ken tsurezure

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2018.10.28
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カテゴリ: 見た映画
90年代懐古の亡霊が闊歩しているような気がする。
2012年のストーンローゼズの再結成から始まって、小沢健二の復活。そして90年代を舞台にした映画の上映。
ストーンローゼズの再結成ライブを見て感じたのは、僕のような40代の大台に乗ってしまった人間にとって、そのライブが非常に楽しいということだ。もう誰もストーンローゼズに2018年現在の最先端のリアルロックを期待しないし、過去のストーンローゼズの評価も定まっている。あとは「I Wanna Be Adored」をどれだけ大きな声でシンガロングできるか。「I Am The Ressurection」にどれだけ個人的な思いを託すことができるか。
はっきり言うと僕はもう現在のロックに共感できなくなっている。ラッドウィンプスやテイラースウィフトを無理に聞くよりも、再発されたInspiral CarpetsのCDを買う方を選んでしまう。年を取るとはそういうことだ。そう思わざるを得なくなる。
僕が90年代に20代だったころ、70年代懐古ビジネスが嫌だった。まだ若かった僕にはそうした近過去を懐かしいと思う精神構造が全く理解できなかった。
でも40代を過ぎて、わかるようになってしまった。20代、30代を駆け抜けるように後も振り返らずに生きて、それなりに決着がついて、自分に残された資産や負債の清算をとりあえず突きつけられるとき。それが41歳くらいのときだ。そして厄年を境に一気に生命力や勢いがガクンと下がる。自分はもはや若くない。下手をしたら老年期の初期段階に入ろうとしているのではないか。そんな疑念すら感じられるようになってから、自分が若かったころを懐かしいと感じてしまう。自分がその頃若かった。それだけでその時代が良かったと思えてしまう。そのとき90年代を懐古するマテリアルがあれば、それなりに金があるから買ってしまう。
そうやって僕は広告代理店の仕掛けた罠に嵌るように、90年代懐古の亡霊に取りつかれてしまう。

映画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」は、韓国映画の「SUNNY 永遠の仲間たち」という映画を基にして作られたらしい。僕は韓国映画の原作を見ていないので、その辺のことはよくわからない。
舞台は現在と多分1995年くらいの東京。主人公やその仲間たちは1995年に高校生でいわゆるコギャルで、毎日をお祭りのように楽しく過ごしている。
でも現在は色々なしがらみや事情に絡み取られてそれぞれシビアな現実の中で生きている。
事の発端は主人公奈美が会社社長をしている芹香と病院で出会うことから始まる。
奈美は高校生の娘を持つ主婦をしている。そして芹香は進行性のガンを患い、余命があと一ヶ月しかないという。芹香は死ぬ前にもう一度高校時代の仲間たちと会いたいと願い、奈美にできれば彼女たちを探し出してほしいと頼む。
奈美は高校時代の仲間たち、SUNNYのメンバーと再会していく。そしてそこに1995年当時のコギャルだった頃のSUNNYのメンバーの楽しい生活の回想が交差する。
この映画の見どころは輝ける1995年の高校生活と現在のシビアな現実を生きる彼女たちの落差だろう。特にともさかりえが演じる心(シン)の非常に重たい現状はショッキングな気分にすらなる。
それに対比される1995年の高校生活は騒がしくて、能天気で。生命力に溢れていて、パワーもみなぎっている。
ではその映画に描かれている1995年は本当に史実に近いものなのか。
僕とコギャル世代はほぼ一周り違うから、真相は実はわからない。
またネットなどの情報を見ると、1995年に高校生だった人々とそうではなかった人々との間で、評価に対するばらつきが見られる。その頃女子高校生だった人々は総じてこの映画に対する評価が高かったような気がする。

1990年代は本当に輝かしい時代だったのだろうか。本当に黄金の90年代だったのだろうか。
音楽業界はミリオンセラーが大量に出て、まさに黄金期だたようだ。また渋谷を闊歩するコギャルたちは性的にも文化的にも先を行っているという感覚はあって、村上龍が思わず「ラブ&ポップ」という小説を書いてしまったり、宮台真司がこの頃のコギャルたちを徹底的に肯定する論を張って高校教師をビビらせてしまったりと、若者のカルチャーはコギャルや女子高生たちを中心に回っていた。あるいは回っている幻想を抱かせる勢いがあった。
そうした高校生文化から一周り年上の僕にとって1990年代は必ずしも明るい時代ではなかった。オウム事件、山一証券の破綻、自殺者2万人突破、完全自殺マニュアル、Cocco、南条あや。言葉では表現できないのだけれどなんとも言えない曖昧で包み込むような生きづらさが僕の周りを包囲していた。
この映画に、エヴァンゲリオンに嵌った20代の引きこもりが登場する(奈美の兄)が、多分彼は僕と同じ世代に属している。
だから1990年代がおわり、2000年が来るに当たって、僕は90年代を素晴らしい時代だったとは回顧しなかった。それは僕以外の多くの人々が感じていたことで、90年代が終わるに当たり、90年代を総括するキーワードは「失われた10年」だった。
新しい文化、新しいやり方、新しい生き方を提示したといわれるその頃のコギャルたちやその世代の人々たちも結局は歴史の荒波に晒されて苦しむこととなり、成功者はそれなりにいるけれど、新しい時代を切り開く新しい何かをその後に提示することはできなかった。

ゼロ年代は誰も回顧したいと思わないくらいの苦難の10年だった。そして今2018年。あと2年で2010年代が終わる。
そんなタイミングで「SUNNY 強い気持ち・強い愛」という映画が作られ、小沢健二に乗せられた僕がその映画を見に行った。

個人的には評価が難しい映画だった。この映画を見て、90年代が懐かしい。90年代はいい時代だ。もう一度あの日へ帰りたい。とは思わなかった。
印象に残ったのは2つ。
ひとつは安室奈美恵の「Sweet 19 Blues」の見事な使い方。
もう一つは小沢健二の「強い気持ち・強い愛」をダンスで表現するという解釈の斬新さだ。
小沢健二の1995年ころの作品はハイテンションでポップだけれども、どうしても文学的に受け止めてしまうきらいがある。特に僕のようなタイプのファンには。
でもそれをダンスで表現したのは本当に素晴らしい解釈で、そのダンスのシーンはすごく感じるものがあった。
では2018年に17歳くらいの若い人が見たらこの映画をどう思うのだろうか。僕が90年代に20代だった時と同様に、この90年代懐古の映画を批判的に見るのだろうか。
この映画に対して僕は中途半端な印象を持ってしまった。
もっと開き直って、この映画はオジサンやオバサン目当ての90年代懐古ビジネスの一つです。と確信犯でこの映画を製作するか。
あるいは友情をキーワードに、90年代という時代を超えて、エヴァーグリーンな青春物語としてこの映画を製作するか。
そのどちらでもない感じがして中途半端さを感じた。
最後の遺言は映画をまとめる以上、リアリティーがなくてもそうせざるを得ないのかなと苦笑してしまったけど。

90年代懐古の空気に触れると、もう90年代は現在から途切れてしまった過去となってしまったのだと痛感させられる。でも僕にとっての90年代はほぼ20代の10年にあたる。だから今とは繋がらない過去として処理することができない。
では90年代にリアルだったことが2018年に通用するのかというと、それはさすがにそうは言えない。
90年代を2018年に繋げる何か。それは多分僕らが2018年までに生きてきた生活史のなかにあるのだろうと思う。
それは90年代を美化して懐かしむのではなく、もっと何かを自省することで生み出せるのではないかと思ったりもする。
そのときにいつの時代にも通用する90年代の本当の物語ができるのではないか。
そうしたものを僕ができないにしても、僕以外の同世代の誰かができるのではないか。そんなことを思ったりもする。


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Last updated  2018.10.28 14:58:09
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