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ドキュメント 強権の経済政策
軽部 謙介著
官邸官僚が主導する有様を描く
大阪大学教授 上川 龍之進評
本書は安倍内閣の経済政策、いわゆるアベノミクスの決定過程を記録する、優れたルポルタージュである。取り上げられる政策は、賃上げの政府介入や内閣人事局の発足、消費税引き上げとその延期、金融政策と為替政策など多岐にわたる。本書では、首相と官房長官、彼らが重用する官邸官僚が政策決定を主導し、与党や財務省が決定から外されていく有様が描かれる。
政権発足当初、アベノミクスは製材成長を重視し、大胆な金融緩和による物価上昇率 2% の実現を中核としていた。だが官僚たちは、金融政策だけではデフレ脱却は難しいと考え、政府の介入を嫌う経団連と連合、そして政労使会議を設置し、賃上げを実現させる。しかし消費の拡大にはつながらず、首相と官邸官僚は「一億総活躍」という看板を掲げて、最低賃金の引き上げなど再配分重視へと舵を切る。
大胆な金融緩和は、円安をもたらし株価を上昇させたものの、物価上昇率2%が実現する見込みは立たない。しかし政権は、すでに物価上昇への関心を失っている。ある政府関係者の「この政権の経済政策は哲学とか社会構造の分析に基づくものなんかじゃない。いろいろ看板を付け替えるのは、政策が選挙戦略として使われているからなんだ」という説明が、空虚な政権の本質をついている。著者は「変節というのか、進化というのか」と問いかける。
1990 OB と現役幹部との確執も生んでいる。 OB は、組織の政策理念を放棄して官邸の言いなりになっている現役官僚に憤る。現役幹部は、 OB の失敗のツケを払わされていると考え、「何といっても時代は回ったのだ」と諦観する。財務次官が、日銀から国庫納付金の減少を「どうせ設けたって官邸が使うだけだ」とあっさり認めるシーンが、現役幹部の無力感を象徴している。
安部内閣とその経済政策を振り返るうえでの必読書である。
◇
かるべ・けんすけ ジャーナリスト、帝京大学経済学に教授。 1955 年生まれ。早稲田大学卒。時事通信社解説委員長等を経て、本年 4 月より現職。
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