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大学時代、ちょっとだけ観ていて、数年前に某動画サイトで全話観て夢中になったアニメ「明日のナージャ」の続編小説です。ウィーンで母・コレットと再会し、ダンデライオン一座と再び旅に出るシーンで最終回を迎えた明日のナージャでしたが、その最終回から3年が経ち、16歳となったナージャは母・コレットと共にワルトミュラー伯爵家で暮らすことに。祖父のプレミンジャー公爵から貴族の令嬢に相応しい教育を受けたナージャは、再び広い世界を見る為、ウィーンを飛び出し、ダンデライオン一座と共にパリへ向かいます。プレミンジャー公爵、アニメではコレットとナージャの父親の仲を引き裂いたり、ナージャは熱病で死んだと嘘を吐いたり、ナージャとコレットを会わせなかったりと、何て酷い爺さんなんやと思いましたが、3年暮らしているとナージャへの態度は軟化してきたようで、ダンデライオン一座と共に旅立つ孫娘への餞として、こういう言葉を贈っています。「いつも毅然としていて、正しいことは正しい、間違っていることは間違っていると、自信を持って言いなさい。力にものを言わせておさえつけようとする者にはひるむことなく立ち向かい、弱く助けを求めている者には、ためらうことなく手を差し伸べなさい」(P.37より)このプレミンジャー公爵の言葉は、フランシスの「ノブレス・オブリージュ」の精神にも繋がっています。16歳の誕生日を祝う舞踏会でフランシスと踊るナージャ・・キースとフランシスとの間で揺れる彼女の心は、3年経ってもそのままでしたし、フランシスはフランシスで何か思う所があるようです。からくり自動車が事故でなくなってしまったのは悲しかったなぁ。パリで劇場を買い取るも、それが廃屋同然のもので、詐欺に遭ってしまったナージャは諦めずに、義父から貰った経済の本をヒントに劇場をオープンさせる計画を立てます。ナージャの機転の良さと頭の回転の早さ、そして前向きな姿勢・・13歳の時に母・コレットを探し続けた彼女の強さは変わりませんでした。ローズマリーも出てきましたが、彼女は相変わらずで、3年経ったからといって性格が変わる訳がないかと妙に納得してしまいました。ナージャのコレット探しを妨害したり、ナージャに成り済ましたりしていましたしね・・アメリカで新事業を立ち上げるローズマリー、女性実業家になってヨーロッパに帰ってきそうですね。劇場は華々しくオープンし、こけら落とし公演も大々大成功に終わったナージャが、孤児院仲間のニコルと再会したシーンにはうるっときてしまいました。この小説には女性の生き方の変化、社会の変化などが描かれており、21世紀の現代では当たり前の事が、ナージャの時代(1910年代)にはあり得ない事だというのが驚きでした。キースは実業家として成功し、飛行機事業に携わっていると・・彼には先見の明がありますね。面白くて一気に読んでしまいました。明日のナージャが好きになり、二次創作小説も一時期書いていましたが、今でもナージャの事が大好きです。
2017年10月21日
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母が、イオンのミスドで抹茶・ほうじ茶ドーナツを買ってくれました。あられ入りのドーナツは、美味しかったです。黒蜜入りのほうじ茶ドーナツは、しっとりとして美味しかったです。
2024年04月30日
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この前パート先のスーパーで九州・沖縄フェアがやっていたのですが、その中でジミーズベーカリーのクッキーが半額で売っていたので、母が買って来てくれました。チョコとホワイトとチョコチップの3つの味で、一番美味しかったのはチョコチップでした。カロリーが高いのですが、美味しいので仕方ないですよね。
2023年07月26日
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スペイン産の、カカオ100%チョコ。甘くなく、苦味が強かったのですが、食べごたえがありました。
2024年05月29日
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・シエル可愛い!可愛い!・「いけない子ですね」がえろすぎる。・策士だなあ、シエル!・校長の正体…・シエル、大変だね…・セバスチャン、仕事が早いなあ!・ボートパレードのシーン、綺麗だなあ。原作漫画だと白黒だったから、アニメで観られて良かった。・花火も綺麗で良かった。・ブルーアーの涙の意味…・真夜中のお茶会のシーン、作画が綺麗。・デリック(ゾンビ)・次回で終わりなのか!?
2024年06月02日
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「どうなさいましたか、アフロディーテ様?」部屋に戻ってきたアフロディーテの顔を見て、カエサルはそう言って主を見た。「なんでもないわ・・少し疲れたから、休むわ。」アフロディーテはカエサルの脇をすり抜けようとした。「皇太子様と、何かあったのでしょう?」カエサルはアフロディーテの腕を掴んだ。「・・兄様ね、お前と和解するつもりはないって。コンサートに来てくれるのはわたしと決着をつけるためだって・・」アフロディーテはそう言って堪えていた涙を流した。「わたしね・・今度こそ兄様と和解できると思ってたの・・色々と人間たちにひどいことしたわたしを兄様が簡単に許してくれる訳ないと思ってたの・・兄様はわたしとは違って、人間を大切にするから・・でも今度こそ本当に、仲直りできると思ってたの・・」「アフロディーテ様。」“私はお前と和解するつもりはない”レストランで氷のような冷たい拒絶の言葉をルドルフから投げつけられた時、アフロディーテが抱いていたルドルフとの和解の望みは粉々に砕け散った。「ショックだったわ・・あんなこと言われて・・わたしは兄様に心底憎まれているのね・・」この世で血を分けた唯一の家族であるルドルフから拒絶され、アフロディーテはひどいショックを受けていた。「わたし・・兄様と手を取り合いたいって思ってた・・過去のことを水に流して、ユリウスとお前と一緒にいつか暮らせるだろうと思ってたのに・・」「アフロディーテ様・・」カエサルがアフロディーテをそっと抱き締めた。「もう・・無理なのね・・兄様と和解するのは・・わたし、本当に1人になっちゃった・・」 アフロディーテはフラフラとした足取りで寝室へと入り、ベッドの中で声を押し殺して泣いた。その頃、ユリウスは仕事が一段落してほっと溜息を吐いた。「ふぅ~、疲れたぁ~」長時間パソコンに向かって仕事していた為、肩や背中の筋肉が強張っていた。時計を見るともうランチタイムを過ぎている。ユリウスは社長室を出て、会社内にあるカフェテリアへと向かった。ランチタイムを過ぎたカフェテリアは、閑散としていた。ユリウスはクリームチーズとサーモンのサンドイッチとコーヒーを買い、それを食べながらメールをチェックした。ルドルフから1通、メールが入っていた。『アフロディーテとランチ。アフロディーテとは和解するつもりはないことを伝えた。』ユリウスはそのメールを見て、溜息を吐きながらサンドイッチを食べた。(和解はもう無理だ・・ルドルフ様はもう、決意を固められたのだから・・) サンドイッチを食べ終え、コーヒーをタンブラーに移して社長室に戻ると、困った顔の秘書が自分の姿を見るなり駆け寄ってきた。「どうしたんだ?」「それが・・社長宛にお手紙が・・」「手紙?」秘書から手紙を受け取り、ユリウスはその場でそれを読んだ。そこには自分に対する罵詈雑言が書き連ねており、卑猥なイラストが描かれてあった。「どうしますか?警察に連絡を・・」「質の悪い悪戯だ。気にすることはない。」 それからというもの、ユリウスのところには嫌がらせの手紙やメールが毎日来るようになった。ユリウスは手紙を開かずに暖炉へと焼き捨て、メールは開かずに削除した。「社長、失礼いたします。」秘書がそう言って社長室に入ってきた。「あの、社長にお会いしたいという方が・・」「どんな人だい?」「社長の昔のお知り合いだという方がいらっしゃって・・社長を出せとおっしゃって・・」自分の知り合いを自称する人間は、1人しか見当たらない。「今日は帰って貰いなさい。」「はい。」秘書が出て行った後、数分位女性の怒鳴り声が廊下に響き、遠ざかっていった。「社長、あの人はどういった方なんですか?社長のことをとても憎んでいらしたようですけれども。」「昔色々あってね。でもわたしにとってはもう過去のことだよ。」ユリウスは涼しい顔でそう言って、仕事を再開した。「・・わたくしを馬鹿にして・・もう許さないわ、ユリウス!」シュティファニーはユリウスの居る社長室を睨みつけながら、大股で立ち去っていった。何者かのユリウスに対する嫌がらせはおさまるどころか、一層エスカレートするばかりだった。ユリウスは嫌がらせの犯人を知っていたが、何事もなかったかのような顔をして仕事をしていた。そのとき、社長室のドアが荒々しくノックされた。
2008年09月28日
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食事会では終始アウロラ皇女は未来の姑であるミズキを完全に無視し、アンジェリカとルドルフ、そして自分の両親にだけ笑顔を向けていた。「何ですか、あの態度は?仮にも未来の姑でいらっしゃる皇后様に対して無視とは・・」「それを諌めようとしない国王夫妻の無礼さには怒りを通り越して呆れましたわ。アンジェリカ様がお選びになられた方とはいえ、あんなに非常識な方だとは・・」食事会でのアウロラ皇女の非常識な振る舞いは女官たちの間にたちまち知られることとなり、彼女達は暇さえあればアウロラ皇女の陰口ばかり叩いていた。「そこで何をしているの?」「こ、皇后様・・」「口を動かすよりも、手を動かしなさい。まだあなた方には沢山仕事が残っている筈よ。」ミズキがぴしゃりと女官たちにそう言うと、彼女達はあたふたと自分達の持ち場へと戻っていった。「お母様、どうかなさったの?」「なんでもないのよ、キンバリー。」「またあの人達、アウロラ皇女のことを話していたんだわ。まぁ、あんな非常識な振る舞いをあの人達が見逃すわけないもの、当然よね。」母親譲りの黒髪の巻き毛を揺らしながら、キンバリーはそう言って笑った。「止しなさい、あなたまでそんなことを言うのは。」「そうだけど・・わたし、あの人余り好きになれないわ。何だか、下品な感じがする。女の勘でわかるの、あの人とお兄様は長くはいかないって。」「キンバリー、言葉を慎みなさい。」キンバリーをミズキがたしなめていると、向こうからアウロラ皇女がやって来た。「あら、アウロラ様、御機嫌よう。」キンバリーが精一杯の作り笑いをアウロラ皇女に浮かべたが、彼女は憮然とした表情を浮かべて去っていった。「なぁにあの態度、嫌な人。」 結婚式を迎え、新郎の親族としてアウグスティーナ教会の祭壇で永遠の誓いを交わすのを見ていたミズキは、キンバリーの不吉な予言を思い出した。アンジェリカの隣に立ち、豪奢な花嫁衣裳を纏っているアウロラは、輝くばかりに美しかったが、外見の美しさだけではハプスブルク帝国の皇太子妃が務まらないことを、ミズキは長年の宮廷生活で知っていた。「母上、これから宜しくお願いいたします。」「ええ。よろしくね、アウロラさん。」「ええ、宜しく。」アウロラは渋々ミズキに握手すると、まるで汚らわしい物にでも触れたかのように、パッとその手を離した。「気にすることはない、行こう。」「ええ・・」夫に支えられながら劇場へと入っていくミズキの顔は、蒼褪めていた。 ミズキはアウロラ皇女のことを快く思っていなかったが、アンジェリカと結婚し彼女がハプスブルク家の一員となってから、その思いはますます強くなっていった。「まだなのか、アウロラは?」「ええ、何でも皇太子妃様は貧血がおありとかで・・朝食は部屋でお取りになるとおっしゃられて・・」「まぁ、何様のつもりなのかしら?あの方、ご自分はまだここでお客様扱いされると勘違いされていらっしゃるようね。」宮廷のしきたりを無視したアウロラの行動に、キンバリーが憤った。「キム、止めろ。彼女はまだここでの生活に慣れていないんだよ。優しく見守ってやってくれ。」「お兄様がそうおっしゃるのなら、今回だけそう致しますわ。でも、次はありませんからね。」にほんブログ村
2013年02月28日
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セブンイレブンで買いました。ちょっと濃厚で美味しかったです。
2016年02月16日
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剣より強し(下) クリフトン年代記第5部 (新潮文庫) [ ジェフリー・アーチャー ] エマがヴァージニアに名誉毀損で訴えられましたが、裁判の結末が明らかにならないまま、第6部に続きます。 何だか気になるところで終わってしまいますが、ヴァージニアとフィッシャーの悪事と陰謀が全て白日のもとに晒される日が来るのでしょうか。 第7部で終わってしまうのは少し寂しい気がします。
2017年12月18日
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1月12日は父の誕生日です。親孝行しようと思ってもなかなか出来ません。
2016年01月11日
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それから数週間、ユリウスはルドルフの看病をした。 ルドルフの病状は一進一退し、今日病状が良くなると翌日は悪くなるといった状態で、回復の兆しは全く見られなかった。(一体どうして・・血を与えたはずなのに・・)ユリウスは焦りながらも、オイゲンのノートを読み返した。治療法は合っているはずなのに、どうして・・?「お困りのようですね。」背後で声がして振り向くと、そこにはソロモンが立っていた。「何時の間にっ!」ユリウスはそう言って銃を向けた。「“あの方”を助けたいのでしょう?それならいい方法がありますよ。」「それは、何だ?」「それは、あなたの体液を直接あの方の体内に入れるのです。まぁ、簡単に言えばセックスすればあの人は助かるんです。」「血を与えたのに・・」「それはあまり効き目がありませんね。セックスするとあの方の胎内に新しい命が宿り、身体がそれを受け入れて毒を中和するのです。これは僕には出来ません。悔しいですが、従者のあなただけに出来ることです。」「・・そうか。」ユリウスはロシアでルドルフが悲しい思いをしたことを思い出した。もう二度と悲しい思いはさせたくない。けれども・・「ユリウス?」熱で潤んだ瞳で、ルドルフはユリウスを見た。「ルドルフ様、あなたを抱いてもいいですか?」ルドルフの瞳が一瞬、戸惑うように揺らいだ。「・・それしか、私が助かる方法はないんだな?」「ええ。」ルドルフはユリウスの背中に腕を回した。月が仄かに愛し合う2人の姿を照らした。「ユリウス・・」優しく恋人の名を呼び、恋人の背中に静かに爪を立てる。もしこれで助からなくてもいい。恋人にしるしをつけて、彼と愛した時間を忘れずに死のう。翌朝、病はルドルフの元を去った。そして彼の胎内には、愛のしるしが再び宿った。
2007年11月13日
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そこには王宮のバルコニーで笑顔を浮かべ、国民達に手を振るミカエルの写真が掲載されていた。聖良はざっと記事に目を通すと、彼は聖良の代わりにローゼンシュルツ王国皇太子として国民達をまんまと欺くことに成功したようだ。「セーラ様、指輪をわたくしにお預け下さい。」「母上の指輪を、お前に?何故だ?」「実はミカエルは、セーラ様がお持ちになられている指輪の存在に気づき、力ずくでもあなた様から奪う気です。」「そうか。俺の予想通りだな。だがお前に預ける気はないよ、ミヒャエル。」聖良はそう言ってリヒャルトを見た。「俺は逃げも隠れもしない。正々堂々と戦う。だから指輪を手放すつもりはない。」「それが、あなたの望みならわたしはあなたに従うまでです。」リヒャルトはそっと聖良を抱き締めた。「またこちらに伺います。その時までお身体に気をつけて。」「解った。」リヒャルトを玄関ホールまで送った聖良が仕事に戻ろうとした時、アンリがつかつかと聖良に近づいて来た。「あら、さっきの男、身なりからして貴族だったわね。メイドの癖に貴族を誑かすなんてやるわねぇ。」「おほめの言葉、どうも。今まで何処に居たんだ?その膨らんだポケットの中身、まさか奥様の宝石じゃあないだろうな?」「なっ・・!」図星だったらしく、アンリの顔が怒りで赤くなった。「最近宝石が消えていると、奥様がお嘆きになられてな。メイドが犯人だと知られたら、どうなるか・・」「何よ、あんた生意気ね!」アンリが頬を張ろうと自分に向かって振り上げた腕を、聖良は掴んだ。「余りいい気になるなよ。今までの新人のように徒党を組んでここから追い出そうと思っても無駄だと思え!」アンリは歯ぎしりをして聖良を睨み付けると、取り巻き達を連れて二階へと上がっていった。 それからというもの、アンリ達の聖良達に対する嫌がらせが酷くなった。持ち物を隠されるのは序の口で、侯爵夫人の予定が変更したことをわざと知らせず、夫人に恥をかかせようとしたりと、陰険なものになっていった。「セーラ様、お話が。」「はい・・」一日中働いてくたくたになった身体を引き摺り、聖良が侯爵夫人の部屋へと向かうと、彼女はにっこりと聖良に微笑み、こう言った。「セーラ様、これからはわたくしの侍女として宮廷に出入り致しませんか?ミカエルが何を企んでいるのかを知るには、これが最善の策だと思うのですが。」「そうだな。」アリエステ侯爵邸に聖良が滞在して一週間が過ぎ、彼は侯爵夫人の侍女として宮廷に潜入した。「セーラ様、決して正体を知られてはいけませんよ。」「解っています。」侯爵夫人と廊下を歩いていると、向こうからディミトリがやって来た。「アリエステ侯爵夫人、お久しぶりです。」「まぁディミトリ様、ご無沙汰しておりましたわ。」「そちらの方は?」ディミトリの視線が侯爵夫人から聖良へと移った。今の聖良が纏っているのは、胸元にレースの繊細な刺繍が施された緋のドレスで、王宮で暮らしていた頃の華美なものよりも少し地味なものだった。「こちら、わたくしの新しい侍女のアデーレよ。」「そうですか。侯爵夫人の事をセーラ様がお呼びでしたよ。何やら火急の用とかで・・」「そう、伝えてくださってありがとう。すぐに参りますとセーラ様にお伝えして。」 数分後、聖良は自分になりすましたミカエルの元を訪れていた。「侯爵夫人、わざわざいらしてくださってありがとうございます。」そう言ったミカエルと聖良の視線が一瞬ぶつかった。 ミカエルはまるで己の存在を誇示するかのように胸を反らし、勝ち誇ったかのような笑みを聖良に向けた。 それを見た聖良の敵愾心が、一層激しく燃え上がった。にほんブログ村
2012年06月05日
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爽やかなゆずの味が口の中に広がって美味しかったです。
2016年04月02日
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百均にはハロウィンの飾り付けグッズが並んでいたり、ハロウィン味のお菓子が発売されていたり…どこもかしこもハロウィン一色ですね。ブログのテンプレートを、ハロウィンに模様替えしてみました。ちょっと暗めですが、デザインが可愛くて好きです。
2016年09月26日
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「貴方が幸ちゃんと同じ女学校に通っていると聞いて、学校の方からこちらの住所を聞いて伺いました。」神谷青年はそう言うと、環の隣に立っているルドルフの方を見た。「そちらの方が、貴方の旦那さんなのですね?」「はい。神谷様、こちらには何のご用でしょうか?」「いえ、貴方が心配だったのでこちらに伺っただけです。では、わたしはこれで失礼いたします。」 神谷青年はそう言うと、長谷川家を後にした。「若様、お帰りなさいませ。」「徳田、わたしが留守の間、何か変わった事はなかったかい?」「いいえ。それよりも幸様が、最近体調を崩されているそうです。」「幸ちゃんが?」「ええ。幸様は夏風邪をひいてしまっただけだとおっしゃっておられますが、メイド達は幸様が妊娠されたのではないのかと、噂しております。」“妊娠”という言葉を耳にした神谷の眦が微かにつり上がった。「もしその噂が本当だとしたら、幸ちゃんの結婚は破談になる。何としても、それだけは避けなければならない。徳田、その噂を流したメイドの始末はお前に任せる。」「かしこまりました、若様。」 神谷家の秘書・徳田はそう言うと、次期当主の部屋から出た。部屋で仕事をしていた眞一郎は、ふと机の上に飾ってある一枚の写真を見つめた。それは、昔倫敦(ロンドン)で従妹の幸とハイドパークを訪れた記念に撮ったものだった。 母親同士が姉妹であったので、従兄妹同士でありながら、眞一郎と幸は本当の兄妹のように育った。幸が成長するにつれ、眞一郎は彼女を妹としてではなく、一人の女性として見るようになった。 しかし、幸には親から決められた許婚が居た。相手は、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの松阪重工の御曹司・信孝だ。 信孝とは、英国で同じ寄宿学校に通っていた同窓生だったので、彼がどんな性格なのか、眞一郎は知っていた。松阪男爵の一人息子として、信孝は両親から溺愛されて育ち、使用人達は自分に従って当然だという考えを持っている自己中心的な性格の持ち主だ。 信孝は、幸の事を婚約者ではなく、金で買った女中としてしか見ていない。親同士が勝手に決めた結婚に、彼は渋々と従っているだけなのだ。そんな結婚で、幸が幸せになるとは思えない。眞一郎が溜息を吐いていると、そこへ愛猫のマルコが彼の足元に擦り寄って来た。「お前はいいな、気楽に生きられて。」マルコの白い毛を撫でながら、眞一郎がそう呟くと、マルコは円らな目で主を見た。「御機嫌よう、美千代さん。」「御機嫌よう、環さん。ねぇ、幸さんの事、もうお聞きになった?」「幸さんが、どうかなさったの?」「あのね・・彼女、退学になったのですって。何でも、妊娠されたとか。」「妊娠?」環は、美千代の言葉を聞いて蒼褪めた。「環さん、大丈夫?」「ええ、大丈夫よ。」「環さん、貴方にお客様よ。」「わたしに、お客様?」「中庭で若い殿方がお待ちよ。」 教室を出た環が中庭へと向かうと、そこには神谷眞一郎の姿があった。「神谷様、わたしに何かご用ですか?」「もう幸ちゃんの事は聞いただろう?」「はい。幸さんが妊娠して退学されたって、本当なのですか?」 環の言葉に、眞一郎は静かに頷いた。「環さん、幸ちゃんのお腹の子の父親は、誰なのか知らないかい?」「いいえ、存じ上げません。」 環はそう言いながらも、幸のお腹の子の父親はルドルフではないのかと思ったのだった。にほんブログ村
2016年01月03日
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ツェプスが環のインタビュー記事を新ウィーン日報の一面記事に載せたのは、“タイマン事件”から数日後のことだった。 その記事には、皇太子妃が一方的に環に対して絡んでいる事や、陰湿な嫌がらせをしていた事などが書かれていた。『タマキ様も良くやりますよね。これだと皇太子妃様に宣戦布告しているようじゃないですか?』『あいつはいじめられても必ずやり返す奴だ。このまま様子を暫く見るか。』ルドルフはクスクス笑いながら、新ウィーン日報で誇らしげに自分が贈ったダイヤが鏤めた真珠の指輪をつけて笑顔を浮かべている環の写真を見た。『何なのよ、この記事は!?まるでわたしが一方的にあいつをいじめているように書かれているじゃないの!』『皇太子妃様、お気をお鎮めください。』『新聞社に抗議してやるわ!』 シュティファニーはすぐさまツェプスに新聞の発行を止めるよう電報を打ったが、ツェプスは“事実を報じたまでのことです。”との一点張りだった。 一方的に悪者扱いされて黙っているシュティファニーではなかった。彼女は貴族階級出身の者達が読む新聞や雑誌のインタビューに応じ、いかに自分がウィーン宮廷で蔑ろにされ、惨めな思いをしているのかを記者達に訴えた。 こうして、環とシュティファニーの報道合戦は、火蓋を切って落とされた。『シュティファニー、マスコミを使ってまでして、タマキを潰したいのか?』『陛下、わたくしは当然の事をしたまでですわ。』 シュティファニーが雑誌の記者の取材に応じたという事を知ったフランツがそう彼女を窘めると、彼女はそんな言葉を舅に返した。『陛下は何故、あの女を皇太子様のお傍に置くのです?あの女はウィーン宮廷の評判を落とすだけではなく、妻でありベルギー王女であるわたくしへ喧嘩を売って来たのですよ!』『それは、お前の行動が原因ではないのか?』舅が自分の味方になってくれない事を知ったシュティファニーは、落胆した表情を浮かべながら彼の部屋を後にした。 皇太子妃と、皇太子の愛人の争いという格好のゴシップは、ウィーン市民を熱狂させた。皇太子妃寄りの女官達は、環がいかに宮廷を我が物顔で歩き、自分達の主人を貶めているのかを記者達に語り、環の評判を落とそうと躍起になっていた。しかし、彼女達が必死になればなるほど、環の評判は上がり、シュティファニーの評判は瞬く間に落ちていった。そんなある日の事、貴婦人向けの雑誌にある記事が載った。『今回の騒動について、皇太子妃様の大人げない行動は目に余る。自分の行動を棚に上げ、気に入らない相手を執拗に絡んでは中傷を繰り返す。これが、ベルギー王女として誇り高く生きていた女性の本質なのだろうか。だとしたら、ハプスブルク家は大変な人物を皇太子妃に迎えたものである。』 この記事が決定打になり、ウィーン市民達は二人の争いに興味を失い、平穏な日常へと戻っていった。『皇太子妃様、お顔の色が悪いようですが、どうかなさいましたか?』 シュティファニーが廊下を歩いていると、環がそう言って彼女に話しかけてきた。『貴方、憶えていなさいよ!』 シュティファニーは環を睨みつけ、そのまま自室に引き籠った。「皇太子妃様相手に容赦ないねぇ、あんた。」「わたしは皇太子妃様にやられた分をやり返しただけです。それに、理不尽な事には納得できません。」「解っているよ、あんたの性格は。」小春は溜息を吐きながら、環に紅茶を出した。「有難うございます。」「まぁ、これで一段落ついたところだし、ゆっくりできるね。」「はい。」 環は紅茶を一口飲むと、シナモンの味が口の中に広がった。「シナモンティー、試しに淹れてみたんだよ。」「美味しいです。」にほんブログ村
2015年12月22日
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パソコンの壁紙、薄桜鬼の土方さんでしたが、ピスメの土方さんと沖田さんに変えました。
2016年10月08日
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ルドルフは病院の集中治療室で眠っていた。「今のところ脈拍や呼吸には異常ありません。数日くらいで意識が戻るでしょう。」「そうですか。」ユリウスはそう言ってルドルフの主治医を見た。「それと彼の胎児のことですが・・」主治医は眼鏡のフレームを直しながら、ユリウスを見た。「来年7月が予定日ですが、長引く場合もあります。また、難産の可能性があります。」「そうですか・・胎児には異常は見られませんでしたか?」「解毒剤のお陰で、胎児には影響はありませんでした。しかし何か起こるかわかりませんから、気をつけていてください。」ユリウスは主治医の部屋を出て、ルドルフの元へと向かった。「ルドルフ様・・」ユリウスはガラス越しに、ルドルフを呼んだ。「あなたがご無事でよかった・・」そう言うと彼は泣き崩れた。数日後、ルドルフは集中治療室から、一般病棟へと移された。「どうですか、お体の具合は?」「大丈夫だ。少し悪阻が酷いがな。」ルドルフはそう言ってベッドから起き上がった。毒を射たれた左腕には、ケロイドのような醜い傷痕が残った。「あまり無理なさらないでくださいね。」「ああ。今は体調を整えなくてはな。それよりも、アフロディーテの動きはどうなってる?」「・・アフロディーテは、わたし達と戦うようです。」「そうか・・」ルドルフはそう言って窓の外に広がるウィーンの街を見下ろしていた。「お腹の子供は無事だそうです。それに、双子だとお医者様はおっしゃってました。ですが予定日が長引いて難産になる可能性があるそうです。」ルドルフは下腹を擦りながらユリウスの話を静かに聞いていた。「子供の性別はまだわからないのか?」「まだわからないと思いますよ。それは産まれてからのお楽しみということにしておきましょう。」「そうだな・・少し寝る。」ルドルフはそう言って目を閉じた。ユリウスはそっと、ルドルフの下腹を撫でた。妊娠初期を迎えたそこはまだ目立っていないが、これから大きくなり、やがて新しい命が産声を上げるだろう。その時、自分達はどうなっているのだろうか。ルドルフの決意を知っているだけに、ユリウスは産まれてくる子供達のことが気掛かりでならなかった。(戦いは避けられない・・わたし達は滅びるしかない・・けれども子供は?ルドルフ様は子供を道連れにするのだろうか?)ルドルフがアフロディーテを倒して自殺すれば、自分もその後を追うと決意した筈だった。だが生まれてくる子供達のことを考えると、それが最良の選択なのかとユリウスは考え始めていた。子供には何も罪がない。ルドルフに一度、子供のことについて話をしてみたが、それでもルドルフの決意は変わらなかった。“災厄の種は、この手で摘み取った方がいい。”(この子達は祝福されて生まれてくるんじゃないのか?ただ化け物として生まれてきたから、その命を絶つなんて、わたしにできるのだろうか?)ルドルフは今まで多くの人間を傷つけてきた。自分と同じような思いを子供にさせたくないという彼の気持ちは理解している。しかし本当にそれでいいのだろうかーユリウスはウィーンの街を見下ろしながら、子供達のことについて一晩中悩んでいた。「ルドルフ様、お話があります。」「なんだ?」「子供達のことです。」ユリウスがそう言った瞬間、ルドルフの表情が少し険しくなった。
2008年09月28日
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『タマキ、一体何がどうなっているんだ?わたしに解るように説明しろ。』 環と共に馬車に乗り込むなり、ルドルフはそう言って彼を見た。『実は、ルドルフ様がマイヤーリンクで計画を立てていることを、ヨハン大公様から聞かされ、わたしはその計画に協力することになったのです。』『大公が、お前に知らせたのか・・まったく、余計な事をしてくれたものだな。』ルドルフはそう言うと、溜息を吐いた。『大公様は、貴方がマイヤーリンクで命を絶たれる事を知っていたのでしょうね。だから、わたしにこの計画に協力するように言って来たのだと思います。』『タマキ、わたしはもうこの国の皇太子でも何でもない、ただの男だ。それでも、お前はわたしを愛することが出来るのか?』『愚問ですね。わたしが、貴方の地位に惹かれていただけならば、こんな計画には乗ったりはしません。』環はルドルフの質問にそう答えると、彼に優しく微笑んだ。『一緒に二人で生きていきましょう、ルドルフ様。』『ああ、わかった。』館の中で皇太子の心中現場を偽装したヨハンとエルンストが裏口から外へと出ると、ルドルフと環を乗せた馬車がまだ停まっていた。『ルドルフ、遅くなって済まなかった。』『もう偽装工作は終わったのか、大公?』『あぁ。エルンスト、汚れ仕事をさせてしまって済まなかったな。』『いいえ。わたしも共犯者ですから、あれくらいの事をしないと。ルドルフ様、タマキ様とお幸せに。』『有難う、エルンスト。長い間わたしを支えてくれて有難う。エリザベス達に宜しくと伝えてくれ。』 ルドルフはそう言うと、エルンストと抱き合った。『では、わたしはこれで失礼致します。』エルンストは袖口で慌てて涙を拭うと、そのままウィーンへと荷馬車で戻った。『お帰りなさい、貴方。計画は上手くいったの?』『ああ。エリザベス、わたしは皇太子様にお仕え出来て良かったと思っているよ。だけど同時に、もう皇太子様のお傍に居られなくなるのが寂しくて堪らないんだ。』『それはわたしも同じよ、エルンスト。タマキ様と会えなくなるのが辛いわ。』帰宅したエルンストはそう言って涙を流すと、エリザベスはそっと彼の涙を手の甲で拭った。『大丈夫よ、タマキ様ならあの方を幸せにしてくださるわ。』『そうだね・・今は、二人の幸せを願おう。』エルンストとエリザベスは、窓から静かに空から舞い散る雪を眺めた。『陛下、皇太子様がマイヤーリンクでお亡くなりになりました。』 重臣からルドルフの訃報を聞いたフランツは、一瞬顔を強張らせた後静かに目を閉じた。(ルドルフ、お前はこれから、自由に生きていけ・・)『陛下?』『葬儀の準備をしろ。』『かしこまりました。』 一人息子の突然の死に、エリザベートは深く嘆き悲しみ、狼狽えた。『ルドルフが、どうして・・』嘆き悲しむ母の姿を傍らで見ながら、マリア=ヴァレリーは母親同様婚約者の胸に顔を埋めて泣き崩れ、シュティファニーは突然の夫の死に涙を堪えていた。そして、彼女とルドルフの一人娘・エルジィは何故父親の姿が居ないのかが解らず、落ち着かない様子で周囲を見渡していた。『お母様、お父様は何処?』『エルジィ、よくお聞きなさい、貴方のお父様は天国に逝かれたのよ。』叔母がそう言って自分を抱き締めてくれたが、エルジィは父親が亡くなった事が実感できなかった。にほんブログ村
2015年12月22日
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「エリザベートはまだなのか?」「はい、皇妃様のお姿はまだ見ておりません。」「舞踏会を開くと言い出した癖に、遅れるとはどういうつもりだ。」「陛下、女性の身支度に時間が掛かるのは当然のことです。そんなにカリカリなさらないでください。」 妻がなかなか大広間に姿を現さないことに苛立つ皇帝をトムは優しい言葉で宥(なだ)めながら彼の肩越しで薄笑いを浮かべた。「リン、お前はずっとわたしの傍に居ておくれ。」「はい、お祖父様。」トムがそう言って皇帝を見つめた時、大広間に皇妃が凛とともに入って来た。「あれは、お前の偽者ではないか。」皇帝は凛の姿を見て眦を上げると、皇妃の前に立った。「エリザベート、リンの偽者をこの場に呼ぶとは、一体どういうつもりだ?」「陛下、あなたが今親しくしている者はマリアの子の名を騙った偽者です。」「何の根拠があってそのような事を申すのだ?」「証拠なら、ここにあります。」凛はそう言うとトムを睨みつけ、右手に嵌めたルビーの指輪を周りの貴族達に見えるように高く掲げた。「その指輪、マリアの物ではないか! 何故、お前がそれを持っているのだ?」「その指輪は、カイゼル公爵夫人・フェリシアが生前マリアを殺害した後、保管していた物です。」―なんですって・・―マリア皇女様が殺害されたなんて、どういうこと?「マリアが殺害されただと? エリザベート、一体どういうことだ?」「その質問には、わたしがお答えいたします、陛下。」「お父様・・」 漆黒のマントを翻し、真紅の軍服を纏った歳三は、皇帝の前に跪いた。「16年前、わたしの母と、マリア皇女様を殺害したのは、今は亡きわたしの義理の母でありカイゼル公爵夫人・フェリシアでした。」 歳三は、皇帝に16年前に起きた火事の真相を語った。 真実を知った皇帝は愕然とし、倒れそうになった彼の身体をトムが支えた。「つまり、妹はそなたの義理の母が起こした火事の犠牲となったのだな・・」「義理の母が亡くなった今、彼女の罪を許してくれとは申しませぬ。」「陛下、どうか真実をあなた様の目で見極めてくださいませ。あなたの隣に今立っている者は、マリアの子の名を騙った偽者です。この者が今胸につけているブローチは、本物の凛から奪い取った物なのです。」エリザベートはそう言うと、トムの胸元に光っているブローチを指した。「お前は、本当にマリアの子なのか?」「そうです、陛下。何故僕が陛下に嘘を吐くなど・・」「よく回る舌だな、トム。」 皇帝に引き攣った笑みを浮かべたトムに向かって、アレックスがエリザベートの背後から現れた。「アレックス兄ちゃん、どうして王宮に居るの?」「おや、あなたとは初対面の筈でしたよね、リン様?」 トムはアレックスに嵌められたことを知り、内心舌打ちした。「陛下、わたしは宝石職人ユリウスの一番弟子、アレックスと申します。陛下の隣に居る者とは、一時期同じ孤児院で過ごした事がございます。」「孤児院だと?」「はい・・わたしとその者が育ったのは、ウロボロス市郊外にある聖マリア孤児院です。」「聖マリアだと?」 アレックスの言葉に、皇帝の顔が強張った。「聖マリア孤児院は、今から10年前に何者かに放火され、焼失しました。最近になって、孤児院に放火した者が誰なのかがわかりました。」「陛下、あれは事故だったのです!僕はただ、院長室にあるトランクの中身を調べようとして・・」 皇帝に弁解を始めたトムは、それが自らの首を絞めることに気づいたが、もう遅かった。にほんブログ村
2015年04月22日
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イオンの輸入食品店で買ったポテトチップス。薄切りでとても食べやすくて美味しかったです。
2016年01月27日
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ルドルフは最近ユリウスの様子がおかしいと気づいたのは、もうすぐ9歳の誕生日を迎えようとしている頃のことだった。3ヶ月前、シュタルンベルク湖畔に佇むユリウスを強引にウィーンへと連れ出し、ホーフブルクで働かせた。ルドルフはユリウスに会った瞬間、彼は自分の運命の相手だと信じて疑わなかった。彼は貧困ゆえに男娼となった最下層の階級に属する人間で、ルドルフはオーストリアの皇太子だ。だが、身分などルドルフはどうでもよかった。最も重要なのは、ユリウスが自分の運命の相手だということだけだ。ルドルフは羽根ペンを置いて椅子から立ち上がり、部屋を出た。ユリウスのいる厨房を覗いたが、彼はそこにいなかった。(あそこならいるかもしれない・・)ルドルフは、最近ユリウスを見かけるといううわさがある、地下牢へと向かった。案の定、ユリウスはそこにいた。光さえ届かない、薄暗い通路の奥にある鉄製の幾何学文様が刻まれた木製のドアの前で、ユリウスは誰かに向かって話しかけていた。「今日はリンゴを持ってきたよ。獲れたてでおいしいよ。」ユリウスはそう言ってアフロディーテにリンゴを渡した。「ありがとう、ユリウス。」アフロディーテはリンゴを少しかじって言った。「ねぇユリウス、ここから出してくれる?」アフロディーテの言葉を聞いたユリウスはため息をついた。「ごめんね、僕は君をここから出してあげられないんだ。でもルドルフ様だったら・・」「僕が、どうしたって?」背後から冷たい声が聞こえてユリウスが振り向くと、そこには険しい表情を浮かべたルドルフが立っていた。「どうして、ここに?」「それはこっちのせりふだ。お前は誰と話している?」ルドルフはそう言ってチラリと扉を見た。「僕はただ、アフロディーテにりんごを・・」「アフロディーテ?扉の向こうにいるのか?」「はい・・」ルドルフは扉の方へと歩を進めた。「ユリウスは僕のものだ。お前のものじゃない、わかったな。」アフロディーテはユリウスにもらったリンゴを握りつぶした。「行くぞ。」ルドルフは有無を言わさずユリウスの手を掴んで地下牢を後にした。「ルドルフ様、あんな言い方は・・」「黙れ。お前はこれ以上、あいつとは付き合うな。」「はい・・」(なんなのあの人、ひどい・・ユリウスは私のものなのに・・)それからユリウスは自分の元へ来なくなった。多分、あの人のご機嫌を損ねないようにしているからだ。はじめは悲しかったが、次第にそれはユリウスに対する怒りと憎しみへと代わっていった。(ユリウスなんか大嫌い!)
2007年08月25日
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千尋が監禁された部屋は、窓が無く換気の悪い所で、暑さで徐々に彼の体力は消耗していった。(兄様、助けて・・)今この世にいない兄に、無意識に千尋は彼に助けを求めた。 意識が朦朧としながらも、千尋はゆっくりと目を開け、今自分が置かれている状況を把握しようとした。 一方、千尋が拉致された事を知った桂は、心当たりのある廃寺へと向かった。この寺には何度か仲間と密会する時に来ている。もしかしたら千尋はここに監禁されているのかもしれない・・桂はそう思い、寺の部屋の戸をひとつひとつ開けて中に千尋が居ないか調べた。(ここには居ないか・・残りは、奥の部屋だな。)桂は行灯を手に、奥の部屋へとゆっくりと進んだ。だがその時、闇の中から人影が現れ、男が彼に体当たりをしてきた。「何者だ!」桂が鯉口を切ると、男は欲望に滾った目で彼を睨みつけた。「長州派維新志士筆頭、桂小五郎殿とお見受けする。」「貴様、何者だ? 千尋は・・あの子は何処に居る?」「それは今から死ぬ貴様には関係のない事だ!」男はそう叫ぶと、刀を抜いて桂に突進した。 激しい剣戟の音が扉越しに聞こえてきて、千尋はゆっくりと起き上がった。「千尋は何処だ!」(桂・・さん?)扉越しに聞こえてきた男の声は、桂のものだった。「千尋、これからどうするつもりだ?」「いつの間に来たのですか?」千尋がそう言って黒服の男を睨み付けると、彼はそっと千尋の手を握った。「今お前が決断しなければ、あの男は死ぬ。彼を亡くす事で、歴史の流れは大きく変わってしまう。それでもいいのか?」「それは・・」「お前は、また兄の時のように、心に闇を抱えながら生きてゆくのか?」「わたくしに、どうしろと言うのです?」「それは、自分で考えろ。」黒服の男は、そう言うと闇の中へと消えた。 桂は男と刃を交えながら、彼を睨みつけた。「あの千尋とかいう奴は、壬生狼の間者だ! そんな奴をお前は何故助ける!」「それは、わたしが彼を好きだからだ! 愛する者を助けることの何が悪い!」「甘い男だな。もしあいつがお前を裏切ったらということを、一度も考えなかったのか?」「それは・・」男の問いに、桂が一瞬怯んだ。その隙を、男は逃がさなかった。 部屋から脱出した千尋が廊下を走ると、血だまりの中に桂が倒れていた。「桂さん!」桂は千尋の呼びかけにも応えず、目を硬く閉じたままだった。「そんな・・」咄嗟に手首の脈を確かめると、微かに脈があった。(早く、助けないと・・)桂の腹から流れ出る血を止めようと、千尋は着物の袖を破り、それをきつく巻いて止血した。「しっかりしてください、桂さん!」「千尋・・良かった、無事で・・」桂はそう言うと、そっと千尋の頬を撫でた。「死なないでください、桂さん! あなたはまだ死んではいけない!」千尋は涙を流しながら、桂の手を握った。「無駄だ!」桂を斬った男は違うもう1人の男が、そう言って千尋に襲い掛かった。「止めろ、離せ!」千尋は帯に挟んでいた護身用の懐剣を抜くと、男の首筋にその刃をめり込ませた。「畜生・・」千尋が刃で男の首筋を切り裂くと、真紅の血がそこから迸り、男は息絶えた。「桂さん、もう大丈夫ですよ・・」千尋は桂の方へと駆け寄ると、そっと彼の唇を塞いだ。桂の止まっていた心臓が、再び動き始めた。「千尋・・?」桂が目を開けると、そこには千尋が笑顔を浮かべながら自分を見ていた。photo by NEO HIMEISM様にほんブログ村
2011年07月30日
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「父上、この人は私の大切な人で、ステファニー=セルフォードさんです。」エドガーはそう言って父・エーリッヒにステファニーを紹介した。「噂は聞いているぞ。なんでも、ミッチェルさんからエドガーを奪ったイギリス人の女狐だと。」「父上、ステファニーさんをそのように呼ぶのは止めていただきたい。彼女はこれからあなたの義理の娘になるのですから。」エドガーはエーリッヒを睨みながら言った。「私が義理の娘と認めたのはミッチェルさんだけだ。こんな女狐、決して認めん。」エーリッヒは不愉快そうに鼻を鳴らすと、リビングを出ていった。「その方があなたの愛している人なのね。」ブロンドの髪にブルーの瞳をした女性がソファから立ち上がり、ステファニーにほほえみかけた。「エドガーの母のゾフィーです。あなたが私の義理の娘になるんだったら、私は大歓迎だわ。」「初めまして。ステファニー=セルフォードと申します。よろしくお願いいたします。」「そう固くならなくていいのよ。これから家族になるんですもの。わたくしのことは、『お義母様』と呼んでくださっても結構よ。」ゾフィーはそう言ってステファニーを抱き締めた。それからエドガーとステファニー、ゾフィーの3人でお茶を飲みながら、互いの家族のことなどを話した。「エドガー、創作はまだ続けているの?」「ええ、母上。 ロンドンにいる時でも、構想が思い浮かんだら、必ずメモしますよ。」そう言ってエドガーは上着の内ポケットの中から手帳を取り出した。「それ、なんですの?」ステファニーはそう言って手帳を見た。「それはね、この子の体の一部のようなものなのよ。この子は書くことが好きでね、将来はチャールズ・ディケンズのような作家になりたいと思っているのよ。」ゾフィーはカップを置きながら言った。「まぁ、作家に? 早くエドガーさんの作品が本屋に並ぶのが見たいわ。」ステファニーは目を輝かせながら言った。「エドガー、わたくしこれからシュバルツさんのお茶会へ行って来るわ。」ゾフィーはそう言ってリビングを出ていった。「私の部屋に行きましょうか。」エドガーの部屋は、カーテンや壁紙、ベッドカバーに至るまで、ロイヤルブルーで統一されていた。本棚には隙間がないほど本がたくさん入っており、机の上にはノートやメモなどが散乱していた。「見てもよろしいかしら?」「ええ、いいですよ。」ステファニーは机に置いてあるノートを取り、開いてみた。そこには退屈な日常に飽きてきた少年が世界を冒険する話が書いており、鬱蒼と茂った熱帯雨林のイラストや、狩りをするライオンから逃げまどうサバンナが緻密に描かれていた。「このイラストも、エドガーさんが?」「ええ。私は小さい頃体が弱くて、外で遊べない代わりに自分が世界を旅していると想像しながらこの小説と挿し絵をかいたんです。」「素晴らしいわ。 エドガーさんなら、きっと素晴らしい作家になれるわ。」「ありがとう。」そう言ってエドガーは、ステファニーの頬にキスをした。「あなたは、私の夢の一番の理解者です。これからも、私の夢を応援してくれますね?」「ええ、もちろんですわ。」ステファニーはそう言ってエドガーに微笑んだ。 彼がいつか夢を実現させる時は、彼の傍にいてあげたい-そう思いながらステファニーは再び、エドガーが書いた冒険小説を読み始めた。にほんブログ村
2012年03月03日
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MARISSA様より素敵な挿絵を頂きました。真紅のドレスを纏い、颯爽と馬に乗る土方さん。横乗りでもかなりのスピードを土方さんは出せるでしょうね。MARISSA様、本当にありがとうございました!
2012年07月11日
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「あんた、あたしかられあを取り上げる気ね!?」「あなた方が彼女にしていることはネグレクト、立派な虐待です。彼女の健康を損ね、養育を放棄したことについてはもう児童相談所に連絡してあります。もし離婚となったら、親権は兄に渡ります。」 今にも自分をタクシーから引き摺り下ろし暴行を加えようとせんばかりの亮子を前に、千尋は毅然とした態度で彼女に事実を話した。「出して下さい。」「ちょっと、待ちなさいよ!」亮子は千尋が乗っているタクシーを追い掛けようとしたが、肥満体なので少し走っただけでも息切れがした。「亮子、どうしたとね?」「お母さん・・あいつが、うちかられあを奪おうとする~!」玄関先で騒ぎを聞きつけた美津子が家から飛び出すと、亮子が泣きながら自分に抱きついて来た。「聡史さんも千尋ちゃんも困ったもんやねぇ。家庭内の揉め事なのに大袈裟にして・・」「お母さんどうしよう~、れあが・・」「心配せんでよか。お父さんとお母さんが何とかしちゃるけんね。」娘の頭を撫でながら、美津子は彼女を安心させるように優しくそう言うと、そのまま彼女と共に家の中へと入っていった。 熊本駅でタクシーを降りた千尋は、そのまま東京行きの新幹線に乗った。「済まないな、千尋。こんなにおおごとになるとは思いもしなかったんだ。」「仕方がないよ。お義母さんとお義姉さんの意識が変わらない限り、麗空ちゃんは一生あのままになってたかもしれないよ。少し酷だけど、こうするしかないんだよ。」新大阪に着いた頃、千尋の隣に座っていた聡史は済まなそうに弟に向かって頭を下げた。「でもな千尋、もし亮子達が麗空を取り戻しにお前のマンションに乗り込んできたらどうする?」「その時はまた考えるよ。」千尋はそう言うと、背もたれに身体を預けた。「ご迷惑をお掛けしました。」「千尋ちゃん、大変だったね。」 一週間ぶりに千尋が出勤すると、総司が彼の方へと駆け寄ってきた。「お兄さん夫婦は、今どうなってるの?」「まだ進展がありませんが・・近い内に離婚するかもしれないと、電話がかかってきました。あの、麗空ちゃんの様子は?」「ああ、あの子なら・・」総司が麗空の様子を千尋に報告しようとした時、小児科の看護師が二人の元に駆け寄ってきた。「大変です、あの子また暴れて手がつけられません!」「え、またなの!?これで何回目?」総司は半ば呆れたような顔をしながら、小児科病棟へと向かった。「いや~、おうち帰る!」 麗空の病室に入った千尋は、そこで暴れて手当たり次第に物を掴んで看護師に投げつける姪の姿を見た。「麗空ちゃん、落ち着いて。」「いや~!」暴れる麗空を宥めようとした千尋だったが、彼女は憎々しげに千尋を睨み付けると、彼の腕を噛んだ。「おじちゃんきらい~、ママに会いたい!」「麗空ちゃん、悪い子にしてたらママに会えないよ!」「いやぁ~、ママに会いたい、ママ~!」何とか三人かがりで麗空をベッドに寝かせると、彼女は次第に落ち着きを取り戻し、寝息を立てて眠ってしまった。「大丈夫、千尋ちゃん?」「ええ。」 くっきりと腕に残る麗空の歯形を見て、彼女を傷つけたのは自分なのだと千尋は罪の意識を抱いた。にほんブログ村
2013年04月09日
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イラスト素材提供:十五夜様ライン素材提供:ひまわりの小部屋様 正道に突き飛ばされ、嘉那子は流産した。「土方先生、ご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ありませんでした・・」「嘉那子さん、今は無理をしないでゆっくり休んでください。」「はい・・」天草病院に入院した嘉那子を見舞った歳三は、彼女の顔に生気がないことに気づいた。「土方先生、お嬢様の容態はどうなのですか?」「今は安定しているが、精神状態が少し不安定のようだな。彼女がおかしな事をしないかどうか、暫く注意して様子を見てくれ。」「わかりました。」草田はそう言うと、歳三に頭を下げて看護婦の詰め所へと戻っていった。「ねぇ婦長、嘉那子お嬢様のお腹の子の父親って、東京で画学生をしている方だって聞きましたけど、それは本当ですか?」「そんな事、わたしが知る訳ないでしょう?あなた達、下らない噂話をしている暇があったら、仕事なさい!」「は~い。」草田は眉間に皺を寄せながら、仕事に取り掛かった。「土方先生!」 夕方、歳三が駐輪場に停めてある自転車に跨ろうとした時、彼に一人の看護婦が声を掛けて来た。「何ですか?」「あの・・歓迎会で、先生を泥酔させてしまって申し訳ありませんでした。」「歓迎会でのことは、気にしていません。」「そうですか・・」「あの、お話はそれだけですか?」「はい・・」何だかソワソワして何処か落ち着きがない様子の看護婦を見た歳三は、彼女が何かを隠していることに気づいた。「何処か、人の目がつかない所で話しましょうか?」「そうですね。」歳三が看護婦を連れて向かったのは、病院の近くに最近オープンした喫茶店だった。夕飯時ということもあってか、店内は家族連れの客で賑わっていた。「先生、この店はオムライスが美味しいんですよ。」「そうですか、ではわたしもそれをお願いします。」女給に料理の注文をすると、歳三は看護婦の方へと向き直った。「まだあなたのお名前を聞いていませんでしたね。」「わたしは熊谷悠子(くまがやゆうこ)と申します。わたしは榎木の嘉那子お嬢様とは、東京の女学校で一緒に学んだ仲です。」「そうですか・・」「かなちゃん・・嘉那子さんは、お父様に反対されるのを承知の上で、お腹の子を一人で産んで育てようと決心していました。それが、あんな事になってしまって・・」悠子はそう言うと、ハンカチで涙を拭った。「熊谷さん・・」「わたし、かなちゃんに絶対誰にも言わないでと約束したのですけれど、土方先生だけにはお話致します・・かなちゃんのお腹の子の父親は、東京の画学生ではありません。」「じゃぁ、一体何処の誰なんですか?」「その人は・・」 悠子から嘉那子のお腹の子の父親の名を聞き、歳三は驚きの余り絶句した。「それは、本当なのですか?」「はい・・土方先生、この事は誰にも言わないと、お約束していただけますか?」「約束します。」にほんブログ村
2014年04月08日
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海辺の町にやって来た少女・アンナは、そこで謎めいた少女・マーニーと仲良くなる。マーニーの正体と、アンナの出生の秘密が終盤近くで明らかになり、とても不思議で感動に満ちたラストに少し胸が熱くなりました。この本に書かれているような人たち、何処にでもいそうですね。自己愛と攻撃欲が強い人とは、余り関わらないほうがいいかもしれませんね。上司を殺した無実の罪で投獄され、家族や恋人を失った雅史の生涯は、虚しいですね。彼の母親が息子を犯罪者へと仕立て上げた刑事や弁護士、裁判官を殺したくなる気はわかりますが、復讐による殺人は何も生まない・・婚約者を殺された刑事が、目撃者の男に向かって怒鳴る言葉に思わず読みながら頷いてしまいました。警察がちゃんと捜査をしていたら、冤罪は防げたはずなのに・・昨日、「少年舞妓・千代菊がゆく!」シリーズの最新刊を近所の書店で購入しました。マルチエンディング形式になっていて、今回の巻では千代菊が楡崎に自分が男であるということを告白するというものでしたが・・まさか、あんな終わり方をするなんて・・バッドエンディングのなにものでもありませんね。あと二冊あるみたいですが、少し拍子抜けたとうか、納得がいかないラストでした。残り二冊のエンディングに少し期待します。ネット上で後味の悪い話として有名な小説ですが、確かに後味が悪かったです。あのセミナーハウスでのくだりは気持ち悪かったし、味方だと思っていた学者も最期は・・ヒロインが一体何をしたのか予想がつきましたが、彼女は自分が正しいことをしたのかどうか、死ぬまで自問自答することでしょうね。
2014年07月03日
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2分間という短いCMだけど、フランケンシュタインを怖がっている町の人々が彼と一緒に歌い出すシーンは何度観ても感動します。
2016年12月22日
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※BGMとともにお楽しみください。『お兄様、ヴァレリーです。入っても宜しいかしら?』『どうした、ヴァレリー?お前がここに来るなど珍しいな。』『お兄様とお義姉様が言い争っている声が廊下まで聞こえていましたわ。一体お義姉様は何を怒っていらっしゃるの?』『あいつは自分に手を上げたタマキに軽い処分を下された事が気に入らないらしい。尤も、あいつはタマキを敵視しているから、わざと自分を殴らせるように仕向けて王宮から追い出そうと企んだのだろう。』『お義姉様は、何故そこまでタマキを目の敵にされるのかしら?』『わたしが妻であるあいつに見向きもせず、タマキばかりを愛しているから気に入らないのだろう。それに、娘のエルジィがあいつにばかり懐いていて、自分には反抗ばかりするのも気に入らないんだ。』『お義姉様にも困ったものだわ。タマキはお義姉様の事は何も気にしていないというのに、お義姉様はタマキに変な言いがかりをつけては絡んでくるんですもの。』『まぁ、放っておいた方がいいだろう。タマキは最初から相手にしていないし、わたし達が横から口を挟むべきではない。』『そうね・・』自分の妻と恋人の問題に、ルドルフは暫く静観することに決めた。下手に口を挟めば、解決する筈の問題が大きく拗れてしまうことがある。それに、環はシュティファニーからどんなに言いかがりを付けられても、彼女から陰湿な嫌がらせを受けても、それを歯牙にもかけない。 時間が解決してくれることだろう―ルドルフはそう思いながら、溜まった書類の処理を始めた。「自宅謹慎処分だけで済んで良かったねぇ。本当なら王宮から追い出されるところだったのに、皇太子様があんたの肩を持ってくださったお蔭で追い出されずに済んだねぇ。」「ええ、ルドルフ様には感謝しております。」 自宅の居間で環は刺繍をしながら小春とそんな話をしていると、コーヒーが入ったカップを載せた盆を持った春が居間に入って来た。「環様、これからどうなさるのですか?」「暫く大人しくしています。それに、今まで忙しくてゆっくりと休む暇がなかったから、ゆっくりと読書や刺繍をします。」「そうですか。環様、皇太子妃様は何故環様を嫌うのでしょうね?」「あんた、それを直接本人に聞くのかい?」小春が呆れ顔を浮かべながら春にそう言うと、環はクスクス笑いながらコーヒーを一口飲んだ。「皇太子妃様は、ルドルフ様がご自分よりもわたしの方を愛していらっしゃるから、わたしの事が目障りなのでしょうね。まぁ、わたしは皇太子妃様のお相手をするほど暇ではありません。」「環様はお強いですね。わたしだったら、たとえ相手が悪くても、自分の非を認めてしまうかもしれません。」「そんな事をしては駄目よ、お春ちゃん。自分が何も悪さをしていないのに、それを認めてしまったら、後でその事を否定するのは難しいものなのよ。正しい事は正しい、悪い事は悪いと、はっきりと主張しなければ駄目よ。」「わかりました、肝に銘じます。」 春がそう言った時、外のドアが誰かにノックされた。『どちら様ですか?』『ウィーン日報のツェプスです。タマキさんは居られますか?』「環様、ウィーン日報のツェプス様と仰る方がお見えです。」「お通しして。」『タマキさん、お久しぶりです。聞きましたよ、貴方が皇太子妃様とタイマンを張られたようですね?』『まぁ、ツェプスさん、流石記者さんでいらっしゃいますこと。本日こちらにいらっしゃったのは、わたしにそのお話を伺う為ですか?』『ええ。できればその時の状況も詳しくお聞かせ願えますかな?』『喜んでお話し致しますわ。どうぞお掛けになって。』 ツェプスに微笑んだ環は、春にコーヒーを淹れるように言った。「何だか嬉しそうですね、環様。」「そうだね。あたし達は邪魔だから、暫くここで世間話でもするかね。」 小春は笑みを浮かべながらツェプスのインタビューを受ける環の様子を厨房のドア越しに見た後、ポットに入っている湯を沸かした。にほんブログ村
2015年12月21日
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1888年3月9日、長らく病床に臥せっていたドイツ皇帝・フリードリヒ1世が死去し、フリードリヒ3世が皇帝として即位していたが、不治の病に罹り在位99日後の6月15日に死去した。 相次いでドイツ皇帝が二人も逝去し、その座は若干29歳の皇太子であるヴィルヘルムが即位することになった。 皇帝の名代としてフリードリヒ3世の葬儀に出席していたルドルフは、そこで初めてヴィルヘルムと対面した。 黒髪で精悍な顔つきをしており、猛禽類のような鋭い目をしているヴィルヘルムは、自分と同世代であるルドルフを何かとライバル視していた。『おや、これはルドルフ皇太子ではありませんか。貴方とは一度、お話してみたいと思っておりました。どうです、これから一緒にお茶でも如何です?』『申し訳ありませんが、先約がありますので。』自分からの誘いをそう断ったルドルフに、ヴィルヘルムの顔が怒りで歪んだ。『ヴィルヘルム陛下、お気になさらず・・』『ハプスブルク家の皇太子だからって偉そうにしやがって・・絶対にあいつを潰してやる!』 ヴィルヘルムはそう叫ぶと、遠ざかるルドルフの背中を睨みつけた。『お帰りなさいませ、ルドルフ様。ドイツで何かありましたか?』『いや、何もなかった。ただ、ヴィルヘルムの機嫌を少し損ねてしまったようだ。』『ヴィルヘルムといいますと、新しく皇帝として即位された方ですか?』『流石宮廷勤めをしているだけあって情報が早いな。まぁ、向こうがわたしをどう思おうが、わたしには関係のない事だ。彼は好きにはなれないが。』ルドルフはそう言うと、ソファの上に腰を下ろした。『またここに泊まるおつもりですか?王宮に戻らないと、エルジィ様が寂しがりますよ?』『ああ、そうだな。お前の言うことを聞いて、今夜は王宮に戻るとしよう。』『玄関までお送り致します。』『いや、いい。表に馬車を待たせてあるから、人目につく。』ルドルフは自分を見送ろうとする環にそう断ると、そのまま彼の自宅から出た。 だが、外に出たルドルフは、表に待たせていた馬車がない事に気づいた。これはシュティファニーの差し金だとルドルフは思いながら、王宮まで歩いて帰った。『ねぇ、昨夜皇太子様が徒歩で王宮まで戻られたそうよ。』『何でも、皇太子様の馬車を皇太子妃様が勝手に帰されたそうで・・皇太子妃様も大人げない事を為さるのね?』『そういう事を為さるから、ますます皇太子様から嫌われるのだわ。』『そういえば、皇太子様は今どちらにいらっしゃるのかしら?』『さぁ・・フロイデナウ競馬場で女の方と密会されるのですって。』『皇太子様も懲りないお方ね。』 女官達が王宮内でそんな噂に興じている頃、ルドルフはフロイデナウ競馬場でレースを鑑賞しながら、環が来るのを待っていた。 だが、約束の時間から一時間を過ぎても、彼はなかなか現れなかった。(事故にでも遭ったのか?)ルドルフがフロイデナウ競馬場を後にしようとした時、一人の少女が彼の方へと近づいて来た。『あの・・失礼ですが、ルドルフ皇太子様でいらっしゃいますか?』『娘、何者だ?』『わたくし、マリー=ヴェッツェラと申します。今後ともお見知りおきを。』『そこを退け、お前には用はない。』 自分に纏わりつく少女をそう一蹴したルドルフは、慌てた様子で自分の方へと駆け寄って来る環の姿に気づいた。『申し訳ありません、支度に時間がかかってしまって・・』『いや、今から帰るところだ。』 ルドルフは背後から絡みつくような視線を感じて振り向くと、そこには先ほど自分に纏わりついてきた少女が柱の陰からこちらの様子を窺っていた。『ルドルフ様、どうかなさいましたか?』『いや、何でもない。』にほんブログ村
2015年12月22日
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※BGMと共にお楽しみください。『一体何があったんだ?』『ルドルフ様を殺そうと信孝さんが家に来て・・そこへたまたま、幸さんがやって来てしまって彼と鉢合わせてしまったのです。』 環の話によると、幸と鉢合わせした信孝は彼女の腹部目がけて発砲した後、自殺したという。ルドルフが幸の方を見ると、彼女は苦しそうに喘ぎながらルドルフの方へと手を伸ばした。「ルドルフ様・・」「サチさん、しっかりしてください!」「赤ちゃん・・わたしの赤ちゃんを、お助け下さい・・」幸はそう言うと、静かに息を引き取った。ルドルフが彼女の腹に手を当てると、微かに胎動を感じた。「社長、お医者様を呼んでください!」「わかった!」直樹が大宮医師を呼びに彼の自宅へと向かうと、大宮医師は不安そうな顔を直樹に向けた。「幸ちゃんの身に、何かあったんだね?」「はい。彼女は拳銃で腹を撃たれ、先程息を引き取りました。ですが、お腹の子供は無事です。」「彼女の元へ案内してください。」 同じ頃、環は亡くなった親友に向かって手を合わせると、彼女の見開いた目をそっと両手で閉じた。「幸さん、数時間前は嬉しそうに笑っていらしたのに・・どうして、こんなことに・・」「わたしの所為だ、わたしが彼女を抱いたりしたから・・」「いいえ、貴方は何も悪くはありません。悪いのは、幸さんを撃った信孝さんです。」環はそう言うと、震えているルドルフの手を握った。「こちらです、大宮先生。」「幸ちゃん、何て事だ!」 白衣の裾を翻した大宮医師は、息絶えた幸の手を握って嗚咽した。「先生、幸さんのお腹の子供はまだ生きています。」「幸ちゃんを、ベッドに寝かせてください。これから帝王切開手術をします。環さん、清潔な布と、熱湯を持ってきてください。」「はい、解りました!」 環が清潔なシーツを一階から持って行き二階の部屋に入ると、ベッドの上では大宮医師が幸の子宮から臍の緒がついた女の赤ん坊を取り出したところだった。 赤ん坊は羊水を飲んでしまっているせいなのか、なかなか産声を上げなかった。だが、大宮医師が赤ん坊を逆さにしてその尻を叩くと、赤ん坊は元気な産声を上げた。「元気な女の子だ。流石幸ちゃんが命懸けで守ろうとしただけある。」 そう言った大宮医師は、白衣の袖口で乱暴に涙を拭った。「先生、この子はこれからどうなるのですか?」「幸ちゃんのご両親が、この子を引き取ってくださると思います。」 しかし初孫の誕生とともに娘の死を知らされた藤宮夫妻は、初孫の養育を放棄した。「申し訳ありませんが先生、この子は乳児院へやってくださいな。この子に罪はありませんが、娘が死んだ原因はこの子の所為だとわたし達は思ってしまうのです。」 藤宮夫妻の決断を、大宮医師は受け入れた。「そうですか・・この子は乳児院へ・・大宮先生、差し出がましいお願いなのですが、この子をわたし達夫婦が引き取っても宜しいでしょうか?」「その方がいいでしょう。幸ちゃんは、貴方の親友でしたから、貴方が彼女の子を育てた方が、乳児院にやるよりもいいです。」 こうして、ルドルフと環は、幸が自らの命と引き換えに産んだ娘を引き取ることとなった。『ルドルフ様、この子の名前はどういたしましょうか?』『そうだな・・菊というのはどうだ?菊の花のように、高潔な女性に育つようにとの願いを込めて。』『そうですね、菊に致しましょう。』 ルドルフと環は、幸の娘を正式に養女に迎え、彼女を菊と名付けた。『また泣いたな。』『ええ・・わたしがあやして来ます。』 環は夫婦の寝室から出て、隣接した子供部屋に入ると、ベビーベッドの中で泣き喚く菊の小さな身体を抱き上げ、静かに彼女をあやし始めた。にほんブログ村
2016年01月05日
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「この生地がいい!」「あら、菊に似合いそうね。」環は蒼い花柄の生地を自分に見せた菊にそう言うと、彼女に微笑んだ。「お母様、さっきお客様が来たの?」「ええ。でもすぐに帰ったわ。」「ねぇお母様、どんなドレスを作ってくれるの?」「それは、採寸してからね。」菊の身体を採寸してから、環はドレスのデザイン画を描き始めた。「それは?」「菊のドレスです。あの子も大きくなってきたから、そろそろ新しいドレスを仕立ててあげようと思って。」「そうか。タマキ、余り無理をするなよ?」「解っています。それよりもルドルフ様、洋装店に大杉弁護士がいらっしゃいました。」「あいつがお前の店に?」「ええ。一体何をしに来たのか解りませんが・・気味が悪いです。」「タマキ、暫く一人で外出は控えるんだ、解ったな?」「はい。」 店に大杉弁護士が現れてから、環は必ず外出する時は静をお供につけ、彼が店に行く時の送り迎えは必ずルドルフがした。 そんな日々が続いたある日の事、環の店に一人の華族のご婦人が来店した。「貴方ね、横浜で評判の洋装店を開いていらっしゃるという方は?」「はい、そうですが・・」「急なお願いで申し訳ないのですけれど、今度わたくしの家でガーデンパーティーをするので、いらしてくださらないこと?」「お茶会、でございますか?」「ええ、そうよ。貴方のお話は主人から色々と聞いているわ。」ご婦人はそう言うと、環に向かって微笑んだ。「あの、貴方のお名前は?」「ああ、自己紹介が遅れてしまったわね。わたしは神谷凛子と申します。」「神谷様・・もしや、幸さんの従兄の・・」「まぁ、貴方主人の事をご存知なの?」「はい。女学校時代に一度お会いしたことがありました。」「そう。貴方、お嬢さんがいらっしゃるのでしょう?その子を是非、お茶会に連れていらしてね。」お待ちしているわ、と神谷夫人はそう言って環の肩を叩くと、店から出て行った。 数日後、環は菊と共に神谷邸のガーデンパーティーに出席した。「ようこそ、環さん!お待ちしていたわ。」「本日はガーデンパーティーにお招き頂き、有難うございます。菊、凛子様にご挨拶なさい。」環がそう言って自分の背後に隠れている菊の方を見ると、彼女は環から教えられた通りに、凛子に向かって挨拶した。「お初にお目にかかります、奥様。菊と申します。」「まぁ、可愛らしいお嬢さんだこと。」凛子がそう言って菊を見つめていると、奥の方から凛子の夫である眞一郎が出て来た。「貴方、こちらは長谷川環さんと、娘の菊ちゃんよ。」「環さん、お久しぶりだね。」「眞一郎様、お久しぶりでございます。まさか、横浜で貴方に再びお会いするとは思ってもいませんでした。」眞一郎はそう言って環と握手を交わすと、環と菊を中庭へと連れて行った。 そこには色とりどりの薔薇が咲き誇っており、白い天幕が張られた所では美しい料理が並べられていた。「お母様、薔薇を見に行っていい?」「いいわよ。ドレスを汚しては駄目よ。」「解ったわ!」菊はドレスの裾を摘まんで薔薇園の方へと向かった。「元気なお嬢さんですね。環さん、もしかしてあの子は・・」「ええ、菊は幸さんが7年前、命と引き換えに産んだ子です。縁あって、わたし達が育てております。」「そうか・・それは良かった。」眞一郎はそう言うと、ハンカチで目元を拭った。にほんブログ村
2016年01月09日
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金曜日、環はルドルフと共に彼の仕事関係の集まりに出席した。「この方が、貴方の麗しい奥様ですか?」「初めまして、環と申します。いつも夫がお世話になっております。」この日、環はいつもの洋装姿ではなく、藤色の訪問着に淡い金色の帯を締めていた。「お召しになられているお着物、素敵ですね。」「有難うございます。」「洋装姿の奥様もお美しいですが、着物をお召しになられている奥様の方が格段とお美しいですなぁ。」 フロックコート姿の太った男がそう言うと、馴れ馴れしく環の手を握ってきた。「あら藤田様、貴方の美しい奥様はどちらにいらっしゃるの?」「わたしのワイフは、今頃若い男と洒落込んでいるよ。両方とも惚れこんで結婚したというのに、愛が冷めるのは早いものだよ!」「あらまぁ、そうでございましたか。それはお辛いですわね。」当たり障りのない言葉で藤田の手をさり気なく環が払い除けると、彼は少しムッとした顔をした後、屋敷の中へと入って行ってしまった。『さっきは災難でしたわね?』 環が溜息を吐きながら庭の薔薇を眺めていると、背後から澄んだ声が聞こえて来た。振り向くと、そこにはウィーンに居た頃親しくしていたブリジット=フォースリーの姿があった。『まぁブリジット様、お久しぶりですわね。妹さんはお元気かしら?』『ええ。ああそうだ、エリザベスからこれを預かったわ。』 ブリジットがそう言って環に手渡したのは、包装紙に包まれた長方形の箱だった。 環が箱の中身を見ると、そこにはダイヤモンドが鏤(ちりば)められたブローチネックレスが入っていた。 そのブローチネックレスは、ウィーンに居た頃環が友情の証としてエリザベスに贈った物だった。『妹が、わたしが日本に行くことを知って、貴方にこれを渡して欲しいと頼まれたのよ。』『どうして、このブローチネックレスをエリザベスさんがわたしに渡して欲しいとおっしゃったの?』『それは、話せば長くなるわ。それよりもタマキさん、貴方の着物姿、初めて見たわ。』『ウィーンに居た頃は、いつもドレスを着ていたから。ブリジット様はどうして日本にいらっしゃったの?』『東京でわたしのドレスの発表会を開くことになったから、来日したの。貴方とこうして会えるなんて思いもしなかったわ。』『わたしもよ。ドレスの発表会を開くなんて凄いわね。わたしも洋装店を営んでいるけれど、ブリジット様の足元にも及ばないわ。』『あら、そんな事ないわよ。貴方がデザインしたドレス、何度か雑誌で拝見したけれど、どれも素敵なものじゃないの。』『有難う、ブリジット様からそんな言葉を頂けて嬉しいわ。』環とブリジットが、互いがデザインしたドレスの話をして盛り上がっていると、そこへルドルフがやって来た。『ブリジットさん、久しいね。元気そうで何よりだ。』『まぁルドルフ様、こちらこそお久しぶりでございます。』『暫く会わない内に、貴方は益々美しくなられたようだ。』『まぁ、ルドルフ様は相変わらずお世辞がお上手ですのね。』ブリジットがそう言って笑った時、屋敷の中からけたたましい笑い声が聞こえた。『あら、何かしら?』環達が笑い声の聞こえた方を向くと、そこには先ほど環に絡んできた藤田が、黒紋付の正装姿の芸妓数人を引き連れて庭へと戻って来た。『下品な方ね。』『ああいう輩は無視して、再会を祝して乾杯致しましょう。』『ええ。』 環とルドルフがブリジットとの再会を祝して彼女と乾杯しようとした時、何処からかグラスが割れる音がした。にほんブログ村
2016年01月13日
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近所のイオンに最近オープンしたドーナツを、母が買ってきてくれました。 どれもこれも美味しそうです。 さっき食べて見ましたが、フルーツが入ったドーナツが一番美味しかったです。
2018年07月10日
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調律の世界を描いた作品で、全体的に雰囲気が優しくて、本を閉じた後心がホッとするような気持ちになりました。
2020年05月10日
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福岡へ、祖母の四十九日法要のために帰省しました。9年ぶりに帰省したので、色々と街の風景が変わって戸惑いました。写真は、カフェでお茶したときのものと、夕飯の定食屋さんのご飯です。
2022年11月20日
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雪見だいふくの白い恋人味。ホワイトチョコレートソースの濃厚な味わいが美味しかったです。
2023年11月13日
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まろやかで、しつこくない味で、尚且つチーズの風味がしっかりしていて美味しかったです。
2024年03月11日
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名探偵レイチェル・サヴァナクには黒い噂と死の影がつきまとう。その真相はいかにーいやあ、序盤からラストシーンまで一気読みするほど、面白い!ネタバレしたら面白さが半減するので、とにかく購入して読んでみてくださいとしか言えないです。
2024年03月26日
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また気になる展開で終わりましたね。最終巻はどんな結末を迎えるのか、気になります。
2024年06月01日
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爽やかで、夏らしい味がしました。
2024年06月07日
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素材は、このはな様からお借りしました。「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「おはようございます。」「まぁ火月さん、美しいお着物ね。旦那様からの贈り物かしら?」「はい。先生から、“結婚祝い”だと・・」「羨ましいわ、旦那様から愛されておいでなのね。」「そんな事・・」「あなた、どうしてここにいるの!?」 背後から鋭い声がして火月と百合乃が振り向くと、そこには鬼のような形相をした紫子が立っていた。「あら紫子、火月さんを知っているの?」「知っているも何も、この方はわたくしの恋敵なのよ、お姉様!」 紫子はそう叫ぶと、火月を睨んで校舎の中へと入っていった。「姉が失礼な事をして申し訳ないわね、火月さん。姉のわたしがあの子に代わって謝ります。」「大丈夫です、僕は気にしていませんから。」「妹は昔から思い込みが激しいところがあるから、わたしは昔からあの子に手を焼いているのよ。」 百合乃はそう言った後、どこか寂しそうに笑った。「百合乃様?」「さぁ、教室に行きましょう。」「え、えぇ・・」(今のは、何だったの?) 火月がそんな事を思いながら図書室で勉強をしていると、誰かが言い争うような声が外から聞こえて来た。「・・駄目だと言っているでしょう!」「どうして、わたしの邪魔ばかりするの!?」 甲高く、何処か癇に障るような声は、紫子のものだ。 だとしたら、彼女が話している相手は― 火月が暫く誰かと言い争っている紫子の声を聞いていると、やがて紫子は何処かへ行ってしまったらしく、彼女の声が聞こえなくなった。「火月さん、火月さん?」「あ、ごめんなさい、ボーッとしていて・・」「そう。」 裁縫の授業で、火月達はワイシャツを縫っていた。「火月さんは、手先が器用なのね。」「いえ・・実家に居た頃、よく義理の母や妹に針仕事を押し付けられていたので、裁縫は、最初は苦手だったのですが、慣れました。」「まぁ・・ごめんなさいね、辛い事を聞いてしまって・・」「もう、昔の事なので、大丈夫ですよ。」火月はそう言いながら、ワイシャツを縫い上げた。 昼休み、火月が百合乃達と昼食を食堂で囲んでいると、そこへ菊野女学校の数学教師・吉田が入って来た。「土御門さん、あなた宛にお手紙が届いていますよ。」「ありがとうございます、先生。」 吉田から自分宛の手紙を受け取った火月は、それを大切そうに、懐にしまった。 その日の夜、火月は寮の部屋でその手紙に目を通すと、それは有匡からのもので、火月の健康を気遣うような内容と、来月所用で東京に行くという旨が書かれていた。「おはようございます、殿。」「おはようございます。」 有匡が身支度を終えて朝食を食べていると、玄関の方から誰かが扉を叩く音が聞こえた。「あら、こんな時間に誰かしら?」「わたしが出る。」 有匡がそう言って玄関先へと向かうと、そこには自分と瓜二つの顔をした青年―“息子”であった仁が立っていた。「仁、久しいな。」「父上、ご無沙汰しております。」仁はそう言うと、被っていた帽子を脱ぎ、有匡に一礼した。「立ち話も何だから、家でゆっくり話をしよう。」「はい。」 仁が家の中に入ると、種香と小里が笑顔で彼を迎えた。「まぁ仁様、お久し振りでございます。」「お元気そうで何よりですわ。」「すいません、突然お邪魔してしまって。」「いや、今日は仕事が休みだったからいい。お前と最後に会ったのは、お前が京に発った日だったな。」「はい。あれから父上と会わずじまいで・・お元気そうで何よりです。」「今は、何をしている?」「警官をしております。警察庁神秘部陰陽課です。」「そうか。」「父上、母上とは会えましたか?」「あぁ。火月は今、東京の女学校に通っている。」「母上と離れ離れになるのはお辛いでしょう。父上は母上に昔から・・」「仁、世間話をしにわざわざここへ来た訳ではないだろう?」 有匡はそう言って咳払いすると、珈琲を一口飲んだ。「実は、ここ最近、東京近辺で人攫いが増えています。狙われているのは、いつも金髪の娘。」「金髪‥という事は、被害者は外国人か?」「はい。横浜の外国人居留地に住む娘達ばかりだったのですが、最近はある女学校の生徒達ばかりが狙われています。」「ある女学校?」「はい。白百合と、菊野女学校です。」「その二つの女学校に、何がある?」「さぁ・・」(火月が、無事であればいいが・・) 火月は、女学校で楽しい学校生活を送っていた。「ねぇ、最近ここの近くで人攫いが出ているのですって。」「恐ろしいわね。」「ええ。」 火月達がそんな事を言いながら行きつけのフルーツパーラーでお茶をしていると、店に一人の男がやって来た。 その男は、まっすぐに火月達の元へとやって来た。「お久し振りです、火月様・・いや、義姉上とお呼びした方がよろしいか?」 そう言いながら微笑んだ男は、前世でかつて有匡と敵対していた殊音文観だった。「どうして、あんたが・・」「いえ、あなたに会いたくてね。」「え?」 火月は文観にいきなり腕を掴まれ、動揺した。「少し、付き合って頂けませんか?」「いや、離してっ!」 火月と文観が揉み合っていると、そこへ有匡と仁がやって来た。「文観、その手を妻から離せ!」「わかりました。有匡殿、また会いましょう。」 文観はそう言うと、あっさりと引き下がった。「先生・・」「母上、お久し振りです。」 突然現れた美男子達に、火月の友人達は一斉に色めき立った。「火月さん、こちらの方は、もしかして・・」「僕の旦那様です。」「まぁ!」「何処で知り合いになられたの!?」「そちらの方は?」 火月達は、小一時間友人達から質問責めに遭った。「お前の友人達は、いつもあんなにやかましいのか?」「えぇ、まぁ・・それよりも仁、元気にしていて良かった。」「母上も。」 仁はそう言って火月に微笑んだ。「では、わたし達はこれで。」「先生、仁、気を付けて帰って下さいね。」「あぁ。火月、これを。」 有匡はそう言うと、懐剣を火月に手渡した。「これは?」「正妻の証だ。」「え・・」「東京へ来る前、わたしの元にこんな物が届いた。」 有匡が火月に見せたものは、舞踏会の招待状だった。「舞踏会?」「有沢さんが・・わたしの直属の上司が、是非ともわたし達に出席して欲しいと言われてな。あと、これはわたしが滞在しているホテルの住所だ。」「はい・・」「そんな顔をするな。また会える。」 有匡はそう言うと、火月の唇を塞いだ。(うわ、顔が近い!)「せ、先生・・」「寮の前まで送る。最近物騒だからな。」「あ、ありがとうございます。」(どうしよう、嬉しくて死にそう!) 寮の前で有匡と別れた後、火月は自室に戻るなり枕に顔を埋め、叫んだ。(あ~、どうしよう、先生と舞踏会に行けるなんて嬉しくて死にそう!あ、でも着て行くドレスがないな・・) 少し冷静になった火月は、ある問題に気づいた。 それは、舞踏会に着ていくドレスを一着も持っていない事だった。 実家に居た頃、母の形見の着物やドレスは、義母達によって一着残らず焼き捨てられてしまった。(どうしよう、先生に何て言ったら・・) 翌日の放課後、火月は有匡とあのフルーツパーラーで待ち合わせていた。(先生、遅いな・・) そんな事を思いながら、火月が本を読みながら待っていると、店に有匡が入って来た。「先生・・」「すまん、遅くなった。」 有匡が火月を連れて来たのは、婦人服専門の仕立屋だった。「先生、ここは?」「お前のドレスを何着か仕立てて貰おうと思ってな。」「え、どうして・・」「あんな家で暮らしていたから、お前がどんな扱いを受けていたのかは、すぐにわかる。」 火月は有匡に何着かドレスを仕立てて貰った後、彼と共に彼の滞在先であるホテルへと向かった。「うわ~、高級な所ですね。」「まぁな。火月、女学校の方には今夜ここに泊まると連絡しておいた。」「え・・」「何をそんなに驚いている?今更二人きりになる事なんて、珍しくないだろう。それに・・」 火月は有匡に背後から抱き締められ、顔を赤くした。「ずっと、お前と二人きりの時間を過ごしたかった。」「先生・・」「先生?」「あ、有匡様・・」 おねーさん、どうしよう。 僕、“また”先生からのお情けを頂いてしまった。「ねぇ、先生はいつまで東京に居るのかしら?」「さぁね。でも、事件の調査にかこつけて、火月ちゃんの傍に居たいだけなんじゃない?」「そうかもね~」「ま、二人が一緒に居られればいいんじゃない?」「そうね~」 種香と小里がそんな事を話していると、玄関先から少女の声がした。「すいません、誰かいらっしゃいませんか~!」「はい、どちら様ですか?」 種香が玄関先へと向かうと、そこには火月と瓜二つの顔をした少女が立っていた。「あの、こちらは土御門有匡様のお屋敷でしょうか?」「ええ。あの、あなたは・・」「わたしは、雛と申します。ここへは、父と母に会いに来ました。」「まぁ、雛様、お久し振りですわね!」「雛様、どうぞ中へ!」 二人は、有匡と火月の娘・雛を屋敷の中に招き入れた。「六百年振りですわね、こうして会えたのは。」「ええ。父様と母様は?」「二人は、東京にいらっしゃいますわ。仁様も一緒ですわ。」「まぁ、仁も一緒に?」「ええ。殿がこちらに戻られるまで、ゆっくりして下さいね。」「わかったわ。」 雛が鎌倉の土御門邸に滞在している頃、東京の歓楽街の外れに、その店はあった。「あら、いらっしゃい・・何だ、あんたか。」 カウンターに居た、“カフェー・暁”のマダム・艶夜は、店に入って来た客の顔を見た途端、眉間に皺を寄せた。「おやおや、随分と嫌われているようですね。前世ででは夫婦であったというのに。」文観はそう言うと、カウンター席のスツールに腰を下ろした。「注文は?」「ワインを。」「そう。」 文観のグラスにワインを注ぎながら、艶夜は大きな溜息を吐いた。「で?ここには何の用?」「貴方の兄上を見つけましてね。そのご報告に来たのですよ。」「アリマサ、何処に居るの?」「鎌倉で、陸軍の陰陽師として働いていますよ。あと、甥の仁君も、似たような仕事をしています。」「へぇ、そう。」「余り関心がないようですね?」「だって、アリマサは神官の物じゃないもん。それに、妖狐界が最近うるく言って来るんだよね。早く孫の顔を見せろって。」「妖の世界も、色々と大変なのですね。」「まぁね。昨夜管狐からこんな文を貰ってね。」 艶夜はそう言うと、文観に妖狐界から届いた文を見せた。 そこには、近々集まりがあるので、“夫同伴”で出席するように、という旨が書かれていた。「面倒臭いけれど、必ず出席しろってさ。」「へぇ、そうなのですか。では、わたしと共にその集まりに行きませんか?」「考えておく。」 週末、火月は有匡と共に有沢家の舞踏会に出席した。「なんだか、緊張してしまいますね・・」「大丈夫だ、わたしがついている。」 有沢邸へと向かう車の中で、有匡はそう言うと火月の手を優しく握った。「お父様、舞踏会には有匡様がいらっしゃるのでしょう!?ああ、早く有匡様にお会いしたいわ!」 そう言った紫子は、興奮した様子で有匡の到着を今か今かと待っていた。「落ち着きなさい、紫子。」「姉様、あの方と―あの女と親しいの?」「火月さんをそんな風に呼ぶのは止めなさい。」「だって・・」 百合乃が紫子を窘めていると、大広間が急に騒がしくなった。―有匡様よ!―社交嫌いの有匡様が、このような集まりにいらっしゃるなんて珍しいわね。―あちらの方が、奥様? 燕尾服姿の有匡がエスコートしているのは、美しい真紅のドレスを着た火月だった。 彼女の髪には、紅玉とダイヤモンドのティアラが輝いていた。「やぁ、来たね。そちらが、君の奥さんかい?」「初めまして、火月と申します。」「いやぁ、美しい方だね。有匡君、わたしの娘達を紹介するよ。こちらが長女の百合乃と、次女の紫子だ。」「百合乃と申します。火月さんとは女学校で仲良くしておりますの。」「火月から君の話は聞いているよ。女学校ではよくして貰っていると。」「まぁ、そうですの。」百合乃は、紫子が拗ねて自室へと戻ってゆく姿を見送った。「紫子はどうした?」「さぁ、知りませんわ。わたくし、様子を見て来ますわ。」 百合乃がそう言って紫子の部屋へと向かうと、中から妹の泣き声が聞こえた。「紫子、入るわよ。」「お姉様・・」そう言って枕から顔を上げた紫子の目は、赤くなっていた。「何をそんなに拗ねているの?有匡様には火月さんがいらっしゃるのだから、諦めなさい。」「嫌よ、わたしは有匡様の妻になるの。あの女なんかには渡さな・・」 何かが百合乃の前を横切り、紫子の首が自分の足元に転がっている事に気づいた時、百合乃は悲鳴を上げた。「百合乃、一体何が・・」「紫子、紫子が・・」 悲鳴を聞きつけた有匡達が紫子の部屋へと向かうと、そこには首が無い妹の遺体を抱き締めて泣いている百合乃の姿があった。「これは、一体・・」「先生・・」 火月は、その場で気絶してしまった。「いやぁ、大変な事になった。」「有沢さん、百合乃殿は?」「部屋で休ませているよ。それにしても、一体誰の仕業なんだろうか・・」 そう言った有沢の顔は、蒼褪めていた。「先生・・」「少しは落ち着いたか?」「はい・・」「今夜はここで泊まる事になった。何かあったらわたしを呼べ。」「わかりました・・」 火月が眠っているのを確認した有匡は、そっと客用寝室から廊下へと出た。 二階へと上がり、有匡が紫子の部屋へと向かうと、その途中で“何か”が横切ったような気配を感じた。(何だ、今のは?) 有匡がそんな事を思いながら紫子の部屋の中に入った瞬間、黒い影が彼の前を横切った。「何者だ!?」「クソ、あんたも殺してやろうと思ったのによぉ!」 天井からそう叫んで降りて来たのは、一人の少年だった。 漆黒の髪をなびかせた彼は、鋭い爪で有匡に襲い掛かろうとしたが、彼が放った筮竹が胸に刺さり、絶命した。「これは、一体・・」「これが、お嬢さんを殺した下手人です。」 有匡はそう言った後、火月が寝ている部屋へと向かったが、そこに彼女の姿はなかった。 有匡が客用寝室から出て数分後、火月は風が唸る音で目覚めた。「大きな声を出すな。」 口元を何者かに塞がれ、後頭部に銃口を押し付けられた火月は、侵入者の言う通りにするしかなかった。「裏口から外へ出ろ。」「あなたは誰?僕をどうするつもりなの?」「無駄口を叩くな、早くしろ。」(先生、助けて・・) 火月は侵入者と共に、有沢邸から出て行った。「早く乗れ。」 火月は侵入者と共に有沢邸の裏口に停められている車へと乗り込んだ時、目隠して両目を覆われ、何も見えなくなった。「有沢殿、妻が何者かに攫われました。恐らく犯人は、お嬢さんを殺した輩の共犯者かと。」「これは、我々の手には負えん、ただちに応援を呼ぶ!」「助かります。」 有匡はそう言うと、火月を捜しに有沢邸から出て行った。 祭文を唱え、有匡は彼女の居場所を探ろうとしたが、失敗に終わった。「クソッ」 火月が左耳に紅玉の耳飾りをつけていれば、すぐに彼女は見つかるだろう。 彼女を攫った相手が、自分の結界内に彼女を隠さない限り。「う・・」「目が覚めたか?」 火月が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋の中だった。 御簾越しに自分に向かって語りかけて来る人物は、若い男の声をしていた。「あなたは・・」「初めまして、わたしは安倍光春、あなたのご主人とは因縁で結ばれているのさ。」「因縁?それってどういう意味・・」 火月がそう言って部屋の中から出ようとした時、彼女は激痛に襲われ、その場に蹲った。「何を・・」「ちょっとした魔除けの結界を張ったのさ。やっぱり、君には効いているようだね・・人間として転生しても、君は元々妖だからね。」 御簾が勢いよく開けられ、その中に居た男―安倍光春は、悲鳴を上げてのたうちまわる火月を冷たく見下ろした。「これから、楽しくなるね。」火月は、涙を流しながら有匡の事を想った。(先生・・)「まだ火月は見つからぬのか?」「はい・・女学校の周辺を捜したのですが、見つかりませんでした。」「そうか、報告ご苦労。」部下から執務室で報告を受けた有匡は、溜息を吐いた。(火月、一体何処に居るんだ・・) 火月が姿を消してから、七日が経った。 式神に彼女の捜索を命じながら、有匡も彼女を捜していたが、中々見つからなかった。(ここまで捜しても見つからないという事は、他人の・・火月を攫った犯人の結界内に居るという事か。長期戦になりそうだな。) 有匡は、執務机の上に置かれた一通の手紙に目を通した。 そこには、“子の刻にて、ニコライ堂にて待つ”とだけ書かれていた。「ただいま。」「お帰りなさい、父様。今日もお仕事、お疲れ様です。」「雛、今夜は少し出掛けて来るから、先に寝ててくれ。」「はい・・」 その日、有匡は夕食を雛と囲んだ。「仁は、また残業ですか?」「あぁ。最近、忙しそうでな、寝る時間も惜しいとこの前言っていた。わたしのような妖狐なら少しは無理をしても平気だが、あいつは人間だ。心配だから、あいつの顔を見に行ってやるか。」「そうして下さい、仁もきっと喜びます。」 夕食を食べ終えた後、有匡はニコライ堂へ向かう前に仁の職場へと寄る事にした。「仁。」「父上、何故ここへ?」「弁当を届けに来た。」「ありがとうございます。丁度お腹が空いていた所なんです。」 仁は有匡に礼を言いながら、有匡から弁当が入った重箱を受け取った。「余り無理するなよ。」「はい。」 仁の職場を後にした有匡は、その足でニコライ堂へと向かった。「おい、誰か居ないのか!?」「そんなに怒鳴らなくても聞こえているよ。」 そう言いながら、闇の中から現れたのは、一人の青年だった。「初めまして・・いや、“お久し振り”かな、土御門有匡殿?」「お前は・・」 有匡の脳裏に、宮中で一度会った青年の顔が浮かんだ。「その様子だと、思い出してくれたようですね。」青年―安倍光春は、そう言って有匡に向かって薄笑いを浮かべた。「火月は何処に居る?」「安心して下さい、あなたの細君は今の所無事ですよ。まぁそれも、あなた次第ですが。」「何が望みだ!」「それはこれからお伝えしますよ、わたしについて来てください。」 光春に有匡が連れて行かれたのは、皇居の近くにある、ある人物を祀った場所だった。「あなたの力で、“彼”を目覚めさせて欲しいのです。」「何の為に?」「この国の為に。」「それで?この方を目覚めさせて、わたしにどんなメリットがあるのだ?」 有匡がそう言って光春を睨むと、彼は少し苛々した様子で貧乏ゆすりを始めた。「だぁ~か~らぁ~、あなたの細君を解放する代わりに、こちらの方を目覚めさせろって言っているんですよ、わからない人だなぁ!」「そんな話を信用できるか。」 光春との話し合いは決裂し、有匡はその場から去った。「クソ!」「どうされましたか、光春様?」「どうしたもこうしたもない!あの男に馬鹿にされた!」 光春はそう言った後、女中に暫く自室には誰も通すなと命じた後、火月が軟禁されている部屋へと向かった。「ご気分はいかがですか、火月様?」「答えたくない。」「相変わらず、強情ですね。少しこちらに甘えてくれたら、こちらもすぐにあなたを解放するのに・・」 光春は、そう言って火月の頬を撫でようとしたが、彼女は身を捩って彼から逃れた。「いつまで僕をここに軟禁するつもり?先生の所へ帰して!」「うるさい!」 光春はそう叫ぶと、火月の頬を平手で打った。 だがその直後、彼は火月に猫撫で声でこう言った。「殴ってごめんなさい。あなたは大切な人質なのだから、乱暴な扱いをしてはいけないのに。あぁ、わたしは何て事を・・」(この人、おかしい・・)光春に軟禁されてから、一月が過ぎた。 その日、光春はいつになく不機嫌だった。 些細な事で彼は女中達に暴力を振るい、彼女達の悲鳴が火月の居る部屋まで聞こえて来た。「あいつさえ・・あいつさえ居なければ!」 光春はそう言いながら、火月の部屋へとやって来た。「やめて、離して!」「うるさい、僕に指図するな!」 光春はそう言いながら、火月の首を絞めた。(助けて、先生!)火月の耳飾りが光り、その瞬間青龍が鋭い牙と爪で光春に襲い掛かった。(火月・・?)「殿、どうされたのです?」「火月が・・いや、正確に言えば、火月の耳飾りに仕込んだ式神が動いた。」「じゃぁ、火月ちゃんは・・」「あいつは無事だ。」(火月、無事にここへ帰って来い。) 激しい土砂降りの雨の中、火月は只管鎌倉へと走っていた。 全身ずぶ濡れになり、泥だらけになっても、火月は走るのを止めなかった。(先生、待っていて・・) 火月は疲れ果て、いつしか歓楽街の路地裏で眠ってしまった。―火月、起きろ。(先・・生?)「火月、起きろ、火月!」有匡に頬を叩かれ、火月がゆっくりと目を開けると、そこには安堵の表情を浮かべた有匡の姿があった。「先生、僕、どうして・・ここは・・」「式神の気配を辿って、ここまで来た。まぁ、あいつが連絡をこちらに寄越してくれたお陰でお前をこうして迎えに来られたがな。」「あいつって・・」「ちょっと、実の妹相手にその言い方は酷いな~」 火月が寝かされていたソファー席から身体を起こすと、そこは何処か異国情緒を漂わせるかのような雰囲気があるカフェーの店内だった。「元気そうだね、カゲツ。神官の事、憶えている?」 艶夜こと神官は、そう言うと笑った。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年06月08日
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