2002/11/19
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 しばらく前のこと。帰り道の途中にいくつか猫がよくたむろしている場所がある。そのうちの一番家に近い一つ、一階が喫茶店になっているマンションの駐車場。その側の道路に、猫のような形をした動かないものが転がっていた。夜中のことであり、暗くてはっきりとは分からなかった。また、はっきりと確かめたくもなかった。人間と猫であり、言葉も通じなく、顔や種類がどんなものだったかをはっきりと認識していたわけではない。しかしここにはよく猫がいるということを知っていた。おそらくそのうちの一匹と思われる猫のようなものは動くことをせずに道路に転がっていた。近づいて確かめなければそれは何か違うものになるとでも信じ込みたい気持ちで、その場を通り過ぎた。すると車が一台やってきた。そのまま走れば、さきほどの何かを轢いてしまう、いや、しかしあれは生ゴミを入れた何かが破裂しただけのものかもしれない、いやしかし・・・・・・と考えるより先に車はそれを轢き、小さな骨の砕ける音とともに、猫の前脚あるいは後ろ脚のようなものが地面から少し上に跳ねて見えた。
 以来そこで猫を見ない。
 次の日どこかのバカがバカなことをして自分のバカさをネット上に公開していた。私はそれを知ってはいたがそのバカの所業を見る気にはなれなかった。見てしまえば多くの似たようなものと同様に、自分に関係のないところで殺された何かの、ただ単に動かなくなったものとして見えてしまうだけと分かっていた。ただの物として見れば気分は悪くなっても尾を引く痛みにはならない。
 ジョニー・ウォーカーがナカタさんの目の前で次々と猫を殺す第16章。量にすれば僅か20ページ。そこをただ嫌悪感を持ってしか読めなかった私には随分と長く思えた。ジョニー・ウォーカーは猫を殺さなければいけなかった。村上春樹はそのような話が出来上がった以上その場面を書かなければいけなかった。二人にはそれほど悪意はない。私も二人は嫌いではない。しかしごく個人的な感傷から、私はその章を憎んだ。
 それはともかく、上巻を読んでる時は結構楽しかったのに、下巻に入ると、上巻で敷いたレールの上に物語をただ転がしただけのように見え、読書がただの行追い作業になってしまった。


「正確な言い方をするなら、この石自体には意味はない。状況にとって何かが必要であって、それがたまたまこの石だったんだ。ロシアの作家アントン・チェーホフがうまいことを言っている。『もし物語の中に拳銃が出てきたら、それは発射されなくてはならない』ってな。どういうことかわかるか?」


村上春樹「海辺のカフカ」(上)(新潮社)
同(下)





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Last updated  2002/11/19 10:36:34 PM
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