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February 1, 2021
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カテゴリ: 書評

自由の命運 上・下

ダロン・アセモグル、ジェイムズ・ A ・ロビンソン 著 櫻井祐子訳

慶應義塾大学名誉教授  小林 良彰 評

国家と社会の競い合いが必須

世界的ベストセラーとなった『国家はなぜ衰退するのか』を執筆した二人の経済学者が 2019 年に刊行した新しい著書の翻訳である。まずアセモグル達はそれぞれの国や地域の状態を「不在」「専有」「足枷」という三つのリヴァイアサンに区別する。

「不在リヴァイアサン」とはアサド政権崩壊後のシリアのように国家が姿を消し、代わりに内戦と過激派組織 ISIS (イラクとシリアのイスラーム国)などによる暴力が横行している「社会が有能な国家を持たない状態」である。一方、「専有リヴァイアサン」とは全能の皇帝が政治に関わる発信権を民衆に与えなかった歴史を持つ中国に代表される巨大な官僚機構と強力な軍隊による「国家が社会を支配している状態」である。

これに対して、「足枷のリヴァイアサン」とは、国家と社会が競い合いながら共に成長し、「国家の力とそれを制御する社会の能力とが均衡している状態」である。そして、「ローマ帝国由来の国家制度」と「ゲルマン人由来の参加型規範と制度」が競合する歴史を持つ西欧諸国等に「足枷のリヴァイアサン」がみられるとする。

さらに、著者たちは、一旦、「足枷のリヴァイアサン」になっても歩みを止めれば、プロセインのように国家が強くなって「専有のリヴァイアサン」になることや、社会が強くなりすぎて「不在のリヴァイアサン」になる危険をはらんでいる都営章を鳴らす。このため『鏡の国アリス』に出てくる「赤の女王」の有名な言葉(その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない)にあるように、国家と社会が競合することで共に牽制し続けなければならないと注意を促す。

具体的には、国家と社会が協調することで、「足枷のリヴァイアサン」に留まっているスウェーデンや、マンデラのリーダーシップにより社会が国家権力異を唱える能力を伸ばすことで「足枷のリヴァイアサン」に入ることができた南アフリカなどの事例を紹介する。

なお、彼らにとって米国は特殊な「足枷のリヴァイアサン」にになる。米国は立派な憲法を持ち、全体としては国家と社会が牽制し合ってきたが、白人警官によるアフリカ系市民に対する暴力が頻発している地域もある。著者達によれば、米国憲法制定時に南部奴隷州の賛成を得るために各州の権限を大きくしたために、連邦国家が暴力や差別から奴隷とその後のアフリカ系アメリカ市民を保護しなかったと批判する。また、アルゼンチンやコロンビアのように、統合能力に欠ける国家と孤立分散した社会からなる「張り子のリヴァイアサン」も例外として紹介する。

そして、著者達は経済成長には公共サービスを提供する国家と、経済的機会と投資やイノベーションを起すインセンティヴが必要であり「足枷のリヴァイアサン」であることが必須と主張する。豊富な知見に基づく本書から得る多くの教訓は読むものを魅了する。

ダロン・アセモグル  マサチューセッツ工科大学教授。トルコ出身。

ジェイムズ・ A ・ロビンソン  シカゴ大学教授。英国出身。

【読書】公明新聞 2020.4.20






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Last updated  February 1, 2021 04:48:15 AM
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