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この世界の問い方
大澤 真幸 著
残るのは権威主義的資本主義か
創価大学教授 前田 幸男 評
本書は、著者が 2020 年 6 月から 22 年 8 月までに執筆した時事的な評論集である。構成は、 ➀ ロシアのウクライナ侵攻②中国の権威主義的資本主義③ベーシックインカムとその向こう側④アメリカの変質―バイデンの勝利と黒人差別問題、そして⑤日本国憲法の特質という⑤章立てである。
いずれも重要なテーマで、とくに米露中といった大国に対する議論は、国際政治学で言うリアリズムのリバイバルとして人口に膾炙してきた。しかし、本書はそうした紋切り型の議論とは一線を画する。なぜなら、これは著者の最大の魅力ひとつだが、半ば論じ尽くされたと思われる資本主義、宗教、帝国、ナショナリズムなどの論点にも、さらなるクリティカル・シンキングをかけることで、新たな議論の地平切り開いていくからだ。
中でも資本主義の存続に関する議論は一読に値する。本書で中国は国民国家の体をなしながら実質的には秩序を非常に重視する帝国であると把握している。資本主義は自由民主主義と組み合わさることで歴史は終わるとされたはずなのに、中国では法の支配よりも工程や共産党が上位に来る権威主義が資本主義とうまく接合している。しかも、この権威主義的資本主義は一種の金権政治と化している米国の中にもじわじわと浸透しており、世界にはこの「権威主義的資本主義」だけが残るのではないかと、考察を進めていくのだ。
加えて、この権威主義的資本主義の問題がウクライナや台湾の問題とも連動しながら、 21 世紀にも関わらず「戦争」の二文字から逃れられない状況が現代である。しかし、そのような状況だからこそ、本書は日本人として憲法 9 条を変えることなく、それを現代にどう生かせるのかを考える機会も提供してくれている。
他方で本書は、 ➀ 「資本主義は残らないかもしれない」 2 「の頃としたら権威主義的資本主義だけである」として、②への考察を深めるものの、人々はなぜ ➀ のような不安を覚えているのか、その源泉はどこにあるのかへの考察は充分ではなかった。この点は、真木悠介が論じたような別様の「この世界の問い方」を展開する必要があるように思われる。
◇
おおさわ・まさち 1958 年生まれ。社会学者。
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