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奥深い 西表島の魅力
沖縄大学教授 盛口 満
豊かな自然と生きもの 人々の暮らしに驚嘆し
先日、久しぶりに西表島に行く機会があった。西表島といえば、イリオモテヤマネコをはじめとした生き物たちが暮らすジャングルの島として名高い。 2021 年 7 月には、奄美大島・徳之島・沖縄島北部とあわせ、世界自然遺産に登録されたことも記憶に新しい。西表島には自然を目当てに多くの観光客が訪れ、その観光客を自然の中にいざなう自然ガイドを生業とする人々も近年には多い。
私は、自然ガイドのガイド力を高めるために、地元竹富島が開催した、ガイド向け講座の講師として招かれたのである。とはいっても、普段は沖縄島に暮らしている私は、ガイド所司に詳細な知識を伝授するほど西表の自然に詳しいわけではない。それでも、私の経験や興味に関することにことよせて、ガイド所司と一緒に守屋浜を歩き、また、夕方から 1 時間ちょっとの間、スライドを映しながら話をさせてもらった。
そもそも私が西表島に「出会った」のは、小学校高学年のときにさかのぼる。当時発刊されていた小学生向けの科学雑誌が、西表島の特集をしたのである。そこに掲載されていた写真は強烈な印象を私に与えた。憧れの島となったのが西表島だ。
実際に西表島に足を踏み入れたのは大学時代の春休みのことだった。大学を卒業し、埼玉の私立高校で教員となってからは、それこそ年に一度は西表島を訪れるようになった。西表島の最大の特徴は、宿を一歩出ると、ジャングルが待ち受けていることである。夜行性のイリオモテヤマネコこそ、めったに姿を見ることはできないものの、道を歩く中で見かける、南の島ならではの虫もカエルもヘビも、見るものを興奮させずにはいられない。
今から 20 数年前、私はそれまで勤務していた高校を退職し、沖縄に移住することを決意した。西表島に通ううち、南の島の自然だけでなく、島に暮らす人々の話に魅了されるようになったからだ。西表島で定宿にしていた民宿の主のOさんは、西表島の隣時まである、新城島に伝わるジュゴン漁の話をしてくれた。知り合いとなった西表島生まれのYさんは、オオコウモリからウミガメまで、あらゆる生き物を口にしたことがあるという話をしてくれた。島々の自然も変貌しつつあるが、自然と深い関わりを持った人々の暮らしこそ急激に失われつつある。そのことに気づき、沖縄に移住し、その地の自然と、その地に住まう人々の話と、もっと出会いたいという思いになったのである。
現在、私は沖縄島・那覇市にある小さな私立大学で教員をしながら、島々をめぐり、年パインも方々の話に耳を傾け記録に残す仕事をしている。今回、西表島で自然ガイドの方々に話をした内容も、島々のお年寄りから教えてもらった話ばかりだ。西表生まれのYさんは、子供のころにヤマネコを薬代わりに口にしたことがあるといって、私を驚嘆させたことがある。
ガイド向けの講座の合間、イリオモテヤマネコの糞を見つけ、拾って帰った。イリオモテヤマネコの特異な点は、精愛一狭い範囲で暮らすヤマネコであるという点だ。そんな暮らしを可能にしているのは、イリオモテヤマネコが島のさまざまな生き物を餌にしているという食性にある。果たして拾った分から出てきたのは、野外性のゴキブリとムカデの破片だった。その内容にまた、驚く。
島々の自然と、その自然と関わる人々の暮らしは奥深い。今回、『沖縄のいきもの』という中公新書を書かせていただいたが、楚の一端でも伝えられればと思う。
(もりぐち・みつる)
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