ken tsurezure

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trainspotting freak

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2007.12.30
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カテゴリ: 音楽あれこれ
 『イン・レインボウズ』の最初の曲『15ステップス』でこう歌われる。

   いったいなぜ振りだしに戻ってきてしまったんだ?
   いったいなぜ間違えをおかした場所に戻ってきてしまったんだ?

 このフレーズを聞くと『OKコンピューター』という、彼らがちょうど十年前に発表したアルバムを思い出さざるを得ない。
 クールブルタニカとブリットポップ末期の狂騒の中で発表されたそのアルバム。一曲目の『エアバッグ』は非常に印象的なフレーズで始まる。

   次の世界大戦のさなかに
   ジャックナイフされた偶像神のもとで
   僕はもう一度生まれる

 希望とも絶望ともつかない混乱しきった気分を象徴するような歌詞とそれを反映した今まで聞いたこともないような不思議な音楽。それによってレイディオヘッドは、そして『OKコンピューター』は90年代を代表する偉大なロックアイコンになった。

 新作の『イン・レインボウズ』は基本的に前作の延長線上にある。『アムニージアック』のバンドという形にとらわれないエレクトロニックな音作りではなく、レイディオヘッドというバンドの形にこだわり、レイディオヘッドというバンドによって作られた音楽。それにもかかわらず、『イン・レインボウズ』は前作の延長としてではなく、『OKコンピューター』を連想させる。
 『イン・レインボウズ』の歌詞は脱出口のない場所に落ち込んでいる状態とそこから出るための道筋を見つけるという意思のメタファーにみちている。一単語に分解され、規則性もなく並べられているその歌詞カード。それはまるでジグソーパズルのように、聞き手を惑わせる。そこから何も読み取らないでくれとでも言うかのように。そしてアルバムの終盤にかけて『ジグソーパズル・フォーリング・イントゥー・プレイス』『ビデオテープ』という曲が配置される。「ジグソーパズルがあるべきところへ収まっていく」と歌ったあとに彼らは『ビデオテープ』でこう宣言してしまう。

  僕が天国の門にたどり着いたとき
  これが僕のビデオテープに録音されている

  これは来るべき良き日のために
  ここに全てまとめてあるから
  今から僕に何が起きようとも
  君が恐れることはない

  だって僕にはわかったから
  今日という日がこれまでで一番完璧なんだと

 『OKコンピューター』から前作まで、レイディオヘッドは全ての混乱を引き受けるという姿勢で音楽を作ってきた。あるいは混乱状態を音楽の中に反映させることで様々なインスピレーションにみちたアルバムを作ってきた。どんな混乱状態か。それは絶望のさなかで希望が見出す事ができ、そしてその希望がより深い絶望の入り口になってしまう。その絶望の中にも脱出口があるように見え、結局希望なのか絶望なのかよくわからない。そんな混乱状態だ。それは断片化する僕たちの生活の一側面を鮮やかに照らし出す優れた表現だった。だけどそれは言葉にすることが難しかったし、それを反映して音楽も難解になりがちだった。
 『イン・レインボウズ』というアルバムも難解といえば難解なのかもしれない。しかしそのバンドサウンドを聞くと曲もはっきりした輪郭を持っているし、非常に聴きやすい。言葉を変えると、つかみどころがありわかりやすい。
 そうすると逆に不思議に思えてしまう。なぜ僕はこのアルバムを聴いて「わかりやすい」と思ったのだろうか。いったいこのアルバムの何がわかったのだろうか。
 その答えはこうだ。それは混乱にみちた『OKコンピューター』という謎に対する答えがここで明らかにされた気がしたから。『イン・レインボウズ』というアルバムが出ることで、97年から今までのレイディオヘッドの活動が何のためにあったのかわかった気にさせてくれるから。

 『イン・レインボウズ』というアルバムにはある確信が感じられる。それを身も蓋もなく言葉にしてしまえばこうだ。絶望の中にも必ず希望が隠されている。言葉にするとありきたりでどこかの頭の悪いパンクバンドが歌詞にしそうな言葉である。またそのようなことをストレートに言われたとしても僕らはそれをまともに受け取ることはできない。「冗談だろう」と笑い飛ばしてしまうのが正常な反応だ。それくらい、この言葉をリアリティーを持って聞き手に伝えるのは難しいことだ。
 その言葉を伝えるためにはありきたりな方法ではダメだ。そのために必要だったのが、今回のアルバムの音であり、読解を拒むような歌詞カードであり、そして新しい音楽配信の試みではなかったのではないだろうか。そして、それは今までの試行錯誤があったからこそリアリティーを持ちうる言葉だ。逆にそうした結論に達したからこそ彼らは『ビデオテープ』の中で、自分の最期を思わせるような危うい歌を歌ったのではないだろうか。
 だからこそこのアルバムはレイディオヘッドにとって重要な転機となるものだ。それと同時に2007年現在における最も優れた「希望」の音楽のひとつだ。

 今後彼らがどんな方向へ行くのか。それはわからない。とりあえず今は『イン・レインボウズ』を何度も聞き返し、そして今までの作品をもう一度聞きなおしている。



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Last updated  2007.12.30 14:49:04
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trainspotting freak@ Re[1]:世界の終わりはそこで待っている(06/19) これはさんへ コメントありがとうござい…
これは@ Re:世界の終わりはそこで待っている(06/19) 世界が終わるといってる女の子を、「狂っ…
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zein8yok@ Re:ある保守思想家の死 西部氏によせて(03/02) 「西部氏の思想家としての側面は、彼が提…
trainspotting freak @ コメントありがとうございます aiueoさん コメントありがとうございます…

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