2011.06.13
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5月以降、アメリカの経済指標が急速に悪化してきています。既に製造業景気指数では5月半ばに発表されていたNY連銀が予想18に対して11.9、 フィラデルフィア連銀が予想18に対して3.9と大幅な落ち込みを示唆していました。そして6月初めに発表された5月ISM製造業指数は予想57.6に対 して53.5、雇用統計では非農業部門就業増加数が17万人に対して5.4万人と、多くのエコノミストにとってサプライズの内容となっています。アメリカ の1-3月期のGDP成長率は1.8%でしたが、これらの指標を元にすると、5月は1%スレスレにまで落ち込んでいる計算になります。一体何が起こってい るのでしょうか?

多くのエコノミストはこれを、一時的要因と見ているようです。そしてよく挙げられるのが第一に食品やエネルギー価格の上昇、第二に日本の大震災の影 響です。しかし食品やエネルギー価格が上昇しているのは去年8月以降ずっとです。また日本で大地震が起こったのは3月上旬です。エコノミストが5月半ば以 降に発表される経済指標の予想に織り込む時間はたっぷりあったと思います。即ち「予想を下回った」事の理由説明には、あまりなっていません。私はむしろ、 現在の景気落ち込みは一時的要因によるものではなく、これまでの景気が比較的長い一時的要因によって持ち上げられていた可能性の方が高いと考えています。

100年に一度と言われる金融危機の後、これまた100年に一度と言ってもよい大胆な財政・金融政策が発動されました。例えば財政では「Cash for Clunkers」(新車買い替え)プログラムによって平均2000ドルが、新規住宅購入者には8000ドルの税控除が与えられました。いずれも一時的効 果は見込めるものの、基本的には需要の先食いです。それでもそのようなオバマ景気対策のかなりの部分は去年まで続き、もう終わりかと思われたタイミングで ブッシュ減税が2年間延長される事になりました。ただ、いずれにせよ今年後半からは、財政はGDP成長のマイナス要因入りしていきます。5月半ばには連邦 債務が法定上限を超えてしまいましたから、もう財政で何かやりたくても、できる状況ではなくなっています。むしろ現在、民主党と共和党で連邦債務上限引き 上げを巡る対立が活発化していますが、上限引き上げ反対派多数の世論調査を見ると、更なる財政引き締めも有り得るかもしれません。

金融政策にしても、去年春に第一弾量的金融緩和(QE1)が終わったと思ったら去年秋にはQE2が発動しました。しかしQE1の購入対象が10年以 上満期の住宅ローン証券が大部分であったのに対して、QE2では購入対象の中心は5-7年物国債です。案の定、短期性の資金は値動きの良いエネルギー・食 料品・銀先物、株式でもこれまで上昇してきたものがさらに買われる展開となりました。一方で長期金利が上昇した事で住宅価格は下落、現在住宅市場は二番底 に向かっています。これだけの財政・金融政策を総動員しても結局、金融危機の発端である住宅市場の下落は止められなかったというのが現実です。

こうして見てみると、最近になって景気が悪化してきたというよりも、むしろ金融危機を受けたこれまでの一連の対策が異常であっただけ、という見方が できます。確かに金融危機のような緊急事態の際には必要な措置だったのでしょうが、金融危機から2年半たった今もこのような措置を継続する事の方が異常で す。そういう意味では、アメリカ経済がいずれ経験しなければならなかった必要な過程であり、それが始まっているという事だと思います。

財政に絶対の制約がある今、景気が落ち込んだ時に取れる政策は金融のみでしょう。そういう意味では金融引き締めなど、一部市場で予想されている今年 末よりもずっとずっと先の話でしょうし、QE3の可能性も十分考えられるでしょう。ただ今月末QE2を終了すると表明している以上、バーナンキさんの舌の 根の乾く期間も考えれば、当面株式やドルは売り圧力、債券は買い圧力がかかりやすい展開になると見ています。

(2011年6月10日記)






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最終更新日  2011.06.21 09:43:29


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