The Life Style in The New Millennium

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Master21

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2004.01.02
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「ああ・・・暑い暑い、ここは極楽ですね」
汗だくになって事務所に入って来た武田に
「はい、これ」
里子は自分のハンカチを渡した。
それを見て、口の悪いの部長が
バーコードのようになった頭をなでながら
「俺には、そんなことしてくれなかったな」
と言うと、反射的に
「娘の婿にと思って・・・」
里子は嘘をついていた。
同じ職場で外回りをしている15歳年下の武田は
好みのタイプだった。
少し内気な所があるのも、可愛く感じていた。
「申し訳ないです。お借りします」
武田は里子から借りたハンカチで顔から吹き出るような汗を拭いた。
実は、里子は1日おきに、このハンカチを武田に貸している。
武田は借りたハンカチを翌朝には、きれいに洗濯し
アイロンをかけて返してくれた。そのハンカチを
里子が1日使って、きれいに洗ってアイロンをかける。
そして、また武田に手渡す。この単純な繰り返しが
もう恋など諦めかけていた里子にとっては
ささやかな武田との恋のキャッチボールのつもりだった。

まだ入社1年目で、部でたった一人の20歳代の武田は
部の誰に対しても頭が上がらなかった。
しかし、営業成績は3ヶ月目からトップクラスで、
「滅多に人を誉めない社長がニコニコだぞ」
と本社の会議から帰ってきた部長が感心して
いる優秀な社員でもある。
そんな実力にも関わらず、部内ではペコペコして
先輩たちのタバコを買いに走ったりしている。

里子は15年前に夫に先立たれてから、娘を育てながら
この会社で事務員をしている。そんな娘も、来春、
高校卒業だそうである。再婚の話も何度かあったが、
娘のことを考えて踏み切れず、もうすぐ40の声を
聞くところに来てしまった。

ある日、里子は武田を飲みに誘った。
「武田君は、若いからいいねえ。
こんなオバちゃんとデートして楽しい」
「あ、これってデートだったんですか。
はい、光栄です」
武田は飲んでも、まったく変わらなかった。
里子は、かなり酔ったようで
「おんな一人で子供を育てるのが、どんなに
大変なのか知ってる?」
など言って、若い武田を困らせた。
「はい・・」
と返事をしてはいるが、半分逃げ腰である。
帰り道、フラフラになった里子は、武田とともに
タクシー乗り場まで歩いた。タクシー乗り場の
手前で里子がつまづいた。武田が支えてくれた。
武田の手が里子の手に触れた。
「大丈夫ですか」
と武田は里子の背中を支えている。
武田の手の感触が、電気のように
ジリジリ里子の体内に染みてくる。
里子は、武田の手を払いのけた
「放っといて・・一人で帰れるから
女一人だと思ってバカにしないで」
どうして、そんなことを言うのか
里子自身にも分からなかった。
かなりキツイことを言ったと
あとで後悔した。
「すみません」
と言うだけで武田は、申し訳なさそうに
里子の乗ったタクシーを見送っていた。

それから数日後、武田は辞表を提出した。
どうやら、自分で小さな会社を始めるらしい。
会社の近所の居酒屋であった送別会、里子は
「少しだけ時間いいですか」
と武田に呼び出された。会社の近くの公園には
白衣を着た女の子が待っていた。
彼女は同じビルに入っている歯科に勤めて
いる女の子で里子も何度か見かけたことがある
「どうしても、里子先輩には会って頂きたくて」
と里子に言うと武田は白衣の彼女に
「僕の憧れの人・・・」
と冗談っぽく微笑み、里子に
「来春、結婚するんです僕たち」
と言った。
里子は、「そう、おめでとう」と言いながら
たぶん20歳くらいに見える白衣の彼女の
若さが羨ましかった。

翌朝、里子が出勤すると里子の机の上には
昨日武田に手渡したハンカチがきれいに畳んで
置いてあった。そのハンカチを手に取ると里子は
ふと何かに気づいたらしく
「武田君がハンカチにアイロンなんかしないよね」
と呟いた。





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Last updated  2015.08.29 10:40:16
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