平成二十九年後藤人徳(瑞義)入選歌(よみうり歌壇他)
(注)同人誌「賀茂短歌」より転載
十二月号
それぞれに障害持ちて走りおり車椅子の子知恵遅き吾子
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 十二月 六日 入選 秋山佐和子 選)
耳遠くなりたる母に声高に話せるわれは叱るにあらず
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 十二月二十日 入選 秋山佐和子 選)
(評)年老いた母は耳が遠く、息子の自分が話すとき、自然と声が大きくなる。決して叱りつけてはいないのだが。切ない母子の歌。共感する人も多いだろう。
十一月号
生きおれば日照不足を嘆くらん野菜作りを愛せし妻は
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 十月二十五日 入選 秋山佐和子 選)
コンクリートの上に転がる黄金虫土に還れぬかなしみのあり
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 十一月 一日 入選 秋山佐和子 選)
一歳に父失いし渡辺さん百六歳の命さずかる
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 十一月二十二日 入選 秋山佐和子 選)
十月号
缶潰しビーズ通しが施設での自閉症なる息子の仕事
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 九月二十七日 入選 秋山佐和子 選)
枝々に雪の積れるごとくして咲きさかりたるさるすべりの花
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 十月四日 入選 秋山佐和子 選)
妻の亡き時の流れてわれのみが影のごとに留まりている
(NHK生涯学習フェスティバル横浜短歌大会 九月二十六日 佳作 岡井 隆 選)
九月号
子を預け施設を去るとき職員の明るき声が見送りくれる
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 八月三十日 佳作 秋山佐和子 選)
(評)子供を施設に預けて去る親。一、二句の事実のみの表現がかえって心情を伝える。職員の明るい声や見送る気遣い。どんなにか救われたことだろう。
揚羽蝶ふわりふわりと舞いて来て妻の好みしダリアに止まる
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 九月十三日 入選 秋山佐和子 選)
いつまでも起こさないでねあおむけにおだやかな顔妻の死顔
(全国短歌フォーラムイン塩尻 九月二十三日 題詠「顔」 奨励賞 )
八月号
歌人より詩人の方が苦しまん定型のなき不自由により
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 七月二十六日 入選 秋山佐和子 選)
あじさいの花に流るる雨のつぶ妻を亡くしし海老蔵の顔
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 八月十六日 佳作 秋山佐和子 選)
(評)あじさいの花に雨の粒がこぼれ落ちる。それは、癌の治療を続けていた妻の死を語る歌舞伎俳優の頬の涙のようだ、と歌う。映像に涙した人も多いだろう
七月号
ほのかにもももいろなせる骨拾う癌に苦しみ逝きし弟
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 七月五日 入選 秋山佐和子 選)
(評)上の句から美しい花のことかと思って読み進み、下の句の事実に粛然(しゅくぜ
ん)とする。二人に一人が癌を患う現在。「苦しみ」の語が胸に迫る挽歌である。
新しき墓に入りて長男とやすらぎてあれ妻の魂
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 七月十二日 入選 秋山佐和子 選)
六月号
苗床に育ちし苗よこれよりは大地に深く根を張りてゆけ
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 五月三十一日 入選 秋山佐和子 選)
逝きし児のたましい宿す蝶なるかいつまでもわが 後 をつきくる
(新聞静岡版 よみうり文芸 六月十四日 入選 秋山佐和子 )
五月号
早咲きの桜を待たず逝きし妻置いてけぼりを受けて見上げる
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 五月十日 入選 秋山佐和子 選)
おぼつかなきうぐいすの声四十九日過ぎしばかりの妻かも知れぬ
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 五月二十四日 秀逸 秋山佐和子 選)
(評)うぐいすのおぼつかない初音。それを、四十九日が過ぎたばかりの亡き妻に重ねる。互いにすごした歳月とその後の日々。「うぐいす」が哀切だ。
四月号
枝先の先へさきへと咲き登り紅梅は今満開となる
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 三月二十九日 秀逸 秋山佐和子 選)
(評)紅梅の蕾がふくらみ、枝の先へもっと先端へと咲き登り、今ようやく満開になった、と歌う。ひそかに応援していたのか、春のよろこびが伝わる。
福寿草咲いていますと言いし妻聞き流ししを今悔みおり
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 四月十九日 入選 秋山佐和子 )
三月号
施設より帰り夜中に叫ぶ子よ山犬よりもさびしその声
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 三月一日 入選 秋山佐和子 選)
どこやらか柚子のかおりがただよえり手足かじかみ歩いておれば
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 三月十五日 入選 秋山佐和子 選)
被爆せし久保山さんにかたことの手紙書きたり九才のわれ
(全国短歌大賞 題詠 静岡新聞社賞 田中章義 選 )
二月号
消え残る氷のような半月が一人歩めるわれを照らせり
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 二月二十三日 秀逸 秋山佐和子 選)
(評)あかつきの空に消え残っている半月。「氷のような」の比喩が、半月の冴えた光や早朝の引き締まった空気を伝える。下の句の情景描写も巧みだ。
一月号
歩道越え車道をこえてころころとどんぐりひとつ庭先に着く
(読売新聞静岡版 よみうり文芸 一月十八日 佳作 秋山佐和子 選)
(評)たったひとつのどんぐりが、歩道も車道も越えて庭先に来た。「着く」とある
ので小さな旅をしてきたようだ。物語性がありリズムも楽しい晩秋の歌。
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