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藤沢文学の金字塔と言われている「蝉しぐれ」を初めて読むことになった。
組屋敷の裏に流れる小川。
その小川の向こうに広がる田圃。
組屋敷に住む人々は、それぞれが裏の小川をせき止め、生活用水として使っている。
そうした光景を私は見たことがある。
それは、幼い頃に母に連れられて度々訪れた母の実家にある光景だった。
裏庭に流れる小川のそばに清水がわき出ており、そこに冷やした西瓜やトマトの色彩が鮮やかだったことが思い出される。
そこには懐かしい日本の原風景が広がっていた。
そういったこともあり、文四郎が住む組屋敷の界隈のイメージは私の中で比較的容易に固められていった。
文四郎が、隣家の娘ふくを初めて女性として意識し始めたのがその小川だった。
この小川から文四郎とふくの物語が始まったのである。

物語もいよいよ佳境に差し掛かろうというとき、文四郎はあることに思い迷った。
その時の文四郎の心情が痛いほどわかる。
「顧みて文四郎は、奔放であるべき年少の日々を、ああも小心翼々と過ごすほかはなかった自分を憐れまずにいられない」
「長い間のその辛抱は、いま報いられたと思っている」
「不遇のどん底にいたときも、悪声を放たず、人と争わず、身を慎んで剣と学問に精を出してきたからだと文四郎は思う。その安泰を失いたくはない」
「しかし……」
これが藤沢周平の世界なんだな、と思った。

遅ればせながら読み始めた藤沢文学。
今後どのような人物に出会えるのか楽しみである。
2007-12-26







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最終更新日  2019.08.04 13:18:48
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