今日の気持ちを短歌におよび短歌鑑賞

今日の気持ちを短歌におよび短歌鑑賞

2014.10.02
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類

満百三歳渡辺つぎさんの歌の鑑賞(NO.1)     後藤瑞義

同人誌「賀茂短歌」(平成25年10月号から26年3月号)の作品より



逃げ足が次第ににぶり百三歳につかまりそうでうろたえている    (10月号より)



 年とともに、時間の経過が早く感じるというのは良く聞くことです。その時の経つのが早いというのを逆転させて、自分の逃げ足が鈍くなって年につかまえられてしまうという発想がとてもユニークに感じました。百三歳という、まるで鬼(作者はあるいはそんなふうに思われているのではないでしょうか)のような恐ろしい年齢が、逃げ足の鈍った自分をつかまえようと近づいている、もっと一日一日ゆっくり楽しみたいのに…そんな作者の嘆きの声が聞えてくるようです。



おむかえさんいつでもどうぞだんだん歩けなくなりますからね     (11月号より)



 作者は百二歳です。まず、「おむかえさんいつでもどうぞ」と、「ちょっとそこまで」といった感じの言い方です。作者は現在ご自分の足で杖もつかずに歩いています。「だんだん歩けなくなりますからね」、これもそのままの、なんの気負いもなくさらっと言っています。先にも書きました作者のご年齢を考えますと「おむかえ」の内容はたいへん深いものがあります。それをいとも軽々と表現しています。作者はあの世でも歩こうと思っているからこそ歩けるうちに、まだ歩はく力のあるうちにあの世にいきましょうと思ってでもいるような感じがします。この一首は、三十一文字(音)に二文字(音)不足の二十九文字(音)です。ただ、字足らずといった感じは、あまりせず、むしろちょっと息切れがしたって感じでしょうか。「なりますからね」の「ね」がなんとも明るい感じがします。



天災地変続いて襲うこの地球人のおごりか神の祈りか         (12月号より)



 「天災地変続いて襲う」は多分、東日本大震災や近くは身近な大島の土石流災害などを指しているかと思います。作者は今年で満百二歳になられます。その百年余りの歴史のなかでも、やはり近頃の天災地変は異常と思われたのではないでしょうか。そして、「人のおごりのためか」と口からついてきたのではないでしょうか。この歌はここまでは、非常によく分る歌です。ただ、結句の「神の祈りか」でドキとしました。これは、どう理解したらいいのでしょうか。私の感性では理解まで届きませんが、凄い言葉であることが感じられてなりません。人間の祈りはわかるのですが、「神の祈り」とはどういうものでしょうか、しいてわたしなりに理解するとしますと、それは、「神の苦悩か」といったことでしょうか。人間のおごり、愚行にたいする神の苦悩が災害となってもたらされているようにも感じるのです。その神の苦悩から神の祈りがもたらされるようにも思ったのでした。





この地球の百と二年の変貌と共に生き抜き老の身さらす         (1月号より)



 作者は満百二歳で、今年の三月で満百三歳となられます。「この地球の百と二年の変貌」が実感として伝わります。作者は、明治、大正、昭和、平成のめまぐるしい変貌の百年余りを生きてきました。いやまさに「生き抜いて」きたのでした。



気の遠くなりそうな長い年月も波に消されし足あとのごと         (2月号より)



 作者は今年の三月で百三歳となります。上の句の「気の遠くなりそうな長い年月」がそれでしょう。そして、その長い年月であっても、波に消された足跡のようなものだと達観されております。そこがこの歌のひとつの中心だとは思います。そして、この喩がなんとも私には美しく感じたのです。波に消される足あとが目に浮ぶようです。と同時にその砂に残された足あとが波と同化する、一体となる姿が浮んできたのです。

この歌の良さはやはり作者のご年齢と無縁ではないように思います。そして、うたかたのごとく消えてゆく歳月だからこそわれわれの作歌活動も意義を持って来るのではないでしょうか。歌は残ると思うからです。



寂光の中の白梅半世紀近き亡夫の命日近し                (3月号より)



 「寂光の中の白梅」、この歌を読んだとき、なんと美しい歌なんだろうと思いました。まるで、この世でない世界に踏み入った感じがしたのです。「寂光」は、広辞苑によれば、静寂な涅槃の境地から発する智慧の光となっていました。亡くなられたご主人を寂光の中の白梅が象徴しているような感じを受けます。亡くなられたご主人への思いの深さは、「半世紀近き」という言葉に表れております。半世紀にもなるご主人の命日に思いを馳せる作者、作者は今月満百三歳になられます。

(つづく)








お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2014.11.26 05:19:02
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: