『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』100万部?日記

『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』100万部?日記

2015.10.18
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『あいるさん、これは経費ですか?』シリーズ
「マイナンバー殺人事件!」 (後編)

前編はこちら


「『情報提供等記録開示システム』、通称マイナポータルです」
 はあ?
「2017年1月から利用できる予定なんですが、自分の個人情報を確認したり、マイナンバーがどの機関にいつ使われたのかがわかるサイトなんです」
「そんなことがわかるの?」
「ええ、誰でもインターネットを使って」
 僕が知っているレベルのITっぽくなってきたぞ。
「でも、そこが一番セキュリティーは甘くなるんじゃないですか。本来は本人しか自分のマイナポータルに入れないんですが、ネットなんで成りすましもできる可能性があるんです」
 ネットでの成りすましか……。SNSの乗っ取りなどよく聞く話だ。
「どうやって、やるんだ?」
「『個人番号カード』、通称マイナンバーカードとパスワードでマイナポータルに入れるんです。マイナンバーカードにはICチップが付いているんで、カードリーダーをパソコンにつなげて、パスワードを入力すれば入れます。要はターゲットのマイナンバーカードとパスワードさえゲットできればいいんですよ」
「なるほどな――で、そのマイナンバーカードとパスワードはどうやって入手すればいいんだ?」
「マイナンバーカードはこれから希望者に配付されるんですが、本人から盗むしかないですよね。スリか泥棒をやって。パスワードは本人を脅して口を割らせるか――」
「ちょっと待て。それは銀行のキャッシュカードを盗んで、パスワードも聞き出す労力と同じ、ということか」
「そうかもしれませんね~。銀行の暗証番号なんて数字4桁が多いんですから、そっちのほうが楽じゃないですかぁ」
「そもそもマイナンバーカードを盗むためには、まずはターゲットの住所とかを調べる必要があるよな」
「そうなりますね」
 そうか。話が一周してしまった……。一体どうしたら、マイナンバーで人が殺せるのだろうか。マイナンバーで人が死ぬことはないのだろうか……。


 その時、勢いよくドアが開いた。
「どうよ、竜ヶ水。もうそろそろ殺人事件はできた? できたわよね、できたに違いないわ!」
 入ってきたのは、所長の天王洲あいるである。
「できていません。今ちょうど話が振り出しに戻ったところです」
「バッカ、どうすんのよ! セミナーは明日なのよ。マイナンバーの話なんてテレビでも新聞でも雑誌でも山ほどやっているんだから、何冊か本を読んで、ちょちょいとレジュメを作っちゃえばいいじゃないの!」
「あなたのせいですよ! セミナーのタイトルを『マイナンバー殺人事件! ~マイナンバーのことが分かり過ぎちゃってもう死んじゃいそう~』って発表してしまうから困っているんでしょうが! 普通のタイトルだったら誰もこんなに悩みません」
 だって~、と天王洲さんが唇をとがらせる。
「いまマイナンバーのセミナーが流行ってるんだもん。平凡なタイトルにしたって誰も聴きにこないでしょ。このタイトルのおかげで、うちの事務所のセミナーには、なんと30人も聴きに来るのよ。普段の倍以上だわ!」
 天王洲さんが胸を張る。
 しかし、明らかなタイトル詐欺である。
「殺人事件を使ってマイナンバーを説明するなんて、そんなの無理ゲーですよ」
 僕が弱音を吐くと、天王洲さんが真顔になる。
「そうでもないんじゃない。難しく考えなくていいのよ。君はいまどこで働いている?」
「あなたの会計事務所ですよ。立派なアシスタントスタッフです」
「そうよね、雑用係よね」
 待ってほしい、なぜそう訳す?
「君はマイナンバーをたくさん保管することになる会計事務所で働いている。当然会計事務所内でも、特定個人情報を取り扱うための安全管理措置は最大限取られるんだけど、そこから漏洩が100%ないかと言われると、この世に100%はない」
「まあ、所長自らが言うんですから、そうなんでしょうね」
「君が何らかの方法で何人分かのマイナンバーを外に持ち出し、誰かに売る―――」
「なるほど名簿屋ですか。それは犯罪の臭いがプンプンしまくりですねぇ」
 有明がしたり顔で言う。
「もしくは君が、同じようにマイナンバーを持ち出せる人たちから情報を買いまくって名簿を作ればいい。実際にマイナンバーだけを知られたからといって実害は大きくないけど、人々は不安に陥るわ。なんてったって自分のマイナンバーは一生残る、いいや死後も数百年後も残るかもしれないからね」
「それで、僕は一体どうなるんでしょうか……?」
 恐る恐る訊いてみる。
 天王洲さんが自信ありげな顔をした。
「マイナンバー専門の名簿屋として闇の世界で知られるようになった竜ヶ水隼人は、国民を恐怖のどん底に陥れた挙句、謎の組織から人知れず抹殺されるのよ」
「まさか」
「―――そう、これが『マイナンバー殺人事件!』」
 こうして、後に“東京芸能会計事務所の主催セミナーの代表的な釣りタイトル”と謳われる演目が誕生したのである。

                       『マイナンバー殺人事件!』おわり
―――――――



というわけで、くだらない短編にお付き合いくださり、

ありがとうございました (*´▽`*)

間違っているところなどはございましたら、ご指摘いただけると大変助かります。







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最終更新日  2015.10.22 00:15:44
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