2002/09/14
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 時間の花の欠片で作った葉巻を落とすだけで消滅してしまう灰色の時間泥棒達の方に気持ちがいってしまう。
 失われた子供時代を取り戻したいわけではない。子供の頃さまざまな児童文学に触れる黄金時代というものを持っていない私には、いくつかの作品は、読もうと思えばいつでも読めるのに、それを読むべき時期はとうに過ぎ去ってしまっている、今読んでも受ける印象、芽生える何かは完全に違うものとなってしまっている・・・何を書いてるか分からない、とにかく、憧れであり、また、きっと読まないままでいた方が幸せなんだろうと思えるものであり、「読みたい!」と強い欲求に駆られることの少ない、そういうものであった。
 でも読んでみた。先に読み始めた同じエンデの「鏡のなかの鏡」がとても良いとは言えないので、有名なこちらの方ならきっともっと良いはずだと、あまり誉められたことではない動機から。 
 子供の頃から物語に出てくる中では悪役ばかりが好きだった。やたらと正義を振りかざしたり、意味不明の強さを持った主人公側の人物に感情移入するのは難しかった。その為、マイスター・ホラの元に辿り着いた後のモモは好きではない。円形劇場後で想像力を武器として無限に遊びを創造していた頃のモモは好きだ。
 時間泥棒達が人々から時間を巻き上げるとみんなせかせかと、いわゆる「現代人風」な大人たちになってしまうというのは、その手の意味がありすぎて嫌いだ。教訓も寓意もありすぎると嫌味になる。だから後半は時間泥棒達の哀れな姿に浸ることが、私にとっては大事だった。
 世界を時間泥棒の手から取り返しても、物語の語り手として既に有名になってしまったジジはモモやベッポと同じようには、元に戻れない。子供でもなく、老人でもないから。


「これできみにもわかっただろう──ぼくがどんなになってしまったか。自嘲するように彼はちょっと笑い声を立てました。「もどりたくても、もうもどれない。ぼくはもうおしまいだ。おぼえているかい、(ジジはいつまでもジジだ!)、ぼくはそう言ってたね。でもジジはジジじゃなくなっちゃったんだ。モモ、ひとつだけきみに言っておくけどね、人生でいちばん危険なことは、かなえられるはずのない夢が、かなえられてしまうことなんだよ。いずれにせよ、ぼくのような場合はそうなんだ。ぼくにはもう夢がのこっていない。きみたちみんなのところに帰っても、もう夢はとり返せないだろうよ。もうすっかりうんざりしちゃったんだ」



 さぼってて、読み終えた随分後になって感想を書きだしたものだから、その時には気にもかけてなかったジジのことに、気付いてしまった。

ミヒャエル・エンデ「モモ―時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語」大島かおり 訳(岩波書店)





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Last updated  2002/09/14 02:26:44 PM
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