリンのアヴァ・バハリを迎えてのヴァイオリン協奏曲と《四つの伝説曲》という組み合わせ。どちらも劇的で濃厚な味わいで、シベリウス特有の北欧の寒々とした景色というより、熱いシベリウスが展開される。アヴァ・バハリは1996年スウェーデン・ヨーテボリ生まれのイラン系スウェーデン人だそうだ。サウンドは透明だが線の細さは感じられず、確信に満ちた表現で、良い意味で押し出しの強さを感じる。そうでなければ雄弁なバックに埋没してしまっていたかもしれない。バハリの演奏は充実したサウンドと確信に満ちたフレージング、何よりもその熱気が実に素晴らしい。今回の組み合わせは単なる話題性ではなく、ルーヴァリのサウンドに適したヴァイオリニストとして選ばれたように感じる。結果として両者の個性が見事に融合し、非常に完成度の高い協奏曲となっていた。ルーヴァリの指揮も、意外な箇所での強調など新しい発見があり新鮮だ。参考までにジャニーヌ・ヤンセンの第3楽章の演奏を聴いたが、リズムが曖昧に感じられ、がっかりしてしまった。《四つの伝説曲》は、「トゥオネラの白鳥」以外はまともに聴いたことがなかったはず。これらも分厚いハーモニーと鮮烈なサウンドによる大変充実した演奏だった。ルーヴァリ一流の彫りの深い劇的演出も効果的で、こんなに面白い曲だったのかと目から鱗の演奏だった。特にレンミンカイネンが冥界で殺される場面を描いた「トゥオネラのレンミンカイネン」は、暗くどす黒い殺気が感じられる凄味のある演奏で、不協和音の強調とともに聴き手の心にグサッと突き刺さる。実に恐ろしい音楽だと実感する。レンミンカイネンが殺され、川に投げ込まれた後の死と冥界の静寂を描いた場面も、それまでの痛ましい場面のあとだけに一層印象深い。死から蘇ったレンミンカイネンの帰還を描く「レンミンカイネンの帰郷」も印象的だ。爆発的な演奏だが、帰還の喜びを表すというより、まだ死を引きずっているような影が感じられる。しかし曲が進むにつれて、喜びがあふれていくレンミンカイネンの心情が伝わってくるような演奏だった。やはりこの人の劇的な演出力は、他の指揮者に比べてもずぬけている。録音は圧倒的な量感がありながら透明感も十分で、シベリウスの音楽を存分に堪能できる。Sibelius:Violin Concerto - Lemminkäinen Suite(Alpha ALPHA1215)24bit 96kHz FlacSibelius: Violin Concerto in D minor, Op. 47 Sibelius: Lemminkäinen Suite, Op. 22 I. Lemminkäinen and the Maidens of the Island II. The Swan of Tuonela III. Lemminkäinen in Tuonela IV. Lemminkäinen's ReturnAva Bahari(vn track 1-3)Gothenburg Symphony OrchestraSanttu-Matias RouvaliRecorded in September 2024 (Lemminkäinen Suite) & April 2025 (Violin Concerto) at Gothenburg Concert Hall, Gothenburg (Sweden)
2026年05月17日
コメント(0)

ミーシャ・ツィガーノフの2024年リリース作「Painter Of Dreams」を聴く。最近特に気に入っていて、繰り返し聴いているアルバムだ。Criss Cross盤は価格が高めでなかなか手を出しにくいので本作は確かバーゲンで入手した記憶がある。ミーシャ・ツィガーノフは1969年、ロシア・サンクトペテルブルク生まれ。音楽院卒業後、1990年代にアメリカへ移住し、現在も当地を拠点に活動している。ロシア出身とは思えないほど、アメリカ西海岸のミュージシャンを思わせる明るく開放的な作風が特徴で、しかも非常にメロディック。ジャズの醍醐味をビビッドに伝えてくれる音楽だ。一方で、楽曲構造はかなり複雑で、おそらくロシアの名門サンクトペテルブルク国立音楽院仕込みの作曲技法が生かされているのだろう。緻密なスコアと名手たちによるアドリブが融合したサウンドは、個人的にはSFJAZZ Collectiveを思わせる部分が多い。実際、サックスの2人とベース奏者はSFJAZZ Collectiveのメンバーでもあり、そう感じるのも自然だと思う。プログラムは6曲のオリジナルと2曲のスタンダードで構成されている。オリジナル曲はいずれも完成度が高く、複雑な構成を持ちながらも非常にメロディックで、聴き手に自然と入り込んでくる。タイトル曲「Painter Of Dreams」は、リリカルなメロディとホーンとヴォーカルのユニゾンが実に心地よい。後半のアルトとトランペットのバトルも聴き応え十分だ。ホーン陣は突出したソリストを作るというより、3者が均衡の取れた素晴らしい演奏を繰り広げている。 Alex Sipiaginはやや細身ながら、フリューゲルホルンを思わせる柔らかな音色とメロディックなソロが印象的だ。2人のサックス奏者は言うまでもなく大御所で、安定感抜群。通常はテナーとアルトが並ぶとアルトが埋もれがちだが、本作ではそのような印象は全くない。ジョナサン・ブレイクのドラムスも貫禄十分で、「Up Journey」でのパワフルなプレイが特に耳を引く。また、「April」後半で繰り広げられる息詰まるようなサックスバトルも大きな聴きどころだ。オランダ出身の女性ヴォーカリスト、ヒスケ・オオスターワイクは、フィーチャーされるというよりホーンとのユニゾンで用いられる場面が多い。その独特のヴォイシングは、どこかダーシー・ジェームス・アーギューを思わせる。ツィガーノフ自身のプレイは全体にリリカルな方向性が強く、アコースティック・ピアノの出番はそれほど多くない。はっきり前面に出ているのは、「Up Journey」「Painter Of Dreams」「Seeley Street Song」あたりだろうか。ラテンテイストの「Chain Of Events 」もアクセントになっていて、悪くない。2曲のスタンダードも凝った編曲が施され、実に楽しい。「Long Ago And Far Away」では、トランペットとアルトが奏でるテーマがシンコペーション処理され、不思議なバウンス感を生み出している。スピード感溢れるアルト・ソロにフェンダーローズのコンピング、それをプッシュするドラムスも聴き応え十分だ。最後の「I Loves You Porgy」は遅めのテンポで進み、ホーンのハーモニーが聴き手を夢心地にさせる。この曲でもツィガーノフのフェンダーローズとミニムーグの使い方は絶妙で、特にミニムーグの饒舌なフレーズが強い印象を残す。ということで、ツィガーノフを初めて聴いたが、演奏・楽曲ともに充実しており、優れた編曲センスが光る、耳だけでなく知的好奇心も満たしてくれる満足度の高いアルバムだった。録音も刺激的な音を強調しない自然なサウンドで、楽器の分離も良好で、この充実した演奏にふさわしい仕上がりになっている。未聴の方には是非お聴きいただきたい傑作だ。yutube Misha Tsigaonv:Pinter Of Dreams(Criss Cross Jazz CRISS1421CD)24bit 96kHz Flac1. Misha Tsiganov:Elusive Dots 12. Misha Tsiganov:April 3. Misha Tsiganov:Up Journey 4. Misha Tsiganov:Painter Of Dreams 5. Jerome Kern:Long Ago And Far Away 6. Misha Tsiganov:Seeley Street Song 7. Misha Tsiganov:Chain Of Events 8. George Girshwin:I Loves You Porgy Misha Tsiganov(p)Miguel Zenon(sax)Alex Sipiagin(tp)Johnathan Blake(ds)Matt Brewer(b)Guest:Chris Potter(sax)Hiske Oosterwijk(vo track track 2, 4,6,8)Recorded January 6, 2024、at Samurai Hotel Recording Studio, Astoria, New York City
2026年05月15日
コメント(0)
連休前に泳ぎに行っていて、肩と手がだいぶ痛くなった。その前から、泳いでいる途中でも肩が痛くなっており、だましだまし使っていた。ところが今回は、さすがにダメかと思い、スイミングを休んで鍼灸や整骨院に行った。その間もAIに症状について相談したところ、インピンジメントだろうという結論になった。この症状は、肩の隙間が狭くなり、腕を動かす際に腱や筋肉が挟まれて痛みや違和感が出るというものだ。MLBの佐々木朗希が昨年この症状を発症し、しばらくDL入り(現在はIL:Injured List=故障者リスト)したことを思い出した。筆者の場合は突然なったわけではなく、持病のようなもので、痛みが出るたびに注射を打ってもらったり、湿布を貼ったりしていた。しかし最近は、それらがほとんど効かなくなっていた。今回は本格的に痛くなってしまったので、いつものようにAIで相談したところ、インピンジメントらしいことが分かった。それまでは、痛くなると妻に踏んでもらったり、湿布を貼ったり、寝るときに指圧器を使ったりしていた。しかし朝起きると、かえって痛くなっていることも度々あった。AIに聞いたところ、これらの処置は逆効果で、痛みが出る手前まで動かしながら回復を図るのが基本だということだった。驚いたのは、整骨院でインピンジメントを知らなかったことだ。ただ、先生を責めても仕方がない。そこで、理学療法をしているところをAIに聞いたところ、今通院している整形外科でも理学療法を行っていることが分かり、今日早速通院した。筆者はMRIを使えないので、CTで診断できないかと尋ねたが、CTでは見つからないだろうと言われた。仕方がないので、理学療法の治療を受け、そのあと肩を温めてもらった。すぐに効果が現れるわけではないので、しばらく定期的に治療してもらうことにしたい。スイミングは、痛みの出ない泳法に限って許可されたので、しばらくはそれに従ってみようと思う。残っている畑仕事や庭木の剪定もやらなければならないが、少しずつやるしかないと思う。
2026年05月13日
コメント(0)

小林愛実のコンサートが三井住友海上文化財団の助成で、何と1000円で聴けることを知り、足を運んだ。前回は産後で体調があまり良くなかったようで、出来も今ひとつだったことを覚えている。その点、今回はほとんどミスがなく、極めて安定した技巧を示していた。だから良かったかというと、それは別問題。今回はオール・シューベルト・プログラムで、個人的には即興曲を除くとあまりなじみのない曲が並んでいた。事前に彼女のシューベルトの音源をチェックしていたのだが、今回演奏された曲はひとつもなく、予習にはならなかった。今回の演奏は表現は抑制的で、アゴーギクもほとんどない。そのため音楽に停滞感はないのだが、出汁の効いていない味噌汁のようで、曲の良さがあまり伝わってこない。特にピアノ・ソナタ第16番は、もともとそれほどなじみのある曲ではないにせよ、まったく面白く感じられず、「こんな曲だっただろうか」と思ってしまった。これがシューベルトの最初に出版されたピアノ・ソナタとは信じがたい。あとで他のピアニストの演奏を聴くと、それなりに面白かったので、今回なぜここまで退屈に感じたのかは自分でも分からない。ダイナミックスの幅が狭く、アゴーギクもほとんど感じられない平板な演奏だったからだろうか。以前の第19番のピアノ・ソナタを含むアルバムはそれなりに楽しめただけに、一体どうしたのだろうと思ってしまう。参考までに内田光子の演奏も聴いたが、まるで別の曲のようだった。鈴木の演奏は、第1楽章はカチッとした仕上がりで、ダイナミックスの幅も狭い。第2楽章の変奏は各変奏の対比がくっきり浮かび上がり、悪くなかった。第4楽章はダイナミックスの幅が狭く、メリハリに欠ける演奏で、曲が終わった後の聴衆の反応もいまひとつだった。即興曲は、今回の演奏会ではまずまずの出来だろう。第1番は弱音を重視した表現だったが、後半に低音域の小さな爆発があり、それがなかなか面白かった。第2番は、この曲集の中では最も有名な曲だろう。テンポは速めだが、どこまでも続いていくような息の長いスラーが実に美しかった。第3番、第4番は曲自体の良さもあり、それなりに聴かせるが、驚きはなく、どちらかといえば平板な演奏だった。アレグレット ハ短調 D915 は初めて聴く曲で、二つの旋律から構成されていた。何度か不協和音が現れ、最初はミスタッチかと思ったが、繰り返し現れるので少し驚いた。不協和音といえば魔王にも頻出すると言われるが、実際に聴いてみても、特に不協和音が際立つようには感じなかった。おそらく意図的に強調していたのだと思うが、曲を知らない者からすれば、ミスタッチと思ってしまっても無理はないように思う。最初の「高雅なワルツ集 D969」 は演奏頻度の高い曲らしいが、筆者にとっては初めて聴く10分ほどの曲集で、あまり面白くなかった。似た曲想の曲が多く、対比もあまり明確ではないうえ、旋律にも強い魅力を感じにくい。そのため、初めて聴くと魅力が伝わりにくいのかもしれない。ということで、個人的には、これほど退屈な演奏会はあまり経験がない。曲ごとの出来不出来というより、曲へのアプローチそのものが、自分とは大きく異なっていたのだと思う。技術的には、前回聴いた時には一部不安定なところもあったが、今回はミスタッチもほとんどなく、極めて完成度が高かった。サウンドも柔らかく、潤いがある。それなのに、個人的にはなぜこうなったのかまったく分からず、終始退屈に感じてしまった。たぶん、他の人とはかなり違う感想なのだと思う。鈴木愛美 ピアノ・リサイタル「シューベルトは人知れずやってくる」シューベルト:高雅なワルツ集 D 969 Op.77シューベルト:即興曲集 D 899 Op.90休憩シューベルト:アレグレット ハ短調 D 915シューベルト:ピアノ・ソナタ 第 16 番 イ短調 D 845 Op.42アンコール楽興の時 第2番鈴木愛美(p)2026年5月8日 盛岡市民文化ホール 中ホール 10列8番で鑑賞
2026年05月11日
コメント(0)

ビル・エヴァンスのワシントン州シアトルのペントハウスでのライヴのハイレゾを聴く。高くてなかなか手が出なかったが、最近ProStudioMastersで比較的安価に入手できることを知り、DSDは高価なのでFLAC 192kHz版を入手した。このアルバムは、これまで海外ブートレグやラジオ音源の流出盤が存在していたが、2017年にResonance Recordsから正規版が発売され、今回の音源はそのハイレゾ版である。2017年版には、音源の徹底的な修復とマスタリング、未発表テイクを含む網羅的編集、豪華なブックレットなどが付属していた。ハイレゾ版なのでブックレットは付かないものと思っていたが、貴重な写真やインタビューを収めた19ページのPDFが付属しており、大変ありがたい。このアルバムは、公式録音の存在しなかったベーシスト、Eddie Gomezと、ドラマーのJoe Hunt(1938-)によるレアなトリオの1966年5月、シアトルのジャズクラブでのライヴ録音である。ラジオDJのJim WilkeがKING-FMの自身の番組用に録音したもので、オリジナル・テープからのリリース。ブックレットによれば、この録音はゴメスとBill Evansの共演を記録した現存最古の音源だそうだ。ジョー・ハントとの録音は、本作のほかには『Bill Evans - The Secret Sessions』しか残されていないようである。ゴメスのインタビューによると、1965年、彼は20歳でGary McFarlandのバンドに所属しており、Sadao Watanabeも一緒だったという。その年の後半にはGerry Mulliganのバンドで活動していた。当時、ヴァンガードに出演していたエヴァンスのトリオと共演する機会があり、それが縁でエヴァンスから声をかけられた。最初のツアーはシカゴのLondon Houseから始まり、Shelly’s Manne-Holeや、本作の舞台であるペントハウスでも演奏した。ジョー・ハントもこのツアーから参加した。顔見知りではあったが、一緒に演奏するのはこの時が初めてだったという。エヴァンスは、コードネーム付きのメロディだけを記した曲集をステージに持ち込んでおり、そこには彼のレパートリーがすべて収められていた。これは黒いルーズリーフ式の本で、エヴァンスが曲名を呼んだり演奏を始めたりすると、ゴメスは必死にページを探したそうだ。若き日のゴメスの姿が目に浮かぶようで微笑ましい。実際の演奏でもダブルストップを聴かせる場面があり、とても20歳のベーシストとは思えない。彼の早熟ぶりがよく分かる。この時期のエヴァンスは、ゴメスの自由なソロへの対応を模索していた最中だったようだ。当初はゴメスのソロ時にコンピングを行わなかったが、本作の頃には少し伴奏を付け始めていた様子が録音からうかがえる。12日と19日では19日のほうが精彩があるように思う。特に「How My Heart Sings」の溌溂とした演奏や「Autumn Leaves」でのゴメスとハントのデュオの部分など興味深い。また、ジョー・ハントのインタビューではエヴァンスの物静かで、演奏に細かな注文を付けない人物像が語られており、エヴァンスの音楽への姿勢がよく分かる。ただ、演奏が終わるとすぐに姿を消してしまったという話には思わず笑ってしまった。ということで、本作は従来の“発掘音源”とは異なり、若き日のゴメスの奮闘ぶりが聴けるという新たな視点が楽しめるアルバムだろう。なお、Bandcamp版に収録されていたイントロは2xHD版では省かれ、演奏のみ10曲が収録されている。録音はモノラルながらノイズが少なく、まとまりのある音である。欲を言えば、高域がもう少し伸びていればさらに良かった。CD版を確認していないため、今回のハイレゾ化による効果がどの程度かは分からない。Bill Evans Portraits at the Penthouse: Live in Seattle(2xHD 2XHDRE1294)24bit 192kHz Flac1.E. Zindars : How My Heart Sings2.T. Monk : Round Midnight3.J. Mercer : Come Rain or Come Shine4.Bill Evans : Nardis5.Bill Evans : Time Remembered6.A. Newley : Who Can I Turn To7.L. Carter : Detour Ahead8.J. Mercer : Autumn Leaves9.E. Zindars : How My Heart Sings10.S. Cahn : I Should CareBill Evans(p)Eddie Gomez(b)Joe Hunt(ds)Recorded on May 12(track1-4) and 19(track 5-10), 1966 at the Penthouse jazz club in Seattle, Washington
2026年05月09日
コメント(0)
Youtubeを見ていたら、福岡県で初の四年制の音楽大学が誕生したというニュースが出ていた。 福岡国際音楽大学というところで、所在地は大宰府。入学予定者は91名(音楽表現専攻:67名、音楽ビジネス専攻:24名)とのことだ。音楽表現専攻は楽曲制作(作曲)、声楽・ミュージカル、ピアノ、管弦打楽器に分かれ、音楽ビジネス専攻は音楽ビジネスとミュージック・テクノロジーに分かれているようだ。音楽表現専攻が、ピアノ以外は「管弦打楽器」という形でまとめられていて、従来の音大の考え方とはかなり違うように思う。現在、音大は定員削減が続き、受験者数も半減している状況だ。彼らが卒業したあと、果たして十分な就職先があるのかは、かなり厳しい感じがする。ヴァイオリニストで元東京藝大学長の長澤和樹氏や、さだまさしといった著名人が名を連ねており、新設大学としてアピールに余念がない。授業料は初年度160万〜164万5千円程度と、比較的低く抑えられているのも魅力だ。また、音楽ビジネス専攻というのは目新しく、こちらには一定の需要がありそうに思う。オーナー企業は、医療・福祉系の学校を多数運営する学校法人高木学園で、福岡国際医療福祉大学や福岡医療経営学院なども運営している。福岡国際音楽大学では、音楽と医療・福祉の融合を掲げ、音楽療法士の育成にも力を入れるとのことだ。その意味では、普通の音楽大学とは一味違う特色のある学校のようだ。ニュースではホルン専攻の女子学生のことが報じられていたが、未来がいばらの道であることは確かで、あとは個人の頑張りにかかっていると思う。ところで、AIの発達で演奏家の需要は減っていくように思っていたが、スタジオ関係は確かに減少するあろうが、ロイヤル・フィルの音楽監督であるヴァシリー・ペトレンコの「ライブ芸術はAIの影響を比較的受けにくい」という意見は説得力がある。
2026年05月07日
コメント(0)

ラトビア出身のアコーディオン奏者クセーニャ・シドロワ(Ksenija Sidorova)の現代曲を集めた意欲作「Prophecy」を聴く。現在は配信のみでの供給のようだ。共演はパーヴォ・ヤルヴィ指揮エストニア・フェスティバル管弦楽団。ブックレットにはヤルヴィとシドロワの初めての出会い(電話での会話)がコミカルに描かれている。『10年以上前、深夜にパーヴォ・ヤルヴィから「やあ、パーヴォだよ。」という突然の電話があり、トゥールの協奏曲の共演を持ちかけられたシドロワは驚きつつも即答で引き受け、パルヌでの再会を約束した。』という内容。実際に「やあ、パーヴォだよ。」と言ったかは分からないが、ヤルヴィの気さくな性格がよく表れた興味深いエピソードだ。このアルバムはバルト諸国(エストニア、ラトビア)の作曲家による現代作品で、シドロワとヤルヴィの共同プロジェクトとして録音された。曲は前述のトゥールのアコーディオン協奏曲「Prophecy」、トヌ・コルヴィッツの4曲からなる「Dances」、ペーテリス・ヴァスクスの「The Fruit of Silence」が収録されている。最初のエルッキ=スヴェン・トゥールの協奏曲「プロフェシー」は「予言者」の孤独を主題に、独奏と管弦楽が溶け合う流動的音響を展開する約20分の作品。幻覚的な中間部も印象的。現代音楽的なサウンドで、アコーディオンは管弦楽と自然に溶け合う。ボタン式アコーディオン(クロマチック・ボタン)のために書かれているため、鍵盤式とは配列の思想が異なる。ボタン式はボタンが密集しているため音の跳躍が容易だが、鍵盤式で同様のパッセージを弾くのは技術的に難しく、作曲者自身も今回の演奏に驚いたという。現代音楽としては比較的分かりやすく、変化に富んでいて聴き応えがある。曲はゆったりした部分とテンポの速い活発な部分などに分かれるが、詳細な構成は把握しにくい。カデンツァは明確には設けられていないが、音楽が途切れる箇所の独奏部分がそれに近い役割を果たしている。独奏部分のひんやりとした質感も印象的。伴奏は弦が主体で、特に低弦の厚いハーモニーが強い印象を残す。木管は彩りを添える役割。金管はほとんど出番がなく、主にテュッティで現れる程度。打楽器は控えめだが、前半のヴィブラフォン、終盤の木魚やシロフォンが効果的。終盤の急速なテンポアップと徐々に高まる盛り上がりは、規模は大きくないながらも興奮を誘う。エストニアの作曲家トヌ・コルヴィッツの「Dances」はシドロワの委嘱作品。トゥールとは対照的に、静謐で詩的、透明感のある響きが特徴。民謡や自然への感受性が強く、音の余白や色彩を重視する。「Dances」は抒情的で繊細だが、ところどころ南米、とりわけアルゼンチンを思わせる雰囲気が感じられる点がユニーク。1楽章「Darkness (cadenza). Under the Cajun Moon」のカデンツァでは、Air soundやBellows noiseと呼ばれる空気音、bellows shakeなどの特殊奏法が用いられている。2楽章「Passacaglia」は形式感を強調せず、ゆったりとしたテンポで抒情が流れ、清澄な弦のハーモニーが美しい。3楽章「Siciliana」は6/8のリズムを感じさせる穏やかな楽章で、弦と木管の淡い色彩の中をアコーディオンが自在に動く。続く「Sarabande」は遅いテンポでシンフォニックに進む終曲で、約3分半と短く、盛り上がりを強調せず静かに終わる。最後のエストニアの作曲家 ペーテリス・ヴァスクスの「フルーツ・オブ・サイレンス」は合唱曲の編曲。アコーディオンの持続音とヴィブラフォンの透明な響き、弦の豊かなサウンドが敬虔な雰囲気を生む。終盤、弦の持続の上にアコーディオンが重なり、静かに曲を閉じる。ということで、バルト音楽の現在を反映した優れた内容のアルバムだった。特殊な内容だが、興味のある方にはぜひ聴いていただきたい。Tüür: Prophecy liveKsenija Sidorova:Prophecy(Alpha ALPHA1198)24bit 48kHz Flac1.Erkki-Sven Tüür(1959-):Prophecy2.Tõnu Kõrvits(1969-):Dances I. Darkness (cadenza). Under the Cajun Moon II. Passacaglia III. Siciliana IV. Sarabande 6.Pēteris Vasks(1946-):The Fruit of Silence(Arranged by George Morton for accordion, vibraphone and string orchestra)Ksenija Sidorova(accordion)Estonian Festival OrchestraPaavo JärviRecorded 2024,Pärnu Concert Hall, Pärnu, Estonia
2026年05月04日
コメント(0)

カナダのベテラン・ピアニストのベニー・セネンスキー(1944-)が8人のホーン奏者と組んだデュオアルバム「Duos」を聴く。セネンスキーはカナダ出身のジャズピアニスト、オルガニスト、作曲家で、ピアノ・トリオを中心にモダンで質の高いジャズを長年演奏してきた実力派だ。8人のサックス奏者(テナー5、アルト3)と10曲を演奏している。 Pat LaBarbera(1944-)とKirk MacDonald(1959-)のみ2曲に参加。オリジナル7曲とスタンダード3曲という構成。多くがテンポの速い曲で、ノリの良い演奏を理屈抜きに楽しめる。オリジナルもスタンダードに劣らない出来。ホーン奏者のスタイルはストレートアヘッド〜ハードバップ系で大きな違いはないが、サウンドの差異が興味深い。カナダ勢(Perry、MacDonaldなど)にアメリカの強力ゲスト(Alexander、Herring、LaBarbera)が加わり、バランスの良い顔ぶれとなっている。中でもKirk MacDonaldのややざらついたメタリックなサウンドが異彩を放つ。演奏はいずれも水準が高く、優劣つけがたい仕上がりだ。その中では、アルトのPJ Perry(1941-)による「I Hear A Rhapsody」が、やや細身ながらノリの良い演奏。Pat LaBarberaのテキサステナーを彷彿とさせる「I Thought About You」は力強く迫る。 エリック・アレキサンダー(1968-)との「Lolito」は、速いテンポながら哀愁あるメロディが心地よい。エリックは手堅い出来だが、メロディックで流れるような急速調のアドリブが光る。Cellar Liveのオーナーであるコリー・ウィーズ(1975-)の「My One & Only Love」は唯一のスローバラード。バラードながら躍動感があり、ピアノも機敏で、凡庸に陥らない点が見事だ。Kirk MacDonaldとの2曲では、楽曲の出来が良い「One Is Enough」が印象に残る。Vincent Herringとの「Come To Me」はやや速めのリズミックな演奏。セネンスキーのブロックコードによる力強いバッキングが支えるが、アルバム中ではやや地味な位置づけだ。驚くのは80歳近い奏者も多いにもかかわらず、年齢を感じさせないエネルギッシュな演奏が続く点。聴き手が年齢に配慮する必要はなく、純粋に音楽として楽しめる。録音は低音が充実した豊かなサウンド。曲・演奏ともに充実し、ミュージシャンの個性も味わえる、コストパフォーマンスの高い一枚。新機軸こそないが、安心して薦められる好アルバムだ。Bernie Senensky:Duos(Cellar Live CELV528252)24bit 96kHz Flac1.Bernie Senesky : The Mover2.G. Fragos, J. Baker, D. Gaspare : I Hear A Rhapsody3.J. Van Heusen : I Thought About You4.Bernie Senesky : Bud Lines5.Bernie Senesky : In My Life6.Bernie Senesky : Lolito7.G. Wood : My One & Only Love8.Bernie Senesky : One Is Enough9.Bernie Senesky : Come To Me10.Bernie Senesky : Silver TraneBernie Senensky(p)Pat LaBarbera(ts track1,3)PJ Perry(as track2)Ryan Oliver(ts track4)Campbell Ryga(as track5)Eric Alexander(ts track6)Cory Weeds(ts track7)Kirk MacDonald(ts track8,10)Vincent Herring(as track9)Recorded 2022,Toronto, Canada
2026年05月02日
コメント(0)

ピアニストのレイフ・オヴェ・アンスネスが母国ノルウェイの作曲家ガイル・トヴェイトの作品を取り上げた一枚。彼がこの作曲家を取り上げた理由は、重要でありながら演奏機会が少ないからだという。トヴェイトはグリーグの系譜にあり、バルトークやフランスのドビュッシー、ラヴェル、ロシアのストラヴィンスキー、プロコフィエフなどの影響を受けている。そのため親しみやすさはあるが、聴き手に寄り添う柔和な表情はあまり見せない。筆者自身まったく聴いたことのない作曲家だったが、AIに教わりながら聴いてみた。最も親しみやすい「ハルダンゲルの50の民謡」は、15曲が収録されている。短い曲が多く、同郷のグリーグとの親和性を感じさせるものもあるが、暗く厳しい表情の曲が目立つ。バルトークを思わせる瞬間も多い。フィヨルドで知られる西ノルウェーのハルダンゲル地方の民謡は、本来粗く唐突で時に荒々しく、トヴェイトはその生のエネルギーを持ち込もうとしているようだ。第11番のような強打が持続する曲にそれがよく表れている。そのため初めて聴く人にはなかなか馴染みにくいかもしれない。アルバム後半ではアンスネスの妹ソルヴェイグとの共演による歌曲が9曲収められている。ノルウェイの風土を背景にした硬質な叙情が魅力だ。ソルヴェイグの歌唱は透明でビブラートが少なく、まっすぐで伸びやかで心地よい。フォークやジャズとの親和性も感じさせる。トヴェイトの作品はシンプルで素朴な味わいと間の感覚を備えているところがユニークだ。メロディックで堅苦しさはないが、やや暗めの曲が多く、もう少し明るい作品も聴きたくなる。「Bera ei sorg」での突然のフォルテシモなどにトヴェイトの頑固な性格が表れているように思う。中ではMarskveld(三月の夕べ)のメロディックで静かな叙情が印象的だ。大曲ピアノ・ソナタ第29番「ソナテ・エテレ」は聴きごたえのある作品で、バルトークの影響が強い。「Sonate Etere(ソナテ・エテレ)」のエテレはエーテルを意味し、軽やかなソナタというニュアンスだ。しかし実際は重量感のある巨大な作品だ。このアルバムはヨーロッパおよび北米ツアーで本作を含むプログラムが好評を得たことから生まれたらしい。カーネギー・ホールでの演奏はニューヨーク・タイムズの「2025年のベスト・クラシック公演」に選ばれている。彼のピアノ・ソナタは30曲あったらしいが、この曲以外すべて火災で焼失した。この作品は出版のためNorsk Musikkforlagに送られていたため難を逃れた。アンスネスによれば、このソナタは「二つの単純な旋律を基に多くの変奏で築かれた巨大な作品」であり、「演奏は難しいが、その分大きな報いがある」という。この曲にもバルトークの影響が強く感じられる。演奏時間は約37分。第1楽章は不協和音を交えた東欧的旋律が現れるが、リズムは揺らぎ、時に加速や減速が生じる。力感に富む一方で、時折優しい表情ものぞかせる。強打が続く後半の持続力も見事だ。第2楽章は断片的でぶっきらぼうに聞こえる旋律から始まる。間を生かした音楽は東洋的な趣も感じさせる。第1楽章のクールさに比べ、温もりのある音楽だ。緩やかな部分と急速な細かいリズムが交互に現れる。形式感は希薄で、突然の盛り上がりや急な静寂が現れる気まぐれな楽章だ。終結部の途切れがちな響きが美しい。暗い表情で進む第3楽章「脈動のテンポ」は、鼓動のように伸縮するテンポを指す。この楽章も力強くピアニスティックだが、持続するエネルギーを表現するには大変な力業が必要だ。断続的に続く長い休符を伴う終結部も残響が美しい。残響を聴かせるユニークな作品。ピアノのサウンドは艶があり、低域の量感も十分で優れた録音だ。トゥッティでも混濁せず、余計なことを気にせず聴けるのもありがたい。初めて聴く作曲家だったが、やや硬質な響きの中にも思いのほか魅力があり、アンスネスの演奏の良さも相まって、この作曲家の個性が無理なく伝わってきた。Leif Ove Andsnes:Geirr Tveitt(Simax PSC 1429)24bit 96kHz FlacGeirr Tveitt(1908–81):1. ピアノ・ソナタ第29番 Op.129 第1楽章 In cerca di – Moderato(探求して/モデラート) 第2楽章 Tono etereo in variazioni(幽玄の旋律による変奏) 第3楽章 Tempo di pulsazione(脈動のテンポ)4. Fifty Folk Tunes from Hardanger, Op. 150 第25番 The Call of the Dairy Maid(乳搾り娘の呼び声) 第39番 Visiting Saturday in the Mountains(山の土曜の訪れ) 第10番 What Beer!(なんというビール!) 第41番 Stave Church-chant(スターヴ教会の聖歌) 第19番 Fare Thee Well(さらば) 第6番 Welcome in the Bridal Farm(花嫁の農家への歓迎) 第27番 Langeleik Tune(ランゲレイクの旋律) 第49番 Consecration of the New Beer(新しいビールの奉献) 第2番 Flute Sound(フルートの響き) 第11番 God’s Goodness and God’s Greatness(神の慈悲と偉大さ)14. Vi skal ikkje sova bort sumarnatta(夏の夜を眠って過ごしてはならない)15. Nordlysun(オーロラの太陽/北の光)16. Bera ei sorg(悲しみを背負う)17. Mjukt skjer åra(柔らかく櫂が水を切る)18. Det stusslege romet(みすぼらしい部屋)19. Svara meg, mi harpe(答えておくれ、わが竪琴よ)20. Kveld i sundet(海峡の夕べ)21. Marskveld(三月の夕べ)22. Knust korn(砕かれた穀物)Leif Ove Andsnes(p)Solveig Andsnes(s track14-22)Recorded 2023,Sofienberg Church, Oslo, Norway
2026年04月30日
コメント(0)

狭間美帆が音楽監督を務めているデンマークのビッグバンドを指揮した新作「Frames」を聴く。サドジョーンズを特集した前作はあまり聴きこんでいなかった。全6曲すべてが書き下ろしで、隙のない緻密な作品が並んでいる。このアルバムに付いて彼女はこう語っている。「このプロジェクトは、Danish Radio Big Bandと歴代の首席指揮者たちの遺産を振り返るものです。私は彼らの作品を研究し、その考え方を自分の作曲に取り入れることで、この歴史に静かに敬意を表す新しい組曲を書き上げました。直接的なオマージュではなく、コペンハーゲンに根ざしながら進化を続けるオーケストラの声の延長としての作品です。」とのこと。wikiに歴代の指揮者の名前が載っている。サド・ジョーンズやボブ・ブルクマイヤーなどの名前もある。狭間はこのビッグバンドの8代目の指揮者で、Ole Kock Hansenの9年に次いで、今年で7年目と長期にわたっている。それだけ評価されているということだろう。出来れば歴代指揮者の録音を聴き、どの曲が誰へのオマージュか分かればよいのだが、そこまでは出来ていない。曲毎のコメントは発表されていないようだが、分厚いハーモニーとノリの良い曲調で、自然に耳に入ってくる。前作「Live Life This Day: Celebrating Thad Jones」ではオーケストラも入っていて、響きがやや整理されない場面もあり、個人的には中途半端な印象があった。今回はビッグバンドのみなので、彼女の真価が発揮されていると思う。「And the Door Unsealed」はイントロに相応しい、溌溂として勢いのある演奏。ロック的なエレキ・ギター・ソロでムードが一変するのも鮮やかだ。3つの短い音符から始まる「Rodo」は、けだるい中近東的なムードを漂わせたリズムとヴォイシングで、砂漠の風景を想起させる。特にバスクラリネットが効果的だ。テーマは何故か日本を連想させる優しい曲想。ソプラノのソロを経て、トロンボーンのグリッサンドから一転してテンポアップ。トランペットの高域中心の豪快なソロ、音を割った荒々しいトロンボーン・ソロなどにより、前半ののどかな風景が一掃される見事な展開だ。くすんだチェレスタのようなサウンドから始まる「Lulu」。フルーゲル・ホーンのソロで安らぎに満ちた時間が流れる。ベースの重厚なソロも聴き物だ。いきなりテュッティから始まる「The Pioneer's Quest」。Pioneerは単数形なので、歴代の指揮者の誰かを指すのだろうか。速めのテンポでぐいぐいと進む推進力のあるアンサンブルが続く。このアルバムで目立つトロンボーン・セクションの柔らかなハーモニーも心地よい。トランペット・ソロのバックでのピアノとギターのユニゾンのコンピングも印象的だ。ドラムソロのあと、セクションが目まぐるしく変わる展開も聴きどころ。ただしエンディングが盛り上がらないまま終わる点はやや物足りない。「Aura II」は速めのテンポながら、このアルバムで唯一リリカルな曲調のナンバーだろう。ピアノのアルペジオに乗ってチューバがソロを繰り広げるのが印象的だ。アルペジオがギターに移り、フルーゲルのソロへと展開する。後半ではクラリネットのソロが大きくフィーチャーされ、エリントンを想起させる。終盤のクラリネット、バスクラリネット、フルートによる柔らかなアンサンブルも印象的だ。ピアノ単音によるエンディングも洒落ている。最後の「The First Notes」は軽快なテンポでコミカルなテーマが流れる。ソプラノ・サックスを中心としたヴォイシングも曲想に合っている。トロンボーンの柔らかなソロも充実している。続くフルート・ソロも熱演。短い間隔で楽器が目まぐるしく入れ替わる展開を楽しむべき曲だ。全体としては一つの組曲のような構成で、エリントンの組曲を思わせる重量級のアルバムである。構成が複雑な曲が多く、何度か聴くとそのたびに新たな発見がある。彼女が着実に発展している様子がうかがえ、非常に喜ばしい。現時点での彼女の最高傑作と言っても過言ではないと思う。なお、8/20にBBCのプロムスの一環としてマイルス・デイヴィスの生誕100周年記念のコンサートが、「Owl Song」などで知られるトランペットのアンブローズ・アキンムシーレのカルテットとBBCコンサート・オーケストラを迎え、狭間の指揮で開催されるようだ。BBC TVおよびBBC iPlayerで視聴できるようだが、対象はイギリスのみなので、日本からVPNで視聴するのは難しそうだ。音声のみであればインターネットラジオradio 3で聴くことができそうだ。狭間美帆:Frames(Edition Records EDN1296)24bit 96kHz Flac1. And the Door Unsealed2. Rondo3. LuLu4. The Pioneer's Quest5. Aura II6. The First Notesデンマークラジオ・ビッグ・バンド挾間美帆録音:2025年11月18日~21日、コペンハーゲン、ヴィレッジ・スタジオ
2026年04月27日
コメント(0)

アリソン・ロギンス・ハルAllison Loggins-Hull がクリーブランド管弦楽団のレジデント・コンポーザーを務めていた時代の作品を集めたアルバム。クリーブランド管が存命作曲家のポートレート盤を出すのは約100年ぶりという特別企画だそうだ。ポストミニマル風の語法に、コープランドやアイブズを思わせる響きが交じる、いかにもアメリカ的で分かりやすい音楽。管が優勢なオーケストレーションもあり、現代の吹奏楽を思わせ、なかなか楽しめる。アリソン・ロギンス・ハルはフルート奏者でもあり、ニューヨークを拠点に活動している。作曲だけでなく、教育やアウトリーチにも積極的だという。このアルバムの目玉「Grit. Grace. Glory.」は、レジデンシー最後の作品。タイトル通り、粘り強さ、品格、栄光という、クリーヴランドの人々と歴史に触発された音楽的物語だ。第1楽章「Steel(鋼)」は鉄を象徴に、地下鉄や産業を通じた強さ・自由・連帯を描く。第2楽章「Shoreline Shadows(湖岸の影)」は、クリーヴランド芸術学校の学生作品の視点を取り入れ、都市の影と再生を表現する。第3楽章「Quip」は、クリーヴランドの人々の謙虚さと機知を軽妙に示し、第4楽章「Ode」は原点回帰とロックンロール発祥の地へのオマージュとして、ロック的高揚で締めくくられる。※1952年、クリーヴランドで開催されたMoondog Coronation Ballが最初のロックコンサートと言われている。第1・第2楽章は切れ目なく演奏される。第1楽章は、地下鉄の情景や全米第3位の鉄鋼メーカーであるクリーブランド・クリフスの工場を思わせる要素が入り混じる。一方で、古きのどかなアメリカの風景を想起させる場面もある。トランペットのコラール風旋律が印象的だ。第2楽章は、遠くで何かが鳴っているような心象風景的サウンドが広がる、暗く不気味な音楽だ。ローブラスの4分音符と打楽器の8分音符2つの動機が不気味さを強める。木管のモチーフが浮遊感を与える、不思議な楽章だ。第3楽章は一転して、陽気で弾むリズムの音楽だ。弦とピッコロの掛け合いに続き、ホルンの持続音とトランペットの刻みが展開する。木管の細かく独特なリズムが印象的だ。明るいがどこか影を帯びている点が興味深い。第4楽章は、賛美歌を思わせる清新な弦合奏で始まる。全体として明るいとは言い難いが、次第に活気を帯び、スネアの細かいリズムから一気に盛り上がる。ただしクライマックスの作り方がやや弱く、不発気味に終わるのが惜しい。「Can You See?」は、ニュージャージー交響楽団の委嘱による小編成作品を大オーケストラ用に改作したもの。脈絡なく現れる太鼓が全体を支配する。暗い色調の中、海猫の鳴き声を思わせるクラリネットのグリッサンドや、反復される太鼓のリズムがコラージュ的に現れる。作曲者の心象風景のような、不思議な音楽だ。アメリカ国歌が用いられているようだが、筆者には判別できなかった。冒頭の「Legacy」は弦楽六重奏。レガシー継承のためのコミュニティ活動で用いられた音楽で、ウクライナの民族楽器バンドゥーラやブルース、現代的弦楽書法などの要素が取り入れられているという。ただし現時点では、具体的にどの部分に反映されているかは判別できない。演奏はいずれも高度にコントロールされており、クリーブランド管の精緻な響きが堪能できる。とりわけ木管のクリアなアンサンブルが印象的だ。この楽団特有のオーボエの音色も健在だ。Allison Loggins Hull:The Cleveland Residency(Cleveland Orchestra)24bit 96kHz FlacAllison Loggins-Hull :1. Legacy(2024)2. Can You See?(2023)3. Grit. Grace. Glory. I. Steel II. Shoreline Shadows III. Quip IV. OdeThe Cleveland OrchestraFranz Welser-MöstRecorded August 13, 2025(Legacy),May 4 & 6, 2023(Can You See?),May 8–10, 2025(Grit. Grace. Glory. )Mandel Concert Hall、Severance Music Center
2026年04月24日
コメント(0)

カナダのピアニスト、ブライアン・ディッケンソンによる秋を題材としたアルバム。spotifyでちょい聞きして気に入ったのでbandcampから購入。全てカナダのミュージシャンで固められていて、ドラムスが入っていないため、ジャズというよりはクラシックよりの室内楽という感じがする。ディッケンソンはビル・エヴァンス系のリリカルな演奏を特徴とするピアニストとのことだが、筆者は初めてお耳にかかった。序奏の「Autumn Glow」(秋)から「October Songs」を経て「Spring Sprung In」(春)へと季節の移り変わりが描かれている。気分が一貫していて、ストーリー展開も悪くない。こういうクラシックとジャズのミュージシャンが演奏するときに感じる気まずさはなく、その点は大変うまくいっていると思う。最後のウォルトンの「Touch Her Soft Lips and Part」が入っている意図はよくわからないが、曲想が秋を感じさせることから来ているのかもしれない。ウォルトンの音楽は「アジャンクールの戦い」前夜のイングランド兵士の心情をうかがわせる場面で使われており、このアルバムの気分とあっている。Jim Vivianのベースソロがいい。音楽がやや饒舌で、原曲の静かな気分が損なわれている印象は残る。総じて、弦がもう少し抑制されていれば、アルバムの“秋的・内省的な気分”はより純度高く出た可能性は高い。例えばクロノスカルテットだったら、大部分が異なっていたと思われる。 Kelly Jeffersonのアルトサックスも音が太く、曲想とはあまり合っていないように感じる。もう少し細くリリカルなサウンドの方がよりマッチしていた気がする。録音はトロントのインセプションサウンド。写真を見ると狭めの空間での近接マイク録音と思われ、リバーブは後付けだろう。そのため奥行きが感じられず、平面的なサウンドになっている。通常のホール録音であれば、このアルバムの意図はより明確に表れたはずで、惜しい。全体に歪みっぽいのも、印象が良くない。ということで、演奏は優れているが、録音がそれを妨げているという皮肉な結果になってしまった。ミキシングをやり直せば、印象は大きく変わると思うので、次回のリマスターに期待したい。結局いろいろ不満を書いてしまったが、音の状態を除けばアルバムとしての完成度は高い。小音量で聴くと、このアルバムの良さが引き出されると思う。Brian Dickenson:October Songs(Cellsr Live CM041026)24bit 96Hz FlacBrian Dickinson:Autumn GlowOctober Songs Pt. 1October Songs Pt. 2October Songs Pt. 3Spring Sprung InWilliam Walton:Touch Her Soft Lips and Part(映画『Henry V』より)Piano:Brian Dickinson(p)String Quartet:Penderecki String QuartetKelly Jefferson(sax)Jim Vivian(b)Recorded at Inception Sound, Toronto on May 6th and 7th 2025
2026年04月22日
コメント(0)

レ・メタボルズというフランスの合唱団がラヴェルの管弦楽や歌曲を無伴奏合唱で歌ったアルバム「Singing Ravel」を聴く。最初に聴いたときはとても面白く、すぐに入手した。ただ、何度か聴いているうちに、その押し出しの強さが少し気になるようになってきた。熱のこもった演奏ではあるのだが、クールなラヴェルの作風とは少し合わないようにも感じる。繊細さがやや後退し、場面によっては少し力みすぎているようにも思える。合唱としての実力は十分に感じられるが、表現意欲が前に出すぎて、作品本来の魅力が少し薄れてしまっている印象だ。もう少し肩の力を抜いてもいいのでは、と思う。各声部6人とのことだが、女声の圧がかなり強く、男声がやや控えめに聞こえるのも気になるところだ。ダイナミクスの幅もやや狭く感じられる。特に気になるのはフレージングの唐突さで、そこで音楽の流れが途切れてしまう。いちばんしっくりくるのは、原曲そのままの「ア・カペラ合唱のための3つの歌」だろうか。「ニコレット」と「ロンド」は彼らの音楽性にも合っていて、聴いていて自然と楽しくなってくる。編曲は4人が担当しているが、ラヴェルらしさをいちばん感じさせるのはクリトゥス・ゴットヴァルトで、次いでティエリー・マシュエル。ゴットヴァルトはクラスター的でビブラートを抑え、持続音を大切にしている。ラヴェル特有のひんやりとした響きもよく出ている。「マ・メール・ロア」の2曲を編曲したマシュエルは、音に透明感があって好印象だが、終曲「妖精の園」の終わり方は少し頑張りすぎのようにも感じる。そこまで強調しなくてもいいのでは、と思ってしまう。ラヴェルにはあまり汗っぽさは似合わない。これは編曲というより指揮者の解釈による部分かもしれない。歌劇『子供と魔法』の「さらば、羊飼いの娘たちよ」(ティボー・ペリーヌ編)は太鼓が入り、古風で牧歌的な雰囲気があって悪くない。イントロのフラッター・タンギングも効いている。「魔法の笛」や「鐘の谷」はあまりなじみがないせいか、違和感なく聴くことができた。いずれも素直に楽しめる出来だと思う。いくつかの曲ではソロもあり、とくにソプラノがよく目立つ。声量もあり、推進力のある見事な歌唱だが、バックとのバランスを含め、少し歌いすぎかなと感じるところもある。これも指揮者の解釈によるのかもしれない。「ボレロ」は楽器の音を模した工夫がいろいろあって面白いが、音楽そのものよりも演奏者の個性が強く出ているのが気になった。思い出すのは同じフランスの合唱団Accentusの「ボレロ」で、機械的な正確さを保った見事な演奏だった。やはり何事もやり過ぎはよくない、ということかもしれない。なお、「ア・カペラ合唱のための3つの歌」と「ボレロ」のあとには拍手が入っているので、少なくともこの2曲はライブ録音だと思われる。ほかの曲についてははっきりしない。録音はかなりオンマイクで迫ってくる感じで、それも違和感の一因かもしれない。ということで、不満もいろいろ書いてしまったが、意欲的なアルバムであることは間違いない。感じ方は人それぞれだと思うが、一度聴いてみる価値は十分にあると思う。Les Métaboles:Singing Ravel(B Records LBM091)24bit 96kHz Flac1. 亡き王女のためのパヴァーヌ(ティボー・ペリーヌ編)2. 組曲『マ・メール・ロワ』 眠れる森の美女のパヴァーヌ(ティエリー・マシュエル編) 妖精の園(ティエリー・マシュエル編)4. ロンサールの己が魂に(ジェラール・ペッソン編)5. ステファヌ・マラルメの3つの詩~ため息(クリトゥス・ゴットヴァルト編)6. 歌劇『子供と魔法』~薔薇の芯よ(クリトゥス・ゴットヴァルト編)7. ア・カペラ合唱のための3つの歌 ニコレット 天国の美しい三羽の鳥 ロンド10. 歌劇『子供と魔法』~さらば、羊飼いの娘たちよ(ティボー・ペリーヌ編)11. 鏡~鐘の谷(クリトゥス・ゴットヴァルト編)12. 歌曲集『シェエラザード』 魔法の笛(ジェラール・ペッソン編) つれない人(ジェラール・ペッソン編)14. ボレロ(ティボー・ペリーヌ編)レ・メタボール(混声合唱/SATB各6名)レオ・ヴァリンスキ(指揮)録音時期:2025年3月10日録音場所:ラ・シテ・ド・ラ・ミュジーク、フィラルモニー・ド・パリ
2026年04月19日
コメント(0)

先ごろお亡くなりになったドラマーのアル・フォスターの、今のところのラスト・レコーディング「Live At Smoke」を聴く。Smoke Jazz Clubでのフォスターの82歳の記念公演だった。一番目立っているのはクリス・ポッターの圧倒的なパフォーマンス。どの曲も甲乙つけがたい圧倒的なパフォーマンスを繰り広げている。最近の充実ぶりを感じさせる、太く逞しいサウンドで聴き手を有無を言わせず納得させてしまうのには恐れ入る。昔の切れかかった演奏ではないが、コントロールの効いた演奏で安心感がある。最後のジョー・マーチンのオリジナル「Malida」のみソプラノ・サックスでのプレイ。「Old Folks」と「Everything happens to me」という二つのバラードが含まれているが、甘さ控えめの硬派のテナー・ソロが聴くことが出来る。特に「Everything happens to me」はワイルドなテイストで、なかなか珍しいアプローチ。ついでメルドーのピアノ。最近の録音は円熟味を感じさせるプレイが多くなったが、引き換えにかつての先鋭さは失われて、個人的には寂しいと思っていた。ところが、ここでは周りに触発されたのか昔の尖った演奏を繰り広げていて、とても良い演奏だった。「Everything happens to me」では、ポッターのプレイに触発されたのか、メルドーも甘いイントロと打って変わって、硬派なソロを展開している。Sonny Rollins:Pent-Up Houseのメルドー特有のごつごつしたタイム感覚のソロが刺激的だ。リチャード・ロジャースの「回転木馬」の一節が引用されている。彼らにこのようなプレイをさせているのは、無論リーダーのフォスターのプレイによるところが大きい。特別前面に出て来るわけではないが、曲によって最適なアプローチで彼らをプッシュしている円熟の技が味わえる。また、ジョー・マーティンの骨太で安定感のあるベースが音楽の土台をしっかりと固めて、安定間がある。彼の「E.S.P」での骨太のベース・ソロも素晴らしい。どのナンバーも楽しめるが、コルトレーンの「Satellite」がジャズの王道を行くプレイで特に気に入った。このクラブは収容辞任が70-100程度だというが、音だけを聴いているともっと小さい規模なのかと思ってしまう。クラブの天井が低く、 マイクが近いことや室内の残響が少なめなので、その影響も大きいようだが、ジャズを録音する場所としては申し分のない環境だろう。フォスターのドラムスのサウンドがヴィヴィッドでドラムスの皮の存在を感じさせ、実演を聴いているような錯覚さえ覚える。ということで80歳のミュージシャンのリーダアルバムとは思えない積極的なアプローチとフレッシュな音楽が楽しめるアルバムだ。このアルバムを聴くと、82歳とはいえ、もっともっと長生きして、演奏を聴かせてほしかったと思わずはいられない。Al Foster:Live At Smoke(Smoke Sessions SSR2506CD)24bit 96kHz Flac1. Chris Potter:Amsterdam Blues2. Brad Mehldau:Unrequited3. Wayne Shorter:E.S.P.4. Willard Robison / Dedette Lee Hill:Old Folks5. Sonny Rollins:Pent-Up House6. Al Foster:Simone’s Dance7. Matt Dennis / Tom Adair:Everything Happens to Me8. John Coltrane:Satellite9. Joe Martin:MalidaAl Foster(ds)Chris Potter(ts, ss)Brad Mehldau(p)Joe Martin(b)Recorded 2025,Smoke Jazz Club
2026年04月17日
コメント(0)

中国系アメリカ人のクレア・ファンチ(1990-)の女性作曲家の作品を集めたアルバム「Piao Heroine」を聴く。「神童」として早くから注目を集める存在で、2018年のゲザ・アンダ国際ピアノコンクール 優勝で一躍有名になったそうだ。ファンチはこれまでにも10枚ほどのアルバムをリリースしていて、ロマン派が中心で現代とバロックが少々といった感じだ。今回のアルバムは女流作曲家として有名な作曲家の作品を集めている。有名な作品ではないところが、みそのようだ。どの作曲家も最近有名になり始めている作曲家で、筆者は名前は知っているが作品はあまり知らない。というか、聴いてはいるのだが、あまり印象に残っていない、といったほうが正しいかもしれない。このアルバムは最近のトレンドであるコンセプト・アルバムで、コンセプトは女性作曲家の隠れた名作の紹介だろう。ただ、軽い作品が多く、アピール度も低く、隠れている理由が納得できる作品たちだ。聞きごたえはそれほどあるとは思はないが、ながらで聴いている分には新たな発見が得られ、そこから彼女たちの作品を知るきっかけになるだろう。ホガンチのピアノは、無理のないテンポ設定とフレージングで、音い潤いがあるので、今回のアルバムに収められた作品に向いたピアズムだ。特にファニー・メンデルスゾーンやクララ・シューマンの抒情性には非常に合っていて、シャミナードのピアノ曲との近似性を感じてしまう。クレア・ファンチは一寸感情をこめすぎることもあるが、いやらしさはないのがいい。また、時にエキセントリックになることもある。フレージングが一本調子で、フレーズが混み合うと音が濁る傾向がある。AIによると、この原因は、ペダリングの“保ちすぎ”のため和声が変わっても前の響きがにじみとして残る、内声処理がやや甘いため声部が“層”ではなく“塊”として聞こえる、打鍵が重いため和音が厚くなったときに飽和する、などが考えられるようだ。なので、 和声が厚いAmy Beach、やリズム+和声が重なるFlorence Priceでは濁りが顕著になるという傾向があるそうだ。なるほど筆者の感じたのはこれだったのかと思った。まあ、作品自体が軽い曲ばかりなので、突っ込みを入れるのは野暮かもしれない。全編ロマン派的なメンデルスゾーンやシューマンだけだと飽きてしまうが、後半アメリカ人作曲家の作品が入っていて、ピリッとしたところもあって、変化を感じさせるプログラミングだった。作品自体はクララ・シューマンの品位とスケールが突出していて、そのあとにメンデルスゾーン、ビーチが続く。ビーチの「幻想フーガOp.87」はブラームス的な重厚なつくりだが、肝心の主題がいまいちで、前述のように響きが濁ることがあるのが惜しい。「4つのスケッチ」Op.15はなかなか聴かせる。ブラームスの間奏曲を思わせる「秋に」、ローベルト・シューマンを思わせる「幻影」、「夢想」もシューマン的だが、どんよりと暗いムードで、 曲想の変わる中間部以降がなかなか味わい深い。光の点滅を思わせる細かい音符が続く「蛍」も悪くない。この組曲は今後弾かれる機会が増える気がする。最近録音される機会が急増しているフローレンス・プライスだが、埋もれていた作品が大量に発見されたことや、そこに新しいネタを探していたレコード会社が飛びついたこと、社会的な要請などがプチブーム?の理由に挙げられているようだ。個人的には黒人霊歌など生の素材が提示されることや、展開力に乏しいことで、何回か聴いているが未だに馴染めていない。素材自体の美しさがあまりないことも原因の一つだろう。このアルバムでは5曲が取り上げられているが、最初の2曲では印象は変わらなかった。ところが、次の曲からだいぶ印象が変わった。軽やかでヨーロパ的な洗練が感じられる「春の乙女のワルツ」が良かったが、ファンチの演奏が落ち着きがなく、曲の品位を落としているように感じられた。「あなたの手を私の手に」も「私」の気持ちがよく分かるような、優しさに溢れた佳曲。リズミックで楽し気に踊る情景が浮かぶような「コットン・ダンス」も楽しいが、リズムが重いのが足を引っ張っている。ということで、最近のトレンドにあった企画だが、演奏にも原因があるが、肝心の曲が弱く、埋もれていていた理由が分かる気がする。クララ・シューマンのスケールの大きさが際立ってしまったのは意外だった。Clair Huanguci:Piao Heroine(Alpha ALPHA1231)24bit 96kHz FlacFanny Mendelssohn(1805–1847)カプリッチョ ロ短調 H.349 第1曲 Andanteカプリッチョ ロ短調 H.349 第2曲 Allegro molto《四季(Das Jahr)》より 第2曲「2月:スケルツォ」《四季(Das Jahr)》より 第5曲「5月:春の歌」《四季(Das Jahr)》より 第6曲「6月:セレナード」《四季(Das Jahr)》より 第9曲「9月:川辺で」Amy Beach(1867–1944)幻想フーガ Op.87 第1曲 Allegro vigoroso幻想フーガ Op.87 第2曲 フーガ Allegro moderato孤独な母の子守歌 Op.108《4つのスケッチ》Op.15 第1曲「秋に」《4つのスケッチ》Op.15 第2曲「幻影」《4つのスケッチ》Op.15 第3曲「夢想」《4つのスケッチ》Op.15 第4曲「蛍」Clara Schumann(1819–1896):《音楽の夜会》Op.6 第2曲「ノットゥルノ」《性格的小品集》Op.5 第2曲「ボレロ風カプリス」《性格的小品集》Op.5 第4曲「幻想的情景(亡霊のバレエ)」ピアノ協奏曲 イ短調 Op.7 第2楽章「ロマンス」《音楽の夜会》Op.6 第6曲「ポロネーズ」Florence Price(1887–1953):幻想曲第2番 ト短調(Fantasie Nègre No.2)メディテーション春の乙女のワルツあなたの手を私の手にコットン・ダンスRecorded July 2025,Leibniz Theater, Hannover, Germany
2026年04月15日
コメント(0)
去年の秋ごろから体のかゆみが取れず、薬を変えたりしているが、症状はほとんど改善されない。日によっては、寝ている間もかゆくて目が覚めてしまうことが度々ある。医師の診断は乾燥肌とのことだが、そうだとすると秋の段階ではどうだったのかと疑問も残る。医師やAIからさまざまなアドバイスを受け、何とか改善しようとしている。風呂の温度が高いのはよくないと言われ、現在は39度に設定しているが、家族からは低すぎると文句を言われてしまう始末だ。塗り薬をほぼ全身に塗っているため、白い下着に色が付いてしまい、妻からも文句を言われている。長年愛用していた薬用石けんも脂分を取りすぎるとのことで、普通の石けんに替えた。体を洗うのも全身ではなく、脇の下やお尻、足などに限定するよう指示されている。また、高齢者は毎日入浴しなくてもよいという妻の助言に従い、今週からは一日おきにしている。そうこうするうちに、先週突然蕁麻疹が出てしまった。風呂に入ると症状が悪化するし、体を冷やしても、あるいは寝ていても悪くなるため、就寝中も体を温めすぎないよう気をつけているが、なかなか改善しない。蕁麻疹は出たり引いたりするものらしく、少し症状が和らいできたので、一週間ぶりにプールに行ってみた。水温は体温より低く設定されているためか、蕁麻疹が悪化することもなく、かゆみもあまり出なかった。プールを休んでいたことを悔やんでも後の祭りだが、これからはできるだけプールに通い、体を適度に冷やすようにしたいと思う。AIに聞いたところ、「あなたの場合、プールはかなり理にかなった対処法の一つです」とのこと。ただし、プールから上がったら保湿をしなければならない。これで何とか良くなればと思う今日この頃だ。
2026年04月13日
コメント(0)

グレゴリー・ハッチンソン(1970-)というドラマーによる、マイルス生誕100周年を記念したMiles Davisの演奏を再構築したアルバム。サブタイトルの「Pulse(鼓動)」が示す通り、ドラマー主導のマイルス解釈というもので、大変意欲的なアルバムだ。方向としては徒にオリジナルをいじるのではなく、あくまでもオリジナルを踏襲したアレンジで、大方の聴き手には抵抗の少ないものだろう。ギターは曲によって異なり、2人の曲と1人の曲があるが、いずれも効果的なパフォーマンス。ギター2本は「Fall」,「Feio」,「Bitches Brew」,「Black Comedy」の4曲で、「Water Babies」と「Circle in the Round」はJakob BroとEmmanuel Michaelがそれぞれ単独で参加している。面白いのは「ビッチェズ・ブリュー」以降の、いわゆる電化マイルス時代の作品。他のミュージシャンがあまり取り上げないこともあり、その意欲がよく表れた興味深い演奏が多い。「Feio」は「ビッチェズ・ブリュー」の1992年リイシューで追加された曲のようだ。オリジナルはエレピのノイズが多く聴きづらいが、今回の録音は演奏時間がオリジナルの半分以下。テンポはやや速めだが、原曲の雰囲気はよく出ている。「ビッチェズ・ブリュー」は原曲の混沌とした雰囲気がよく出ており、Ron Blakeのバス・クラリネットが原曲のイメージを想起させる好編曲。エレキ・ギターも効果的で、宇宙的な広がりを感じさせる演奏だ。惜しむらくは演奏時間が短いことだろう。「Circle in the Round」は、熱いエレキ・ギターのソロとクールなピアノ、忙しなく動き回るドラムスの対照が聴きどころ。ハッチンソンのオリジナルは3曲で、ドラムスをフィーチャーした短いトラックだが、マイルスのナンバーに挟まれても違和感は少ない。5曲目の「The Masters」はドラムスと打ち込みによる、やや毛色の異なるトラック。最後の「I'm Done」はセッション後の短いアウトロ的なトラック。ハードバップ時代の再現も雰囲気たっぷりで、そつなくこなしている。この点ではクレイトンのピアノが当時のスタイルに沿ったプレイで違和感がない。特にクインテット時代のナンバーでは、ハンコックを思わせるクールなプレイが印象的だ。このアルバムの主役であるトランペットのAmbrose Akinmusireは、結構音を外したりしているが、それがかえってマイルスのプレイに酷似していて微笑ましい。ハッチンソンのスタイルはトニー・ウイリアムスやエルヴィン・ジョーンズの系譜だが、重くならず小気味よいリズムを叩き出している。参考までに「Miles Davis Quintet 1965-'68」に収録されたオリジナルを聴いたが、今でも古さを感じさせない。特に電化マイルス時代のナンバーは現代の演奏を先取りしているかのようで、マイルスの先進性を再認識させる。こうした作品こそ、創造性のあるアルバムというのだろう。Gregory Hutchinson's - KIND OF NOW- Live From Jazz Cultural リーダー以外はメンバーは異なるが4/10に行われたばかりのクラブギグ。Gregory Hutchinson:kind of Now(Blue Note 659 6974)24it96kHz Flac1. Charlie Parker:Ah-Leu-Cha2. Miles Davis:Fran-Dance3. Wayn Shorter:Fall4. Wayn Shorter:Orbits5. Gregory Hutchinson:The Masters(Interlude)6. Wayn Shorter:Feio7. Wayn Shorter:Water Babies8. Lynn Speakman & Miles Davis:Seven Steps to Heaven9. Miles Davis:Bitches Brew10. Anthony Tillmon Williams:Black Comedy11. Gregory Hutchinson:Ellehcem's Time12. Miles Davis:Circle in the Round13. Gregory Hutchinson:I'm DoneGregory Hutchinson (ds)Ambrose Akinmusire (tp track 1-4,6-10,12,13)Ron Blake (ts, bcl track 1-4,6-10)Jakob Bro (g track 3,6,7,9,10 )Emmanuel Michael (g track 3,6,9,10,12)Gerald Clayton (p track 1-4,6-10,12,13)Joe Sanders (b track 1-4,6-10,12,13)Recorded 2024,NY
2026年04月11日
コメント(0)

山田和樹がバーミンガム市立交響楽団を指揮したウォルトンの2曲の交響曲と戴冠行進曲「宝玉と勺杖」を収めた一枚。山田初のグラモフォンからのリリース。グラモフォンではイギリス音楽のカタログ整備が十分でなかったため、近年はそれを補う形で散発的なリリースが行われている。その時もバーミンガム市響で、指揮は音楽監督であるミルガ・グラジニーテ=ティーラだったので、今回もバーミンガム市響によるイギリス音楽のプロジェクトの一つなのかもしれない。交響曲は構成感が希薄で(特に第2番)、AIによると格付けのためとされるが、あえて交響曲とした理由はよく分からない。全体に明快なサウンドで、やや軽量級だが、ウォルトンに必要な重厚さも十分。筆者はウォルトンの交響曲にあまりなじみがない。第1番は数枚所持しているものの、第2番は初めて聴いた。どちらも交響曲らしい構成感が薄く、管弦楽曲のように感じられる。特に第2番第1楽章は、イントロからジョン・ウィリアムズの音楽のような宇宙的な響きを思わせ、躍動的な部分も含めて、終始その性格が続く。第2楽章の「Lent assai」は穏やかな曲調に変わるが、宇宙のようなひんやりした雰囲気は保たれるが、途中から雰囲気が一変してサスペンス風になる。このあたりも実に映画音楽的だ。ホルンのソロで音がひっくり返る箇所があり、昨今のプロオーケストラでは珍しい。怪獣でも出てきそうな荒々しい主題で始まる第3楽章も、ドラマ的で映画を思わせる。パッサカリアと名付けられたこの楽章は、テーマと10の変奏、コーダから成る。テーマが旋律ではなくコードが鳴っているようなもので、のっぺりとして分かりにくく、しかもほとんど聞こえないため、通常のパッサカリアを期待すると裏切られる。上声部の変奏が動きが多く、騒がしく感じられるのも、分かりにくさの一因である。ただ、後半のフガートからは熱を帯びたダイナミックな展開で、実に聞きごたえがある。第1番は久しく聴いておらず、ほとんど初めてのように感じた。第1楽章は暗くラプソディ的な性格を持ち、時折ボロディンを思わせるエキゾチックな旋律が現れる。第2楽章はPresto con malizia(悪意をもって)と指定された速いスケルツォ風楽章。推進力があり、静かな部分でのひんやりした雰囲気も魅力的だ。参考として聴いたジョン・ウィルソン盤はメリハリや切れでやや優るが、金管の厚みはバーミンガムに分がある。後半5分20秒過ぎのホルンのトリルはバーミンガムの方が凄味がある。第3楽章はAndante con malinconia(憂鬱なアンダンテ)と記された楽章。唯一の緩徐楽章で、木管が美しい淡い色彩を生む。この交響曲は長年関係のあった年上のパトロン、アリス・ウィンボーンとの別れが反映されていると言われる。弦の嘆きのような長い旋律が抒情と孤独を表すが、作曲者の生々しい感情が強く、やや過剰にも感じられる。それまでの楽章は1934年に完成していたが、精神的行き詰まりにより第4楽章のみ翌年の完成となった。ここには苦悩から解放されたウォルトンの快活な側面が表れている。堂々とした導入に続き、弦によるフガートや蓄積されたエネルギーを一気に放出する中間部など、躍動的で魅力的な瞬間が続く。エンディングのテュッティは聴きどころで、最後はシベリウスの交響曲第5番を思わせる休止を伴う展開となるが、個人的にはややもったいぶった印象で、よりすっきり終えてほしいところだ。戴冠行進曲「宝玉と勺杖」は同種の「王冠」に比べると知名度は低いが、中間部の荘厳さと優美さは「王冠」を上回る感動的な音楽だと思う。今回の演奏は過度に劇的な表現を避け、曲に語らせる指揮だが、細部の動きはよく出ている。後半のアチェレランドはやや速すぎる印象で、エンディングももう少し堂々とした表現が望まれる。バーミンガム市響は軽快さと重量感を兼ね備えていて、特に木管、とりわけファゴットが印象に残る。ということで、上々の仕上がりで、今後のこの組み合わせでの録音が大いに期待出来そうだ。また、筆者もウオルトンの交響曲の面白さが少しは分かったかもしれない。Walton: Symphonies Nos. 1 & 2; Orb and Sceptre(DGG 4868227)24bit 96kHz FlacWiliam Walton:1.Orb and Sceptre (1953)2.Symphony No. 1 in B flat minor (1935)6.Symphony No. 2 (1960)City of Birmingham Symphony OrchestraKazuki YamadaRecorded: 2024-12-04(track 1,6-9)2025-11-06(track 2-5)Symphony Hall, Birmingham
2026年04月09日
コメント(0)

チリ出身のテナー・サックスのメリッサ・アダルナのブルーノート移籍第2弾「Fílín」を聴く。アダルナたっての希望で、キューバ出身のピアニスト、ゴンサロ・ルバルカバと共演したキューバ・ナンバーを特集したアルバムだそうだ。ゴンサロは最近キューバ色の強いアルバムばかりで、個人的には不満だったので、喝を癒すことが出来て良かった。キューバの音楽を中心とした選曲だが、それほどローカル臭は感じられない、洗練された音楽。タイトルのFílín(フィーリン) は、英語のfeelingが語源で、キューバではこれがスペイン語風に変化して「感情・情感を大切にする歌のスタイル」を指す言葉だそうだ。Fílínは1940〜50年代のハバナで発展したボレロをベースにジャズの和声やニュアンスを取り入れた演奏スタイルで、親密で内省的、ささやくような歌、恋愛や孤独など繊細な感情をあらわすとのこと。このアルバムではフィーリンの代表的な作曲家のナンバーに一部ブラジルの作曲家の作品が(カルトーラ/パスコアール)が含まれた選曲。その名の通り声高に叫ばない静かな叙情を感じさせる曲が揃っている。サルダナのテナーは寡黙だがネットリしすぎていて、個人的にはもう少しさらっとやれないものかと思ってしまう。ジョー・ロバーノ+チャールズ・ロイドの太いが、ささくれ立ったサウンドを思い出してしまう。最近はジャズと言えど音が汚いとがっかりしてしまうのだ。ゴンサロは音数が少ないが、味わい深いプレイで、聴き手の心に染み渡る演奏だった。セシル・マクローリン・サルバントが2曲で参加している。以前のアダルナのアルバムでも共演していた。2曲ともバラードで、情感豊かなヴォーカルにうっとりしてしまった。特にブラジル・サンバの巨匠カルトーラの「Las Rosas No Hablan」の後半、それまでのソフトな語り口から一転、絶叫に似た歌唱に変わり、聴き手の心が鷲掴みにさせられるような感動的な演奏だった。陳腐な言い方だが南米の哀愁を感じさせる以前ケニーバロンの「Songbook」での彼女の「Song For Abdullah」の感動的なヴォーカルを聴き、感動してしまったことを思い出した。サルバントは以前のちょっと変わったテイストが影を潜め、正統的なヴォーカリストとして変貌しつつあることが分かる歌唱だ。現在聴き手を感動させる女性ヴォーカリストとして彼女をおいて他にはいないだろうと思わせる歌唱だった。このアルバムは今の季節ではなく、熱帯夜にクーラーを付けずに、汗をかきながら聴くのが相応しい、クールなアルバムのような気がする。結果的にキューバとブラジルの音楽の良さを再認識した次第。ゴンサロの参加したヘイデンの諸アルバムを無性に聞きたくなった。Melissa Adalna:Filin(Blue Note B0038791-02)24bit 96kHz Flac1.Salvador Levi:La Sentencia2.César Portillo de la Luz:Dime Si Eres Tú3.Marta Valdés:No Te Empeñes Más4.Frank Domínguez:Imágenes5.Cartola:Las Rosas No Hablan6.Hermeto Pascoal:Little Church7.José Antonio Méndez:Ocaso8.Frank Domínguez:No Pidas ImposiblesMelissa Aldana(ts)Gonzalo Rubalcaba(p)Peter Washington(b)Kush Abadey(ds)Cécile McLorin Salvant(vo track3,5)Recorded 2023 atSear Sound,New York,USA
2026年04月07日
コメント(0)

最近好調のグスタヴォ・ヒメネ指揮トロント交響楽団のバルトーク集を聴く。「中国人の不思議な役人」の全曲と「管弦楽のための協奏曲」という豪華な組み合わせに、カナダのエミリー・セシリア・ルベルという作曲家の小品が収録されている。普通ならCD二枚組でもおかしくない内容。ただしCDの容量の関係で、CDには短縮版(約9分)、配信ではフル版(約15分)が収められている。ブックレットによるとヒメノは「中国人」について、全曲版が演奏されることは稀で、その結果、重要な部分を含む3分の1の音楽が聴かれていないため、今回は完全な形で提示したいと考えたという。筆者は今までストーリーをきちんと学習したことがなかったので、AIに詳しく教えてもらい試聴した。やはりストーリーを踏まえると、演奏の意図がおぼろげながら理解できたように感じる。響きは透明で低音が控えめなため、重量感に乏しく、ストーリーの理解前はジメジメした感じが薄く、暴力性も強調されていない印象だった。ところがストーリーを理解した後は舞台とされるベルリンまたはブダペストの、当時の退廃的な雰囲気を想像することで、この音楽の不気味さが身近に感じられたのは自分でも驚いている。劇的な表現には拘っていないので、さらっとした仕上がり。全曲版では合唱が用いられるが、都会の喧騒を描く冒頭では語りに近い扱いながら、オーケストラに埋もれてほとんど聴き取れない。録音上、意図的に音量を上げない限り聴こえにくいのかもしれない。一方、役人がベッドの枕の間から目をぎょろつかせる凍り付く場面でのハミングは比較的明瞭で効果的。この作品で重要な少女役のクラリネットも好演だ。参考に聴いたブーレーズ指揮シカゴ響でも合唱の扱いは同様だが、テュッティの音量はかなり大きい。なおブーレーズ盤はサウンドの厚みと馬力、劇的な解釈がトロント盤を大きく上回っていた。30年も前の録音だが、今でも十分に通用する録音だった。「管弦楽のための協奏曲」もサウンドの傾向は同様で、ヒメノの音作りが貫かれているが、もう少し重量感が欲しいところ。特別に強調はされないが、オーケストラの名技性は十分に発揮されている。第1楽章は遅めで、終結部近くの金管アンサンブルは緊迫感がやや不足。エンディングは加速してきっぱりと終わる。「対の遊び」はラプソディックな気分があり好印象。静かな「エレジー」は冷たい肌触りが心地よい。弦のフレージングには一部スタッカート処理が見られ、やや違和感があり、アンサンブルにもわずかな緩みを感じた。「間奏曲」は速めのテンポで、すっきりとした演奏。最終楽章はやや遅めに始まるが、徐々にテンポを上げ、高揚感が生まれる。ファゴット・ソロの後もテンポは緩まず、緊張感が維持される。弦合奏前のハープが埋もれず明瞭に響く点は印象的。終結部の混沌とした部分も細部まで鮮明で、聴き応えがある。他に、トロント交響楽団の委嘱作品であるカナダの作曲家エミリー・セシリア・ルベルの「the sediments(土砂・堆積)」が収録されている。作曲者自身の言葉によれば、『この作品は堆積物を通して人類の歴史の重なりと持続を思索し、それを砂利や岩、豪雨を想起させる音響で表現している』という。約15分の作品で、静かで瞑想的ながらバルトークに通じる雰囲気を持つ。時折現れるテュッティは恐ろしい響きを伴い、強いインパクトを与える。中間部の驟雨を思わせる場面、その後の沈黙、不協和音の中でのバスドラムの強打などが印象的。チャイムや鐘の使用により、一種宗教的な気分も感じられる。録音は透明度が高く、量感も適度で、ホールノイズの感じられない快適な音場。細部の解像度も高い。総じてどの曲も水準が高く楽しめるが、特に「中国人」の新録音がいい音で楽しめるのは有難い。Bartók: The Miraculous Mandarin; Concerto For Orchestra(Harmonia Mundi HMM905365)24bit 96kHz Flac1.Bartók: The Miraculous Mandarin, Op. 19, Sz. 73 (ballet) 9.Emilie Cecilia LeBel (1979-): the sediments(original concert version) 9 | the sediments (original con10.Bartók: Concerto for Orchestra, BB 123, Sz.116 Toronto Mendelssohn ChoirToronto Symphony OrchestraGustavo GimenoRecorded(live) 21-23 November,2024,Roy Thomson Hall(Canada)
2026年04月05日
コメント(0)

アメリカのドラマーであるユリシーズ・オーエンズ・ジュニア(1982-)による「Around The World With U」を聞く。彼はアメリカ・フロリダ州ジャクソンビル出身のドラマー、作曲家兼教育者だ。若くしてウイントン・マルサリスの Jazz at Lincoln Center Orchestra に参加。その後、有名ミュージシャンと多数共演しているポスト・ネオコンの中核的ドラマーだという。Generation Yは彼が主宰する若手ミュージシャン育成プロジェクトで、筆者の知るアルトサックス奏者Alexa Tarantinoもそのメンバーに含まれているらしい。ジャズ・メッセンジャーズのようにドラマーがリーダーで、メンバーが流動的なバンドのようだ。今回のアルバムではトランペットのAnthony Herveyがこのプロジェクトのコアメンバーとなっている。本作は伝統的なジャズサウンドをさらに洗練させた、メインストリームの作品。アルトの寺久保エレナ(1992-)、トロンボーンの治田七海(2001-)、ベースの中村恭士(1982-)という3人の日本人プレーヤーが参加している。典型的なハードバップ・セッションだが、冒頭の「Prodigal Son」からエンジン全開で迫る熱量の高い演奏が続き、聴き手を圧倒する。リーダーのユリシーズは、リムショットを多用したバッキングで強烈に煽る。フロントでは何と言っても寺久保の太く逞しいサウンドと饒舌なアルトが光る。次いでアソニー・ハーベイのトランペットだろうか。両者の相性は非常によく、音楽を生き生きとしたものにしている。個人的に評価が高くなかった治田のトロンボーンは出番こそ多くないが健闘している。ただし、気になっていた音の割れが改善されていない点は惜しい。タイラー・ブロックのピアノは端正な表情を見せるが、やや非力に感じられた。一方で中村恭士のベースは寡黙ながらも圧倒的な迫力を持つ。「Bebop」と「Confermation」のメドレーは猛烈なスピードでアルトとトランペットが迫り、バップ当時の熱気を伝える本作随一の聴きどころである。ピアノも健闘しており、コンピングでは独特のフレージングが光る。「Espresso」は軽快なラテン・タッチのグルーヴィーな楽曲で、ホーンのハーモニーが心地よい。「Morning Prayer」は哀愁を帯びた静かなバラードだが、一筋縄ではいかない演奏である。控えめながら忙しないドラムのシンバルワークが、独特の雰囲気を生んでいる。さらにエンディングでドラムが激しく展開する点も印象的だ。「Mo’ Betta Blues」は「Oh Happy Day」を思わせるゴスペルナンバーで、心が弾む。「New York」は猛烈なスピードで展開する熱い演奏で、バップに新風を吹き込むかのようだ。強力なウォーキング・ベースがバンドをプッシュする中、ピアノ、トランペット、アルトの熱いソロが繰り広げられる。「The Light that Grew Amongst Us」は寺久保をフィーチャーしたバラード。30代半ばとなった彼女は落ち着きを備え、やや粘りを感じさせつつも、フィル・ウッズを想起させる骨太な演奏を聴かせる。この年代の日本人女性アルト奏者としては、依然として抜きん出た存在に感じられる。個人的には久しくリーダーアルバムが出ていない点が唯一の不満。「Little Girl Power」はファンキー・テイスト満載の楽曲で、メンバーのショーケース的なナンバー。寺久保のゴスペル色豊かなソロが際立ち、治田も短いながら安定したソロを披露する。ファンキーなピアノのバッキングも聴きどころで、後半にはリーダーの力強いドラムソロが展開される。ハーベイがハーマン・ミュートを用いた「Stardust」は遊び心に富み、やややり過ぎ感はあるものの、異色のバラードとして楽しめる。前進するエネルギーに満ちた「Road Life」は、中村の力強いウォーキングベースとユリシーズの繊細なシンバルワークに乗り、ホーンが短いソロを回していく構成で、メンバー紹介を想起させる。ラストの「I’m Not So Sure」はジャズ・メッセンジャーズを洗練させたようなサウンドで、リー・モーガンを思わせるユーモラスなフレーズが印象的に響き、華やかに締めくくられる。総じてエネルギーに満ちた非常に充実した演奏だ。ソロの有無に関わらず、リーダーの多彩な技とメンバーを鼓舞するドラミングが際立ち、ドラマーがリーダーのアルバムの模範とも言えるアルバムだ。ぜひお聴きいただき、この熱気を味わってほしい。Ulysses Owens Jr. & Generation Y:Around The World With U(Cellar Live CM081825)24bit 96kHz Flac1.Ulysses Owens Jr. : Prodigal Son2.Dizzy Gillespie/Chalie Parker : Bebop & Confermation3.Benny Benack III : Espresso4.Anthony Hervey : Morning Prayer5.Bill Lee : Mo’ Betta Blues6.Luther Allison : New York7.Ulysses Owens Jr. : The Light that Grew Amongst Us8.Band member : Little Girl Power9.Hoagy Carmichael : Stardust10.Ulysses Owens Jr. : Road Life11.Band member : I’m Not So SureUlysses Owens Jr.(ds)寺久保エレナ(as)Anthony Hervey(Tp)治田七海(Tb)Tyler Bullock(p)中村恭士(b)Recorded 2022,Van Gelder Studio
2026年04月03日
コメント(0)

偶然見つけたシカゴ交響楽団の金管五重奏団のアルバム「Apex」を聴く。妙音舎のクラシックレーベルMClassicsからのリリース。特別な新鮮さはないが、明るく爽快なサウンドで理屈抜きに楽しめる。安定したテクニックが聴き手に安心感を与える。一方で、難所も難なく処理されるため、奏者の熱が伝わりにくいが、それは無理な注文というもんだろう。プログラムは保守的で目新しさは少ないが、ブラス・アンサンブルのアルバムとしてはトップ・クラスの出来だろう。タイトルチューンの「Apex Predators」が目新しい。この曲はウクライナ出身のカテリーナ・リフータによる、ダークなムードを持つ現代的で刺激的な作品。サスペンス映画を思わせるストーリー性を備え、フラッター・タンギングが効果的に用いられている。「金管五重奏のための組曲」から「行進曲」は、アメリカのホルン奏者でイーストマン音楽院で長く教鞭をとったヴァーン・レイノルズの作品。ファンファーレ的な行進曲で、アメリカ的な明快な曲想とサウンドが特徴。バッハの「トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV564」はフレッド・ミルズ(1935–2009)の編曲。この曲を初めて聴いたが、「トッカータ」は穏やかな曲調でユーモアが感じられる。「アダージョ」はトランペットが朗々と歌う。厳かでありながらも楽天的な気分を伴う。「フーガ」も軽快で、終始まろやかなサウンドを保つ。振れ幅の大きい分散和音の部分は、難所だが滑らかに処理されている。チューバには負担の大きい書法だが、全曲を通じてメロウな響きが印象的。アーヴァインはカナダの作曲家兼チューバ奏者。「朝の歌」は穏やかな朝の情景を描いた作品で、ゆったりとした清々しさが感じられる。ハーモニーは美しく、エンディングに向かって次第に高揚していく様が静かな感動を呼ぶ。ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第3番第3楽章がブラス・アンサンブルでは取り上げられるのは珍しい。技術的難度の高さに加え、第2次世界大戦直後の作品であるため、戦争の影を引きずり、抑圧された気分が感じられ、無理に明るく振る舞うショスタコお得意の作風だ。金管アンサンブルでは暴力的な側面は適しているが、開放的な響きのため、暗い表情は十分に出し切れないのは仕方がない。ヴェリディの「ナブッコ序曲」の演奏される機会が多いが、今回の録音は普通のでき。五重奏としては響きが豊かで、速い部分ではトランペットの名技が際立つ。ジャーマン・ブラスのクレスポの「Suite Americana No.1」は、ブラス・アンサンブルではポピュラーな作品で、エキゾチックな雰囲気を持つ旋律的で親しみやすい組曲だ。参考までに手持ちのSpanish Brassのデビューアルバム「No Comment」の録音も聴いた。サウンドの明瞭さと純度ではシカゴが優れるが、表現の個性ではスパニッシュ・ブラスに分がある。一般に常設アンサンブルのほうがエンターテインメント性で有利なのは否めない。それでも「ボサ・ノヴァ」でのメロウなトロンボーンや、「ペルー風ワルツ」の軽妙さと哀愁は聴きどころ。「メキシコの音」でアルバムは華やかに締めくくられる。このメンバーであればさらに攻めた演奏も可能だが、本盤は意外にも節度を保った演奏で統一されており、清潔感がある。録音は妙音舎の特徴である極端な近接マイクではなく、標準的なオンマイク。溶け合ったハーモニーが美しく、音響面の完成度は高い。ということで、完璧なアンサンブルと、豊かなハーモニー、各人の素晴らしいテクニック、フレッシュな選曲などいいことずくめの、ブラス・アンサンブルの新たな名盤が誕生したことを喜びたい。The Chicago Symphony Brass Quintet:Apex(MClassics MCD128)24bit 192kHz Flac1. Verne Reynolds(1926-2011):Suite for Brass Quintet – March2. Johann Sebastian Bach:Toccata, Adagio and Fugue in C major, BWV 564 Toccata Adagio Fugue5. J. Scott Irvine(1954-):Morning Song6. Dmitri Shostakovich:String Quartet No.3 Op.73 – III. Allegro non troppo7. Giuseppe Verdi:Nabucco – Overture8. Katerina Likhuta(1981-):Apex Predators9. Enrique Crespo(1941–2020):Suite Americana No.1 Ragtime Bossa Nova Vals Peruano Zamba Gaucha Son de MexicoChicago Symphony Brass Quintet:Esteban Batallán(tp)David Cooper(tp)David Cooper(Hr)Michael Mulcahy(Tb)Gene Pokorny(Tba)Recorded October 8 & 13, 2023, Kioi Hall, Tokyo, Japan
2026年04月01日
コメント(0)

ハロルド・メイバーン(1936-2019)の「アフロ・ブルー」10周年記念リマスター盤を聴く。総勢5人のヴォーカルをフィーチャーしたアルバムで、リマスター盤が出るまでその存在を知らなかった。本作の売りは新規リミックスとリマスターだが、オリジナルを未聴のため厳密な比較はできない。概ね効果は感じられる。まず配信先行で、後にアナログでのリリースも予定されている。編成は最大でピアノ・トリオ+3管+ギター。インスト曲を除き、グレゴリー・ポーター、ノラ・ジョーンズ、ジェーン・モンハイトが各2曲、カート・エリングが3曲、アレクシス・コールが1曲という構成。グレゴリー・ポーターは軽やかでノリの良いヴォーカルで、スキャットも魅力的だ。以前はよく聴いていたが、近年は編集盤が多く、クリスマス作品を除くと2020年の『All Rise』以降、新作が見当たらないようだ。ノラ・ジョーンズは野性味とけだるさを併せ持つ独自の歌唱を聴かせる。2曲とも個性的で、乾いた抒情を感じさせる「Don't Misunderstand」が印象に残る。モンハイトは例によって粘りのある歌唱。かつては好ましく思えたが、最近はやや重く感じる。「I'll Take Romance」は軽快なワルツだが、その持ち味が活かしきれていない。続く「My One and Only Love」はスローテンポで、その粘度がさらに強調される。フレーズ途中で突き放すような歌い回しも気になる。カート・エリングの「Billie's Bounce」は、イントロでのトランペットとのユニゾンからエリングのぶっ飛んだスキャットへと続き、勢いのある演奏。ジェレミー・ペルトの快活なソロ、エリック・アレキサンダーの高速パッセージも痛快だ。バラード「Portrait of Jennie」は前半がピアノ・トリオで、王道のしっとりした歌唱が楽しめる。中間部でトランペット・ソロが入り、後半はエリングがドラマティックに展開する。「You Needed Me」はミディアムテンポでカントリーやソウルの香りを漂わせ、中盤からホーンのユニゾンで高揚する。この展開は実にスリリングだ。アレクシス・コール(1976年-)はややハスキーな声質ながら、滑らかなディクションと端正なフレージングが魅力。3管との相性も良く、新たな発見の喜びがある。ピーター・バーンスタインのギターをフィーチャーしたファンキーな「Do It Again」では、メイバーンの勢いあるピアノ・ソロが光る。対照的にギターは終始端正で、その対比が興味深い。ただしリフの反復にはもう一工夫ほしい。ファーンズワースの「Mozzin'」はトリオ演奏。端正なピアノのイントロに続き、モーダルに攻める展開はマッコイ・タイナーを想起させる。悪くはないが全体に軽く、もう一段の押し出しがほしい。ベースとドラムのプッシュもやや不足気味。最後はメイバーンのオリジナルで、ゴスペル色の強いハード・バップ。タイトルは1970年代後半に在籍したジャズ・メッセンジャーズゆかりの人物名に由来し、Bobby Timmons、Benny Golson、Jymie Merritt、Lee Morgan、Art Blakeyへのオマージュという。末尾の「Bu」はブレイキーの愛称に由来する。ファンキーで楽しいが、変化に乏しくやや単調。ピアノ・ソロも決定打に欠け、ホーンが加われば印象は変わっただろう。録音はリミックスとリマスターの効果で豊かな響き。ヴォーカルとのバランスも良好で、全体にリッチな質感があり、3管のハーモニーも心地よい。総じてヴォーカル曲は各人の個性が発揮された聴き応えのある内容だが、ピアノ・トリオ曲はやや非力に感じられる。できればヴォーカル曲中心にまとめてほしかった。Harold Mabern: Afro Blue (10th Anniversary Edition)(Smoke Sessions SSR2507DIG)24bit 96kHz Flac1.Harold Mabern : The Chief2.Mongo Santamaria, Oscar Brown Jr. : Afro Blue(feat. Gregory Porter)3.Harold Mabern : The Man from Hyde Park(feat. Gregory Porter) 24.Rube Bloom, Johnny Mercer : Fools Rush In (feat. Norah Jones)5.Gordon Parks : Don't Misunderstand (feat. Norah Jones)6.Ben Oakland, Oscar Hammerstein II : I'll Take Romance (feat. Jane Monheit) 2or3horn7.Guy Wood, Robert Mellin : My One and Only Love (feat. Jane Monheit) 38.Charlie Parker : Billie's Bounce(feat. Kurt Elling) 3+3horn9.J. Russel Robinson, Gordon Burdge : Portrait of Jennie(feat. Kurt Elling)10.Randy Goodrum : You Needed Me (feat. Kurt Elling)11.Harold Mabern : Such Is Life(feat. Alexis Cole) 2or312.Walter Becker, Donald Fagen : Do It Again (feat. Peter Bernstein)13.John Farnsworth : Mozzin'14.Harold Mabern : Bobby, Benny, Jymie, Lee, BuHarold Mabern(p)Gregory Porter(vo)Norah Jones(vo)Jane Monheit(vo)Kurt Elling(vo)Alexis Cole(vo)Peter Bernstein(g)Jeremy Pelt(tp)Eric Alexander(sax)Steve Turre(tb)John Webber(b)Joe Farnsworth(ds)Recorded August 21 & 29, 2014 at Sear Sound, Studio C, NYC
2026年03月30日
コメント(0)

ヒュー・ワトキンス(1976-)というイギリスの作曲家の管弦楽曲を、マーク・エルダーがハレ管弦楽団を指揮したアルバムを聴く。最近ハレ管弦楽団が積極的にリリースしている、自主レーベルによる「現代英国作曲家シリーズ」の一枚。この作曲家は初めて聴いたが、クリアなサウンドと分かりやすい音楽で、イギリス的な雰囲気が感じられる。肩の力が抜けた明快な響きで気持ちがよいが、全体としては軽量な音楽という印象を受ける。3曲ともハレ管弦楽団と関係の深い作品である。「Fanfare for the Hallé」はハレ管弦楽団からの委嘱作品で、パンデミック初期のロックダウン後に彼らが舞台に戻ることを告げるために書かれた11本の金管楽器のための作品。イギリスのブラスらしい明るく歯切れのよい曲だが、エンディングがやや唐突で、演奏時間も2分弱と短く物足りなさが残る。「交響曲第2番」は、ハレ管弦楽団とBBCウェールズ・ナショナル管弦楽団の共同委嘱によるもの。2020年3月から2021年1月にかけて作曲され、両楽団の性格と響きを念頭に置いて書かれ、エルダーに献呈されている。激烈な現代音楽ではなく、叙情性と現代的和声のバランスを重視した交響曲で、ナッセンやティペットを連想させるらしい。作曲者は、新型コロナウイルスのパンデミックによる時代の異様さが作品の性格を規定し、最終的に前向きな結論へ至るよう意図したと述べている。フルートを中心とした柔らかな木管で始まる第1楽章。金管が加わると一気に推進力が増し、空間が広がるポストミニマル的な音楽が印象的である。時折現れるヤナーチェクを思わせるモチーフも、荒々しさを感じさせる。弦が静かに佇む第2楽章。ここでも弦とフルートの柔らかなハーモニーが心地よい。イギリス的田園風景というより、コープランドを思わせるアメリカ的な広がりが感じられる。第3楽章はフルートによるモーダルな旋律で始まり、半音階や頻繁な拍子変化が加わって不安定な魅力を生む。途中から急速に加速し、ティンパニの強打を伴って爆発的なトゥッティに至るが、それも束の間で再びフルート中心の音楽に戻る。弦の細かな動きに乗ったホルンの高音のアンサンブルは印象的だ。緊張感を保ちながらクライマックスへ向かう展開は聴き応えがあるが、低音の厚みが不足し、重量感にはやや欠ける。このため軽量な音楽という印象は拭えない。エンディングもやや唐突で、肩透かしを受ける感覚が残る。全体として終結の処理には課題があるように感じられる。「管弦楽のための協奏曲」は同楽団の委嘱作で、エルダーが音楽監督退任後の2025年5月、名誉指揮者として初めて指揮した演奏会で初演された。バルトークを範としつつも、技巧の誇示より音色や明るいリズム、色彩の変化に重点が置かれている。深刻さは皆無で、過度に劇的ではなく、スタイリッシュな表現が特徴だ。編成はほぼ2管だが、ホルン4本に対してトランペットも4本とし、バランスを取っている。多彩な打楽器も用いられ、色彩豊かな響きが展開される。3楽章構成で、第1楽章は木管・弦・金管の各セクションが順に提示される。木管の細やかで柔らかなフレーズが印象的で、ポストミニマル的な金管の力強い動きと対照をなす。第2楽章は淡い色彩の弦による夢見るような部分と、木管中心の速いスケルツォが交互に現れる。速い部分にも夢想的な雰囲気が保たれている。終楽章は、小動物の動きを思わせるフルートが活躍する軽快な部分と、管楽器がぐっと迫ってくる重厚な部分が交互に現れる構成である。中間部ではチェレスタ、ハープ、グロッケンシュピールのキラキラとしたサウンドが気分を変える。終結部のトランペットによるコラールは映画音楽を思わせる空間的な広がりを感じさせるが、ここでも突然終わる印象がある。終演後の聴衆の拍手と歓声が収められていて、この曲が好意的に受け止められていることが伺える。ということで、強烈な個性を主張する音楽ではないが、親しみやすく、快感を伴うサウンドで、今後演奏機会が増えることが期待される。一方で、交響曲と協奏曲がやや似た印象に聴こえる点は気になる。筆者の耳が悪いのだろうか。Huw Watkins:Orchestral Works(Hallé HLL 7569)24bit96kHz FlacHuw Watkins:1.Fanfare for the Hallé (2020)2.Symphony No.2 (2020-21)5.Concerto for Orchestra (2024-25)The HalléSir Mark ElderRecorded at The Bridgewater Hall, with social distancing, on 26 November 2020 (track 1)Symphony No. 2 recorded with social distancing on 24 March 2021 (tracks 2–4)Concerto for Orchestra recorded live and in rehearsal on 10 May 2025 (tracks 5–7)
2026年03月28日
コメント(0)

最近、そのさっぱりとした芸風が気に入っているウォルター・スミス三世の新譜「Twio vol.2」を聴く。テナーにベースとドラムスというピアノ・レストリオで、アルバム・タイトルの「Twio」は二人(two)が表に出るという意味で「trio」をもじった造語らしい。前作「Twio vol.1」ではベースのクリスチャン・マクブライドとジョシュア・レッドマンのテナーが参加していたが、今回はブランフォード・マルサリスとベースのロン・カーターをゲストに迎えている。通常だと2本のホーンは左右に分かれるが、このアルバムでは左(スミス)から中央(ブランフォード)に配置されている。なぜそのようになっているかは分からないが、個人的にはどうにも居心地が悪い。ロン・カーターは演奏の流れを変えるハーモニー・リーダーとしての役割、マルサリスは「同じ曲でも解釈が同時に複数存在する状態」を生み出すための起用とのことだ。「My Ideal」はのんびりしたムードで、やや田舎風の雰囲気がソニー・ロリンズの「Way Out West」を思い出させる。「Circus」も速いテンポだが、雰囲気は大きく変わらない。セロニアス・モンクの「Light Blue」は、ドラムスが忙しなく動き、ベースもよく歌い、テナーが悠然とソロをとるコレクティブ・インプロヴィゼーションに近い演奏で、曲はとめどなく進行する。「Casual – Lee」はウォルター・スミス三世のオリジナル。二人のテナーのサウンドの違いは大きくないが、スミスはソフト、ブランフォードはやや硬質で輪郭が明確だ。また、スミス三世のフレージングは滑らかで、ブランフォードはやや硬質である。カーラ・ブレイの名曲「Lawns」ではケンドリック・スコットがマレットを使い、この曲としては一風変わったムードになっている。スミス三世のソロは控えめで、メロディは断片的に提示され、終盤でようやくまとまる構成だ。ジョー・サンダースのベースが雄弁だ。「I Should Care」はロン・カーターの流麗なベースが際立つ。ドラムスのブラシ・ワークもそれに沿う。スティックに持ち替えてからテナー・ソロに入り、従来のバラード像とは異なる新鮮な解釈だ。ウェイン・ショーターの「Fall」では、スミスはテーマを繰り返すことに徹し、ベースとドラムスがアドリブを展開するもので、マイルス・デイヴィスの「Nefertiti」を想起させる。調べたら、両曲とも作曲年代は1966〜67年で、「Nefertiti」は「Fall」の発想をさらに推し進めた位置づけとのこと。ジョー・ヘンダーソンの「Escapade」は、ハードバップ特有の埃っぽさを拭い去った洗練された演奏。目立つタイプではないが、スミス三世のさっぱりした芸風が良い方向に作用している。デューク・エリントンの「Isfahan」は、イランの古都イスファハーンに由来する。この曲にはジョニー・ホッジスの名演があるため同系統の解釈は不利だが、今回の演奏はカーターの雄弁なベースに支えられ、甘さを抑えた硬質なテナーのフレージングが独自の美しさを示している。最後のエリス・マルサリスの「Swingin' at the Haven」は、沸き立つリズムのイントロから始まる典型的なブローイング・セッション。二人のテナーのバトルが展開され、屈託のない楽しさが伝わってくる。Walter Smith Ⅲ:Twio vol.2(Blue Note 881-3796)24bit 96kHz Flac 1.Richard A. Whiting / Newell Chase / Leo Robin:My Ideal2.Louis Alter / Bob Russell:Circus3.Thelonious Monk:Light Blue4.Walter Smith III:Casual – Lee5.Carla Bley:Lawns6.Sammy Cahn / Axel Stordahl / Paul Weston: I Should Care7.Wayne Shorter:Fall8.Joe Henderson:Escapade9.Duke Ellington;Billy Strayhorn:Isfahan10.Ellis Marsalis:Swingin' at the HavenWalter Smith III(ts)Joe Sanders(b track 1, 2, 3, 5, 8)Kendrick Scott(ds)Ron Carter(b track 4, 6, 7, 9, 10)Branford Marsalis(ts track 4,10)Recorded in 2024 at Power Station at Berklee, New York, NY, USA
2026年03月26日
コメント(0)

最近NASのファイルを再生していると音が歪むことがあり、スピーカーとアンプの接触不良が原因かと思ったが、いろいろ試しても原因が分からず、だましだまし使っていた。NASは5台使っているが、比較的新しい1台の調子が悪く、電源が入らなかったり、途中で切れたりしていた。それがこの音の歪むNASで再生したのが、artinfiniの「Spectacle Organ」という最近出た録音。ステレオ誌連載の「超絶音源チャレンジ」で音が良いと評価されたものだ。ところが途中で盛大に歪み続けることがあり、頭を悩ませていた。今日も再生しようとしてアンプの電源を入れたところ、無音ではないのにガサガサ音がする。音量を上げるとはっきり確認できる。試しに別メーカーのNASにファイルをコピーして再生したところノイズは出なかった。さらに不調のNASと同型の別個体でも再生してみたが問題はない。このことから、不調のNASがノイズの原因である可能性が高いと分かった。当該NASは電源スイッチの調子が悪く、電源が入らないことも度々あった。小型で頼りないスイッチのため、いずれ交換しようと思いつつ手つかずのままだった。原因の見当がついたので、まずは電源スイッチを交換するつもりだ。肝心の「Spectacle Organ」の音質だが、音像が前に強く出てくるタイプで筆者の好みではない。特に低音が巨大で圧迫感がある。従来からある装置チェック用ソフトの位置づけなのかもしれない。そのため演奏について細かく批評してもあまり意味はなさそうだ。知っている曲はバッハのみだが、ところどころ恣意的な解釈が感じられ、個人的にはあまり評価できない。オルガンのサイズやホールの違いがあるとはいえ、参考までに聞いた鈴木雅明の新盤(BIS-2111)では圧迫感がなく細部も鮮明だった。フランスの作曲家ルイ・ヴィエルヌ(1870–1937)のオルガン交響曲第3番は、フランス的な軽妙さがあり楽しめた。SACDは一般のレコード店ではなくオーディオショップを主な対象としているようで、デモ音源と割り切れば問題はないと思う。演奏者がArtinfini Organistと匿名であることも、音そのものを聴いてほしいというメーカーの意図だろう。音源は最も安価なprostudiomastersから192kHz FlacをC$8.1引きのC$18.89、手数料込みでC$19.13で購入した。同一曲でミキシング違いのトラックが並んでいるが、違いを比較するには曲ごとにソートして聴くと便利だろう。なお、ステレオサウンドにオーディオ評論家の三浦孝仁氏とオーナー兼プロデューサーの武藤敏樹氏の対談が掲載されているので参考になると思う。The Spectacle Organ(artanfini MECO-1088)24bit 192kHz Flac(Mix1)Franz Liszt:Prelude & Fugue on B-A-C-H, S260 Louis Vierne:Symphonie pour orgue n°3 en fa dièse mineur, Op. 28 I. Allegro maestoso II. Cantilène III. Intermezzo IV. Adagio V. FinalJohannes Brahms:Chorale Preludes , Op. 122 (excerpt) III. O Welt, ich muss dich lassen IV. Herzlich tut mich erfreuen V. Schmücke dich, o liebe Seele VIII. Es ist ein Ros' entsprungenJohanen Sebastian Bach:Toccata & Fugue in D minor, BWV565 The second half presents the same program in an alternative mix.(Mix2)Artinfini Organist録音:所沢ミューズホール(所沢市民文化センター ミューズ アークホール)
2026年03月24日
コメント(0)

壺阪建登の二作目の「Lines」を聞く。デビュー作はソロピアノだったが、今回はトリオでの演奏。ベーシストはブルックリンを拠点に活躍する若手のチャーリー・リンカーン、ドラマーはバッド・プラスのデヴィッド・キング(1970-)という編成。日頃の活動の延長線上にある実働ユニットに近い編成のようだ。ゆったりとしたテンポの「Revolving Memories」は落ち着きと静けさが感じられる秀演。ラテンタッチの「Tropical Song」は風変わりなテーマとラテンパーカッション的なドラミングで、どぎつくなく爽やかなで、ラテンのエンディングではお決まりのトレシージョ(3+3+2)が鳴らされる。「Prelude No. 2 in C-Sharp Minor」はピアノソロで、クラシックとジャズの中間のような曲。ショパンの第3ピアノ・ソナタの冒頭のアルペジオの音型を変えたフレーズが出て、その後短いフレーズが断続的に続く、不思議な感じの曲。壷阪の個性が強く表れた曲だろう。「Rubato for a Mystical Moment」はフリーフォーム風の曲だが、ピアノとドラムスが暴れまくる。これも個性的な曲で、エンディングのドラムスの消え入るようなきざみが印象的だ。「Ballad No. 2 in E-Flat Major」は普通のジャズの甘いバラードではなく、クラシック風の懐かしさを覚える格調高いバラード。ただしベースとドラムスが忙しく動き回るところは、キース・ジャレットのアメリカン・カルテットを思い出させる。「The Joy of Living」はちょっととぼけたテーマでそれが変容していくという面白さがあるフリー系の曲。生真面目なベースのプレイが却っておかしさを感じさせる。最後の「Tree of Children」は普通の曲だが、この曲も少しユーモアを感じさせるところがあり、壺阪の個性なのかもしれない。録音はノイズの感じられない、さっぱりとしたもので、量感も十分感じられる。通して聴くと、通常のジャズにフリージャズが加わったなかなか個性的な演奏だった。おまけに山下洋輔ほどあからさまではないが、そこかしこにユーモアが散りばめられていて、最近出てきたピアニストらしからぬユニークなプレイを聴かせていた。特にドシャメシャな「The Joy of Living」にそれが強く感じられた。前作はソロ・ピアノでまともなプレイだっただけに、いよいよ本領を発揮しだしたのかもしれない。壷阪健登:Lines(Decca 5727601)24bit 96kHz Flac壷阪健登:1. Rhizome Changes2. Isolation3. Old Chair4. Stomp5. Revolving Memories6. Tropical Song7. Prelude No. 2 in C-Sharp Minor8. Rubato for a Mystical Moment9. Sing It10. Ballad No. 2 in E-Flat Major11. The Joy of Living12. Tree of Children壷阪健登 (p)Charlie Lincoln (b)David King (ds)Recorded: June 17–18, 2025,Samurai Hotel Recording Studio, New York City
2026年03月22日
コメント(0)

レコード芸術オンラインに寄稿された鈴木大介の記事で知った一枚。いつものPresto Musicは高く、ProStudioMastersからC$18.9で購入。武満徹没後30年記念アルバムである。鈴木はこれまで武満の音楽に工夫を凝らしたアルバムを複数録音している。筆者も「森の中で」というアルバムについてブログに書いたことがある。邦人ギタリストの中で数少ない既知の一人である。寄稿文(要約)によると、『鈴木大介は武満徹と晩年にわずかに接した後、その没後に本格的な探究を開始し、ギター作品にとどまらず映画音楽や歌曲へと研究を広げ、関係者との交流や演奏経験、手稿の読解を通じて独自の理解を深めた。さらに1999年のジャズ・ギタリスト渡辺香津美との共演を契機に編曲活動を始めて海外公演などで経験を重ね、その成果は約20年後の2021年に作品集として結実した。本アルバムには編曲の成果が収められ、ギターを小さなオーケストラとして機能させつつ“うた”の本質を再現する新たなヴィジョンを通じて、武満の音楽に宿る自由で開かれた精神を現代に伝える意図が込められている。』とのこと。今回のアルバムの特徴は、歌曲や映画音楽、放送音楽の編曲が多い点である。個人的には「今朝の秋」(1987)、「燃える秋」(1978)、「三月のうた」(1965)など初めて聴く曲が収録されたのは嬉しい。特に日本映画「燃える秋」のタンゴのリズムに乗った哀愁漂うテーマの情感が心に染みた。合唱曲では「さようなら」や「見えない子供」が原曲とは異なるフレージングで味わい深い。最も聴きごたえがあるのはタイトル曲「海へ」で、寄稿によるとこの曲は再録で、「どですかでん 武満徹」(Fontec)というアルバムが2001年に録音されているが、音は確認できなかった。今回のアルバムでは岩佐和弘の野太いアルト・フルートはエモーショナルで、武満の透明なサウンドとはやや異なるが悪くない。参考までに小泉浩の「海へ」を聴いた。アルト・フルートながら引き締まった音で、この曲特有のひんやりとした静けさは小泉のほうがよく出ている。岩佐の録音が近接マイク、小泉の録音がホールトーンを生かしたものである点も関係していそうだ。エアーも同じだが、岩佐の録音はプレーヤーの息遣いが生々しくとらえられている、すぐれたものだ。ただ、個人的には、このように演奏家の熱が前面に出る録音は、武満の音楽にはかえってそぐわないように思う。また、高域にヒスノイズが乗っているのも残念だ。ところで寄稿文には鈴木が渡辺香津美と写った写真も掲載されており、渡辺の近況が気になった。調べたところ意思疎通は可能だが、要介護状態に大きな変化はないようである。一刻も早い回復を願っている。鈴木大介:海へ 武満徹作品集(ART INFINI MECO-1087)24bit 192kHz Flac1.さようなら (arr. for Guitar by D. Suzuki)2.見えないこども(arr. for Guitar by D. Suzuki)3.明日ハ晴レカナ曇リカナ4.◯と△の歌(arr. for Guitar by D. Suzuki)5.波の盆(arr. for Guitar by D. Suzuki)6.今朝の秋(arr. for Guitar by D. Suzuki)7.燃える秋(arr. for Guitar by D. Suzuki)8.3 Film Scores:ワルツ〜『他人の顔』より(arr. for Guitar by D. Suzuki)9.三月のうた(arr. for Guitar by D. Suzuki)10.おはよう!テキサス(arr. for Guitar by D. Suzuki)11.島へ(arr. for Guitar and Flute by D. Suzuki and K. Iwasa)12.海へ I II III15.《サクリファイス》からの断章(『瘋癲老人日記』の音楽)16.エアー鈴木大介(g)岩佐和弘(afl,fl)録音:2025年10月、昭和音楽大学ユリホール
2026年03月20日
コメント(0)

ピアニストの木住野佳子(1960-)のデビュー30周年記念アルバム「Reminiscence」を聴く。筆者はGRPレーベルで世界デビューした当時は少し聴いていたが、その後は遠ざかっていた。しかし、日頃チェックしているPresto Musicで偶然彼女のアルバムが数枚リストアップされているのを見つけ、試聴したところ、最新作の「Reminiscence」がいい感じだったので、ダウンロードした。久しく聴いていなかったデビュー当時のアグレッシブなピアノからは大きく変化している。音数は少なく、原曲の音を省くこともある。そのため、子供が弾くような平易な音楽を聴いている感覚になる。自作も穏やかな曲調が多い。そのため、聴き手の心を強く掴むタイプではない。童謡のような印象もあるが、不思議な安らぎがある。むしろ軽快なラテンナンバーの方がジャズ度が高く、その中でも「Ruby Wizard」が良かった。自作は「紫陽花」以外すべて新録音で、叙情的な曲が多い。悪くはないが似た調子の曲が続き、やや単調に感じる。なので、通して聴くより、抜き出して聴くのが適している。映画音楽的な曲もある。映画音楽は「星空のむこうの国」(1981-)を村井俊夫と共同で手がけた程度らしい。この作品はリメイク版(2021)でも音楽を担当している。ジャズに理解のある監督が彼女の作品を採用すれば面白いだろう。その中では久石譲の「人生のメリーゴーラウンド」を思い出させる「空のかけら」が、叙情的でフランス風の香りを感じさせる逸品だ。ただし中西俊博の濃密なヴァイオリンは、曲の繊細なバランスを崩しかねない。小沼ようすけとの「Lilac Snow」は軽快なラテンナンバー。小沼のアコースティック・ギターがラテン的なニュアンスをよく出している。甘い曲が多い中で「遥かなる旅路」は陰影のある曲調で、感動的な仕上がりとなっている。岡部洋一の渓流を思わせるパーカッションも印象的だ。続く「雪待月」は日本音階的な響きを感じさせるシンプルな曲で、日本の夜景を思わせる幻想性があり、静かに聴き入ってしまう。カバーは2曲。Stevie Wonderの「Overjoyed」はテンポを落とし、控えめながら静かな喜びを表現している。最後の「Imagine」も遅いテンポで、カントリー風の味わいを帯びつつ厳かに進む。ピアノの派手なアドリブはないが、感動的な演奏だ。岡部洋一のブラシワークも効果的である。録音は音割れがして良くないと思ったが、iPadにDACを繋いでヘッドフォンで聴いたら、音割れはなく、どうやらアンプとスピーカーの間の問題のようだ。木住野佳子:Reminiscence(Decca 7893378)24bit 96kHz Flac木住野佳子:1. Reminiscence2. Red Rhapsody3. Lilac Snow4. Echoes of Tide5. Ruby Wizard6. 紫陽花7. Step by Step8. 空のかけらStevie Wonder:9. Overjoyed木住野佳子:10. 遥かなる旅路 11. 雪待月John Lenon:12.Imagine木住野佳子 (p)中西俊博 (vn)小沼ようすけ (g)西嶋徹 (b)岡部洋一 (ds,perc)録音 2024年、音響ハウス、東京銀座
2026年03月18日
コメント(0)

eclassicalのバーゲンで購入した一枚。ヴィオラの今井信子(1943-)とアコーディオンの御喜美江(1956-)が共演した2003年録音のバロック・アルバム。この組み合わせでは他にBISに現代作品中心のアルバムがある。二人は1990年代の現代音楽フェスティバルや室内楽プロジェクトで知り合い、その後共演を続けてきたようだ。両者とも現代音楽の初演や委嘱を積極的に行う演奏家で、新しい室内楽の組み合わせを開拓する目的で共演するようになったという。現在は80代と70代で教育活動が中心だが、小規模ながら演奏活動も続けているらしい。ロスレスしかなかったのでアップコンバートして試聴したが、録音は大変優れており、現在の水準と遜色ないサウンドが楽しめる。曲目はギヨーム・ド・マショー、ジョン・ダウランド、ハインリヒ・イザークのルネサンス音楽に加え、バッハが収録されている。筆者の関心は御喜のアコーディオンにあったが、今井のバッハは演奏ノイズのない完成度の高いもので、現在でも十分通用する演奏だった。演奏は速めのテンポながら熱気があり、弛緩する部分のない充実した内容で聴き惚れてしまった。エッジの立った艶のある音が素晴らしく、ヴィオラのくすんだ音というイメージを見事に裏切る。御喜の演奏は慣れ親しんでいることもあるが、イタリア協奏曲をはじめとする無伴奏曲は豪華で生き生きした音楽に仕上がっている。アコーディオンはルネサンス音楽との相性が良く、通常の楽器編成ではやや貧弱に聞こえる曲も、解釈は別として立派に響く。ハーモニーが豊かなことが一因と思われるが、通奏低音としての役割も適しているのも違和感が少ない理由だろう。イタリア協奏曲の「Andante」のような静かな楽章は機構的にアコーディオンには難しい音楽だが、御喜の演奏は繊細な表現が秀逸だ。一方、「Presto」のような速い楽章では歯切れの良い躍動的な音楽を聴くことができる。音量の大きい楽器のためヴィオラとのデュオではアコーディオンが主導する印象が強く、ヴィオラがやや不利に感じられるのは仕方がない。ガンバ・ソナタではヴィオラの音域が低く、チェロを聴いているように感じる瞬間もある。最後にバッハのマタイ受難曲のコラール「汝の道を委ねよ」がデュオで演奏される。ただし、あまりしめやかな雰囲気が感じられないのは少し残念だ。ということで、選曲は地味だが、力のこもった生き生きした演奏で、癒やし系の音楽ではないものの、一味違ったバロック音楽を楽しめた。楽器に拘りがなければ、楽しめるアルバムだろう。Antiquities - Music for viola and accordion(BIS BIS-CD-1469)16bit44.1kHz Flac1.Guillaume de Machaut (1300-1377):Motet “Quant en moy/Amour et biauté parfaite” for viola and accordionRondeau “Ma fin est mon commencement” for viola and accordion3.Johann Sebastian Bach:Italian Concerto BWV971 for solo accordion6.Heinrich Isaac (c. 1450-1517):6.Amis des que (= Christe from Missa ‘Chargé de Deul’) for viola and accordion7.A fortune contrent for viola and accordion8.Johann Sebastian Bach:Partita for Violin No.2 BWV1004 for solo violin14.John Dowland:Lachrimae AntiquaeCan she excuse my wrongsIf my complaintsJohann Sebastian Bach:17.Gamba Sonata No. 1 in G major, BWV 1027 for viola and accordion21.Chorale ‘Befiehl Du Deine Wege…’(from St. Matthew Passion) plus for viola and accordion今井信子(va)御喜美江(acordion)Recorded 2003,Djursholm Chapel, Djursholm, Sweden
2026年03月16日
コメント(0)

カナダのジャズ・ヴォーカリストであるエミール・クレア・バーロウの新譜「La plus belle saison」(最も美しい季節)を聴く。YouTubeで彼女が語っているところによると、『このアルバムはケベックの音楽への愛と人生の新章の表現であり、喜びを共有することが何よりの幸せです。』とのこと。全てフランス語の歌で、一曲目のシャルル・トレネ以外はすべてカナダのフランス語圏であるケベック州の作曲家による作品だ。一種のコンセプト・アルバムで、以前の「Clear Day」に続くアルバムと言える。ほとんど知らない曲ばかりだが、声高に叫ぶことなく、フランスの香り漂う多彩な曲が存分に楽しめる。ポピュラー音楽寄りの作りで、時折スキャットを交えるが、ジャズ度は薄めだ。編成は曲ごとに変わり、コーラスも含め延べ20人以上の大所帯での録音となっている。編曲もそれぞれの曲に相応しく、コンガなどのパーカッションの活躍が目立つ。弦楽器が入っているのはおそらく2,6,10,11の4曲である。2曲目の小粋な「Quelles sont les chances?」(チャンスはどのくらい?)では、作曲者ダミアン・ロビタイユ(1981-)のヴォーカルが入り、バーロウと笑い声も交えた和やかなデュエットが展開される。3.「Je suis en amour」(恋しています)はブラコン風のゴージャスなサウンドに乗り、バックコーラス共々ノリの良いヴォーカルが披露される。次の「J'ai rencontré l'homme de ma vie」(私の運命の人に出会った)はアコースティック・ギターとマラカスの軽快なリズムに乗ったフォーク風の爽やかな曲で、作曲者François Cousineauの語りが入る。5.「Si doucement」(そっと)はピアノに乗った優しいメロディーが流れるフォークロック的な一曲だ。6.「Comment t'aimer encore」(どうやってまだ愛せるだろう)は分厚いストリングスのハーモニーに乗った抒情的で少し悲しみを帯びたメロディーが淡々と流れる。Bメロの上昇音型が感動的で、途中のトランペット・ソロも味わい深い。7.「Les deux printemps」(ふたつの春)はピアノ・トリオにギターと2本のサックスという編成で、速めのテンポで爽やかな抒情が流れる。2本のホーンのハーモニーが心地よい。8.「D'la bière au ciel」(空にビールを)はマンドリンや女性コーラスが入ったノリの良い曲で、アメリカ西部のボードヴィルの雰囲気を味わえる、アルバムでは異色のナンバーだ。10.「Le vent m'appelle par mon prénom」(風が私を名前で呼ぶ)は弦楽器が入った爽やかな曲で、中間部のスインギーなトランペット・ソロも楽しめる。イントロで左チャンネルにノイズが乗っているのが惜しい。最後の「Pendant que」(その間に)はどこかで聞いたことのあるメロディーだが、ゆったりしたテンポで少し暗めの抒情的な曲で、エンディングに相応しいかどうかは疑問がある。最後に老人の語りが入るが、作曲者ジル・ヴィニョー(1928-)の声と推測される。いろいろなスタイルの曲があるが、バーロウはどのスタイルにも適応可能で、その優れた歌唱力を感じられる。どの曲も彼女の暖かく伸びやかな声で聴けるのが心地よい。最初は単なるケベック州への愛を歌ったアルバムかと思ったが、巧みな選曲、趣向を凝らした贅沢なアレンジ、バーロウの優れた歌唱力が揃った名盤となった。トレーラーEmilie‑Claire Barlow: La plus belle saison (Empress Music Group LPBS‑CDA)24bit48kHz Flac1. Charles Trenet : Dans les rues de Québec(ケベックの街角で)2. Damien Robitaille : Quelles sont les chances?(チャンスはどのくらい?)3. Diane Tell : Je suis en amour(恋しています)4. François Cousineau: J'ai rencontré l'homme de ma vie(私の運命の人に出会った)5. Anne‑Sophie Doré‑Coulombe : Si doucement(そっと)6. Anne‑Sophie Doré‑Coulombe : Comment t'aimer encore(どうやってまだ愛せるだろう)7. Daniel Bélanger : Les deux printemps(ふたつの春)8. Jim Corcoran : D'la bière au ciel(空にビールを)9. Anique Granger : Jerrycan(ジェリカン)10. Michel Rivard: Le vent m'appelle par mon prénom(風が私を名前で呼ぶ)11. Gilles Vigneault : Pendant que(その間に)Emilie‑Claire Barlow (Vo)François Richard (p, Harmonium, Wurlitzer, Melotron)Ben Riley (ds, perc.)Adrian Vedady (b)Kiko Osorio (perc.)Joe Grass (g, Mandolin track 6,8,9)Reg Schwager (g track 1,2,4,7)François Bourassa (p track 3,10)John Sadowy (p track 2,5)Lex French (tp)Mario Allard (fl, sax)André Leroux (cl, fl, ts)Guillaume “Guibou” Bourque (cl, bcl, ts, bs)Melissa Pipe (bs, sax, fl)François Pilon (vn); Mélanie Bélair (vn)Véronique Vanier (va)Sheila Hannigan (vc)Belle Grand Fille (vc, Cho)Judith Little‑Daudelin (Cho)Karine Pion (Cho)Recorded Studio PM (7175 Rue Saint‑Urbain, Montreal, QC, Canada) and Studio Le Hublot (1236 Rue Atateken, Montréal, QC, Canada)
2026年03月13日
コメント(0)

最近クラシックのレビューは室内楽が多いが、今回も室内楽で、アルゼンチン生まれで現在ニューヨーク在住のオスバルト・ゴリホフ(1960-)の弦楽合奏曲集。てっきりアルゼンチン人かと思ったが、両親ともルーマニア系ユダヤ人で、第2次世界大戦後にアルゼンチンへ移住したユダヤ人コミュニティの一員だったという。そのためクラシックの作曲家でありながら、アルゼンチン音楽やユダヤ宗教音楽、クレツマーなどの影響が交じり合った作風なのも納得できる。ゴリホフは、昔DGGから出た「アイナダマール」を聴いて以来愛聴している作曲家の一人だ。当時はゴリジョフと呼んでいたが、現在はゴリホフという呼び方に落ち着いたようだ。強烈な民族的テイストに分かりやすい音楽が結びついた作風で、個人的に好きな作曲家である。以来見つけるたびに聴いてきたが録音はそれほど多くなく、今回も偶然見つけたものだった。「Ever Yours」は四重奏×2+コントラバスという特異な編成で、track5以降は弦楽四重奏+ヴィオラの編成。「Ever Yours」は、56歳で亡くなったヴァイオリニスト Geoff Nuttall(1965-2022)への追悼として書かれ、画家ヴィンセント・ゴッホの弟テオ宛の手紙の署名「Ever Yours」(いつまでも、あなたのもの)に着想を得ている。ジャケット・デザインもゴッホの「種をまく人」をモチーフにしたカラフルなもの。ジェフ・ナットルはカナダ出身で、St. Lawrence String Quartet(セント・ローレンス弦楽四重奏団)の第1ヴァイオリンとして活躍した。「Ever Yours」は4つの楽章からなり、それぞれ表題が付いている。第1楽章は「五度を蒔く」という意味でハイドンの弦楽四重奏曲「五度」へのオマージュ。五度音程の動きが作品の種として撒かれる。ゴッホの厚塗りの絵画を思わせる濃厚でどぎつい表現の楽章。「Starbound」は星へ向かう上昇音型が特徴で、哀悼と希望が同時に表現される。ゆったりしたテンポで、弱音の揺れる音型を背景にヴァイオリンが高音域で美しく歌う、儚く詩的な楽章。「You Reap What You Sow」(蒔いたものを刈り取る)は少し速めのテンポで、第1楽章の素材が凝縮されて再登場する。短いながら緊張感の高い楽章。続く「Papa」は変拍子の低弦ピツィカートに乗り、アルゼンチンやクレツマーを思わせる荒々しいヴァイオリンが展開する。静まると断片的な音型が現れ、再び荒々しい音楽が戻って突然終わる。恐ろしいほどの迫力で、この曲集最大の聴きどころだろう。この後の曲は弦楽四重奏にヴィオラが加わる編成で、Arethusa Quartetが担当。追加されたヴィオラが効果的だ。「Tintype」(2024)は19世紀に使われた鉄板写真のこと。ホロコースト生存者で作家の Elie Wiesel(エリ・ヴィーゼル、1928–2016)のドキュメンタリーに触発された作品。ヴィーゼルはルーマニア生まれのユダヤ系作家・思想家で、ホロコースト体験を世界に伝えた証言文学の代表的人物であり、1986年にノーベル平和賞を受賞した。この曲は3楽章からなり、クレツマー音楽の影響が強い。「Hebrew Melody」はユダヤ旋法の旋律が弦の歌として現れ、記憶と祈りの雰囲気を作る。後半、ヴァイオリンの高音とヴィオラがオクターブのユニゾンで展開する部分は不気味だ。「Elie dreams of his father」はヴィーゼルが父を夢に見る幻想的場面を描く楽章。ゆったりしたテンポで、静かな和声の中に旋律が漂うように現れ、夢と追憶の雰囲気を作る。暗いがメロディックで、哀しみが伝わる。ここでもオクターブのユニゾンが効果的。「Ani Maamin」(私は信じる)はユダヤ教の信仰告白を素材にした終曲。悲劇の記憶と信仰の持続を象徴する音楽で、祈りの旋律が徐々に強まる。暗い曲だが弱々しくはなく力強い、いかにもゴリホフらしい作品。「K’vakarat」(クヴァカラット)はヘブライ語で、ユダヤ教の祈り「Unetaneh Tokef(ウネタネ・トケフ)」の最後に出てくる言葉。神が羊飼いのように人間の命を一人ずつ見分け裁く場面で使われる。この曲も東欧ユダヤ的テイストが濃厚で、荒野に風が吹き荒れるような風景を思わせる。ただならぬ雰囲気と激しい感情の起伏を持つ曲。低音のオスティナートが不気味さを増幅する。激しく高揚した後、三つの四分音符が強く弾かれて終わるが、何かの象徴だろうか。最後の「Esperanza」(希望)は、ゴリホフ作品でしばしば苦難や祈りに対置される概念。チェロの悲しみを帯びた美しい祈りの旋律を他の楽器が優しく支える。録音は悪くないが高域がやや金属的で、響きもそれほど豊かではない。曲には合っているのかもしれないが、もっと柔らかく残響の多い音なら印象はかなり違っただろう。Arethusa Quartet(2023-)は世界的ソリストによる集合体で、常設ではなくプロジェクトごとに集まる団体のようだ。 Animato Quartetは2013年結成のオランダの若いカルテット。「Ever Yours」では第2四重奏としてサウンドを増強する役割を担う。音色は美しくダイナミクスも広く、表情付けも明確。やや濃厚だがゴリホフの音楽にはよく合っている。ということで、久しぶりにゴリホフの音楽を堪能した。感情表現は相変わらず濃密で、現在の筆者には少々きつい部分もある。しかし優れた音楽であることは確かで、この濃厚な作品をぜひ多くの方に聴いてほしい。Osvald Golijov:Ever Yours(Phenotypic Recordings PHR 010)24bit 96kHz Flac1. Ever Yours I. Sowing Fifths2. Ever Yours II. Starbound3. Ever Yours III. You Reap What You Sow4. Ever Yours IV. Papa5. Tintype I. Hebrew Melody6. Tintype II. Elie dreams of his father7. Tintype III. Ani Maamin8. K’vakarat9. EsperanzaArethusa Quartet; Animato Quartet; Nicholas Schwartz (db)(track 1-4)Arethusa Quartet; Barry Shiffman (va)(track 5-8)Recorded 2024, Studio 150 Bethlehemkerk, Amsterdam, Netherlands.
2026年03月11日
コメント(0)

ジャズ批評のアルバム・オブ・ザ・イヤーの上位にランクインしたアルバムをざっとチェックしている。その中でインスト部門で気に入った、マリオ・モンテッラ(1955-)というイタリアのピアニストのデビューアルバム「Elsewhere」を購入しようと思ったのだが、いつものbandcampにはラインナップされておらず、他にはqobuzにしかなくて高いのでペンディングにしていた。偶然このアルバムがAbeatというレーベルであることを知り、念のためbandcampをチェックしたところ沢山リスト・アップされていた。ところが今回のアルバムはリストになく、ダメもとでabeatにメールしたところ、当日のうちに返事が来て、bandcampにリリースされていた。その迅速な対応に対し、珍しく感激してしまった。そのページを見たら、筆者よりも速く購入した人がいて、筆者は二人目だった。このアルバムはマリオ・モンテッラというイタリアのピアニストのデビュー・アルバム。筆者より一つ年下なので、70歳でのデビューとはびっくりした。理由としてはクラシック教育に携わっていた期間が長く、その後のジャズの研究や師事を受けた期間があったことなどが挙げられるようだ。すでに引退している人もいる中で、随分と慎重な人だなと思ったが、ヨーロッパではこのような例が珍しくないようだ。そういう生き方が容認されている社会が羨ましくもある。ライブで演奏していた期間も短いだろうし、いい意味でライブ疲れのないフレッシュな感覚が保たれているのだろう。こういう人生の過ごし方をしている方を見ると、筆者もまだまだ老ける年ではないと励まされたような気がした。全曲彼の作品で、リリカルな作品がほとんど。それほど甘いメロディーはないが、芸風や雰囲気は昔のロベルト・オルツァーの録音を思い出す。そういえばオルツァーのアルバムもアメリオ録音がいくつかあるはずで、その影響かもしれない。リリカルだがべたべたしない乾いた抒情だろうか。全7曲で、いずれもモンテッラの作曲。リズミックな曲が多く、あまり開放的ではないが、そこに漂うリリカルなテイストがいい。また適度な間があり、それが不思議な安らぎを感じさせる。ベースのジャンフランコ・コッポラ(Gianfranco Coppola)、ジュゼッペ・ダレッサンドロのドラムスも共に素晴らしいバッキング。特にジャンフランコ・コッポラのベースは野太い音の強力なベースだ。「Habemus Papam」(我らは教皇を得たり)で聴かれるアルコ・ソロも音程がいい。「Blue Sea」はぐいぐいと進む推進力とリリカルなテーマのギャップが面白い、躍動感と抒情性がかみ合った素晴らしい演奏だ。アルバム最後の「My Laura」はミディアム・テンポの美しいバラードをじっくりと堪能できる。ステファノ・アメリオによる録音は、いつもながら文句のつけようがない仕上がり。音像が若干前に出すぎている感じはするが、エッジはそれほど立っていない、ウォームなサウンドで、音場の広がりも十分で、音を聴いているだけで気分が良くなる。知らなかったミュージシャンの優れた演奏に出会えるのは、音楽を趣味にしている人間冥利に尽きると言っても大げさではない。心温まるとてもいいアルバムなので、多くの方に聴いて頂きたいものだ。今後も、聴き手を楽しませてくれる録音をリリースしてくれることを期待したい。Mario Montella Trio:Elsewhere(Abeat Records ABJZ 285)24bit 96kHz FlacMario Montella:1.Italy2.Lunar3.Las Vegas4.Habemus Papam5.Ballad Of Fairies And Witches6.Blue Sea7.My LauraMario Montella(p)Gianfranco Coppola(b)Giuseppe D’Alessandro(ds)Recorded 9th May 2025, at Artesuono Recording Studios, Cavalicco (Udine), Italy
2026年03月09日
コメント(0)

カリドレ弦楽四重奏団の「American Tapestry」というアルバムを聴く。カリドレ弦楽四重奏団は2010年にアメリカのコルバーン音楽院(Colburn School)で結成され、2016年に10万ドルという超高額賞金で知られるミシガン大学主催のM-Prize Chamber Arts Competitionで優勝し、国際的なキャリアをスタート。※このコンクールは資金を調達できないため第3回で終了したそうだ。その後数々の賞を受賞し、ニューヨークを拠点として活動している団体だそうだ。このアルバムは、バーバー、マルサリス、ジョン・ウィリアムズ、コルンゴルトの作品を集めている。筆者の興味はジャズ・トランペット奏者のウイントン・マルサリスの作品にあったのだが、他の作品のほうが楽しめた。マルサリスの「At the Octoroon Balls」(弦楽四重奏曲第1番)は全7楽章だが、ここでは「Creole Contradanza」(クレオール・コントラダンサ)、「Many Gone」(多くの者が去った)、「Hellbound Highball」(地獄行き特急)の3つの楽章が演奏されている。Octoroon Balls はニュー・オーリンズで行われていた舞踏会(社交パーティー)で、白人男性と有色女性の社交場であり、クレオール舞曲、ハバネラ、ジャズなどが演奏されていたとのこと。マルサリスはその情景を7楽章の弦楽四重奏にまとめた。弦楽四重奏というよりフィドル的なグリッサンドなどが聴かれ、いかにも当時の雰囲気が感じられる作品。この中では最後の「Hellbound Highball」が、その名の通り警笛を鳴らしながらすごいスピードで走る汽車を描写しているような爽快な曲だ。気軽に楽しめるコンサートピースだろう。この曲は Orion String Quartet という団体によって初演され、マルサリスとの共同名義のアルバム「At The Octoroon Balls / A Fiddler's Tale Suite」に収録されている(廃盤)。ただし Spotify などの配信で聴くことができる。John Williams の映画リンカーンの音楽「With Malice Toward None」の弦楽四重奏版は、このアルバムが世界初録音だそうだ。美しく息の長い旋律が流れ、弦楽四重奏で聴くとまた別の味わいがある。コルンゴルトの弦楽四重奏は最近ぽつぽつと取り上げられることが増えて、とても好ましい傾向だと感じている。個人的にはそれほど馴染んでいるわけではないが、コルンゴルトの体臭が強く感じられることがあり、それが評価の分かれ目のように思っている。第3番 ニ長調 Op.34(1945)は彼の最後の弦楽四重奏曲。多少押しが強すぎるきらいはあるが、表情が濃厚で各楽想の対比が克明で、この曲の演奏では上位に来るものだろう。濃厚でありながら後味がさっぱりしていて、コルンゴルトの体臭もあまり感じられない、筆者にとってはまことに好ましい演奏だった。第3楽章では、何かの映画で聴いたことのあるようなコルンゴルト特有の上行6度・7度跳躍の旋律が登場し、淡い憧れが感じられる美しい楽章だ。参考までにティペット四重奏団の全集(NAXOS)を聴いてみた。ティペットは表情付けがあまりなく、さらさらと流れていくようだが、弱音の美しさではカリドレを上回っている。そのデリケートで病的なサウンドが、特に第3楽章では際立っていた。バーバーも濃厚な表情が目立つ。第2楽章ばかりやけに目立つ曲だが、第1楽章の情熱的な表情も悪くない。この曲も手持ちのエッシャー四重奏団の演奏を参考までに聴いてみた。第2楽章はエッシャーのほうが40秒ほど遅く、弓圧を弱くしたかすれたような音が、この曲の悲しみをより一層感じさせる。ということで、聴きどころが満載のアルバムだったが、明晰で表情付けも克明である一方、それが曲によっては一本調子に聞こえることがあるというのが、筆者の今のところの感想だ。他にも録音がいくつもあるので今後聴いていきたい。Calidore String Quartet:American Tapestry(Signum Classics SIGCD 970)24bit 96kHz Flac1.Samuel Barber:String Quartet No.1, Op.11(1936)。4.Wynton Marsalis:String Quartet No.1 “At the Octoroon Balls”(1995)。7.John Williams:With Malice Toward None(2012)。8.Erich Wolfgang Korngold:String Quartet No.3 in D Major, Op.34(1945)。Calidore String Quartet。Recorded November,2023,Genevieve W. Gore Recital Hall,University of Delaware。Newark, USA。
2026年03月07日
コメント(0)

パットメセニーの新作「Side-Eye Ⅲ+」を聴く。いつものpresto musicやprostudiomastersにはラインナップされていなくて、Qobuzはラインナップされているが、価格が高い。念のためHdtracksをチェックしたら、9$程で、おまけにディスカウントコードを使えたので大分安く購入できた。今回のアルバムは前作「Side-Eye NYC (V1.IV)」の続編のようなもの。前作はライブだったが、今回はスタジオ・セッション。曲のダブりはない。2000年代当時のようなサウンドが流れる。新しい発見こそないものの、古さを感じさせない往年のメセニー節が堪能できる。敢えて付け加えれば、昔は感じられなかった温かみがあることで、円熟味が増したということかもしれない。全曲メセニーの作曲で、1曲目の「In On It」から彼らしい疾走する音楽が聴かれる。この曲は二つに分かれていて、メセニーは途中でギターからギターシンセに変わる。「Urban and Western」はテンポを落としてじっくり聴かせるブルース。カントリー風味と洗練されたバックコーラス、それにオルガンがいい味出している。速いテンポの「SE-O」でのアグレシブなオルガン・ソロも聴き物だ。「Our Old Street」はミディアムテンポでメセニーの生まれ故郷のミズーリ州の夕暮れの光景を思わせるような曲で、彼の代表作の「ミズーリの空高く」を思わせるような演奏だった。「Risk and Reward」はミディアムテンポのダンサブルでリズミックな曲。泣かせるメロディーで快適な演奏が楽しめる。コア・メンバーはピアノ、オルガンのクリス・フィッシュマンにドラムスのジョーイ・ダイソンのトリオで、あとは数人のインスト・メンバーに大勢のヴォーカルが加わるという編成。メセニーらしい疾走するメロディーに、多彩なリズム、それにヴォーカルが効果的だ。Brandee Youngerのハープもクレジットされているがほとんど聞こえない。僅かに「Our Old Street」のエンディングのワン・フレーズのソロぐらいだろうか。ジョーイ・ダイソンのドラムスは低音を強調しない軽く歯切れのいいサウンドと涼やかなシンバルで、メセニーの音楽にぴったりと寄り添っているということで、2000年代初頭の全盛期の時代を思い起こさせるような生きのいいプレイと、多彩なリズムで、若々しい音楽を演奏してる。筆者と同じ年なので、個人的には変な仲間意識をもっているのだが、健在ぶりを発揮してくれて嬉しい。前にyoutubeでみたインタビューでは、相変わらず髪は凄いが顔がだいぶくたびれていて心配したが、音楽は健在でとても嬉しかった。今後も新鮮な音楽を聞かせてほしい。Pat Metheny - Side-Eye III+ Signed / Live Q&APat Metheny - Side-Eye III+ (Album Visualizer)Pat Metheny:Side-Eye Ⅲ+(Uniquity Music / Green Hill PMGF66262)24bit 96kHz FlacPat Metheny:1.In On It2.Don’t Look Down3.Make a New World4.Urban and Western5.SE-O6.Our Old Street7.Risk and Reward8.So Far, So Goodtrack1,-3,4-8Pat Metheny (Gt,Snd,Syn); Brandee Younger (Hp); Chris Fishman (Key,Pf,Org); Luis Conte (Perc); Armand Hutton (Vo); Joel Kibble (Vo); Kim Fleming (Vo); Kim Mont (Vo); Mark Kibble (Vo); Natalie Litza (Vo); San Franklin (Vo); Stephanie Hall (Vo); Terry White (Vo)trak4Pat Metheny (Gt,Snd,Syn); Brandee Younger (Hp); Chris Fishman (Key,Pf); James Francies (Org); Luis Conte (Perc); Armand Hutton (Vo); Joel Kibble (Vo); Kim Fleming (Vo); Kim Mont (Vo); Mark Kibble (Vo); Natalie Litza (Vo); San Franklin (Vo); Stephanie Hall (Vo); Terry White (Vo)track5Pat Metheny (Gt,Snd,Syn); Brandee Younger (Hp); Chris Fishman (Key,Pf,Org); Luis Conte (Perc); Armand Hutton (Vo); Joel Kibble (Vo); Kim Fleming (Vo); Kim Mont (Vo); Mark Kibble (Vo); Natalie Litza (Vo); San Franklin (Vo); Stephanie Hall (Vo); Terry White (Vo); Leonard Patton (Vcl)
2026年03月05日
コメント(0)

イタリアのピアニスト、ロベルト・プロッセダによるビゼーのピアノ曲全集を聴く。ビゼーのピアノ曲は珍しく、筆者もFMのテーマ音楽として使われていた「ラインの歌」第1曲「夜明け」くらいしか知らなかった。「ラインの歌」はルイサダの録音をSpotifyで聴いていたが、長らく入手困難でCDを購入するまでには至らなかった。今年になってからHyperionからロベルト・プロッセダ(1975-)による全集が出ることを知り、早速入手した。ほとんど知られていない曲ばかりであまり期待していなかったが、聴くほどにその魅力が感じられるようになった。作品番号らしき番号が付いているが、WDはイギリスの音楽学者ウイントン・ディーン(1917-2013)が付けた整理番号Winton Dean catalogue numberの略だそうだ。またHMという番号もあり、これはHugh Macdonald(1940-)という音楽学者が新しい研究に基づいて付けた番号で、未出版・未完成の若書きの作品が多いとのこと。両方の番号が併記されている場合もあるようだが、このアルバムではWDのない作品にのみHMが付けられているようだ。ショパンやシューマン、メンデルスゾーンの影響が強い作品が並ぶ。最初の「半音階的変奏曲WD54」は20歳頃の12分ほどの作品で、ビゼー最大規模のピアノ曲。主題と14の変奏にコーダが付く。ピアノ作品としてはほぼ最後の作品らしい。主題はリストの影響が感じられるビゼーらしからぬ暗く厳めしいもので、あまり面白いとは思えない。ショパンやシューマンの影響が見られる変奏も、主題の弱さのためか魅力が十分に発揮されていない。軽快な変奏も硬さが目立ち、あまり楽しめなかった。もっとも有名な「ラインの歌」は6曲からなる組曲で、ビゼーらしい優しいメロディーが並ぶ。「夢」や「ないしょ話」は「夜明け」に通じる心温まる柔らかな叙情が魅力。続く「夜想曲第2番ニ長調」も分散和音に乗って躊躇いがちな旋律が流れる。「海景WD53」も爽やかな叙情が続くが、後半で突然盛り上がって静まる。「演奏会用大ワルツ変ホ長調WD48」はショパン作と言われても不思議ではない華麗なワルツ。幻想的な「狩りWD51」、物語が目に浮かぶような「奇想曲第1番嬰ハ短調WD45」、コミカルな「ワルツWD43」もショパン的。総演奏時間が91分のため、最後の3曲はCDに収録されていない。全曲録音を謳うのであれば、CD2枚組にするか別途ダウンロードを用意するなどの工夫がほしかった。「宗教的瞑想曲HM144」は静かな佇まいの中にベートーヴェンやシューベルトを思わせる素朴で親しみやすい旋律がある。ただし後半、弱音から突然フォルテシモに転じる箇所は唐突に感じられる。「無言歌 HM133」も静かなアルペジオに優しい旋律が乗る詩情豊かな小品。プロッセダの繊細なタッチは好ましい。最後はショパン風のマズルカ風ポルカで締めくくられる。プロッセダの演奏は、もう少し表情や掘り下げがほしい部分もあるが、資料的価値の高い録音であり大きな不満は言いにくい。概して低音が強めで、個人的なビゼー像とはやや異なる。静かでリリカルな曲はよく聴かせるが、リズミカルで速い曲ではやや粗さが目立つ。手を入れればさらに良くなりそうな曲が多いのは意外。4分ほどの「宗教的瞑想曲HM144」や「無言歌 HM133」は特に出来がよく、さらに推敲されていればと思わせる。繰り返し聴くことで真価が見えてくる気もする。この全集の刊行によりビゼーのピアノ曲が知られるのは喜ばしく、今後さらに優れた演奏が現れることを期待したい。短い曲が多く、アンコールで取り上げられる可能性もあるだろう。録音は残響が控えめながら、低域から高域までバランスは良好。ロケーションはファツィオリ工房併設のコンサートホールで、2005年に新工場の一部として建設されたという。ピアノ試験用とはいえ、工房にコンサートホールを併設するのは珍しい。ただし楽器の音はやや細身で、特に高音の抜けが十分とは言えない。Prosseda Bizet:The Piano Works(Hyperion CDA68491)24bit 96kHz Flac1.演奏会用半音階的変奏曲WD5417.ラインの歌WD52。 夜明け 出発 夢 ジプシー女 ないしょ話 帰還23.夜想曲第2番ニ長調WD5524.海景WD5325.演奏会用大ワルツ変ホ長調WD4826.夜想曲第1番ヘ長調WD4927.幻想的な狩りWD5128.無言歌ハ長調WD4629.奇想曲第1番嬰ハ短調WD4530.奇想曲第2番ハ長調WD4731.ワルツ ハ長調WD4332.4つの前奏曲WD42 ハ長調 イ短調 ト長調 ホ短調36.華麗なる主題ハ長調WD4437.宗教的瞑想曲HM14438.無言歌 HM13339.カジルダ(ポルカ・マズルカ)HM134ロベルト・プロッセダ(p) Recorded March 2025,Fazioli Pianoforti,Sacile
2026年03月03日
コメント(0)

ジャズ批評恒例のMy Best Jazz Albumが発表されたので、雑感を記しておく。●ジャズ・オーディオ・ディスク・大賞 2025 インストゥルメンタル部門●ジャズ・オーディオ・ディスク・大賞 2025 ヴォーカル部門いつもの寺島旋風が吹くかと思っていたが、従来路線はギド・サントニのみで、山口のケルン・コンサートが銀賞に入っているのは少し意外だった。Jazz.Inでもこのアルバムが上位に入り、筆者の印象とはやや異なっている。個人的にはクラシックのピアニストの弾くアルバムで、それがたまたまキース・ジャレットだったという印象だ。楽譜は市販されているので、誰でも弾けるのだが、それをコンサートやレコーディングするというのは、ハードルが高い。それを実現した寺島レコードの慧眼には頭が下がる思いだ。キースの「ケルン・コンサート」は、ふだんジャズを聴かない層にも広く親しまれてきた作品だ。そのため、良い音で聴きたいという思いが支持につながった可能性もある。映画公開の影響もあったのかもしれない。治田七海の「The Vibe」が上位に入ったのもやや意外。これは少し聴いて保留にしていた作品だ。昨日あらためて確認したところ、音楽自体は悪くないが、トロンボーンの音色やタンギングがやや気になった。インスト部門でジョー・ロバーノが金賞となったのもびっくりした。筆者はSpotifyで少し聴いた際に強い印象を受けなかったため、その後は追っていない。機会をあらためて、じっくり聴いてみたいと思う。ヴォーカル部門はJazz.Inの傾向とはかなり異なる。Jazz.Inではサマラ・ジョイが目立っていたが、こちらはケイティ・ジョージを推す声が多い印象だ。ブログで取り上げた「Out Of Reach」、「Loving You」、そして絶賛してしまった「Fascination」が上位に入ったのは嬉しい。未聴の作品や、少し聴いてそのままにしている作品もあるので、少しずつ聴いていきたい。ところで、以前に比べるとメジャーレーベルの受賞は減り、マイナーレーベルや自主制作が目立つようになった。録音機器の進歩により技術的なハードルが下がり、これまで十分に紹介されてこなかった作品にも光が当たっているのだろう。配信の普及により、多様な音楽に触れやすくなったことも背景にあると感じる。ミュージシャンにとっては、聴き手の耳に触れる機会さえあれば大きく飛躍する可能性がある時代である。いかに聴き手に届けるかが重要になっている。アルバム発売前にシングルを段階的に配信する方法も広まり、関心を高める工夫が見られる。また、以前のような大物偏重や海外中心の傾向はやや落ち着き、日本人ミュージシャンにも光が当たるようになったのは歓迎したい。
2026年03月01日
コメント(0)

タワー・レコードで小沢指揮トロント交響楽団の演奏がSACDで復刻されたことは知っていたが、興味はなかった。ところがYouTubeで日比谷公会堂での日本フィルとのライブによる幻想交響曲(1967年)の映像を見て急に気になりだしたので、いつものPresto Musicで確認したところ、海外サイトで昨年末ハイレゾ音源が配信されていたことを知った。タワー盤と同一マスターかは不明だが、Spotifyで確認すると音質が良好だったため購入した。60年以上前の録音のため期待はしていなかったが、予想以上の音質だった。エッジの丸さを差し引いても、現在でも十分通用する水準だ。参考としてネルソンス盤のハイレゾと比較した。音の鮮度と解像度はネルソンス盤が上回る。小沢盤は高音域が鮮烈で、エネルギー感もネルソンス盤よりも強く、この曲の力強さを再認識した。ネルソンス盤が奥まったところで鳴っているような音像であるのに対し、小沢盤は前方で大音量に展開する印象がある。そのためネルソンス盤が弱く感じられる場面もある。バス・ドラムのロールは小沢盤のほうが迫力がある。個人的には小沢盤はオンド・マルトノの音量が大きすぎる点が難点だが、総じて満足できる内容だった。ついでに、以前から配信されていたヒメノ指揮トロント交響楽団のハイレゾも聴いた。この演奏は前記の2者とはサウンドが大きく異なる。小沢盤およびネルソンス盤は従来型のメシアンの音響で、密度の高い響きが前面に出るのに対し、ヒメノ盤は音場が整理されているため開放的で透明感が高い。そのため、この曲を聴くときに感じるいろいろな音がぎゅうぎゅう詰めになっていてるような圧迫感を感じることがなく、たいへん気持ちよく聴くことが出来る。この曲のサウンド的には、ある意味画期的なことだと思った。ということで、若き日の小沢盤の熱量は大変なものだが、現在はヒメノ盤の透明度の高い演奏に関心が向いているという皮肉な結果になってしまった。Messiaen: Turangalila Symphonie(Sony G010005579632V)24bit 192kHz FlacToronto Symphony OrchestraSeiji OzawaRecorded in December 1967 at Massey Hall, Toronto
2026年02月27日
コメント(0)

bandcampで見つけたオランダのベーシスト、ジャスパー・ホイビー(1977-)の「Fellow Creatures: We Must Fight」というアルバムを聴く。CDは2017年にリリースされ、ハイレゾ版はおそらく昨年のリリース。カバージャケットはCDと異なる。アルバムタイトルの「We Must Fight(我々は闘わねばならない)」は勇ましいが、政治的主張ではなく、分断や無関心、精神的停滞に抗う姿勢のメタファーだという。ぐいぐいと迫る硬派な音楽だ。編成はピアノ・トリオにサックスとフルート、さらに(oud)ウードという聞き慣れない楽器が加わる。 ウードは中東を中心に用いられてきた撥弦楽器で、アラブ音楽やトルコ古典音楽、ペルシャ音楽で使われる。フレットがないため微分音を自在に表現できるのが特徴。いかにもアラビア音楽を思わせる深みのあるサウンドだ。ウードはデータ上では全曲に参加しているが、はっきり確認できるのは「Blue Inspiration」、「One For Us」、「We Must Fight」。「We Must Fight」ではイントロで無伴奏ソロがフィーチャーされている。ベースのリーダー作ではリーダーが前面に出ない場合も多いが、本作では強力なベースが頻繁に前に出る。それは決して過剰ではなく、硬質でエネルギッシュな闘争的姿勢を表しているようだ。それに呼応するように、野太く荒々しいアレックス・ヒッチコックのテナーが印象的。ピアノも前面に出過ぎることはないが、「Stillness」では凄まじい打鍵で迫る場面がある。ルーカ・カルーゾのドラムスは過度に主張せず、要所で的確なプレイを聴かせる。ラトビア生まれのフルート奏者ケティヤ・リンガ・カラホナは目立つソロは少なく、主にハーモニーを支える役割。時折アフリカの素朴な笛を思わせる音色を聴かせ、楽曲にうまく溶け込んでいる。全曲ジャスパー・ホイビーの作曲で、隙のないアグレッシブな内容。コンテンポラリーな語法に中近東の風味が加わった独特のサウンドである。ということで、美しいメロディーはないが、エネルギッシュでダークなムードが横溢した、大変面白い音楽だった。こういう音楽を「クリエイティブな音楽」と言っても、決して褒め過ぎではないと思う。Jasper Høiby:Fellow Creatures: We Must Fight(Edition Records EDNLP1279)24bit 48kHz FlacJasper Høiby:1.Lipwash2.Before the Storm3.Blue Inspiration4.After the Storm5.One For Us6.We Must Fight7.Stillness8.FrenchJasper Høiby(b)Alex Hitchcock(ts)Ketija Ringa Karahona(fl)Saied Silbak(oud)Xavi Torres(p)Luca Caruso(ds)Recorded SAJE Studios, London, UK
2026年02月25日
コメント(0)

ウイーン生まれのハインツ・カール・グルーバー(1943-)の自作自演集。以前のワイルの交響曲などを収録したアルバムが気に入って、それ以来、新譜が出るたびに聴いている。近作の小編成の「7つの大罪」も聴いているが、ブログにはアップできていない。彼はクルト・ワイル協会の会長を歴任したこともあり、ワイルからの影響を感じさせる作曲家だが、響きが透明で、ニヒルなテイストも多少ある。しかし響きが透明なので、それがあまり強く感じられないところがよい。最初の2曲は2000年代に入ってからの作曲。最後のピアノ独奏用小品「Castles in the Air」は1981年の作曲で初録音とのこと。ピアノ協奏曲はニューヨーク・フィル委嘱作品として2017年初演されている。単一楽章で23分ほどの曲。ピアノのシングルトーンにハーマンミュートを付けたトランペットが被さるイントロから、ポピュラー系の音楽であることが分かる。サックスも入っている。決して難しい音楽ではなく、ガーシュインを思わせる瞬間もある。むしろ楽しい部類の音楽だが、ワイルの影響か、手放しで喜べない苦みが感じられる。時として無調のようなシリアスな瞬間もあるが、統一感はあまり強くない。構造も曖昧で、いろいろなモチーフが次々と現れるため、何回か聴かないと本当の面白さが分からない曲である。バックのハーモニーは分厚く、音量も大きいため、時としてピアノが埋没する部分もある。通常の協奏曲のようにピアノとバックが対比するのではなく、ピアノはオーケストラの一部という位置づけだろう。ピアノは、このレーベルのコルンゴルトの一連の録音で知られるフランク・デュプリー。力強い打鍵で、厚いハーモニーにも十分に対抗している。後半は目立った旋律が少なくなり、ピアノのコードの強打とバックのサウンドが一体となり、混沌とした状態で終わる。Wikipediaによると編成は2管編成だが、バスーンのみ3本。その他、バスクラリネット、サックス(アルト・ソプラノ・テナー持ち替え)など、木管は増強されている。打楽器に加えチェレスタやグロッケンも入る。色彩的には充実するはずだが、マスとしてのサウンドが強調され、楽器編成が十分に生かされていない印象もある。「Short Stories from the Vienna Woods」(空中楼閣)は7つの曲からなる管弦楽曲で、続けて演奏される。自作のオペラ「Tales from the Vienna Woods」から編まれた組曲的作品で、2019年頃に完成したとされる。このオペラは1930年代のナチズム台頭期のウィーン社会を背景にした物語。父親の望む相手ではなく、放浪癖のある男性と結ばれた娘が私生児を生み、生活が困窮し、ヌードダンサーに堕ち、子供も亡くしてしまうという悲劇的内容である。楽しげな場面も多少あるが、全体的には暗く陰鬱な気分が支配し、時折ひんやりとした雰囲気も感じさせる。「Splintered Waltzes」(砕けたワルツ)は、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」を思わせるパロディ的音楽だが、シニカルであまり楽しい音楽ではない。「Bengal Fire」は、マッチ箱の側薬で擦るとパチパチと赤や緑の火花を散らしながら燃える、パーティー用の「お遊びマッチ」である。この部分では弦の刻みと旋律がずれており、アイブズの音楽に共通する面白さがある。最後の「Polka infernale」では調律の狂ったピアノが登場し、聴き手を不安にさせる。シュトラウスのメロディ断片も随所に現れ、聴き手の耳を楽しませる。この曲も複雑な要素が絡み合っており、一度では簡単に理解できない音楽である。最後の「Castles in the Air」は完全な無調ではないが、調性中心も明確ではない。夢心地を表すための手段だろうが、居心地の悪さが残る。最後の「Dreamed Today」で救われた気分になる。録音はエッジはそれほど強くないが、残響が豊かで艶のあるサウンドである。特に最後のピアノ独奏組曲は申し分ない出来。ただし、曲によってはもう少しすっきりさせた方がよい場面もあった。HK Gruber:Short Stories from Vienna Woods,Piano Concerto(Capriccio C5536)24bit 96kHz Flac1.Piano Concerto(2014–2016)2.Short Stories from the Vienna Woods(2019) Ⅰ.Introduction & Song from the Wachau II. Splintered Waltzes III. Bengal Fire IV. In a Flash V. Chorale Variations on “For the Lord disciplines the one he loves” & Epilogue VI. Prayer VII. Polka infernale9.Castles in the Air(Luftschlösser)(1981) I. Out of Sight II. With Princess III. Mechanic IV. Dreamed TodayFrank Dupree(p track 1,9-12)ORF Vienna Radio Symphony OrchestraHK Gruber(track 1-8)Recorded Vienna, Radio Kulturhaus,15.-19.04.2024 (track 1-8)SWR Stuttgart, Kammermusikstudio, 02.12.2024 (track 9-12)
2026年02月23日
コメント(0)

カート・エリングの新譜を聴く。今回はWDRビッグバンドとの共演で、ジャズメンのインスト曲を特集している。AIによれば、このアルバムの狙いは以下の通り。1. エリングの声をビッグバンドの一部として扱う実験的試み。2. 伝統的な大編成ビッグバンドを基盤に、現代的なハーモニーやリズム変化、文学的テキストを組み込み、クラシックなジャズ観に刺激を与えること。3. スタジオ録音ながらライブのダイナミズムを志向すること。4. 声のレンジ、フレージング、即興性を最大限に活かし、「歌うこと」の概念を再定義すること。また、ジャズメンのインスト曲を取り上げた理由は、声の表現を拡張し、独自のフレージングやニュアンスを加え、ビッグバンドの多彩な音色を活かしたアレンジを可能にする点にある、とのこと。能書きはさておき、豪快なビッグバンド・サウンドとエリングの硬質なヴォーカルが一体となった傑作だ。最初のJoe Jacksonの「Steppin’ Out」は『Night And Day』(1982)収録曲。冒頭からアクセル全開で、豪快なビッグバンド・サウンドが展開する。サド・ジョーンズの「Desire」もパンチの効いたサウンドで、サックス・ソロなど聴きどころが多い。哀愁を帯びたテーマも過度に湿らず好印象だ。ジョン・スコフィールドの「My Very Own Ride」は『A Go Go』(Verve)収録のインスト曲「Jeep on 35」を基にしたカントリー風味のジャズ・ファンク。Nina Clarkの歌詞が付され改題された。原曲の味を残しつつ、パンチのあるサウンドとエリングのスキャットが心地よい空間を生む。エリントンの「I Like the Sunrise」は『Ellington Uptown』(Columbia)収録のヴォーカル曲。当時専属だったアル・ヒブラーが歌っている。ムーディーな歌とジャングル風味のビッグバンド・サウンドの対比が印象的だ。今回はその名残を感じさせつつ、洗練された現代的アレンジに仕上げ、エリングの堂々たる歌唱が光る。オブリガートのトロンボーンが甘い彩りを添える。個人的に注目したのはショーターの「They Speak No Evil」。しかし曲調は地味で、ビッグバンドの爆発力も控えめだ。中間部のアドリブもやや盛り上がりに欠ける。エリングは無理にビッグバンドに対抗せず、巧みに溶け込む。最後のザヴィヌルの「Current Affairs」は後期Weather Reportの『Weather Report』(1982)収録曲。原曲の穏やかなテイストを活かしたピアノ中心のシンプルなアレンジ。柔らかなフルート・アンサンブルを効果的に用い、金管は控えめ。ゆったりと心穏やかに楽しめる。後半のトゥッティは感動的だ。含蓄のある音楽で、音楽的にはアルバム随一の出来ではないだろうか。全体として、トランペットの過度なハイトーンに頼らず、中音域中心のスコアで構成する。その代わり、金管本来の、完璧に鳴りきった爽快なサウンドが堪能できる。例えは古いが、スタン・ケントン楽団におけるビル・ホールマンのアレンジを想起させる。演奏もさることながら、前面に迫ってくるものの、懐の深いサウンドで、ビッグバンドの録音としても最高の部類に入るのではないだろうか。Kurt Elling & WDR Big Band:In The Brass Palace(BIG SHOULDERS RECORDS BSR022618CD) 24bit48kHz Flac1.Joe Jackson(arr. Michael Abene): Steppin’ Out2.Thad Jones(arr. Bob Mintzer): Desire3.John Scofield(arr. Jim McNeely): My Very Own Ride4.Duke Ellington(arr. Michael Abene): I Like the Sunrise5.Wayne Shorter(arr. Tim Hagans): They Speak No Evil6.Joe Zawinul(arr. Bob Mintzer): Current AffairsKurt Elling(vo)Bob Mintzer(sax,cond)WDR Big BandRecorded Oct 1-5 2024 - Köln (D), Studio 4
2026年02月21日
コメント(0)

レコード芸術オンラインのリーダーズ・チョイスで気になったジョージ・ベンジャミンのオペラ「Picture a Day Like This」を聴く。邦題は「こんな日を思い浮かべて」。寓話的な特別な一日を想像させる表現だという。2023年エクサン=プロヴァンス音楽祭でのライブ録音。【粗筋】亡くした子どもを生き返らせたい母親は、一日中完全に幸せだった人から“幸せのボタン”を譲ってもらえれば子どもが戻ると告げられ、その人物を探す旅に出る。最初は裕福な女性だが心は満たされていない。次は若い恋人たちだが、幸福の陰に裏切りや不安がある。森で静かに暮らす女性は「今日一日は幸せだった」と語る。条件を満たしたかに見えるが、彼女は「私の幸せは失ったものと共にある。あなたの苦しみも愛の証」と告げる。母親は、子を失った悲しみこそかつての幸福の裏返しだと悟る。キャストは5人、そのうち3人が二役を担う。主役はフランスのメゾ・ソプラノ、マリアンヌ・クレバッサ(1986-)。筆者のお気に入りの歌手だが、近年新録音がなかっただけに嬉しい。本来はソプラノ指定の役だが、超高音を要するわけではなくメゾでも可能だろう。曲にもよるが、以前より声が細くなった印象を受けた。寓話だが色調は暗い。展開は淡々として劇的展開は少ない。母親が目指す人物に会っても雰囲気は変わらず、暗さのまま終わる。DVDでは最後に母親が元の部屋へ戻り、手にボタンを持つ。現実か夢か判然としない演出だ。ソプラノは3人登場するが同時に出るのは2人。声質が似ており、どちらが歌っているか判別しにくい。さらにカウンターテナーも加わり、やや複雑だ。編成は木管がfl、ob、cl、fgで各々持ち替えがある。金管はHr2にtp、tb。弦は5部で人数は少ない。大量の打楽器やピアノをハープを含む。響きは薄いが色彩は豊かで冷ややかだ。管弦楽は雄弁で、とくにシーン2などでは効果的。小編成ゆえ声が埋もれないのも利点。無調一辺倒ではなく雰囲気のある音楽で、場面転換時にかすかに鳴るチューブラベルが印象的だ。最初のPageではクレバッサがモノローグ的でシュプレッヒシュティンメを思わせる歌唱をする場面も見受けられる。ジャケットの装飾的なスーツの男はScene6のコレクター(John Brancy)。豪奢な収集品に囲まれながら精神的には満たされない人物だ。演奏時間は約70分で鑑賞するのにはちょうど良い時間だ。また、ライブ録音ながらノイズは感じられず、静寂がよく捉えられている。静的な物語だが、音楽はブリテンやベルクを思わせる劇的な部分もある。映像で観たいと思ったら、youtubeに初演時の動画がアップされている。ストーリー展開や、冷ややかな雰囲気はバルトーク「青髭公の城」を想起させる。ベンジャミンがバルトークを研究していたことを思えば影響もあるだろう。クレバッサは役作りのためか老けて見え、ちょっと落胆した。なお、キャストは異なるが、ロイヤルオペラの公演は文字起こし可能で参考になる。ブックレットをお持ちでない方には参考になるかもしれない。 George Benjamin:Picture a Day Like This(Nimbus NI8116)24bit 96kHz FlacScene 1: The PageScene 2: The LoversScene 3: The ArtisanScene 4: The ComposerScene 5: AriaScene 6: The CollectorScene 7 - I. Late evening lightScene 7 - II. What is it you want from me?Scene 7 - III. Picture a day like thisMarianne Crebassa (The Woman s)Anna Prohaska (Zabelle s)Beate Mordal (Lover 1 / Composer s)Cameron Shahbazi (Lover 2 / Composer’s Assistant C.T.)John Brancy (Artisan / Collector br)Mahler Chamber OrchestraGeorge BenjaminRecorded live at the 2023 Festival d’Aix-en-Provence (France)
2026年02月19日
コメント(0)

イギリスの作曲家兼歌手のAlice Zawadzki(1985-)の「Lela」というピアノとのデュオアルバムを聴く。きっかけは忘れてしまったが、彼女のクラシック作品をチェックしていた際に偶然見つけたアルバムで、クラシックの作曲家でありながらジャズ歌手でもあるという、なかなか珍しい経歴の持ち主だ。Royal Northern College of Musicでクラシック・ヴァイオリンの学士号を、Royal Academy of Musicでジャズ・ヴォーカルと作曲の修士号を取得している多彩な才能の持ち主である。本作ではヴァイオリンは演奏していないが、他のアルバムでは比較的多く弾いているようだ。また、クラシックのコンサートにも参加しているという。現在までに4枚のリーダーアルバムをリリースしているが、いずれもジャズ作品である。本作は2作目で、ピアノのDan Whieldonとのデュオによる、ジャズ・スタンダードとオリジナルを収めたアルバムで、これまでの中では最もジャズ色が濃い。他の作品もジャズではあるが、彼女がポーランド系であることもあって、東欧や中近東の香りを感じさせる楽曲が多く、フォークや民族音楽のテイストも交えたボーダーレスな音楽性を持つ。ジャズメンのオリジナルが3曲、スタンダードが2曲、ダン・ウィールドンとの共作が2曲、ダン・ウィールドン単独作が2曲、そして最後になぜかヘンデルという構成である。ダン・ウィールドンはイギリス出身のジャズ・ピアニスト、作曲家、教育者で、ピアノトリオ名義のアルバムもリリースしている。肉厚で骨太な強い打鍵が持ち味で、ヴォーカルとの相性も良い。本盤はロスレス音源のため、例によって192kHzにアップコンバートして試聴した。アップコンバートの影響もあるかもしれないが、音像が大きく、音量をあまり上げられない印象だ。1曲目はNight Dreamer(1964)収録の「Black Nile」。この曲のヴォーカル版は珍しい。典型的なハードバップ曲だが、クールなピアノの響きとともに、バップ特有の尖鋭さは感じられない。作詞者のクレジットはないが、おそらくアリス・ザワツキによるものだろう。途中に挿入されるスキャットとピアノとのユニゾンはぞくぞくする。コルトレーンの代表作「Naima」はジョン・ヘンドリックスの詞が有名だが、本作の歌詞はそれとは異なる。これも彼女自身の作詞かもしれない。イントロではアカペラで透明かつ厚みのある声が響く。ピアノが加わっても静謐な雰囲気は保たれるが、この穏やかな曲にしては感情表現がかなり濃い解釈だ。スタンダードの「Tenderly」も透明感のある叙情は変わらない。遅めのテンポでじっくりと歌われ、そのアプローチがかえって新鮮に映る。後半はスキャットの前後にピアノのスインギーなソロが入り、最後は再び歌詞へ戻る洒落た構成だ。タイトル曲「Lela」は、よく知られたスペイン語歌曲のような趣を持つが、彼らのオリジナルであり、スペイン語の韻や響きを意識した歌詞だという。クラリネットのRosa Camposがクレジットされているが、ポピュラー音楽でクラリネットのオブリガートが入る曲は珍しい。彼女はDan Whieldonとのコラボレーション作品などでも活動しているクラリネット奏者だそうだ。シューベルトの歌曲『岩の上の羊飼い』を思わせる格調の高さと、聴き手の感情を強く揺さぶるスペイン的情熱とが同居する、不思議なコントラストを感じさせる。オリジナリティに富んだ実に素晴らしい楽曲である。激情的な歌唱で、これがオリジナルとはにわかに信じがたいほどだ。続く「Coralie」も彼らのオリジナルで、淡い抒情を湛えた可憐な佳曲である。ウィールドンの「There at the Turnpike」もリリカルな叙情が心を和ませる。この曲でもクラリネットのオブリガートが入るが、タイトル曲ほどの存在感はなく、むしろピアノ・ソロの美しさが印象的だ。やや気になるのは、クラリネット入りの2曲が曲調とは裏腹にどこか楽天的に響く点である。スタンダードの「Basin Street Blues」はニューオーリンズ色は強くないものの、趣味の良い編曲で聴かせる。次はウィールドンのオリジナル「Para Ti」(“For You”)。落ち着いた雰囲気のヴォカリーズを静かなピアノが支える。後半では歌詞が加わる。ニーナ・シモンのレパートリー「I'm Gonna Leave You」は、『High Priestess of Soul』(1967)に収録されている。テンポは原曲とほぼ同じだが、ブルース色はやや控えめだ。原曲のリフに単調さを感じていた筆者にとって、本作では途中にスキャットが入ることでその単調さが和らいでいるように思われる。低音を強調したピアノも楽曲に落ち着きを与えている。最後の「Lascia Ch’io Pianga(私を泣かせてください)」はヘンデル《リナルド》中の有名なアリアである。なぜラストに置かれたのかは不明だが、聴き手の心を鎮める効果を意図したのかもしれない。ロマンティックな歌唱で、中間部の多重録音による声の重なりには浮遊感がある。録音はピークで歪みが生じ、鑑賞の興をやや削いでいる。アップコンバート時の不具合かと思ったが、オリジナル音源をDSDに変換しても改善しなかった。優れたアルバムだけに、次回のリマスターでの改善を望みたい。総じて、一般的なジャズ・ヴォーカル・アルバムとは一線を画す作品であり、オリジナル曲の質の高さも相まって、きわめて充実した内容だ。他のアルバムもぜひ聴いてみたい。Alice Zawadzki:Lela(Odradek Records ODRCD505)24bit 44.1kHz Flac1.Wayne Shorter:Black Nile2.John Coltrane:Naima3.Walter Gross:Tenderly4.Alice Zawadzki, Dan Whieldon:Lela(featuring , Rosa Campos Fernández)5.Dan Whieldon, Alice Zawadzki:Coralie6.Dan Whieldon:There at the Turnpike(featuring , Rosa Campos Fernández)7.Spencer Williams:Basin Street Blues8.Dan Whieldon:Para Ti9.Nina Simone:I’m Gonna Leave You10.Handel:Lascia Ch’io PiangaAlice Zawadzki(vo)Dan Whieldon(p)Rosa Campos Fernández(cl track 4,6)Recorded: 2014,London, United Kingdom
2026年02月17日
コメント(0)

2019年に結成され、ドイツのベルリンを拠点とするレオンコロ四重奏団の、新ウィーン学派を中心としたアルバムを聴く。この団体は、母親が日本人の兄弟と、近衛文麿の曾孫が在籍しているという。曲は、ベルク、ウェーベルン、そして馴染みの薄いシュルホフの作品で構成されている。どの曲も味が濃く、ベルクやウェーベルンも、かつての冷たい音楽という印象とはまるで異なる。作品への踏み込みは徹底しており、無表情に鳴る音楽という感覚はない。聴き手の心を強く惹きつける。作品との距離が格段に縮まり、説得力も増している。かつては難解で近寄りがたい音楽として、難しい顔で聴かれていた時代があったことを懐かしく思い出す。最近は弦楽四重奏のアルバムをよく聴くが、どの団体も技術、サウンドともに往年の水準を大きく上回り、音楽の成熟も著しい。聴き手にとって良い時代になった。どの曲も、艶のある骨太のサウンドで迫ってくる。とりわけヴァイオリンの雄弁さが際立ち、説得力を高めている。良い意味で過度な緊張感を感じないのは、こちらの聴き方が変わったからかもしれない。このアルバムは、ダイナミクスとスケールを拡大し、メリハリの効いた濃密な音楽を展開する。「抒情組曲」の弱音部分でも音量を過度に落とさず、繊細さを保ちながら各声部を明晰に描く。総じて劇的表現に優れ、作品の魅力を十分に引き出している。特に第5楽章は見事である。ウェーベルンも、かつての線の細い演奏像から脱し、みずみずしくスケールの大きな演奏となっている。録音の良さもあり、音色処理の工夫が明瞭に伝わる。最もダイナミックな第3楽章終結部でわずかにアチェレランドする解釈は珍しい。全体に速めのテンポで進み、ダイナミックレンジも広い。第1楽章では多彩な奏法が現れ、音色の変化を楽しめる。静かな第4楽章の繊細なグラデーションも美しい。アルバム最後の「弦楽四重奏のための緩徐楽章」は近年よく取り上げられる作品である。濃厚なロマンティシズムが特徴だが、今回は過度に強調せず、すっきりと仕上げている。シュルホフ(Erwin Schulhoff 1894–1942)はプラハ出身の作曲家・ピアニストで、ジャズやダンス音楽を本格的にクラシックへ取り入れた人物である。調性を基盤としつつ、無調や十二音技法との境界に位置した作曲家でもある。「弦楽四重奏のための5つの小品」は、モダンで明るく、ポピュラー音楽的な魅力を備える。第3曲は「チェコ風」と題され、民族音楽の影響を感じさせるが、素材をそのまま出すのではなく、洗練された表現で提示する。第4曲「Alla Tango Milonga」は、アルゼンチンの夜を想起させる濃密で都会的な音楽である。終曲の急速な「タランテラ風」も畳みかける勢いがある。この後にウェーベルンが置かれると、その落差に少しびっくりする。録音は立ち上がりが速く、透明感のあるサウンドで作品に適している。かつては弱音楽章が埋没し印象が曖昧になりがちだったが、録音技術の進歩が大きく貢献していると感じられる。Leonkoro Quartet:Out Of Vienna(Alpha Classics ALPHA1196)24bit 96kHz Flac1.Alban Berg: Lyrische Suite für Streichquartett (ohne Opuszahl)6.Erwin Schulhoff: Fünf Stücke für Streichquartett WV 6811.Anton Webern: Fünf Sätze für Streichquartett op. 516.Anton Webern: Langsamersatz für Streichquartett op. posth.Leonkoro QuartetRecorded March 2025, Neumarkt, Germany
2026年02月15日
コメント(0)

ブランフォード・マルサリスがキース・ジャレットの有名な「ビロンギング」(ECM)というアルバムをカバーした作品を聴く。発売当初に購入していたが、グラミー賞にノミネートされていたことを知り、あらためて聴き始めた。ちなみにダウンビート誌の読者投票で「Album of the Year」に選出されていたそうだ。ブランフォードは以前からキースの曲を演奏しており、「The Secret Between the Shadow and the Soul」(2019)というアルバムでは、キースの「The Windup」を録音していた。今回「ビロンギング」全曲を録音したのは、演奏メンバーであるベーシストのエリック・レヴィスが、上記アルバムの制作中に「The Windupを取り上げたなら、アルバム全体を録音すべきだ」というアイデアを出したことがきっかけである。このアイデアはパンデミック中も醸成され、ブルーノートへの移籍を契機に録音されたとのことだ。個人的にはこのアルバムをそれほど高く評価していない。リリカルさは否定しないが、全体としてあまり面白いとは感じない。曲として完結しているという感触が薄いことも、その理由の一つだ。今回のアルバムは、基本的にオリジナルの構成を変えず、演奏時間を微調整することで、原曲のフレーズが持つ余韻や推進感を、自身の音色で再現しようとしていると考えられる。大きな違いは、オリジナルが北欧的なクールさを持つのに対し、ブランフォードのアルバムは比較的ウォームな雰囲気を備えている点だろう。静謐さについても、オリジナルのほうが勝っているように思われる。このアルバムは、ブランフォードの熟成されたサウンドと緊密なグループ・パフォーマンスによって、成熟した演奏が楽しめる作品だ。その中でも、最後の「Solstice」の中間部におけるブランフォードの逞しいアドリブ・ソロには圧倒される。エンディングでピアノが終わると、ベースの短いグリッサンドと誰かのつぶやきが入っている。通常であればカットされそうな部分だが、ライブ感を残すためにあえて残したのかもしれない。オリジナルにおけるテナーは、あくまでも端正な表情を崩さず、ハーモニックスを用いたソロも控えめである。エンディングも引きずらず、さっぱりと終わる。キースのバラードとして比較的有名な「Blossom」は、オリジナルでは北欧的な抒情を大切にした控えめな表現であるのに対し、ブランフォード盤では愁いを帯びた太いテナーのサウンドがぐいぐいと迫り、感動的な演奏を繰り広げている。アーシーな「Long As You Know You’re Living Yours」は、オリジナルよりもかなり速いテンポであるにもかかわらず、演奏時間は約2分半長く、快活で楽しげな音楽が展開され、メンバーのノリの良さがはっきりと伝わってくる。タイトル・チューンの「Belonging」は、オリジナルでは演奏時間が約2分半で、アドリブはない。今回は演奏時間が約5分に拡大されている。この曲でもオリジナルは控えめで淡い叙情を感じさせるが、ソプラノ・サックスが用いられた今回のバージョンは、より主張が強い。中間部ではカルデラッツォによる端正で長いピアノ・ソロが挿入される。その後にソプラノのソロが続くという展開だ。このソプラノ・ソロが実に味わい深く、冒頭はリリカルに始まり、後半で激しい表情を見せて高揚していくさまは、なかなか感動的だ。演奏時間が長い分、満足度は今回のほうが高い。再録となる「The Windup」も、オリジナルに比べて約4分長くなっている。もともと賑やかな曲だが、ブランフォード盤のほうが楽しさがよりダイレクトに伝わってくる。この楽しさには、ジャスティン・フォークナーのリムショットや推進力が大きく貢献している。カルデラッツォの火を噴くようなソロから混沌とした雰囲気へ移行する展開は、ブランフォード盤ならではである。後半メンバーの快哉を叫ぶ声も聞こえ、スタジオ録音とは思えない熱狂に包まれる。オリジナルのソプラノも健闘しているが、テナーとの違いはあるにせよ、ブランフォードの骨太なサウンドの前では非力に感じられるのは否めない。オリジナルは録音条件の影響もあるとは思うが、音楽が軽く、推進力に欠ける印象だ。ということで、もともとそれほど好みではないアルバムではあったが、オリジナルの良さは認めつつ、現時点では同じ曲を聴くのであればブランフォード盤に軍配が上がるように感じる。この種のカバーがオリジナルを凌駕することは稀だが、原曲を踏襲しつつ演奏水準がそれを上回っている例は、決して多くはないだろう。Branford Marsalis:Belonging(Blue Note 7548659)24bit 96kHz Flac1. Spiral Dance2. Blossom3. Long As You Know You’re Living Yours4. Belonging5. The Windup6. SolsticeBranford Marsalis(ts,ss)Joey Calderazzo(p)Eric Revis(b)Justin Faulkner(ds)Recorded: March 25–29, 2024, Ellis Marsalis Center for Music, New Orleans, USA
2026年02月13日
コメント(0)

stereo誌絶賛連載中の「今月の変態ソフト選手権」で知った一枚。ジュネーブ国際コンクール(2021)で優勝した経歴を持つチェリスト、上野通明のセカンド・アルバム。リリース元はLa Dolce Volta(ラ・ドルチェ・ヴォルタ)、フランスの比較的新しい独立系レーベル。2014年にパリに設立され、大量生産型ではなく、演奏家中心・作品中心のレーベルで、現在までに23タイトルがリリースされている。ブックレットによると、上野と日本の音楽とのかかわりは次の経過をたどっている。『彼はパラグアイに生まれ、幼少期をスペインで過ごした。4歳のときヨーヨー・マの映像に心を奪われ、5歳のクリスマスに初めてチェロを贈られたことが音楽の旅の始まりとなった。日本から離れて暮らしたことで、自らの文化的アイデンティティと向き合うようになり、日本文化を当たり前のものではなく、分析し理解した上で選び取る対象として捉えている。日本人作曲家の作品解釈は、その考えを形にする行為と考えている。黛敏郎、武満徹、松村禎三らも、半世紀以上前に西洋音楽を学びながら日本人としてのあり方を模索した先駆者であり、上野が向き合った問いも彼らと同じだった。』このアルバムの狙いは「音数が少ないからこそ誤魔化しが効かない曲」を選ぶこと。曲目はその狙いが反映されており、森円花の組曲「Phoenix」を除き、「sakura」をはじめ明治から昭和までの作品が並ぶ。武満徹の作品は本来フルートのためのものだが、上野が特別に許可を得てチェロ版に編曲した。年代は違うが、間を感じさせる音楽が並び、曲名を知らなくても日本人なら日本的な音楽らしさを感じる。音楽的には、黛の三味線を思わせる大胆なサウンドが印象的。チェロのフラジオレットから始まる「sakura」も緊張感のある編曲で楽しめる。松村禎三の「Air of Prayer」の原曲は、低音域を補強するため宮城道雄が考案した17弦箏のための作品で、楽器そのものがチェロの役割に近い。日本情緒を感じさせるが、曲全体は暗く、チェロの悲しげなモノローグは人間の声のようだ。時折聞こえるピチカートも刺激的。上野の編曲による「Trifoliate Orange Flowers(カラタチの花)」も、原曲の穏やかな曲調ではなく、チェロの厳しいサウンド空間が支配する。「荒城の月」は凛とした厳しさが感じられ、聴いていると涙が出そうになる。森円花(1994-)は東京芸大大学院卒業後、アメリカに留学し、現在はニューヨークを拠点に活動している。彼女は上野通明のためにいくつかの作品を作曲しており、今回取り上げられた《Phoenix》は2022年にCOVID-19パンデミック下で初演された。戦後から約80年を経た日本の音風景を描く作品で、原曲はフルート独奏用。作品は五つの楽章からなり、プロローグと間奏曲を含む三幕オペラを連想させる構造。今までの曲に比べ日本的な静的サウンドではなく、激しい表情が見られる。共通モチーフで結ばれ、三幕オペラの形式を連想させる。プロローグではバルトークピチカートをより激しくしたようなサウンドが時折聞こえ、刺激的。穏やかな間奏曲を経て、最後の「第3幕:ミステリオーソ – アパッショナート」の激しい音楽につながる。エンディングではC弦を開放弦でバルトークピチカート的に弾く場面があり、衝撃的なサウンドだ。録音は近接マイクで圧倒的迫力があり、生では絶対に聞けないサウンドで、まさにレコード芸術と言える。蛇足だが、このレーベルのバイクのようなシルエットのロゴは回転(Volta)+身体運動の象徴とされている。ということで、厳しい音楽が続くが、難解ではなく、日本人なら必ずその良さを理解できると思う。上野通明:Origin(La Dolce Volta LDV-140)24bit 192kHz Flac1. 黛敏郎:Bunraku(1964頃)2. 武満徹:Air(1987 チェロ用編曲)3. 日本古謡:Sakura(上野通明 編曲)4. 松村禎三(1984 チェロ版1985):Air of Prayer5. 山田耕筰:Trifoliate Orange Flowers(Karatachi no Hana 1914頃/上野通明 編曲)6. 滝廉太郎:The Moon over the Ruined Castle(1914頃 上野通明 編曲)7. 森円花:Phoenix(2020頃)上野通明(vc)Recorded 3–6 May 2024,Queen Elisabeth Music Chapel Waterloo, Belgium
2026年02月11日
コメント(0)

小曽根真の新作「For Someone」を聴く。小曽根が立ち上げたMo-Zoneレーベルからのリリースである。演奏の中心はトリオだが、ヴォーカル入りの曲が数曲あるのは小曽根にしては珍しい。トリオはTRiNFiNiTYのメンバーで、ベースが小川晋平(1994-)、ドラムスが北井誉人(きたいくにと/1995-)。ヴォーカルはポーランドのアナ・マリア・ヨペック(1970-)で、以前小曽根と「Haiku」(2011)というアルバムを制作している。彼女はパット・メセニー、ジャコ・パストリアス、ボビー・マクファーリン、リチャード・ボナなど、世界的なミュージシャンとの共演経験を持つと言われている。小曽根のヴォーカル入りアルバムは、今のところ本作を含めこの二作のみのようだ。ヴォーカル・アルバムとはいえ、歌は主にスキャットや意味を持たない言葉で、ホーンと同じアプローチ。全体にしっとりと落ち着いた曲調で、聴き手もゆったりとした気分で楽しめる。タイトル・チューンのように声の多重録音を駆使した、現在的な音作りの曲もあり、小曽根の新境地を感じさせる。ただし、この歌手はやや絶叫気味で、繰り返し聴くと煩わしく感じる場面もある。ヨペックの自作「Pamirtajmy o Aniołach」はピアノとのデュオで、硬質な叙情が魅力的だが、後半のスキャットは絶叫調で興ざめする。トリオのみの演奏では、速いテンポで迫るラテン・フレーバーの「Pasja」がスリリングで、なかなか気持ちのいい演奏だった。数曲で使われているハモンド・オルガンも良いアクセントになっている。エヴァンスの「Peace」を思わせるイントロで始まる「Chasing the Horizon」も、瑞々しい抒情に満ちた感動的な音楽だ。ただ、冒頭のピアノ・ソロでかすかに空気を振動させるような音が聞こえ、それが少し気になった。小川晋平の強靭なベースと、北井誉人の小気味よいドラミングはいずれも文句なしの出来である。録音はやや前に出る印象だが、ノイズのない豊かな響きで、思わず聴き惚れるサウンドだ。ちょい聴きではヴォーカルが音楽を支配し、いつもの小曽根の持ち味が薄れているように感じたが、何度か聴くうちに、ジャケット写真に感じられる、いつもの小曽根特有の温かい音楽であることが分かった。小曽根真:For Someone(Decca 5701103)24bit 96kHz Flac1. 小曽根真:Untold Stories2. 小曽根真:Rolling Tales3. 小川晋平:Wa (Peace / Ring)4. trad.:Bandoska (Polish Folk Song)5. 小曽根真:Until That Wall Falls6. 小曽根真:For Someone7. 小川晋平:Pasja8. Anna Maria Jopek:Pamirtajmy o Aniołach (Mind the Angels)9. 小曽根真:Friends10. 小曽根真:Chasing the Horizon小曽根真 (P, Hammond), 小川晋平 (B), 北井誉人 (Ds, Perc) (1,2,5,7,9,10)小曽根真 (P, Hammond), 小川晋平 (B), 北井誉人 (Ds, Perc), アナ・マリア・ヨペック (Vo) (3,4,6,8)Recorded: 2025-05-02,Bauer-Studios, Ludwigsburg2025.2.10 加筆訂正
2026年02月09日
コメント(0)
全4881件 (4881件中 1-50件目)


