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負の遺産から地域を解放
尾松 亮
もうひとつの核廃絶に向けて
20 世紀後半に「核の平和利用」のスローガンで導入された原子力発電所の多くは老朽化し、廃炉の時代を迎えている。 2023 年 4 月時点で見ると、世界全体で永久閉鎖原子炉数は 209 基となった。コンサルティング企業による 22 年末時点の試算では、 21 年~ 50 年の間に新たに 200 基が廃炉のフェーズに入ることが予想される。 21 世紀が大量廃炉の世紀となることは避けられない。
閉鎖された原発は原子炉を中心に高いレベルで汚染されており、多くの場合、閉鎖後も敷地内の貯蔵施設に使用済核燃料が残り続ける。どれだけ安全に此の負の遺産を解体撤去し、汚染や事故リスクから住民や環境を守れるのか。すでに 24 歳の称用原発の廃炉が決定している日本もこの課題から逃れることはできない。
この負の遺産から私たちの住居環境、さらに海を含む生態系を解放するにはどうすればよいのか。その結果次第で人類の生存環境の質は大きく変わる。廃炉とは単なる産業施設の解体工事ではない。地球の生態系をかけた歴史的課題なのだ。
本連載では日本に先立つ廃炉時代を迎えた各国の住民らが、この負の遺産から地球を解放するために、より質の高いクリーンアップを求めて立ち上がる姿も紹介した。議会による廃炉事業者の監視、立法や協定による厳しい環境基準の義務付けなど、さまざまな知恵も生まれている。核の負の遺産を押し付けられてきた各地の地域コミュニティーは、その知恵を共有し連帯する必要があるだろう。
気候変動対策と核兵器廃絶、この二つが今世紀、人類の生き残りを避けた世界的課題であることは誰もが否定しない。
この核廃絶の対象に、「平和利用」の名のもとに広がった「もう一つの核」である原発も含めるべきだろう。「もう一つの核」は、核兵器保有国以外にも拡散している。また、多くの場合、海岸などの災害脆弱地域に置かれ、居住地に隣接し安全対策も十分ではない。さらに武力攻撃にさらされるリス子もある。
21 世紀には核兵器の使用や開発、実験などを全面的に禁止する「核兵器禁止条約」が発行した。被爆者を中心に世界の市民の声が『核廃絶』に向けた国際法を生み出した。同様に「もう一つの核廃絶」を求める世界の声を集約し、実行力のあるルールを勝ち取らなければならない。さもなければ、私たちは子どもや孫の時代に負の遺産を押し付けることになる。
(廃炉制度研究会代表)
【廃炉の時代—課題と対策— 62 =完】聖教新聞 2023.7.3
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